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裁判例紹介

生命保険受取人の変更(保険法施行前)

生命保険の保険金の帰属については、金額が大きいこともあり、争われるケースは多いです。

そのなかでも、受取人が変更されたかどうか争われる事例も多いです。

今回は、そのような紛争となった和歌山地方裁判所田辺支部平成31年4月24日判決の紹介です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.7.28

事案の概要

被相続人が、生命保険契約に加入。

その後、死亡。

生命保険金の受取人が誰か争われた事件です。

以前の受取人は、参加人でした。

保険会社は、債権者不確知を原因として供託。

原告は、受取人変更があったと主張し、保険会社に対して供託金還付請求権の確認請求をした事件です。

旧受取人は、自身が受取人であると主張し、裁判に参加。

その供託金の還付請求権が誰に帰属するのか争われました。

 

保険契約の約款では、「保険契約者またはその承継人は被保険者の同意を得て、死亡保険金受取人を変更することができます」との規定がありました。

また、受取人の変更について会社に対抗するためには、保険証券に表示があることを要します、との規定もありました。

この保険契約は、保険法施行前に締結された契約でした。

そのため、保険金受取人変更等について、原則として、平成20年改正前の商法が適用される事案でした(保険法附則2条)。平成22年4月1日前に締結された保険契約については、従前の例によるされており、本件保険契約に関しても、原則として平成20年法律第57号による改正前の商法が適用されるのです。

 

原告が、受取人変更があったと主張する事実は次のようなものでした。

被相続人は、平成27年11月27日、本件保険契約の募集人である代理店と原告同席の下で、本件保険契約の保険金受取人を参加人から原告に変更することを内容とする名義変更請求書に署名し、代理店に交付しました。

その後、国民健康保険被保険証の写し等の必要書類のやりとりがあり、名義変更請求書と併せて保険会社に郵送。しかし、12月5日に死亡。

名義変更請求書には、保険会社従業員による同月7日付けの押印がされていました。

参加人は、被相続人の意思表示を争ったという経緯です。

 

 

原告と被相続人は兄弟、参加人は被相続人の妻という関係でした。

原告は、被相続人が、原告に対し、本件保険契約の保険金受取人を参加人から原告に変更する意思表示を有効に行ったと主張。原告と参加人との間で、原告が本件供託金の還付請求権を有することの確認を求めています。

 

参加人は、受取人変更の意思表示が存在しないか、錯誤により無効であると主張して、参加人と原告及び被告との間で、参加人が本件供託金の還付請求権を有することの確認を求めました。

 

裁判自体の争点は複数ありますが、保険の受取人変更の意思表示と、その有効性について紹介していきます。

 

生命保険金受取人変更の意思表示

原告は、受取人変更の意思表示の相手方は、必ずしも保険者であることを要せず、新旧保険金受取人のいずれに対しても行うことができると主張。

被相続人は、以下のとおり、原告に対し、受取人変更の意思表示を行ったと主張しました。

平成27年10月後半頃、原告に対し、車内で、保険金受取人を原告に変更する旨を伝えた点。
被相続人宅で、原告や親族と話合いを行った際、原告に対し、保険金受取人を原告に変更する旨を伝えた点。
名義変更請求書に関するやり取りの際に、原告に対し、保険金受取人を原告に変更する旨を伝えた点。

この点について、参加人は、否認し、仮に原告の主張するやり取りがあったとしても、単に意向を伝えただけであり、正式な受取人変更の意思表示とはいえないと反論しました。

また、受取人変更の意思表示の有効性について、アルコール依存症の重篤化による幻想・妄想や、原告及び親族の言動の影響により、参加人が被相続人の印鑑を持ち出して50億円の借金をしようとしていること、参加人が離婚を強要しており、離婚になれば財産は全て参加人のものとなって参加人の信仰する宗教のために費消されるおそれがあること及び本件保険契約に基づく死亡保険金も、2子のためではなく、参加人のために費消されるおそれがあると誤信して、受取人変更の意思表示を行ったもので、錯誤の内容は重大であるとも反論しました。

動機の錯誤ですが、被相続人は、原告の主張する受取人変更の意思表示の各場面において、原告に対し「参加人が、被相続人の印鑑を持ち出して50億円の借金をしようとしている。」、「参加人が、2子のためではなく、自らのために生命保険金を費消してしまうに違いないので、受取人変更をしたい」などと発言しており、動機は表示されて意思表示の内容となっていたと主張しました。


