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FAQ(よくある質問)

 

Q.危急時遺言の確認ポイントは?

危急時遺言の確認がされ、家裁と高裁で判断が分かれた裁判例があります。あまり使われていない制度ですので、どのようなシーンで使われるのか、また、その判断のポイントはどこか有効な情報として紹介しておきます。

東京高等裁判所令和2年6月26日決定です。

この記事は、

  • 家族に生命の危機、緊急時に遺言作成する必要がある
  • 公証人の出張が間に合わない、念のため遺言を作れないか調べている

人に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.5.20

 

事案の概要

遺言者は、昭和17年生まれ。

訪問看護を受けながら自宅療養していたものの、平成30年某月8日に入院。

入院中に危急時遺言が作成され、その確認を求めた事件です。

ただ、その症状が微妙なため、家裁と高裁で判断が分かれました。

 

危急時遺言とは

危急時遺言とは、生命の緊急時に使用される遺言です。一般臨終遺言と呼ばれることもあります。

病状が悪化、事故などで命の危険があるときに例外的に認められる制度です。

死亡の危急に迫った人が遺言をするときに用いられる遺言方式です。

手続は民法976条に書かれています。

証人3人以上の立ち会いが必要、その1人に遺言の趣旨を口授、口授を受けた証人はこれを筆記し、遺言者および他の証人に読み聞かせ、または閲覧させます。

証人は、推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族はなれません(974条)ので、一般的には親族以外で準備することとなります。

各証人が筆記が正確だと承認した後に、署名押印するものです。

この危急時遺言が作成された場合、遺言の日から20日以内に証人の1人または利害関係人から請求して家庭裁判所の確認を得る手続をしないといけません。これがないと効力を失います。

ここで家庭裁判所は、遺言が遺言者の真意によるものかを判断します。

危急時遺言が確認されたとしても、病状が回復するなどして、普通の方式によって遺言できるようになってから6ヶ月生存したときには、遺言の効力は生じないとされます(983条)。

今回は、この家庭裁判所への確認の申立がされたものです。

危急時遺言

 

遺言者の症状

同月1日に作成した診療情報提供書には、遺言者の病名として感染性心内膜炎のほか、アルツハイマー型認知症と記載。そこには「短期記憶障害があるようですが、会話はほぼ問題なくできます」などと記載されていました。


遺言者は、入院時、弁膜症を患っていたところ、心臓内部の傷に菌が感染し、感染性心内膜炎を発症。感染性心内膜炎は、治療しなければ致死率100パーセントの重症疾患。


遺言者の感染性心内膜炎は同年7月に発見されており、それ以降抗生剤の投与がされてきたが、効果は芳しくなく、入院当時には重度の心不全となっており、また、利尿剤の影響から脱水が生じ、多臓器に障害が生じていた状態。遺言者の状態は悪く、急激な病状悪化により、日単位で命を落とす可能性があったとされます。

 

主治医による病状の説明

主治医によれば、遺言者の症状は次のようなものでした。

遺言者は、本件病院入院時、脱水や眠くなりやすい薬の投与の影響で、意思疎通ができなかい状態。

入院後、眠くなりやすい薬を減らし、また、脱水症状を改善させたことにより一時的に意識が回復。

医療記録の記載によれば、11日は遺言者が本件病院にいることを理解し、同日の日付を答えることができており、翌12日も遺言者の意識を確認できていました。

しかし、14日には意識が鮮明でなくなり、日付を11日と誤答。

17日には血圧が収縮期76mmHg、拡張期46mmHgの低血圧で、ショックと呼ばれる状態。

遺言者は話すことは難しく、呼びかけにもようやく反応する程度。

19日には、氏名、生年月日は回答したが、どこにいるかを答えることはできない状態。


23日の神経内科医の診察によれば、簡単な質問は答えられるが、判断が必要な課題には答えられないとのことであり、認知機能検査であるミニメンタルステート検査(MMSE)の結果では、25点中4.5点の得点。

なお、同検査の結果は、神経内科医師が行ったものであり、その判断としては、軽度の意識障害があるが応答は可能、検査中は応答に時間がかかったが、眠ったりしなかったとのこと。

MMSEは部分点も入れると4.5点、時間・場所の失見当、即時近時記憶障害、暗算障害、聴覚理解は1step commandのような簡単な質問に限られます。判断を要する課題には答えられないというもの。

 

