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差押えの判例

最判平成28年12月1日、法定地上権と仮差押え時の所有者

不動産の差押制度について、最高裁平成28年12月1日第一小法廷判決の紹介です。

仮差押え、差押がされた場合の法定地上権の成立が問題になった事案です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.7.28


事実の概要

債務者は、甲土地、乙土地およびこれらの土地上にある丙建物を所有していました。

平成14年5月23日、丙建物と乙土地について仮差押え。

平成19年3月26日、Aは甲土地をその妻に贈与。

平成20年2月20日、丙建物および乙土地について、強制競売手続の開始決定による差押え。


なお、強制競売手続は、仮差押えから本執行に移行したもの。

強制競売手続で購入した人が、平成21年7月29日から、丙建物、乙土地、甲土地を占有。

 

このような経緯で、甲土地の所有権者である妻が、購入者に対し、甲土地の明渡しと明渡し済みまでの賃料相当損害金の支払を請求した事件です。

 

原審までの判断

購入者は法定地上権を主張。

地方裁判所の第1審は、この主張を否定、妻の明渡し請求を認めました。

民事執行法81条に基づく法定地上権は、差押え時に土地および地上建物が同一所有者に帰属していなければ成立しないとしました。

原審の高等裁判所も同様の結論。

 

最高裁判所の判断

一部破棄差戻し、一部棄却。

法定地上権成立という結論。


地上建物に仮差押えがされ、その後、当該仮差押えが本執行に移行してされた強制競売手続における売却により買受人がその所有権を取得した場合において、土地及び地上建物が当該仮差押えの時点で同一の所有者に属していたときは、その後に土地が第三者に譲渡された結果、当該強制競売手続における差押えの時点では土地及び地上建物が同一の所有
者に属していなかったとしても、法定地上権が成立するというべきである。

民事執行法81条の法定地上権の制度は、土地及び地上建物が同一の所有者に属する場合には、土地の使用権を設定することが法律上不可能であるので、強制競売手続により土地と地上建物の所有者を異にするに至ったときに地上建物の所有者のために地上権が設定されたものとみなすことにより、地上建物の収去を余儀なくされることによる社会経済上の損失を防止しようとするものである。そして、地上建物の仮差押えの時点で土地及び地上建物が同一の所有者に属していた場合も、当該仮差押えの時点では土地の使用権を設定することができず、その後に土地が第三者に譲渡されたときにも地上建物につき土地の使用権が設定されるとは限らないのであって、この場合に当該仮差押えが本執行に移行してされた強制競売手続により買受人が取得した地上建物につき法定地上権を成立させるものとすることは、地上建物の収去による社会経済上の損失を防止しようとする民事執行法81条の趣旨に沿うものである。

また、この場合に地上建物に仮差押えをした債権者は、地上建物の存続を前提に仮差押えをしたものであるから、地上建物につき法定地上権が成立しないとすれば、不測の損害を被ることとなり、相当ではないというべきである。

 


民事執行法81条の法定地上権制度の趣旨とは?

判決でも触れられている民事執行法81条の法定地上権制度の趣旨は、民法388条の法定地上権制度と同様だとされています。

強制競売手続を申し立てた債権者としては、売却により、同一所有者に帰属していた土地と建物が別人に帰属する場合、申し立て時点においては、土地利用権の設定はできません。

同一所有者の間で、貸し借りを概念できないからです。利用権を設定する事ができないのです。

土地の利用権がないからといって、建物を収去しなければならないという結論だと、社会経済上の損失が起きてしまいます。

これを回避したいというのが法定地上権制度の趣旨です。

民法388条の解釈では、判例は、この趣旨を重視して、かなり拡張的な解釈を展開しています。

 

ここで、同一の所有者の基準時が問題とされます

民法388条の法定地上権では、同一人への帰属要件は抵当権設定時とされます。

民法388条「土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。」

その後、所有権の移転により別人に帰属した場合でも、法定地上権は成立するとされます。

 

 

強制競売の場合は?

そうすると、抵当権ではなく、強制競売手続開始決定としての差押えの場合、差押時が基準となりそうです。


しかし、強制競売をするには、裁判所の判決など債務名義が必要です。

これを取得するには時間がかかります。

その間に、財産を処分されるのを防ぐ制度が、仮差押えです。

このような流れで、仮差押えの時点では同一の所有者だったのに、本差押えの時点で所有者が変わってしまっていたという場合に法定地上権を成立させるのかが争われたのが本事件です。

 

最高裁判決の考え方

最高裁は、建物の仮差押え時に土地および建物が債務者に帰属しているならば、本差押えの時に、所有者が変わっていても、法定地上権が成立するとしました。

仮差押債権者は、今回の贈与のように、土地が譲渡された場合、建物による土地利用権を設定するよう請求できるものではありません。

しかし、仮差押えを建物にした債権者は、地上建物の存続を前提に仮差押えをしたものといえるでしょう。

通常、債権者の合理的意思は、建物が土地上に存続しうるからこそ、仮差押えるというものです。

土地利用権がある建物を前提にしているのです。

収去しなければならない建物を仮差し押さえる意味はありません。

仮差押えは、債権回収を目的にしているからです。

 

今回のように、敷地の土地を第三者に贈与したからといって、建物を収去しなければならないとすると、債権者を害し、強制執行の妨害行為が実質的に認められてしまいます。

 

土地だけを仮差押えした場合は?

最高裁判決で直接触れられている点ではありませんが、建物の仮差押えではなく、敷地の土地だけの仮差押えの場合に法定地上権が成立するかも問題になります。

そのような場合にも、仮差押えの時点で同一所有者に帰属していれば良いという基準で判断すると、法定地上権を認めることになります。

土地のみについて仮差押えをした債権者も、その時点で同一所有者に帰属していることを把握できるわけで、建物の存続を覚悟しているともいえます。

また、土地が仮差押えされた場合、その後、建物が譲渡され、譲受人が土地を賃借する契約をしても、仮差押えをした債権者には、対抗できないことになります。

そうすると、この場合にも、建物の保護のために法定地上権を認める必要があるという結論になりそうです。

 

 

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