夫婦関係の認定

今回のケースでは、受取人を妻から兄弟に変更したという内容です。

そのような動機が被相続人にあったのか、その背景についても探られました。

裁判所は、前提として以下の事実を認定しました。


参加人と被相続人は、平成25年頃から別居。

その後、被相続人は、平成26年9月頃、自宅を新築したものの、同居には至らず。

別居後、平成26年初め頃までは経営する飲食店で頻繁に会っていたものの、同年9月頃からはその頻度は月2回程度となり、平成27年5月頃以降は、同年の夏頃に三、四回ほど会った程度で、飲食店で会うこともなくなっていた関係に。

逆に、原告と被相続人との関係は、参加人との別居後、家族が頻繁に訪問するなどして世話をするようになっていました。週に数回程度訪問するような関係になっていました。

 

意思表示ができる症状だったか

被相続人は、平成23年頃以降、度々、アルコール依存の離脱症状による振戦せん妄状態に陥り、入通院を繰り返していました。

同状態は、激しい幻覚、錯覚及び失見当識などを伴うものでしたが、その症状は数週間程度で落ち着き、会話ができる状態に戻っていました。診療録にも、そのような記載がされていました。

その後、振戦せん妄状態に陥り、平成27年4月23日から同年5月18日までの間、入院。

しかし、退院後、数回の通院歴があるものの、入院歴はない状態でした。

 

受取人変更手続の経緯

被相続人は、平成27年11月下旬頃、代理店に対し、保険金受取人を変更したいから自宅に来てほしいと連絡。

自宅には、親族もいました。

その後、名義変更請求書を交付。被相続人は、受取人変更の意向を示してこれに署名しました。

この際、原告は、被相続人と同じテーブルに座っており、署名も確認。

非相続人は、当時、飲酒をしていたものの、代理店が、言動に異変や違和感を覚えることはありませんでした。

 

 

受取人変更の意思表示についての裁判所の判断

判例上、保険契約者がする保険金受取人変更の意思表示は、保険契約者の一方的意思表示によってその効力を生じ、意思表示の相手方は必ずしも保険者であることを要せず、新旧保険金受取人のいずれに対してしてもよく、この場合には、保険者への通知を必要とせず、同意思表示によって直ちに保険金受取人変更の効力が生ずるものと解されています。

保険会社への連絡は不要というのが判例の立場です。

最判昭和62年10月29日です。

そうすると、この意思表示があったかどうかが争点になります。

そして、保険金受取人手続では、受取人変更を行う意向を示して名義変更請求書に署名しているという事実があります。

そうすると、同時点で、被相続人が、保険金受取人を参加人から原告に変更する確定的な意思を有していたことは明らかであり、名義変更請求書の宛先が形式的には被告とされていたとしても、上記変更の意思表示は、その場にいた原告に対してもされたと評価できるとしました。

よって、この時点で、新たな保険金受取人である原告に対して、保険金受取人を参加人から原告に変更する意思表示をしたと認定しました。

 

意思表示の有効性

意思表示があったとすると、それを争う側は、意思表示の瑕疵などを主張していくことになります。

参加人は、被相続人が、アルコール依存症の重篤化による幻想・妄想の影響や、原告らによる言動により、本件誤信に陥ったと主張するが、これを裏付ける的確な証拠はなとして否定。

また、本件受取人変更の意思表示の際に、本件誤信に係る被相続人の動機が原告らに表示されて同意思表示の内容とされたことを裏付ける直接証拠は提出されておらず、他に的確な証拠もないとしました。


むしろ、被相続人の交流範囲からすると、変更の動機があったかのような認定をしています。

 

保険法の取り扱い

本件では、保険法の適用がない時期でしたが、保険法が適用されるケースではどうなるのでしょうか。


保険法では、遺言による保険金受取人の変更の場合を除き、43条2項で、保険金受取人の変更は、保険者に対する意思表示によることとしています。保険法施行前における判例法理とは違う扱いとなっています。

このように、保険法施行前後で、受取人変更手続については大きく変わります。

保険法施行前に締結された生命保険契約数もまだまだ多いです。

 

 

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