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裁判例

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裁判例紹介

取引先の水増し請求と不法行為

企業間の水増し請求などの違法性が争われた裁判例です。

かつての従業員の背任的な行為により、水増し請求を受けたとして損害賠償請求をした事例です。

東京地方裁判所平成30年1月18日判決です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.7.28

 

事案の概要

原告は、訴外会社や被告会社に対し、原告ブランドの商品企画を委託。

委託料を支払っていました。

原告の主張は、被告会社の代表取締役だった被告が、原告の仕入先業者らに被告会社等へ手数料を支払わせた、その分、原告が仕入先業者らから水増し請求を受けたというもの。

原告は、被告個人と被告会社に対し、各損害賠償を求めた裁判です。

被告会社と原告との業務委託契約では、仕入業者から対価を得ることは禁じられていました。

そこで、被告の行為が善管注意義務に違反しないかが争われました。

 

裁判所の結論

被告らの善管注意義務違反を認め、約1300万円の支払を命じました。

この金額は、概ね、原告の主張が認められたものとなります。

 

契約の経緯は?

裁判所で認定された事実は次のようなものでした。


服飾洋装品の製造販売等を業としていた原告。

同業のA社や被告会社に対し、原告のブランド「□□」の商品企画を委託して委託料を支払っていました。

被告会社の代表取締役を務めていた被告Y1。

被告Y1は、当初、原告に勤務。

事業の責任者を務めつつ、商品企画の担当者でした。

この商品を製造する仕入先業者を選択し、仕入先業者と相談しながら当該商品のデザインを決定するなどといった業務をしていました。

被告Y1は、自らの申出により、原告を退職。


原告は、被告Y1より本件業務に従事し続けたいとの申入れを受けました。

退職した従業員が、担当していた商品の仕事を続けたいと希望を持つことは多いです。

そこで、当初は、関連会社との間で、本件業務を月70万円の委託料で委託する旨の業務委託契約を締結。

その後、被告Y1は、関連会社から独立し、被告会社を設立。

原告は、業務委託契約は、被告会社との間に切り替え。

 

原告側の主張は?

本件契約は、準委任契約。

受任者である被告会社は、委任者である原告に対して善管注意義務を負う。

自己又は第三者の利益を図って原告の利益を害することが禁じられている。

被告会社らは、原告の仕入先業者に被告会社、その関連会社へ手数料を支払わせることは、当該仕入先業者による原告への水増し請求を招くことから、禁じられていた。

原告の役員から被告らに対し、原告の仕入先業者より手数料を受け取らないよう忠告もしていた。

それにもかかわらず、被告Y1は、仕入先業者に被告会社などへ手数料を支払わせていた。
これは、善管注意義務に違反するものである。

以前からの担当ということもあり、仕入先業者との連絡を引き受けており、手数料請求が可能な立場にいたといえるでしょう。


これに対する被告らの主張は?

被告会社らが、原告の仕入先業者に手数料を支払わせることは禁じられていない。

原告の仕入先業者らは、被告会社との間で、原告を含む小売業者との連絡折衝やサンプル商品の提示、商品デザインの企画、需要動向を含む情報の収集・提供等の業務を委託する旨の業務委託契約を締結し、その業務委託手数料を支払っていただけである。

したがって、善管注意義務に違反していない。

別に契約を締結していたものであるとの主張です。

 

原告の再反論

被告Y1は、原告の仕入先業者らに対して原告へ手数料分の水増し請求をするよう指示していた。

これは、故意に善管注意義務に違反したものといえる。

 

裁判所の認定は?

本件契約については、本件業務を委託した準委任契約と認定。

委託の本旨に従い善良な管理者の注意をもって本件業務を処理する義務を負うとしました。

そこから、本件業務を処理するに当たっては、原告の利益を不当に害することが禁じられていたものといえるとしています。

そして、被告会社は、本件業務を処理するに当たり、原告の仕入先業者に対しても本件業務の対価を自己又は第三者へ支払うよう求めたり、原告の仕入先業者からも本件業務の対価を受け取ったりすれば、当該仕入先業者による原告への水増し請求を招き、原告の利益を不当に害することになるから、これらはいずれも禁じられていたものというべきと認定。

契約の性質から、対価等の受領を禁じるというところが含まれていたと認定しているわけですね。

 

その経緯として、被告Y1は、本件業務に従事していた当時、自らが選択した原告の仕入先業者を上司や原告の判断で変更されたことはなく、原告の仕入先業者を選定する権限を事実上有していたことを認定。

そのうえで、原告の仕入先業者に選定したことの対価として、手数料を払うよう求めていたことが認められると認定しています。

 

被告と仕入先業者の独自の契約であるという点については、仕入先業者はいずれもこれを否定する趣旨の陳述をしていると記載。

独自の業務委託契約の証拠はないとして、被告の主張を排斥しています。

 

このような水増し請求について、不法行為に基づく損害賠償請求をするには、まず、仕入先業者の証言を固めることが大事だとわかります。

 

 

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