FAQよくある質問
FAQ(よくある質問)
Q.胎児に権利能力はある?
胎児の法律問題では、権利能力が問題になってきます。
原則ないものの、例外規定があり、一部の場合には、胎児も生まれたものとみなして、法律関係を整理することになります。
この記事は、
- ・妊娠中の法律トラブルを抱えた人
- ・生まれて間もない子の法律トラブル
- ・損害賠償、相続、遺言がらみの胎児問題
に役立つ内容となっています。
権利能力とは?
法律関係の前提となる権利能力を人間は持っています。
法人ではなく、自然人の場合、民法によって、権利能力は、出生で獲得するとされています。
民法3条です。
「私権の享有は、出生に始まる。」
「出生」は、「しゅっせい」とか「しゅっしょう」と読みます。
出生は生まれることです。
そうすると、まだ生まれていない胎児は、権利能力を持たないことになりそうです。
胎児の出生とは?
胎児については、母体から出たことによって出生したとみなされます。
昔は、どこで出生したのか細かいところでは争いがありました。しかし、現在では、出生時の事故等は少なくなっており、現在ではこれが問題にされることはほとんどありません。
なお、刑事事件では、出生前の子供に対する加害行為は堕胎の罪とされ、生まれた後の加害行為は傷害罪などが適用されます。
適用犯罪が変わってくるので、出生の意味も重要なポイントだったのです。
出生届や戸籍より先に法律問題
法律上は、出生後14日以内に役所に対して届け出をしなければならないとされています。
出生届の提出です。
この届出は、本籍地の市町村にします。
婚姻関係から生まれた子を嫡出子と呼びます。嫡出子の出生届は、まず父がしなければならないとされています。
父親が届出義務者となります。
嫡出子ではない子の場合には、母親が義務者となります。
父母が届け出ができない場合、次は同居者、出産に立ち会った医師というように届出義務者の順位が移っていきます。
戸籍法52条~53条にまとめられています。
戸籍については、出生届が提出され、そこから反映されることになりますが、子の権利能力など法律関係は、出生届の前に始まっています。
胎児でも権利能力を持つ場合
出生によって権利能力が始まるので、出生前の胎児は、権利能力を持たないのが原則です。
ただし、法律では例外が決められています。
生まれたものとみなされるという例外があるのです。
例外規定としては、
- 不法行為による損害賠償請求
- 相続
- 遺贈
があります。
これらの場合には、本来は権利能力はないのですが、例外的に権利を持っているかのように擬制して取り扱うことになります。
胎児と不法行為による損害賠償請求
不法行為についての損害賠償請求の例外規定は、民法721条にあります。
「胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす。」
交通事故などで、父親が死亡した後に、子供が生まれたというケースがあります。
死亡した父親からの相続以外に、子供が固有の慰謝料請求ができるかという問題です。
この点について、この条文が適用されることで、子供自身の損害賠償請求、慰謝料の請求ができると認められることになります。
胎児と保険金請求
この条文が適用された裁判例として、最判平成18年3月28日があります。
これは、事故によって、保険会社に保険金を請求できる立場が「子」とされていた事案です。
事故当時は胎児。出生後に傷害、後遺障害が残ったというものでした。
保険契約の無保険車傷害条項で保険金請求権が認められるのかどうか争われました。
裁判所は、当時は胎児であっても、子として保険金の請求をすることができるとしました。その際に、民法721条を理由として請求を認めています。
民法721条により加害者に対して損害賠償請求ができるとしたうえ、
「本件約款の定めによると,無保険車傷害条項に基づいて支払われる保険金は,法律上損害賠償の請求権があるが,相手自動車が無保険自動車であって,十分な損害のてん補を受けることができないおそれがある場合に支払われるものであって,賠償義務者に代わって損害をてん補するという性格を有するものというべきであるから,本件保険契約は,賠償義務者が賠償義務を負う損害はすべて保険金によるてん補の対象となるとの意思で締結されたものと解するのが相当である。」
胎児と相続
次に相続の問題があります。
民法886条によって、胎児も相続については生まれたものとみなされます。
「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。」
そのため、父親が死亡後に生まれた子供も、父親の相続人になれます。
交通事故などで、父親が死亡した場合には、胎児だった子供も、父親本人の損害賠償請求権を相続するという形になります。
相続人として扱われるということです。
事故に限らず、相続発生時に胎児であっても相続権があります。
そのため、死亡時には子供がいなかったようなケースで、親が相続できるかと思いきや、胎児がいる場合には、第一順位の子供が相続人になり、親は相続できないという関係にあります。
相続の順位にも影響を与える重要な規定です。
胎児が相続人になれる趣旨
このように、胎児について権利能力を犠牲したのは、相続制度が、血縁に従って発生することを前提にしたものです。
生まれた子供を相続人から外すというのは一般人の法感情に反するのではないかと言われます。
多くの国の法制度で、相続開始時における胎児も生まれたものとみなすものとしています。
歴史物を見ても、フィクションを見ても、このような胎児の相続が前提にされているものがいくつかありますね。
胎児が死産だった場合の相続は否定
この規定は、胎児が生きて生まれることを前提としています。
残念ながら、胎児が相続開始後に亡くなってしまって死亡して生まれた場合には、この規定は適用されません。
886条2項によって、相続が否定されています。
「前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。」
胎児の時点で相続ができるか
胎児の状態で相続ができるのかどうかは、民法886条の解釈によって変わってきます。
既に生まれたものとみなすという規定の解釈については争いがあります。
胎児である間でも相続能力があると考えるのか、胎児中でも相続能力を認めて、もし死体で生まれたときにはさかのぼって相続能力を否定すると考えるかの違いです。
現在は、胎児が生きて生まれる可能性の方が高いことから、後者の考えが有力になってきています。
なお、不動産の登記では、胎児中でも相続能力があることを前提にし、登記簿の所有権欄に、誰々の相続人の胎児と記載して、胎児のままで相続登記をすることもできるとされています。
このような登記がされた後に、死産で生まれてしまった場合には、相続人から抹消登記手続請求ができるとされています。
胎児と相続放棄
胎児が出生前に、相続放棄をするのは難しいとされています。
こちらも、胎児の相続能力をどう考えるかによるものですが、昭和36年2月20日法曹会決議等では、生まれる前に相続放棄や遺産分割協議はできないとされています。
厳密に考えると、熟慮期間がいつから始まるのかにも影響が出る話かと思われます。
胎児が生まれた後に初めて相続放棄ができると考えるのであれば、熟慮期間は、胎児が出生した後、その法定代理人が胎児のために相続が開始されたということを知ってから進行することになるでしょう。
遺贈と胎児
最後に遺贈です。
遺言者が胎児に財産を遺贈させることもできます。
本来、遺贈は、遺言者の死亡時に受遺者が存在しないといけません。
この例外が胎児です。
まだ生まれてきていないけど、生まれてくる胎児に自分の遺産を残しておきたいという方法です。
遺言書の中では、母親を特定し、母親の胎児に○○を相続させる等という記載になります。
また、通常は、胎児が死産だった場合には、その財産をどうするのかも記載しておきます。
予備的な条項と呼ばれます。
死産ではなく、胎児が生まれてから亡くなった場合、子が財産を取得した後、死亡したことになるので、子の法定相続人が財産を相続することになります。
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