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差押えの改正

2019年民事執行法改正、財産開示、情報取得制度

差押の改正についての話です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2022.1.26

差し押さえ手続きが改正され、2020年4月から施行されています。

債権回収の中で、差し押さえというのは、基本的には裁判所の判決とか公正証書のようなものを持っていて、相手が払わない場合に相手の財産から回収するという手続きです。

 

民事執行法による財産の差押え

この差押は、民事執行法という法律の中で予定されています。
強制執行手続と呼ばれます。

この差押えをするには、財産を特定して、「この財産を差し押さえる」という申立が必要です。

不動産を差し押さえるには、どの不動産なのか。
預金を差し押さえるには、どの銀行の何支店の何の口座か。
給料を差し押さえるには、どの会社から払われる給料か。

このような特定が必要です。

しかし、債権者がこのような情報を持っていないことも多いです。

そのため、判決があってもなかなか回収ができず、裁判所の判決が、ただの紙切れになってしまう事件は結構あります。

今までにも、民事執行法の中で、財産開示制度があったのですが、あまり機能していませんでした。

この差し押さえの問題点、相手の財産情報がわからない、という点について、大きく変わります。

2019年5月に民事執行法の改正法が成立していて、1年以内に施行されます。

改正点を紹介します。

 

 

財産開示の強化

相手の財産を差押えたのに、空振りになってしまった場合、相手の財産を開示するよう求める手続です。
ただ、この財産開示手続きは、あまり使われていないです。

この財産開示手続きを強化したのが、今回の改正法です。

 

差押

 

罰則強化

まず、従わない場合の罰則強化。
開示しろ、と求められても応じない場合の罰則が引き上げられました。


宣誓した債務者が、正当な理由なく陳述を拒んだり、虚偽の陳述をした場合には、30万円以下の過料に処することとされていました。

改正後の新民事執行法第213条第1項では、その罰則が、6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金となりました。刑事罰となります。

 

財産開示手続の申立権者の拡大

今までは、確定判決が必要だったのですが、公正証書や支払督促の債権者でも、申し立てが認められるようになりました。

新民事執行法第197条第1項柱書きでは、金銭債権についての強制執行の申立てをするのに必要とされる債務名義であれば、いずれの種類でも、財産開示手続の申立てをすることができることとしています。

これにより、公正証書での養育費回収や、犯罪被害者の賠償にも使いやすくなりました。

 

情報取得制度

そして、改正法の一番のポイントは、第三者からの財産情報をもらえるような手続きが準備されたことです。

今まで差し押さえをするためには、財産を特定しないといけませんでした。

不動産情報や、給与情報、預金情報を債権者が入手しやすくなったのです。


不動産に関しては、債務者がどこに不動産を持っているのかの情報がもらえます。
また給料に関しても、どこで働いているのかということを役所や年金事務所などから情報取得できます。
預貯金、株式についても、銀行や証券会社から情報をもらえます。

 

このうち、給料に関しては、どのような債権者でも認められるものではありません。
扶養に関する義務、たとえば養育費のような債権や、生命・身体の損害賠償請求権に限られています。

これらの債権は、要保護性が高いため、このようなプライバシー性の高い情報も対象になるのです。
「扶養義務等に係る請求権又は人の生命若しくは身体の侵害による損害賠償請求権」について執行力のある債務名義の正本を有する債権者が、申し立てできます。

 

差押

 

財産開示手続きの前置

不動産と給料に関しては、財産開示手続きが前置とされています。

強制執行をしても回収できなかった、財産開示手続、をしてから使える手続という位置づけです。
財産開示から3年以内に使える制度とされています。

 

預貯金債権等に関する情報取得手続だけは、不動産の情報取得手続や給与債権の情報取得手続とは異なり、その要件として、財産開示手続の前置は要求されていません。密行性という視点からです。
強制執行をしても回収できなかった場合には、財産開示手続をせずに情報取得手続を使えます。

 

施行時期に関しては、基本的には2019年5月から1年以内とされていますが、不動産情報に関しては2年以内とされており、若干遅れることになっています。

 