診断書の記載

平成30年12月14日に作成された主治医による診断書には、次のとおり記載が。

病名としては、

①感染性心内膜炎、うっ血性心不全、

②重度認知機能障害であること

と記載。

①については、「循環器内科における心臓の病名」、②については、「■■月8日(入院日)から■■月■■日(死亡日)までの本人の全身状態を勘案して、上記診断とされていました。

経過中に向精神病薬や病状による意識レベルの変動は認めており、Japan Coma Scaleまで改善することもあったが、23日に実施した認知機能障害診断の結果が、19日における認知機能障害の程度と大きくかい離するとは考えにくいとされています。

 

遺言書作成に至る経緯

弁護士による危急時遺言作成に至る経緯に係る説明は次のとおり。

すなわち、弁護士は、3日、遺言者の長男から遺言者の財産について相談を受けました。

同弁護士は、6日に長男宅を訪問。長男と遺言者と面談をし、公正証書作成を話題に。

遺言者との意思疎通には問題はなく、遺言者は公正証書遺言作成に同意。

その内容として、「長男にすべて残す。」と述べていました。

その後、手続きに時間がかかる中で、18日に長男から遺言者の体調がよくないという連絡があり、念のため危急時遺言の手続きをすることとしたという経緯です。

 

危急時遺言作成時の状況

申立人、及び2名の証人はいずれも行政書士。

上記3名と調査官が個別に面接し、遺言作成時の状況を聴取。

申立人らは、19日午前11時過ぎ、弁護士と長男とともに遺言者の病室を訪問。

長男が申立人らを遺言者に紹介したところ、遺言者は申立人らと目を合わせてうなずきながら紹介を聞いていたとのこと。

その後、遺言を作成するが大丈夫かと尋ねられた遺言者がうなずいたため、同弁護士と長男は退席。

申立人ら以外の立会人がいない状況に。


まず、申立人が、遺言者に対し、遺言作成のために来訪したことを説明した。申立人が「誰に財産を相続させますか。」と尋ねると、遺言者は「長男」と回答。

申立人が「他の方はどうですか。」との質問に対して、「いない。」もしくは「長男だけ。」と回答。


申立人が、すべての財産を長男に相続させることでよいかとさらに確認すると、遺言者はうなずいたとのこと。

そこで、申立人は病室内の応接セットで遺言書を作成。遺言者に遺言書を見せてから遺言書を読み上げ。

遺言者は、うなずきながら聞いており、申立人から遺言書の内容に問題はないか問われると、「はい。」と回答したとのこと。

 


遺言者と調査官との面談

調査官は、本件申立てを受けて23日、遺言者と面接

調査官が、同日、遺言者の病室を訪れると、遺言者は寝ていた状態。

看護師が声を掛けて起きると、遺言者は目を開けて「はい。」などと応答し、調査官が自己紹介をするとともに体調を尋ねると、「寝てたから。」と応答。

調査官は、看護師の退席後、再び遺言者に声を掛け、遺言確認の手続きのために来たことを説明すると、遺言者は目を開けて聞いていました。


遺言者に対し、遺言の手続きをしたかと尋ねると「そう。」と回答。

遺言を作成する場面に誰が立ち会ったかと聞くと「息子と。」と言った後黙りました。

先を促すと「あと、私。」と言い、他にも誰かいたかとの問いには、「あとは、息子と娘。」と回答。

どのような内容の遺言を作成したかと尋ねると「娘。」、「きれいにしたい。」と一言ずつ述べました。

意味を聞くと「娘と息子と、きれいにしたい。」と述べました。

遺産の内容について尋ねると「わかんないね。」と回答。


調査官は、遺言者に対し、申立人が証人となって遺言書を作成したと聞いているが、作成した記憶はあるかと尋ねると「はい。」と回答。

その場に立ち会った人の人数を聞くと「一人。」と答え、名前は「わからない。」と回答。


遺言者が話した遺言の内容を行政書士が聞き取ったのかと聞くと、遺言者は目を開けたまま黙っており、違うのかという問いに、うなずきました。

そこで、遺言者に対し、行政書士が作成したものを行政書士が読み上げて確認したのかと聞くと、遺言者は「はい。」といいました。

調査官が、聴き取りの場面だけ覚えていて、遺言の内容やだれが立ち会ったのかは覚えていないのかと確認すると、「はい。」と言いました。


調査官が、遺言書を読み上げると、目を開けたまま遺言者は黙って聞いていました。

読み上げた遺言書を作成したかと聞くと、遺言者はうなずきました。

遺言者は、遺言の作成について、それまでに誰か相談していたかと尋ねられると、首を振り「寝てたからね。」と言い、遺言者の財産をどのようにしたいかとの質問には「すベて終わればよい。」と言いました。


