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裁判例紹介
会社更生法と整理解雇
かつて会社更生法の適用を受けた後に整理解雇の有効性が問題になった日本航空事件を紹介します。
大阪高裁平成28年3月24日判決の紹介です。
事案の概要
原告は、客室乗務員。
被告は、航空運送事業等を営む会社です。
原告は、平成21年頃から、皮膚が赤くなるようになり、有給を取得しながら勤務を続けたものの、「顔面酒さ及び接触皮膚炎」と診断され、接客が困難なほど悪化。
病気休職した後、産業医の診断を受け乗務復帰していました。
被告は、平成22年1月19日に会社更生手続開始決定を受けました。
更生計画案では、大幅な人員削減などが内容とされていました。
平成22年8月から希望退職を何度か実施。しかし、目標数には達しませんでした。
そこで、整理解雇の実施を決定。
公表された被解雇者の選定基準案では、
・同年8月31日の時点で休職中の者、
・過去一定期間以上の休職や病気欠勤がある者、
・人事考課が一定基準以下の者、
・年齢の高い者
とされていました。
その後、基準日(9月27日へ)や期間について若干の変更があった後、同年12月9日に、客室乗務員108名に対し、同月31日付けで整理解雇する旨の解雇予告通知をしました。
原告は「病欠・休職等基準」によって被解雇者となりました。
原告は、本件整理解雇が無効であるとして、労働契約上の地位確認等を求め訴えを提起。
大阪地方裁判所の判断
大阪地方裁判所は、「病欠・休職等基準」についての期間をどう判断するかについて、
「年月の経過により、労働者の心身の状態・能力等が変化する」ものを前提にすることから、「直近の期間をもって、推測の根拠とすることが合理的」としました。
しかし、復帰日基準を追加しながら、その基準日を、同基準を提示した平成22年11月15日ではなく、当初の人選基準案を提示した同年9月27日に遡らせた点において、同月1日から同月27日までに復職した労働者が本件整理解雇を免れることと比較した場合に、復職できている点は同じであるにもかかわらず、同年9月28日から同年11月15日までに復職した者が依然本件整理解雇の対象者とされることになるとし、この点で不合理だと判断。
原告の請求を認め、労働契約上の地位確認等を認容。
被告が控訴。
大阪高等裁判所の判断
原判決取消し、請求棄却。
原告に対する本件整理解雇は、被告の就業規則52条1項4号の「企業整備等のため、やむを得ず人員を整理するとき」に該当する事実があることを理由とする整理解雇であるとしました。
したがって、原告に対する本件整理解雇の効力を判断するに当たっては、
1 人員削減の必要性、
2 解雇回避措置の相当性、
3 人選の合理性(人選基準の合理性)、
4 解雇手続の相当性
をそれぞれ検討し、これらを総合的に考慮して判断するのが相当であるとしています。
整理解雇の4要件、4要素と呼ばれるものです。
人員削減の必要性は?
被告は、平成22年12月31日時点において、削減目標人数に対する不足数である稼働ベースで60.5名分の客室乗務員について、人員削減を行う必要性があったと認定しています。
会社更生法の適用を受け、会計上のシミュレーションもされていたことから必要性は簡単に認定されています。
解雇回避措置の相当性は?
被告が本件整理解雇に先立って実施した上記各措置は、解雇回避措置として合理的だと認定しています。
こちらも会社更生法後に、希望退職を募るなどしていることから、簡単に認定されています。
人選基準の合理性は?
更生手続開始決定を受け、将来に向けて事業再生をする必要のある被告が、整理解雇の人選基準を設けるに当たって、将来の貢献度に着目し、特に、被告が再生していく過程にある至近の2ないし3年間に、どれだけの貢献が期待できるかという点を重視し、人選基準を設けたことは、合理的、病欠・休職等基準及び人事考課基準は合理性を有するとしました。
病欠・休職等基準に該当する者については、過去の一定期間において病気欠勤や休職により相当日数労務の提供ができない欠務期間があった者であるから、そのような病気欠勤や休職をしないで勤務を行ってきた者との対比において、被告に対する過去の貢献度及び将来の想定貢献度が低いないし劣後すると評価することが合理的との判断です。
この基準の採用自体は合理的としたものです。
では、基準自体は合理的だとして、基準日の設定についてはどうでしょうか。
基準日の合理性は?
病欠・休職等基準は、過去の一定期間において病気欠勤や休職により相当日数労務の提供ができない欠務期間があった者を解雇対象者とするものであり、その対象者には、現在乗務復帰している者も含まれています。これに対し、復帰日基準は、病欠・休職等基準に該当する者のうち基準日時点で乗務復帰している者を一定の条件を付して解雇対象者から除外するという基準であり、病欠・休職等基準の例外を定めるものです。
そして、復帰日基準における基準日を遅くすればするほど、復帰日基準の適用範囲が広くなり、病欠・休職等基準の例外を認める範囲が広くなるという関係にあります。
本件復帰日基準は、その適用範囲決定についての裁量を逸脱・濫用するものとは解されず、他にこれを認めるべき事由も見いだし難いから、本件復帰日基準は合理性を有すると結論づけました。
結論として、整理解雇は有効との判断です。
最高裁の不受理決定
本判決は、大阪高裁のものです。
これに先行して、同社の整理解雇の有効性については、東京地裁にも提訴されており、東京高裁でも本判決と同様に基準が合理的と判断されていました。こちらの判断では、最高裁の不受理決定が出ています。
病欠・休職等の基準を用いることが認められていることになります。
病気休職者を被解雇者とする基準は?
本判決では、将来の貢献度の指標として「病欠・休職等基準」が問題となりました。
そして、過去の貢献度及び将来の想定貢献度が低いないし劣後するとして、この基準を合理的だとしています。
これに対しては、このような基準が採用されるのでは休職制度が使いにくくなるという批判もあります。
また、欠勤と、病気による休職とは違うものであり、貢献度を測定する指標として用いるべきではないという批判もあります。
しかし、会社更生法というなかで、何らかの基準を用いなければならないものとして、合理性があるという判断がされたものと思われます。
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