情報取得手続の実際の流れ

情報取得手続では、執行裁判所が、債務名義を有する債権者からの申立てを受けて、第三者に対して、債務者の財産に関する情報を提供するよう命ずる旨の決定をします。

その後、第三者(年金事務所等)が、執行裁判所に対して情報提供します。
第三者による情報の提供は、書面で回答しなければならないとされています。

執行裁判所は、情報提供があったら、申立人に回答書の写しを送付します。
また、債務者に対しても、情報の提供がされた旨を通知しなければならないとされています。

債務者の財産情報については、申立てに必要な債務名義を有する債権者等に限って、他の債権者でも閲覧等の請求ができます。


管轄裁判所は、第一次的には、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所とされます。
この普通裁判籍がないときは、債務者の財産に関する情報の提供を命じられるべき者の所在地を管轄する地方裁判所とされます(新民事執行法第204条)。

 

金融機関の情報取得手続の費用

銀行等の金融機関の情報取得制度ですが、どの金融機関に対してするのかの特定は必要です。

そして、金融機関を1名追加するごとに4000円の手数料を裁判所に支払う必要があります。

弁護士会の照会手続でも1箇所ごとに費用がかかる仕組みですので、結局は、どこにありそうかと予想して手続を進める必要があります。

少額の債権回収では使い勝手があまり良くないです。

 

情報取得手続きと不服申立

不動産の情報取得手続や給与債権の情報取得手続においては、認容決定にも却下決定にも、執行抗告ができます。
預貯金債権等の情報取得手続においては、却下決定に対して執行抗告ができます。

預貯金の情報取得では密行性の観点から、認容決定に対して、債務者が執行抗告をすることはできません。通常、債務者が知りうるのは、情報が取得された後ということになるでしょう。そのため、不服申立ての機会は現実的にはないと言われます。

 

まだ、権利関係を争っている段階で、財産開示を争う方法も検討しておく必要があります。

債務名義が仮執行宣言付判決の場合には、控訴したうえで民事訴訟法403条による執行停止の裁判。

債務名義が執行証書であれば、請求異議の訴えを提起したうえで、民事執行法36条の執行停止の裁判。

 

公正証書のような執行証書の場合には、債務者としては、負担が重いと感じるでしょう。

 

 

目的外使用の罰則

債権者は、情報取得手続において得られた財産情報を、債権をその本旨に従って行使する目的以外のために利用し、又は提供してはならないとされています。
違反した場合には、30万円以下の過料の対象になりますので、気をつけなければなりません。

 

この改正により、今後、債権回収率が上がるかと思います。
判決をとったのに、回収できなかった、と悩んでいる人は、この新制度を使ってみると良いかもしれません。

 

関連制度:弁護士会照会手続

弁護士会照会、23条照会と呼ばれる制度があります。

相手の財産のうち、預金口座を調べたいときに、民事執行法の改正とは別に、有効に働く可能性がある制度です。

弁護士会照会手続の統計データによると、金融機関に対する照会は、2016年から2018年にかけて大幅に増加しています。

通常の弁護士照会手続よりも手数料が加算されることもありますが、財産調査が有効に働くものです。

裁判所の判決などの債務名義を持っている場合に認められる制度です。

多くの銀行については、全店照会といって、その相手が、どの支店に口座を持っているかを調べることができるようになっています。

ただし、銀行の特定は必要です。銀行によって、必要書類や書式が変わることはあります。

 

民事執行法の情報取得制度では、「債務者名義の預貯金債権の存否のほか、その取扱店舗、預貯金債権の種類、口座番
号及び額」が取得可能となる見込みです。

これに対し、弁護士会照会の全店照会の場合では、照会の必要性や相当性によっては、過去の取引履歴についても回答が得られることが多いとされます。これが回答されれば、さらに、そこから新しい財産情報が得られることもあります。

また、弁護士会照会手続では、通称、肩書つきの口座等も、債務名義記載の債務者と同一人物として説明して回答をもらえることがあります。相手が屋号を使っているような場合には、有効に働く可能性があります。

裁判等を弁護士に依頼していた場合には、判決後、この照会制度と民事執行法上の制度のメリット・デメリットを比較して選択してみると良いでしょう。

 

 

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