事例紹介
ケース紹介
給料差し押さえによる債権回収事例
財産を保護し、債務者の経済的責任を確実にするための法的手続き、差押えや強制執行についての解説です。
この記事では、債務者がどのようにして自らの財産を保全され、債権者がどのようにして金銭を回収できるのか、その具体的な手続きについて詳しく説明します。
給料の差押えから差押えられる財産の種類、自己破産や個人再生との関連性、さらに差押え手続きの流れと必要書類等を解説しています。
実際の回収事例、記載例も紹介しておきますので参考にしてみてください。
差押と強制執行
差押えとは、債務者が財産を自由に処分できなくする手続きです。主な目的は、債権者が債務者の資産から金銭を回収できるようにするためです。
強制執行は、裁判所が債権者のために債務者の財産を現金化する手続きです。しかし、債務者が先に財産を処分してしまうと、回収が難しくなります。そこで、差押えが行われます。
差押えられる財産には、動産、不動産、そして給与や預金などの債権が含まれます。
債務者の給料や預金が差し押さえられると、その部分を使用することはできません。
しかし、債権者が簡単に差押えをすることはできず、「債務名義」が必要です。代表的なものとして「判決」や「支払督促」「公正証書」があります。
給料差押えがされる流れ
差押を受ける債務者から見た給料の差押え手続きの一般的な流れを説明します。
1. 裁判所から訴状や支払督促などの書面が届く。特別送達という郵便方法で届きます。
2. 裁判所が債権者の主張を認め、債権者が債務名義(判決、和解調書等)を取得。
3. 債権者が給料の差押えを裁判所に申し立て。
4. 裁判所から債務者の勤務先に「債権差押命令」が出される。
5. 勤務先から差押えられた給料が債権者に支払われる。
このような流れですので、給料を差し押さえられると、勤務先に借金の事実が知られることになります。
給料差押えの対象
一般的な給料差押の場合、差押えの対象になるのは、月給だけでなく、ボーナスや退職金も含まれます。
差し押さえられる給料の上限は、手取りの4分の1です。生活の保護のため全額が差し押さえられるわけではありません。ただし、手取り給料が44万円を超える場合、33万円を超える部分は全額差し押さえられます。
高収入の人は、33万円が最低限の生活費と考えているわけですね。
給料差押と自己破産、個人再生
給与差し押さえがあると、簡単には止められません。
債権者としては、取り下げる理由はないので、そのまま毎月の給与支払ごとに差押えが続きます。
差押えを解除するための方法としては、自己破産や個人再生など法的な債務整理手続きをとる方法があります。
まず、個人再生では、手続きを通じて給与差し押さえを中止することができます。中止された給与はプールされ、手続き終了後に債務者が受け取ることができます。
自己破産でも給与差し押さえの中止や取消に進むことができます。
ただ、自己破産には、「同時廃止」と「管財事件」という2つの手続きが存在し、それぞれで給与差し押さえの取扱いが異なります。
給料差押えの手続き
給料の差押えを行うためには、以下の手続きが必要です。
判決等の裁判の確定を示す「確定証明書」(または仮執行宣言)と、判決文の送達を示す「送達証明書」を裁判所から取得。
執行の根拠となる「執行文」を判決文に付与してもらいます。
相手方の勤務先情報を示す登記情報「全部事項証明書」を法務局から取得。
そのうえで、申立書類を裁判所に出します。
審査のうえ問題なければ、裁判所は「債権差押命令」を出します。
この命令書は、債権者、債務者、及び債務者の勤務先に送られます。債権者には送達通知書が郵送されます。勤務先などの第三債務者は、差押命令の受領後、裁判所へ陳述書を返送する義務があります。差押えられた債権があるのかどうか等を回答することになります。
取立権が発生した後、債権者と勤務先で、給料の一部の支払方法を協議します。
債務者には、差押えられた分が控除された金額だけが支払われます。
給料差押えのメリット・デメリット