その後、遺言者は、遺言者の生年月日を尋ねられると正答したが、長男の名前を聞かれると7月と答えたため、調査官が長男の生年月日を尋ねると7月などと言いました。

改めて長男と長女の名前を質問されると、いずれも正答したという状態。

 

 

家裁は遺言者の真意ではないと認定

家庭裁判所は、遺言者の真意ではないと認定しました。

上記の症状のほか、23日に行われた調査官による遺言者との面談の結果を重視。

遺言書作成に至る経緯や遺言書作成当日の手続きの状況、遺言内容については、その質問の都度異なる回答をすることがあったほか、遺産の内容も把握しておらず、遺言者の財産をどのようにしたいかとの質問には「すべて終わればよい。」と答えている点を指摘。


23日の調査官による面接の時点において、遺言の趣旨を理解したうえで、口授することができたというには疑義が残るものというべきであるところ、23日の遺言者の状態が19日の遺言作成時の遺言者の状態よりも悪化しているとは考え難いとしました。

そうすると、本件遺言の内容が単純であることを踏まえても、遺言作成時の遺言者の状態に照らし、遺言の趣旨や効果を理解したうえで、口授することができたというには、疑義が残るものであり、本件遺言が遺言者の真意に出たものとは認められないとしました。


家庭裁判所は、本件申立てには理由がないと判断しました。

長男らがこれを不服として即時抗告。

 

高等裁判所は遺言を確認

これに対して、高等裁判所は、原審判を取り消し、遺言者が平成30年■■月19日別紙記載の遺言をしたことを確認するとしました。

家庭裁判所とは異なる結論を採用。

 

危急時遺言の考え方

家庭裁判所が危急時遺言の確認をするに当たっては、当該遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得る必要があるところ(民法976条5項)、この確認には既判力がなく、他方でこの確認を得なければ当該遺言は効力を生じないことに確定してしまうことからすると、遺言者の真意につき家庭裁判所が得るべき心証の程度については、確信の程度にまで及ぶ必要はなく、当該遺言が一応遺言者の真意に適うと判断される程度のもので足りると解するのが相当であると指摘。

 

証人の信用性

まず、3人の証人がいずれも弁護士からの依頼に基づいて証人となった行政書士であることからすると、各供述の信用性は高いと指摘。

これによると、原審申立人が「誰に財産を相続させますか。」と尋ねたのに対し、遺言者は、長男の名前を自発的に述べ、また、原審申立人が「他の方はどうですか。」と確認したのに対しても「いない。」もしくは「長男だけ。」と的確な応答をしているとしました。

さらに、原審申立人が全ての財産を長男に相続させることでよいかと再確認したのに対しては、うなずくことで肯定の意思を示しているのであり、このような本件遺言の際の原審申立人と遺言者とのやりとりの内容からすれば、遺言者は、長男に全ての財産を相続させる旨の遺言の趣旨を理解した上でこれを口授していることがうかがわれるものといえるとしました。

 

遺言内容の合理性

これに加えて、長男に全ての財産を相続させるという本件遺言の内容は、弁護士が6日に遺言者と面談し、公正証書遺言の作成依頼を受けた際に、遺言者が遺言の内容として述べていたことと一致しており、また、夫及び長女の下で十分な介護が受けられず、長男夫婦の手配で入院し、その後同人宅に引き取られるに至った遺言者の状況からみて合理性を有する内容といえることからしても、本件遺言は遺言者の真意に適うものであると考えられるとしました。

 

遺言者の認知機能について

他方において、遺言者が、23日、本件病院の神経内科において、ミニメンタルステート検査を受けたところ、その結果は25点満点中4.5点であったこと、これを受けて、主治医は、遺言者を重度認知機能障害と診断し、この診断結果が19日における遺言者の認知機能障害の程度と大きくかい離するとは考えにくいとの意見を述べていることが認められる点も言及。


しかし、そもそも本件遺言は危急時遺言であって、遺言者は死亡の危急に迫った者であることが要件とされているのであり、本件においても、現に遺言者は、本件遺言時である19日の■日後には死亡しているのであるから、19日の4日後である23日に行われた検査の結果や後述の調査官との面談結果をもって、19日における遺言者の認知機能障害の程度を示すものとみることは相当ではないと指摘。


