事例紹介
ケース紹介
男女間の金銭請求裁判の事例
元交際相手に対するお金の返還請求の裁判事例の解説です。
他の事件でも同様の争点になることがありますので、関係解消後に金銭トラブルになっている人はチェックしてみてください。
交際相手に預けたお金の請求
元交際相手に対し、預けたお金の返還請求をした事件です。
被告は、自動車の加工を行っている男性でした。
相談者は、自動車を購入し、所有していました。当時、交際中の被告に対して、車両の加工を依頼し、その概算費用として200~300万円を預けていました。
被告は、車両に対して、一部のパーツの取付け、ライト加工などを施したものの、費用の内訳を明らかにせず、預り金の精算もしませんでした。
相談者は、車両の状態が芳しくなかったことから、新たに別の車を購入することとしました。
そこで、相談者は、車両の購入を被告に委託し、その購入資金として200万円を預けました。
しかし、被告は車両を購入せず、その後、2人の関係も悪化。
相談者は被告に対し200万円の返金を求めました。
男女交際の解消時に、交際中のお金の問題が残るケースはよく相談されます。
損害賠償請求
被告は、駐車中の相談者の車両に対して、2回にわたって損壊行為を行いました。
工具を用いるなどして、車両のサイドガラス、リアガラス、フロントガラスを破壊、パーツのダクト部分を破壊する、メーターパネルを外して持去る、配線を切断する等の行為をしました。
これにより、修理代約178万円、レッカー代等もかかりました。
相談者は、被告を器物損壊罪により刑事告訴。
検察官は、公判請求をしています。
刑事事件と損害額
器物損壊行為について、不法行為による損害賠償請求をしています。
その損害額については、実際の費用の明細を証拠提出しています。これに対し、被告からは、刑事事件で公判請求された被害額が約6万円だったとの主張がされました。
刑事裁判については、修理が複数回行われたような場合に、一部の資料のみで進められることもあります。
今回も、警察署の警察官から「見積書による裏付けがとれる範囲で告訴した方がよい」と勧めらるなどの事情があったため、公判請求の際の被害額が少額にとどまっていたものです。
刑事裁判と数字が違っている場合には、資料の明細なども合わせて提出し、重複や過大な請求ではないことを民事裁判で説明していく必要があるでしょう。
工賃免除の意思表示
民事裁判での争点の一つが、被告による工賃を請求しないとの意思表示がされ、合意があったか否かでした。
確かに、相談者は被告と喧嘩をした際、その口論の中で「工賃を支払う」旨の発言をしたことがありました。
しかし、被告はその都度「つき合っているんだから、工賃は要らない」旨発言し、工賃を請求しない意思を明らかにしていました。
これにより、法的には、免除の意思表示があったと認められます。
購入資金の不返還合意
被告は、自動車の購入資金として預けた200万円について、返還しない合意がされたと反論してきました。
あくまで購入資金ですから、相談者が希望する車が見つからなかった場合や購入委託を撤回した場合には、返金されることが当然予定されているはずです。
返金しない合意など成立しているとは通常は考えにくいです。
この点に関し、相談者は被告に対し、「あの200ももういらないから」という内容のメールを送っており、証拠提出されました。
しかし、このメールは、喧嘩をしている最中に一時的な感情に任せて送ったものであり、真意ではありませんでした。同日の他のメールからも、当時喧嘩状態であったことが認められました。
また、被告は、このメールを受領した後も、新しい車の購入に向けて具体的な行動をとっていました。
このような前後の関係から、メールは被告との委託関係に影響を与えるものではなかったと評価できます。
一時的な感情で、不利な発言をしてしまうことがあります。そのような発言を切り取られて裁判で証拠提出された場合には、全体の文脈の中で、どのような流れで出された発言かを明らかにしておくと良いでしょう。
今回も、別れ話で冷静な判断力を欠いた相談者が自暴自棄の状態で送ったものであり、真意ではないとの反論が可能です。
そもそも200万円の返還義務の免除という重大な法律効果を生じる意思表示と認められ、法的保護が与えられるためには、その意思は確定的である必要があるともいえます。
心裡留保の無効
仮に、意思表示があったと認められるとしても、免除の意思表示は心裡留保にあたり無効であるとも主張できます(民法93条但書)。
相談者は、喧嘩が絶えず、時に暴力をふるうこともある被告との関係を断ちたいと考え、真に200万円の返還義務を免除する意思を有していないにも拘らず、その場しのぎで金を返してもらわなくてよい旨発言したともいえます。
そして、交際関係にあった被告は、喧嘩の際、相談者が時に真意と異なる発言をすることは了解しており、真に相談者が200万円の返還義務を免除する意思を有していないことを認識し、または認識することができたともいえます。
このようなロジックが通れば、免除の意思表示は無効になるとも考えられます。
免除の性質と有効性の判断基準
免除とは、弁済・相殺・更改のように対価または代償を得ることなく、債権者が意思表示によって債務を消滅させる行為です。
法形式上、債権者には何らの利益もない行為です。
そのため、債権者・債務者間の一定の人的関係(親族関係など)を基礎に、債権発生行為と併せて見れば実質的に贈与に該当する場合や、債権の回収可能性がなく損金処理を行う場合など、免除をなす合理的な理由を見出すことができない時には、その効力について慎重に判断すべき要請が高いです。
本件では、200万円という決して少額ではない金員の免除が問題となっているのであるから、なおさらでしょう。
本人尋問と遮蔽措置
双方の主張に隔たりがあったため、本人尋問が実施されました。
ただ、交際関係は解消しており、相談者に恐怖心があったこともあり、遮蔽措置をしたうえでの尋問を申請しました。
遮蔽措置がされれば、直接相手の顔は見れない状態での尋問となるため、恐怖心は多少和らぐことになります。
遮蔽措置の上申書
遮蔽措置の申請のため、裁判所に上申書を提出しています。
原告本人尋問及び被告本人尋問は、原告と被告との間で遮へいの措置を講じたうえで実施されたい、との上申書です。
上申の理由としては、元交際相手であり自動車の加工業を営む被告に対して、車両の購入資金として預けた金員の返還と、所有車両を損壊されたことによる損害賠償を請求している事案であることを伝え、被告は原告車両の損壊行為について、有罪判決を受けている点を指摘。
被告の行為態様は、危険行為に及んでおり、また、暴力行為も行っている点や、交際中に、激昂した被告から暴力を振るわれたこともある点を指摘。
原告は器物損壊事件の被害者であるだけでなく、上記の事情から被告に対して恐怖心を抱いており、殊に原告と被告との間におけるやりとりや発言内容等が訴訟の帰趨に重大な影響をもたらす本件においては、被告の面前において供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあるとして、本人尋問の際には、民事訴訟法210条・203条の3第1項に基づき、原告と被告との間で遮へいの措置を講じられたく上申する次第であるという書類を出しています。
裁判上の和解で債権回収
陳述書の証拠提出、本人尋問実施後、裁判官の勧告があり和解が進められることとなりました。
その結果、350万円の和解金を回収する内容で裁判上の和解が成立し、裁判は終了となっています。
男女問題、交際終了後の金銭トラブルを抱えている人は参考にしてみてください。
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