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裁判例紹介

役員退職金と法人税

役員退職金の経費性と法人税についての裁判例紹介です。

東京地裁平成29年1月12日判決の紹介です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.7.28

 

事案の概要

原告は、平成23年4月1日から平成24年3月31日までの事業年度の法人税に関して、確定申告書および修正申告書の提出後、前代表取締役に対し支払った退職慰労金5609万6610円が損金に算入されるべきだったとして、更正の請求。

これに対し、税務署長は、前代表取締役は退任後も取締役として同様の業務を行っているとし、損金算入はできないとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分。

原告が、同通知処分の取消しを求めたという内容です。

 

代表取締役の退任

問題となった代表取締役は、平成2年に原告会社が設立された当初から取締役でした。

平成16年には代表取締役に就任。

そして、平成23年3月に親会社から代表取締役を退任する内諾を得ていました。

後任の代表取締役は、代表取締役就任の条件として、前代表取締役が2年間の取締役として常勤する点を挙げました。

そして、平成23年5月30日、株主総会で取締役選任決議。

その後の取締役会は、新代表取締役の選任決議、前代表取締役に対する退職慰労金の決議をしました。

これに基づき、会社は支給、退職金勘定にも計上。

 

退任後の活動

代表取締役の退任後も、条件どおり、常勤の相談役として毎日出社。

退任前とかわらず、代表取締役の執務室で活動。

新代表取締役の隣席で執務していました。

このような状況で、支給金がが退職給与に該当するか否かが争われたものです。

 

裁判所の判断

請求棄却。

役員の退職給与は、役員としての在任期間中における継続的な職務執行に対する対価の一部であって、報酬の後払いとしての性格を有することから、役員の退職給与が適正な額の範囲で支払われるものである限り、定期的に支払われる給与等と同様の経費として、法人の所得の金額の計算上、損金の額に算入すべきものとする趣旨に出たものと解されると、前提を確認。

そして、同項括弧書きが損金の額に算入しないものとする給与の対象から役員の退職給与を除外している上記の趣旨に鑑みれば、同項括弧書きにいう退職給与とは、役員が会社その他の法人を退職したことによって支給され、かつ、役員としての在任期間中における継続的な職務執行に対する対価の一部の後払いとしての性質を有する給与であると解すべ
きであり、役員が実際に退職した場合でなくても、役員の分掌変更又は改選による再任等がされた場合において、例えば、常勤取締役が経営上主要な地位を占めない非常勤取締役になったり、取締役が経営上主要な地位を占めない監査役になるなど、役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的には退職したと同様の事情にあると認められるときは、その分掌変更等の時に退職給与として支給される金員も、従前の役員としての在任期間中における継続的な職務執行に対する対価の一部の後払いとしての性質を有する限りにおいて、同項括弧書きにいう退職給与に該当するものと解するのが相当であるとしました。

役員の地位変更でも、職務内容の激変などがあり、実質的には退職ならば、退職給与の該当性を肯定しています。

では、本件ではどうでしょうか。


本件では、会社の代表取締役を退任した後も、その直後の本件金員の支給及び退職金勘定への計上の前後を通じて、引き続き相談役として会社の経営判断に関与し、対内的にも対外的にも会社の経営上主要な地位を占めていたものと認められるから、新代表取締役が代表取締役に就任したことにより旧代表取締役の業務の負担が軽減されたといえるとしても、本件金員の支給及び退職金勘定への計上の当時、役員としての地位又は職務の内容が激変して実質的には退職したと同様の事情にあったとは認められないというべきであると認定しました。

 

役員退職金と損金算入

役員給与の一種である退職給与については、法人税法34条1項に規定する役員給与の損金不算入からは除かれています。不相当に高額な部分の金額以外は、損金算入ができます。

ただ、損金算入が原則的に可能な役員給与として認めらられるための具体的な判断基準は、明記されていません。

また、平成29年改正により、役員退職給与でも、業績連動給与に該当する場合には法人税法34条1項の規制対象とされることとなり、その場合には3号要件を満たさない限り、全額損金不算入とされています。

 

債務確定時の執務状態

法人税の方場合、債務確定時が問題となります。

本件では、職務の内容が激変して実質的には退職したと同様の事情にあったとは認められないとして、退職給与にあたらないと判断しました。

法人税は、事業年度終了時に納税義務が成立するとしても、退職給与に該当するかどうかの判断時期が、支払債務の確定時とされるべきことを左右しないともされています。

 

債務確定基準によって、その債務の帰属年度がいつになるのか、そもそも損金算入の可否について問題になってきます。

 

 

 

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