また、この点は措くにしても、上記検査の際の遺言者の状況をみると、名前、年齢、今いる場所、今の季節などの簡単な質問には正しく回答し、「目を閉じて」、「口を開けて」などの簡単な指示にも正しく応じており、同検査を担当した医師は、「軽度な意識障害はあるが、応答は可能」とした上で、判断を要する課題には答えられないとしているのであって、本件遺言のように「長男に全ての財産を相続させる」という程度の単純な遺言の内容についてまで、およそ理解し得ない状態であったかは必ずしも明らかではないというべきであるとしています。

 

調査官との面談結果

また、23日の遺言者と調査官との面談結果の内容のみをみれば、本件遺言の内容等に関する遺言者の回答にはあやふやな点が見られ、その時点において、遺言者に本件遺言の趣旨を理解し得る能力があったかについて疑義が生じることは否定できない点にも言及。

しかし、本件病院に入院中の遺言者の状況をみると、日によって意識レベルや応答能力に変動がある様子も見受けられるのであり、そうすると、同日の遺言者の状態がたまたま悪かったということも考えられるところであるとしました。

少なくとも、本件遺言の際の申立人と遺言者とのやりとりの内容からは、遺言者が遺言の趣旨を理解した上でこれを口授している様子がうかがわれ、調査官との面談時の遺言者の言動が上記のとおりであるからといって、本件遺言時の遺言者にも本件遺言の趣旨を理解し得る能力がなかったものと決めつけることはできないというべきであると指摘。


以上の検討を総合すれば、本件遺言については、それが一応遺言者の真意に適うと判断される程度の心証は得ることができるものというべきであるとしました。

 

危急時遺言の判断要素

家庭裁判所は、危急時遺言について、遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができないとされています。

原審判は、診療録の情報や、家裁調査官との面談の結果等を総合し、本件遺言が遺言者の真意に出たものとは認められないと判断したものです。

これに対し、高等裁判所の決定は、家庭裁判所による遺言の確認では、この確認を得なければ当該遺言は効力を生じないことに確定してしまうことから、遺言者の真意につき家庭裁判所が得るべき心証の程度については、確信の程度にまで及ぶ必要はなく、当該遺言が一応遺言者の真意に適うと判断される程度のもので足りるとしました。

調査官調査などでは、微妙な内容もありますが、行政書士という専門家の供述、遺言の内容、経過等からみて合理性を有すると判断したものです。

 

内容を争うのであれば、遺言無効確認訴訟も。

危急時遺言の確認は、遺言が真正に作成されたものを確定する民事訴訟ではありません。そのため、民事訴訟において遺言無効確認の請求をすることはできます。

遺言内容が不合理、真意に合致しているとは思えない遺言は、効力を争う者が遺言無効確認訴訟等を提起すれば良いという考え方もあります。

危急時遺言の確認の時点で否定してしまうと、民事訴訟で争う余地すらなくなってしまうからです。

とはいえ、どの程度の事情で、確認をしてよいのか、あまり利用されていない制度だけに判断が難しいところがあります。本件は、家裁と高裁の判断が分かれた微妙な事例であり、同様の事例では参考になると考えます。

 

危急時遺言の文例

危急時遺言は、証人が文章化することになります。

危急時遺言の文例としては、

遺言者○○県○市○号の氏名は、病気療養中のところ、重体に陥り、死亡の危険が迫ったので、令和○年○月○日午後○時自宅において、後記証人3名立ち会いでその1人証人氏名に対し、次のとおり遺言の趣旨を口授した。

1 長男○○には、次の土地建物を相続させる・・・

のように通常の遺言の記載を続けます。

証人氏名は、前記遺言を筆記して遺言者及び他の証人に読み聞かせ、各証人は筆記の正確なことを承認して、次に署名押印した。

のようにまとめ、証人がそれぞれ署名押印する形です。

 

 

危急時遺言のポイント

今回の判決から学べる点として、

  • 危急時遺言は判断が微妙、裁判で分かれがち
  • 証人には専門家を入れておいた方が信用されそう
  • 遺言内容が経緯から合理的かどうか重視される
  • 遺言内容がシンプルでないと厳しそう

という点があります。参考にしてみてください。

 

 

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