裁判例
裁判例紹介
名義貸しと債権譲渡
美容業界での名義貸し問題の裁判例です。
自社割賦であったものの、その債権が自称 「ファクタリング業者」に債権譲渡。
顧客がクーリングオフを主張し、抗弁対抗を主張したものの、約款上の「異議無き承諾」条項を盾に、業者がこれを否定、提訴した事件です。
名義貸しの取り扱いと、異議なき承諾の条項の解釈が争われました。
東京高等裁判所令和元年11月14日判決の紹介です。
事案の概要
消費者である被告らは、販売店との間で、美容品一式を購入し、代金を分割払いで払うなどの契約書を作成しました。
しかし、実際には、そのような商品の売却はれず、勧誘の際には、エステ等をする、代金は販売店が払うと勧誘されたというものでした。
いわば名義貸しのような形です。
販売店は、この被告らに対する請求権を債権譲渡。
譲受会社が被告らに請求したところ、被告らはクーリングオフなどの抗弁対抗を主張。
訪問販売になる?
販売店との間の割賦販売契約が特定商取引に関する法律2条1項の訪問販売になるかが争点となりました。
訪問販売の定義として、法律では、販売業者又は役務提供事業者が営業所等以外の場所において、売買契約又は役務提供契約の申込みを受け若しくは締結されたものとしています。
主務省令では、営業所等とは、営業所、代理店、露店、屋台店その他これらに類する店、一定の期間にわたり、商品を陳列し当該商品を販売する場所であって店舗に類するものである旨を定めています。
さらに、特定商取引に関する法律2条1項2号所定の訪問販売に係る契約とは、販売業者又は役務供事業者が、営業所等において、営業所等以外の場所において呼び止めて営業所等に同行させた者その他政令で定める方法により誘引した者から売買契約又は役務提供契約の申込みを受け若しくは締結されたものとされています。キャッチセールスやアポイントメントセールスの話です。
当該政令で定める方法とは、電話、郵便、信書便、電報、ファクシミリ若しくは電磁的方法により、若しくはビラ若しくはパンフレットを配布し若しくは拡声器で住居の外から呼びかけることにより、又は住居を訪問して、契約の締結について勧誘するものであることを告げずに営業所その他特定の場所への来訪を要請すること、あるいは、電話、郵便、信書便、電報、ファクシミリ若しくは電磁的方法により、又は住居を訪問して、他の者に比して著しく有利な条件で契約を結ぶことができる旨を告げ、営業所その他特定の場所への来訪を要請することとされています。
このような定義から、被告のうち、本店所在地ではない、雑居ビル内の一室で契約をした人については、化粧品等の商品が陳列されていなかったことが認められ、販売店の登記簿上、他に営業所が存在していたこともうかがえないから「営業所等以外の場所」において締結された契約として、訪問販売と認定しました。
クーリングオフの起算点
訪問販売であればクーリングオフの主張ができます。
しかし、クーリングオフの主張には期限があります。
特定商取引に関する法律4条及び5条は、訪問販売を行う販売業者又は役務提供事業者は、契約の申込みを受けた時や契約を締結した時は、法定の書面を顧客に交付しなければならないことを定めており、これら書面の交付がされなかった場合は、クーリングオフの起算日は進行しないこととなります。
割賦販売契約の契約書の商品(役務)名・形式欄には、「美容品一式(別紙商品明細書の通り)」との記載でした。
ここで、別紙の明細書が交付されているかが争われました。
販売店は、被告を含む複数の顧客に対し、化粧品等の割賦販売契約を形式的に締結すれば、無料でエステの施術を受け
ることができる旨を伝えていたことが推認されるところ、そのような不正行為を行うに際して、実態がエステ契約というべきものであるのに、サプリメント等の大量の商品が具体的に記載された商品明細書を顧客に交付することは、通常、想定し難く、かえって、そのような商品明細書を交付することで、無料でエステの施術を受けるために契約を締結しようとする顧客を困惑させたり、後日のトラブルにつながることが懸念されるところであるし、被告とほぼ同時期にエムズと契約を締結した複数の顧客も、具体的な化粧品のリストや数量が記載された商品明細書は受領していない旨の陳述書を提出していることに照らしても、この点についての被告の供述内容は十分信用することができるとしています。
したがって、特定商取引に関する法律4条1項6号の「主務省令で定める事項」、具体的には、「商品名」や「商品の数量」(特定商取引に関する法律施行規則3条4号、6号)といった目的物の特定に関する重要な事項が記載された契約書面が交付されていないことになるから、同法9条1項のクーリングオフの起算日は進行しておらず、割賦販売契約を取り消す旨の意思表示は有効としました。
異議をとどめない承諾となるか?
