
裁判例
裁判例紹介
フランチャイズとクーリングオフ
フランチャイズのクーリングオフ解約を認めた裁判例です。
内容はハウスクリーニング。店舗開設はしておらず、勧誘時に、営業は不要、仕事は紹介すると説明された事件で、クーリングオフによる解除を認めています。
大津地方裁判所令和2年5月26日判決です。
事案の概要
被告は、ハウスクリーニングのフランチャイズ事業を展開する会社でした。
原告は、ハウスクリーニング事業に興味を抱いていた平成30年11月下旬頃、インターネット上で、被告のフランチャイズ募集の広告を見つけました。
被告の広告には、「営業活動は一切なし」「事業スタート時から案件は豊富に揃っております」「提携先からの仕事を加盟店へお渡しする」等と記載されていました。
また、被告の広告には、一人で開業した場合の1か月収益モデルとして、「売上高118万円、売上原価5万9000円、売上総利益112万1000円」が提示されていました。
募集地域は全国。
原告は、被告から、パンフレット等の資料を取り寄せたところ、そのパンフレットにも、「加盟店自らが営業活動を行う必要がありません。」との記載がありました。
原告は、平成30年12月6日頃、被告代表者と面談し、本件契約についての説明を受けるなどし、面談内容を踏まえて、被告との間で、本件契約を締結。
原告は、本件契約において、フランチャイズ開業初期費用として、研修費、研修参加費、工具・機材消耗品費一式、加盟金、保証金、開業支援金、販促ツール代、事務手数料の合計219万8000円を支払い負担。
被告のフランチャイジー(加盟店)となりました。
原告は、本件契約後、被告の本社ビルで一応の研修を受け、その後、平成31年2月8日、ハウスクリーニング業を自宅で開業。
被告は、原告に対し、「案件ございません。お休みでお願い致します」との連絡を続けて、結局、原告は、被告からハウスクリーニング業務のあっせんを受けることはありませんでした。
その後、原告は、この契約が、特定商取引法51条1項の「業務提供誘引販売取引」に該当するにもかかわらず、書面交付義務が尽くされていないとして、クーリングオフを主張したという紛争です。
裁判所の結論
被告は、原告に対し、219万8000円及びこれに対する平成31年3月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払えとし、原告の請求を一部認める結論でした。
原告によるクーリングオフを認めた内容です。
業務提供誘引販売取引該当性
業務提供誘引販売取引とは、物品の販売又は有償で行う役務の提供の事業であって、その販売の目的物たる物品又はその提供される役務を利用する業務に従事することにより得られる利益を収受し得ることをもって相手方を誘引し、その者と特定負担を伴うその商品の販売若しくはそのあっせん又はその役務の提供若しくはそのあっせんに係る取引をいうとされています(特定商取引法51条1項)。
本件契約に係る取引について、被告は、ハウスクリーニング事業に必要な「機材・消耗品等」を販売し、また、開業前研修・開業支援等の役務の提供を有償で行う事業であって、その販売の目的物たる物品又はその提供される役務を利用する、被告が提供し、あっせんするハウスクリーニング業務に従事することにより得られる利益(業務提供利益)を、収益モデルを提示するなどして、収受し得ることをもって原告を誘引していること、原告ら加盟店が、フランチャイズ開業初期費用として、研修費、研修参加費、工具・機材消耗品費一式、加盟金、保証金、開業支援金、販促ツール代、事務手数料の合計219万8000円を支払うなどの金銭的負担(特定負担)を伴う、上記業務のあっせんに係る取引をすることを業として営んでいたことが認められるとしました。
そして、原告は、被告から提供・あっせんされた「業務」を、肩書住所地の自宅(マンションの一室)で行うことになっているから、本件契約は、「事業所その他これに類似する施設によらないで行う個人との契約」に該当することが
認められるとしています。
そうすると、本件契約に係る取引は、特定商取引法の業務提供誘引販売取引に該当するものと解するのが相当であると結論づけました。
被告の反論
被告は、原告は、自宅をその業務のための事業所としているところ、原告の事業規模が、一般消費者が行う内職等の作業程度のものであることを示すものではなく、また、被告が原告に提供する業務は、原告の申出により、原告が独自に営業を行う不動産業者から紹介されるような空室のハウスクリーニングに限られており、消費者被害を防ぐために保護すべき者ではなく、特定商取引法のクーリングオフ規制による保護の必要はない旨主張していました。
