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裁判例紹介

新聞販売店への押し紙と損害賠償請求

新聞社からの新聞販売店への押し紙が違法とされた裁判例が出ましたので紹介しておきます。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.7.28

動画での解説はこちら

 

 

事案の概要

押し紙の判決について解説します。

押し紙は、新聞販売店、新聞広告、新聞の折り込み広告などに関わっている人にとって影響がある問題です。

今回の判決は、佐賀地方裁判所令和2年5月15日判決。

詳細は、弁護士ドットコムニュースなどで報道されています。

 

事案の概要としては、佐賀新聞という新聞社から販売店に対して新聞が販売されていた。

販売店が、契約者に配布という、よくある新聞の流通構造です。

 

押し紙と呼ばれる問題は、新聞社から販売店に対して、必要以上に新聞を売りつける、押し付けるという問題です。

新聞販売店が契約者に配布する以上に、大幅に上乗せして仕入れさせられるという問題です。

この押し付けられた新聞は、結局配れずに、余ってしまい、販売店としては、余計なお金を払うことになります。

 

このような押し紙の構造は、全国でずっと昔から問題視されていました。

佐賀県では、過去に仮処分の決定が出されています。

これは、販売店が、押し紙がキツイので、もっと減らしてほしいと減紙を要求したら、新聞の販売店契約自体を解除されてしまったという事件です。解除は無効、販売店の立場にあるのだという地位確認の仮処分を申し立てて認められた事例です。

 

今回は、他の販売店ですが、過去にさかのぼって押し紙は違法だとして、損害賠償請求を求めた事例でした。

 

判決のポイント


今回の判決のポイントですが、3ポイントあります。

まず1つめ。

過剰な部数だったかどうか。

2番目。

新聞社からの強制であったかどうか。

3番目。

違法な押し紙だったとして、損害はいくらか、という点です。

 

 

押し紙部数の過剰性

まず、押し紙があったかどうかのポイントとして、仕入れ部数が過剰なものだったかどうかという点があります。

 

販売店としては、必要以上に在庫を抱えることは、望ましくありません。

契約者がいて、売れる部数を仕入れるのが理想的です。

そこで、客観的に、契約部数と仕入れ部数の数字がどうだったのか、主張しておく必要があります。

今回のケースだと、この販売店は1日に300から500部ほど、契約部数よりも多く仕入れていたようです。

それだけ余ってしまったわけですね。

 

予備紙の取り扱いは?

ただ、余りがあるからいけないという話にはすぐにはなりません。

新聞というのは、通常は多めに仕入れるものなのです。

予備的に仕入れておく予備紙と呼ばれます。

例えば、新聞を配っていて雨などで濡れてしまったり、破棄してしまったときに使います。
また、新しい契約の勧誘をするときに使ったりもします。

店頭で売ったりするものもあるでしょう。

そのような目的に使うために、契約して配布する部数以上に予備として持っておくものもあるのです。

 

そのため、契約部数よりも仕入れ部数のほうが多いからといって、直ちに問題になるわけではないのです。

 

今回の判決では、この予備紙は、せいぜい2パーセント程度が適正だろうとしています。


それを上回っている部数があるので、過剰な仕入れだったという認定です。

 

どこかで、この基準を決めないと過剰だと認定ができないので、今後の紛争でも参考になる数字となるしょう。

 

強制がある押し紙だったか

違法な押し紙というためには、仕入れが押し付けであった、強制であったことを証明する必要があります。

過剰な部数だからといって、それが販売店による自発的なものであるすれば、違法にはなりません。

販売店の経営判断ミスとなるでしょう。

新聞社はこのような主張をしてきます。

 

今回も自発なのか強制なのかが争われました。

新聞社は、そもそも販売店からは部数を減らしてほしいという要請はなかったと主張しています。

それに対して、強制だったと主張している販売店側は、借金をしてまで過剰な仕入はしないと主張しています。

 

この強制の立証が、押し紙裁判の中では、ネックになってきます。

強制だと認められないと、販売店の主張は通らないのです。

客観的にメールや紙などの証拠があれば良いのですが、今回は、そのような直接的な証拠はありませんでした。

今回の判決では、そのような決定的な強制に関する証拠がなくても、押し紙の違法性を認定しています。

 

全体的な部数などの数字からの認定です。

今回は、取引期間に、佐賀新聞が他の販売店にも出して一斉に減紙をしていました。販売店の救済目的での扱いとのことです。

このような一斉減紙が数年間、行われていたのに、販売店から困るという声がなかったこと、全体的な売上部数や補助金がもらえるような金額帯での調整があったりだとか、部数の客観的な推移を見て、そこから通常の取引ではない、強制的な押し紙だと認定したものです。

 

違法な押し紙による損害


押し紙が違法であるとなれば、違法行為により、販売店が受けた損害の賠償義務が出てきます。

この損害額の計算もポイントになってきます。

損害賠償請求の場合には、時効期間もあり、一定期間に制限されます。

その期間に、仕入れた過剰な部数の新聞代金が2100万円相当でした。

そこから、損益相殺をします。

補助金をもらっていたり、販売店が折込広告などで利益を得てる場合には、減額されます。

 

今回のケースでは、補助金はないものの、折込広告の利益1130万円を差し引くという扱いがされました。

その上で、弁護士費用を加算した金額を損害と認定しています。

 

この判決については、双方が控訴したと報道されており、確定していません。

 

新聞社としては、このような判決が確定してしまうと、他の販売店や、他社の新聞にも影響を与えることになりますので、確定させたくはないでしょう。

今後も注目すべき問題です。

 

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