被告が署名押印した契約書には、顧客が、本件販売店に対し、本件販売店が本件各割賦販売契約に基づく原告らに対する債権を第三者に譲渡することについて、あらかじめ異議をとどめないで承諾をするという条項がありました。
そこで、この承諾条項の効力が問題とされました。
民法468条1項が、債務者が異議をとどめないで債権譲渡の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができないとしている趣旨は、譲受人の利益を保護し、一般債権取引の安全を保障することにあって、譲受人の利益を保護しなければならない必要性が低いといえる場合にまで、抗弁の切断といった重大な効果を生じさせることは、債務者と譲受人との間の均衡を欠くことになると解されるとしました。
そこで、本件のような事案においては、債務者と譲受人の利益を保護すべき必要性の程度を検討することが相当とされました。
まず、本件承諾条項は、顧客が契約を締結した際の契約書の裏面に小さく印字された全18か条から成る契約条項の1条項にすぎない上、割賦販売契約が締結された際、被告が、本件勧誘員から、当該割賦代金債権が第三者に譲渡される可能性があるとか、本件販売店以外の第三者が被告名義の預貯金口座から割賦金を引き落とす可能性があるといった説明をしたこともおよそうかがえないから、当時33歳で芸能関係の仕事をしており、格別の法的知識を有していなかった
被告が、債権が譲渡されることを想定して承諾をしたと認めることはできないし、本件承諾条項の存在に格別の注意を払っていたとも考え難いと認定しました。
そして、本件承諾条項には、当該債権が具体的に誰に譲渡されるのかが一切記載されていなかったのであるから、一般的に、このような規定に基づいて債権譲渡を行った場合に、顧客に、二重弁済その他の不測の損害を及ぼすおそれがあることも否定できないとしました。
他方、原告は、あらかじめ顧客に対する債権を85%の代金額で買い取る旨の基本契約を販売店との間で締結していました。
実際に個別の債権を譲り受けるか否かについても、保証委託契約の有無で一律に判断していたと認定されています。このように契約を締結する前から譲受けが決まっていたということができ、本件承諾条項の存在により、被告の販売店に対する抗弁が存在しないことを信頼して、割賦代金債権を譲り受けたといった関係にあるわけではないとしています。
本件の取引の実態から、少なくとも経済的には、本件各割賦販売契約に係る債権譲渡は、割賦販売法が規制の対象とする個別信用購入あっせんに極めて類似する機能を果たしていたことは明らかだとしています。
そうすると、消費者保護の観点から、販売業者との間で生じている事由をもって、個別信用購入あっせん業者に対抗できる旨を定める割賦販売法35条の3の19の趣旨は、本件のような事案で、債権讓受業者が異議をとどめない承諾の存
在を主張する場合にも妥当するというべきであり、実質的に考えてみても、販売業者が顧客と売買契約と締結する際に、信用供与を希望する顧客が、信販会社とのローン契約書に署名するか、代債権の譲渡についての承諾書に署名するかによって、消費者保護の必要性に差異が生じるものではないと考えられるとしています。
そのため、本件承諾条項は、民法468条1項の異議をとどめない承諾としての効力を有しないと結論づけました。
信義則違反の主張は?
原告からは、信義則違反の主張がされていました。
すなわち、被告は、50万円もの美容品一式を購入する意図もないのに、売買代金は他から支払われることから、自らが代金を負担することはないものと信じて、実体の伴わないものであることを十分に認識しながら、割賦販売契約を締結し、保証会社からの契約締結意思の確認の電話についても、これを肯定する旨の回答をしていたとされます。
このような点から、その実質は、販売業者の資金繰りのために行われた名義貸しに協力したものということができるとしました。名義貸しといっても、その目的や方法、販売業者及び名義貸人の関与の程度によって、様々な態様のものが存在するが、被告は、無料でエステを受けることができるという説明を受けて、そのような利益を享受するために、結果的に不正行為に加担したものであって、いかに法律知識に乏しかったとしても、それが不正な行為であることは常識的に理解することができたはずであるから、いわゆる悪質商法の純粋な被害者であるとは認め難いとの認定です。
ー方、原告については、割賦販売法が規則の対象とする別信用購入あっせんないしそれに極めて類似する行為を行っていたのであるから、あっせんに係る取引を行う販売業者における一定の管理を行うことが求められていたところ、本件では、33歳の女性が高額の化粧品を一時に大量購入するといった割賦販売契約の内容は、頻繁にあり得るものとはいえないところ、同様の契約を締結する顧客が多数存在したというのは、不自然な面があったこと、販売業者にとって、割賦代金債権の買取りにより実質的に15%の手数料を支払わなければならないというのは、通常の信販業者との取引に比べて著しく不利なものであるから、被告との取引を選択した販売業者の中に、不健全な販売業者が一定数含まれているであろうことが容易に推測できたとしています。また、実際に、販売業者の中には、不適正な取引行為を行ったとして、東京都からの業務改善指示を受けていたところもありました。
原告にも、一定の落ち度があったといわざるを得ないとしています。
このような点を考慮し、残代金全額の支払を免れるというのは信義則に反する。信義則上、5割の限度でのみ対抗することができるとしました。
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