しかし、原告は、被告から提供・あっせんされた「業務」を肩書住所地の自宅(マンションの一室)で行うこととし、本件契約は、「事業所その他これに類似する施設によらないで行う個人との契約」に該当することが認められることなどに照らすと、原告が特定商取引法のクーリングオフによる保護の必要はない者であるということはできないとしました。
他の被告の反論も排斥。
本件契約に係る取引はも開業初期費用や固定チャージ等を支払うなど特定負担を伴う、前記業務のあっせんに係る取引をするというものであり、業務提供誘引販売取引に該当するとしました。
クーリングオフの記載なし
被告は、業務提供誘引販売契約を締結したにもかかわらず、原告に対し、特商法所定の契約の解除(クーリングオフ)に関する事項が記載されていない書面を交付したことが認められるとしています。
そうすると、原告が被告に対し本件契約の解除の通知を発した時点において、契約書面を受領した日から起算して20日が経過しているとは認められないとしました。
よって、原告は、被告に対し、特定商取引法58条1項に基づき、本件契約を書面により解除したから、不当利得返還請求権侭基づき、同契約において被告に交付した219万8000円及びこれに対する解除日以降の日である平成31年3月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができると結論づけました。
クーリングオフをめぐる裁判では、書面交付から一定時期にクーリングオフの意思表示をしたかどうかが争点となります。訪問販売では8日、今回のような業務提供誘因販売では20日などと期限が決められています。この期限のスタートは、書面交付時期。ここでいう書面は、決められた記載がされた書面。今回は、クーリングオフの記載がある書面とされています。
決められた記載がされた書面が交付されていないのであれば、クーリングオフ期間がスタートしていない、契約日から20日過ぎてもクーリングオフができる、という判断がされています。
フランチャイズ事業を営んでいる企業は、このようなリスクがあることを頭に入れて契約書をつくらないと、思わず解除されるリスクがあることになります。
不法行為
なお、裁判では、不法行為による損害賠償請求もされていました。
原告は、本件契約に至るまでの被告の勧誘は、説明内容(業務のあっせん紹介見込み、収益モデル)に虚偽又は過大に誇張された表現が含まれる詐欺的なものであり、原告に対する不法行為を構成する、原告は、これにより、財産的損害を被るとともに、精神的苦痛を被った旨主張し、慰謝料として50万円を請求していました。
裁判所は、確かに、被告は、本件契約の際に、営業活動は一切不要であると広告していたにもかかわらず、原告には業務を紹介することがなかったことが認められ、このような実態に照らすと、原告に対しハウスクリーニング業務を紹介することができたかどうかは不透明であるといわざるを得ないし、求人広告の内容が誤解を生じさせるものであるこ
とは否定できないものの、被告が示したパンフレット等の収益モデルについては、開業した場合の一例であると解されるから、このように収益を上げることがおよそ実現不可能なものとまではいえず、虚偽等の詐欺的な勧誘であったとまではいうことができないとしました。
不法行為については否定という結論です。
フランチャイズ契約と業務提供誘引販売取引
フランチャイズ契約では、フランチャイジーは、一般的には独立した経営者とされます。
特定商取引法の「業務提供誘引販売取引」と認められることは多くありません。
「業務提供誘引販売取引」は、内職・モニター商法などで使われる規定です。店舗開設をしていないことが前提です。
ただ、今回のケースでは、勧誘文句で、営業活動は一切不要、フランチャイザーが提供、あっせんする仕事で収益をあげることができると説明していたこともあり、規制の必要性を認めたものと思われます。
不適切な勧誘で、多額の加盟金等を払わせる商法もあります。フランチャイズ契約と名乗っているものの、実態は加盟金や保証金狙いの詐欺ということもありえます。今回のケースでも、自分での営業は不要、紹介すると言いつつ1件も紹介がないという実態も考慮された可能性が高そうです。
このような被害を受けた場合に、業務提供誘引販売取引の主張でクーリングオフを認める必要性はあるでしょう。
フランチャイズ契約とはいっても、本件のように紹介を前提としているような場合には、業務提供誘引販売取引とすべきと特定商取引法に関する書籍でも解説されています。
業務提供誘引販売取引の場合、被勧誘者が「事業者」でも適用されるという特徴があります。訪問販売等よりも広く保護される可能性があります。
参考にしてみてください。
フランチャイズ契約などのご相談は以下のボタンよりお申し込みください。