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支払督促、消滅時効と最高裁への移送後の取り消し

支払督促と給料差し押さえ、消滅時効の問題が出ていた裁判で、最高裁への移送が認められるのか問題になった事件があります。

簡裁から始まった裁判が、上告審の高裁で判断されず、最高裁に持ち込まれたうえ、決定が出されるという非常に時間がかかった経緯があります。

紹介するのは、最高裁平成30年12月18日第三小法廷決定です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.7.28

 

事案の概要

まず、金融業者が、原告に対して、50万円の貸金債権について支払督促の申立をして、発令。

この支払督促は平成16年5月7日に確定しました。

貸金業者は、原告の給与差押えの申立て。

裁判所により債権差押命令が発令され、原告に送達。

その後、貸金業者は本件申立てを取り下げ。

取下げ前に、貸金業者は差押えに基づく弁済等を一部で受けていたかも?

 

被告が、貸金業者の業務を承継。

被告は、本件支払督促に承継執行文の付与を受けました。

これを執行正本として平成28年3月22日に、再度、原告の給与差押えの申立て。

これに対し、原告が請求異議の訴え。

 

原審までの判断

原告の主張は、消滅時効。

支払督促の確定からは10年を経過しているので債権は時効消滅したとういものです。

当初の差押申立てで、時効中断しないかが問題になるも、差押申立ては取下げにより、中断効果は生じなかったことになる、と主張しました。

 

一審の須崎簡裁は請求棄却。

控訴後の高知地裁は、消滅時効を認め、原判決を取り消し、請求を認容。

被告が上告。

上告を受けた高松高等裁判所は、当初の給料差押申立ての取下げ前に、貸金業者が差押えに基づく弁済や配当を受けていた可能性があると指摘。

そう、そこがハッキリしていなかったのです。

 

差押えが取下げで終了していても、差押えにより一部回収されているような場合には、その後に取り下げられたとしても、差押えの効力が最初からなかったものとして時効中断の効力を否定するのは相当ではないとしました。

 

ただ、この意見は、競売申立て後の取り下げにより時効中断の効力を否定した最判平成11.9.9の判示内容に相反するとして、民事訴訟法324条により、最高裁に事件を移送しました。

 

最高裁判所の決定内容

高松高等裁判所が平成29年11月30日にした本件を最高裁判所に移送する旨の決定を取り消すというものでした。

 

まず、原審の判断について、債権執行の申立てをした債権者が当該債権執行の手続において配当等により請求債権の一部について満足を得た後に当該申立てを取り下げた場合、当該申立てに係る差押えによる時効中断の効力が民法154条により初めから生じなかったことになると解するのは相当でない、このような法令解釈に関する意見は、最高裁平成11年9月9日第一小法廷判決と相反するから、民訴規則203条所定の事由があるというものであると認定。

 

その後、最高裁への移送に関する条文を確認。


民訴法324条は、上告裁判所である高等裁判所は、最高裁判所規則で定める事由があるときは、事件を最高裁判所に移送しなければならない旨を定めています。

また、民訴規則203条は、法令等の解釈について当該高等裁判所の意見が最高裁判所等の判例と相反するときに上記事由があると定めています。

そして、民訴法22条1項は、「確定した移送の裁判は、移送を受けた裁判所を拘束する。」と規定しているものの、その趣旨が主として第1審裁判所の間で移送が繰り返されることによる審理の遅延等を防止することにあることに照らせば、同法324条に基づく高等裁判所の移送決定が上記「移送の裁判」に含まれると解すべきではないとしました。

最高裁は移送を受けても拘束されないという話です。

 

むしろ、民訴規則203条の趣旨が、同条所定の事由がある場合に高等裁判所が判決をすると、当該判決が最高裁判所等の判例と相反することとなるため、事件を最高裁判所に移送させることによって法令解釈の統一を図ろうとするものであることに照らせば、同条所定の事由の有無についての高等裁判所の判断と最高裁判所の判断が異なる場合には、最高裁判所の判断が優先するというべきであるとしています。

拘束はされずに、むしろ最高裁が優先するという結論です。


したがって、最高裁判所は、民訴規則203条所定の事由があるとしてされた民訴法324条に基づく移送決定について、当該事由がないと認めるときは、これを取り消すことができると解するのが相当であるとしました。

 

そして、本件移送決定へのあてはめがされました。

平成11年判決は、担保不動産競売の申立てをした債権者が当該競売の手続において請求債権の一部又は全部の満足を得ることなく当該申立てを取り下げた場合について判断したものであって、債権執行の申立てをした債権者が当該債権執行の手続において配当等により請求債権の一部について満足を得た後に当該申立てを取り下げた場合についての本件意見とは前提を異にしているというべきであるとしました。

したがって、本件意見は平成11年判決と相反するものではなく、本件決定に係る民訴規則203条所定の事由はないと認められ、本件移送決定は取り消されることとなったものです。

 

 

最高裁への移送

決定の中でも触れられている2つの条文が問題になりした。

民事訴訟法324条の「上告裁判所である高等裁判所は、最高裁判所規則で定める事由があるときは、決定で、事件を最高裁判所に移送しなければならない」との条文。

また、これを受けた規則203条の「法第324条の規定により、上告裁判所である高等裁判所が事件を最高裁判所に移送する場合は、憲法その他の法令の解釈について、その高等裁判所の意見が最高裁判所の判例(これがない場合にあっ
ては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反するときとする」との条文です。

 

簡易裁判所が第1審の場合、控訴により地方裁判所、上告により高等裁判所と移ります。

しかし、高等裁判所は、全国で複数あり、法令解釈で統一された判断がされないリスクがあります。

このような場合に、最高裁に事件を移し、統一的な判断をしようという趣旨の条文です。

 

移送決定の取り消し

最高裁への移送決定について、最高裁がこれを取り消すことができるか疑問がありましたが、今回、取り消すことができるという結論を最高裁は採用しました。

学説によっても見解が分かれていた争点なのですが、はっきりと結論づけたものです。

最高裁により、移送決定が取り消されると、元の高裁に上告事件が再係属することになります。

その分、裁判が長引くことになってはしまいますが、移送の要件を満たさない以上、やむを得ない内容でしょう。

 

 

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