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商標問題と不正競争防止法
商標問題があらそれた事例の解説です。
代理店契約も絡む問題です。
最高裁平成29年2月28日第三小法廷判決の紹介です。
事案の概要
原告は、米国法人との間で日本国内における独占的な販売代理店契約を締結。
同社の製造する電気瞬間湯沸器を販売していました。
その際、「エマックス」、「EemaX」または「Eemax」の文字を横書きして成る各商標を使用していました。
被告は、この湯沸器を独自に輸入し、日本国内で販売していました。
被告が、各商標と同一の商標を使用していました。
原告は、被告に対し、商標使用は、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当すると主張。
その商標の使用の差止めと損害賠償請求をしました。
これに対し、被告は、反訴。
被告は、「エマックス」の文字を標準文字で横書きして成る商標および「エマックス」と「EemaX」の文字を上下2
段に並べて横書きして成る商標の各登録商標につき有する各商標権に基づき、類似する商標の使用を差止めるよう請求しました。
原告・被告間の過去の紛争
原告、被告とも商標について争っています。
この訴訟前に、原告と被告との間では、本件湯沸器の販売代理店契約が締結されていた時期もありました。
しかし、紛争後、裁判上の和解などもあり、販売代理店契約が存在しないことの確認、被告が販売する電気瞬間湯沸器に「エマックス」という商品名を使用しない和解が成立もしていました。
本件裁判について、第1審、控訴審とも、原告の使用商標が不正競争防止法2条1項1号の周知商品等表示に当たるとしました。原告の請求を一部認容。反訴は、本件商標権が商標法4条1項10号に該当することを理由に無効、被告の反訴請求を棄却。
これに対して、被告が上告受理申立て。
最高裁判所の判断
原判決を破棄し、福岡高裁に差し戻し。
不正競争防止法2条1項1号に関しては、原告が原告使用商標を使用して販売している本件湯沸器は、商品の内容や取引の実情等に照らして、その販売地域が一定の地域に限定されるものとはいえず、日本国内の広範囲にわたるものであることがうかがわれるとしています。
原告による本件湯沸器の広告宣伝等についてみると、新聞広告が掲載されたのは2回にすぎませんでした。
原告が支出した広告宣伝費及び展示会費の額も、本件湯沸器の販売地域が日本国内の広範囲にわたることに照らすと、多額であるとはいえませんでした。
また、原告による本件湯沸器の販売についても、販売台数も一定以上にのぼることがうかがわれるものの、具体的
な販売台数などの販売状況の総体は明らかでないとされています。
これらの事情から直ちに、原告使用商標が日本国内の広範囲にわたって取引者等の間に知られるようになったということはできないとしました。
不正競争防止法上の争いと周知性
不正競争防止法2条1項1号は、保護されるための要件として、
・商品等表示の周知性
・混同のおそれ
が必要としています。
周知性によって信用がある場合に、保護される規定です。
ここでは、地域的な制約があります。
実際に混同が生じるような地域的範囲でだけ使用禁止を求めることができます。
ネット販売のみの場合には、全国的な周知性が検討されることになります。
本判決では、全国的には知られていないことなどを理由に否定しています。
商標法についての最高裁の判断
商標法4条1項10号に関しては、商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後においては、当該商標登録が不正競争の目的で受けたものである場合を除き、商標権侵害訴訟の相手方は、その登録商標が同号に該当することによる商標登録の無効理由の存在をもって、本件規定に係る抗弁を主張することが許されないと解するのが相当であるとしました。
商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後であっても、当該商標登録が不正競争の目的で受けたものであるか否かにかかわらず、商標権侵害訴訟の相手方は、その登録商標が自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商標登録の出願時において需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であるために同号に該当することを理由として、自己に対する商標権の行使が権利の濫用に当たることを抗弁として主張することが許されると解するのが相当としました。
商標法上の争い
商標法で決められている無効審判除斥期間を経過してしまった後は、無効の抗弁は提出できないとされていました。
本判決では、この点を確認し、裁判でも無効の抗弁は出せないとしました。
ただ、商標法規定の趣旨は、出所の混同防止のほか、周知されている商標の主体と商標登録出願人の利益調整も含まれています。
そこで、周知商標の主体に対しては、商標権の行使は商標権の濫用に当たることがあるとしています。
つまり、無効審判の除斥期間が経過してしまった後でも、商標法4条1項10号に加えて、周知商品等表示が自己の商品等表示であるという事実を抗弁として主張立証すれば、商標権行使は権利濫用と認められる可能性があります。
ここでは、不正競争目的であるかどうかは問われないことになります。
これに対し、商標権者側は、商標権行使が認められる「特段の事情」を主張立証するという構図になります。
このような構図は、商標法上の先使用権と類似しています。
不正競争関係の相談も取り扱っていますので、お悩みの経営者の方はご相談ください。