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海外のプライバシー侵害と国際裁判管轄

外国法人に対するネット上の記事によるプライバシー侵害の損害賠償請求訴訟の国際裁判管轄が問題になったケースがあります。

東京地裁平成28年11月30日判決の紹介です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.7.28

事実の概要

日本在住の日本人と、日本法人が原告となった事件です。

被告は本社が米国の通信社とグループ会社。


被告会社が運営するウェブサイト上に、原告が建設中の新居について、その所在地や完成時期、近隣関係、費用、面積、設計上の特徴などを紹介した日本語の記事が掲載されました。

さらに、これとほぼ同一の内容の英語記事や動画も海外サーバー上のウェブサイトに掲載。

原告が、プライバシー権の侵害や名誉権の侵害を理由に、英語記事等の削除、損害賠償請求をした事件です。

 

裁判所の結論

結論としては請求棄却とされました。


まず、国際裁判管轄が問題となりました。


本件英語記事等が米国の法人である被告らにより国外のサーバーを経由して記載されたことが、今回の不法行為に関する訴えとなります。

これについて民事訴訟法3条の3第8号による日本の裁判所の管轄が肯定されるためには、日本国内において権利利益の侵害が発生していることが必要であるところ、上記要件を充足するためには、被告らの行為により日本国内で原告らの法益について侵害が生じたとの客観的事実関係が証明される必要があり、かつ、それで足りるものと解されます (最高裁平成13年6月8日第二小法廷判決)。


プライバシー権侵害が認められるためには、公開された内容が私生活上の事実又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある事柄であり、一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないと認められるであろう事柄であること、かつ一般の人々に未だ知られていないものであることを要します。

本件英語記事は、原告の新居である本件建物の所在地の特定に資する事実並びに本件土地の取得費用、本件建物の設計・建設費用及び本件土地の広さに関わる情報を摘示しています。本件土地及び本件建物の全体としての経済価値に関わる情報を摘示することにより、原告のプライバシー権を侵害するものと認められるとしています。

 

国際的なプライバシー侵害の裁判管轄は?


本件英語記事は全世界で閲覧可能なインターネットニュースの記事であり、その読者は日本国内にも相当数存在すると考えられること、上記各記事は日本国内の話題に関わるものであることからすれば、日本国内において原告ら以外の者がこれを閲覧したとの事実は容易に推認されるとしています。

そして、上記事実に照らせば、日本国内において原告のプライバシー権侵害という結果の発生が通常予見可能であったことも明らかだとしています。

これらの理由により、プライバシー権の侵害を理由として、本件英語記事の削除を求める訴えの管轄権は日本の裁判所にあるものというべきとして管轄を認めました。


本件英語記事等は、原告が日本国内において建設中の本件建物に関するものであり、同人の住所地及び原告会社の所在地も日本国内であることからすれば、被告が米国デラウェア州に所在すること及び本件訴訟において争われている権利の性質、被告会社が国際的に事業展開をしていること、被告が米国にも居宅を所有していることなどの事情を考慮しても、民訴法3条の9により訴えの全部または一部を却下すべき特別の事情があるとは認められないとしています。

ここから、本件英語記事等の削除を求める訴えは、日本の裁判所に裁判管轄が認められるとしています。

 

国際的な名誉毀損の裁判管轄は?

原告らの被告に対する請求のうち、名誉権侵害の不法行為を理由とする部分については、通則法〔法の適用に関する通則法]19条により、原告らの常居所地法である日本法が適用されることとなります。

また、日本国内において原告のプライバシー権侵害が発生しており、上記結果の発生が通常予見することのできないものであったとも認められないから、プライバシー権侵害の不法行為を理由とする部分については、同法17条により、結果発生地法である日本法が適用されることになります。


なお、本件英語記事等は、日本国内に存在する本件建物に関するものであり、言及の対象となった原告らも日本国内に居住又は所在することからすれば、明らかに日本よりも密接な関係がある他の地があるとはいえないから、同法20条により日本法の適用が排除されることはないとしています。

 

プライバシー侵害等の違法性は?

裁判所は、このように国際裁判管轄は認めたものの、プライバシー侵害の違法性を否定し、請求棄却という結論をとりました。

本件英語記事及び本件日本語記事に含まれる情報は、単独で直ちに本件建物の所在地の特定につながるものではなく、そのような意味においては、プライバシー権侵害の程度が大きいとはいえないとしています。

また、原告が都内の高級住宅地に相当な面積を有する約23億円の不動産を所有しているとの事実も、国内有数の資産家として知られている同人に対して通常人が有している知識、印象の範囲を出るような情報ではないと考えられると指摘。

本件日本語記事は、「原告氏の推定23億円新居、時価上昇-アベノミクスで富裕層恩恵(1)」という標題の下に、安倍政権の経済政策により東京の高級住宅の価格が上昇し、富裕層の資産価値を押し上げていること、富裕層自体が増加していること、東京の高級マンション市場が活況を呈しているといった事項を説明するものであり、本件英語記事も、本件日本語記事と同一の記者によって、「億万長者原告の東京の邸宅、贅沢ブームの中時価上昇」という標題の下に、東京の高級住宅の価格が上昇していること、同不動産の供給が変わらないのに対して需要が拡大していること、これらの背景に安倍政権の経済政策が存在するといったことを報道するものであると分析しています。


このような本件英語記事及び本件日本語記事の標題及び内容からすると、本件英語記事及び本件日本語記事の目的は、東京の高級住宅市場が活況を呈しており、それによって富裕層が恩恵を受けていることを報じることにあるものと認めるのが相当としました。

上記目的は、国民の正当な関心事に応えるものということができるところ、本件英語記事及び本件日本語記事が取り上げている本件建物の所在及び経済的価値等に関する情報は、上記関心の対象となる事実関係を把握し、理解するための端緒等としては有用なものであり、上記目的を達成するために相当な限度を超えた表現を用いたものでもないと考えられるとしました。

その結果、本件英語記事及び日本語記事を公表することによって得られる利益が、本件英語記事及び本件日本語記事を公表しないことで保護される原告のプライバシーの利益を上回るとものと認められるから、本件英語記事及び本件日本語記事の掲載は違法性を有しないと結論づけています。


不法行為事件の管轄は?

民事訴訟法では、不法行為による損害賠償請求事件の管轄として不法行為地を記載しています。

ここでいう不法行為地は、原因行為地および結果発生地を指すとされます。

裁判例では、被告がした行為により原告の権利利益について日本国内で損害が生じたことが必要とされます。

この点について、本判決では、インターネット上で公開された記事が日本で原告ら以外の者に閲覧された事実が容易に推認されるとしています。

本件では、全世界からの閲覧されるというインターネット上の特性から、日本でも相当数の読者がいたり、話題にされるだというということから、日本と関連を有する事件です。

 

法の適用に関する通則法(以下、「通則法」)では、名誉・信用以外の人格権侵害の準拠法について、明確な規定はありません。

今回のようなプライバシー侵害の準拠法について明記されていないものです。

多くの学説は、プライバシー侵害について、名誉・信用殴損の特則で19条によるべきとしています。

これに対し、本判決では、名誉段損は19条、プライバシー侵害については17条を理由に準拠法を決定しています。

 

 

 

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