給料差押えのメリットとしては、債務者が勤務している限り、定期的に安定的に回収できる点です。
デメリットとしては、一度の差押えで得られる金額は限られる点、債務者の勤務先情報が必要な点です。また、債務者が転職など勤務先を変更した場合、回収はそこで止まります。転職先での給料を差し押さえるには、新たな情報の取得をして債権差押え命令の申立を改めてする必要があります。
債務者が転職や短期間での勤務先変更を繰り返す場合、差し押さえは難しくなります。また、自己破産や個人再生の決定が出ると、差押えも中止などにより止まってしまいます。
債権差押えの申立ての必要書類
債権差押えの申立てを行うためには、以下の書類が必要です。
- 債権差押命令申立書
- 当事者目緑
- 請求債権目録
- 差押え債権目録
- 執行力のある判決の正本等(債務名義)
- 送達証明書
通常、手数料4,000円分の収入印紙を貼ります。
それ以外に郵券切手代約3,000円の支払いが必要です。
給料差押えの回収事例
代金請求等の裁判をした事例です。金額からして簡易裁判所への提訴となりました。
裁判を進めるなかで、相手方もこちらの請求内容については争わず、分割払いを希望するとの話を出してきました。
ただ、最終段階で、裁判所への出頭が難しいということになり、合意内容に基づき、調停に代わる決定が出されました。
内容としては、約150万円を2万円ずつ分割払いにするとの内容でした。支払いを2回以上怠り、未払い額の合計が4万円に達したときは、当然に期限の利益を喪失するとの条項となりました。
しかし、和解金の支払がされず、期限の利益を喪失となりました。一括請求できることになりますが、和解でも支払をしない以上、請求書を送っても支払われる可能性は低いです。
そこで、給与差押を行いました。
相手の勤務先を把握していたため、給料の差押えができる情報を持っていたというものです。
請求債権目録記載例
債権差押え命令の申立には、請求債権目録をつけます。記載例を載せておきます。金額は概算です。
●簡易裁判所令和●年()第●号●事件の執行力ある調停調書の正本に表示された下記金員及び執行費用
記
1 元 金 金150万円
2 遅延損害金 金6万円
ただし,上記1に対する,令和●年●月●日から令和●年●月●日まで年10%の割合による金員
なお,債務者は令和●年●月●日及び同年●月●日の支払いを怠り,かつその額が4万円に達したため,和解条項第3項により,令和●年●月●日の経過をもって期限の利益を失ったものである。
3 執行費用 金8891円
(内訳) 本申立手数料 金4000円
差押命令正本送達費用 金2941円
資格証明書交付申請費用 金500円
申立書作成料及び提出費用 金1000円
送達証明書申請手数料 金150円
執行文付与申立手数料 金300円
合計 金156万8891円
給与差押えの差押債権目録の記載例
金●万●円
債務者が,第三債務者から支給される,本命令送達日以降支払期の到来する給料債権(基本給と諸手当。ただし通勤手当を除く。)及び継続的に支払を受ける労務報酬債権(日給,週給,歩合手当,割増金)並びに賞与債権(夏季,冬季,期末,勤勉手当)の額から所得税,住民税及び社会保険料を控除した残額の4分の1(ただし,給料債権及び継続的に支払を受ける労務報酬債権から上記と同じ税金等を控除した残額の4分の3に相当する額が,下記一覧表記載の支払期の別に応じ,同記載の政令で定める額を超えるときは,その残額から政令で定める額を控除した金額。また,賞与債権については,上記税金等を控除した残額が44万円を超えるときは,その残額から33万円を控除した金額)にして,頭書金額に満つるまで
なお,前記による金額が頭書金額に満たないうちに退職したときは,退職金から所得税及び住民税を控除した残額の4分の1にして,前記による金額と合計して頭書金額に満つるまで
給料差押えによる回収事例
上記のとおり給料の差押えを行い、勤務先と連絡をとり、毎月、差押え分を当方の預り金口座に送金してもらう形となりました。
債務者は退職することなく、1年以上の期間をかけて、全額回収に至っています。
差押えを担当していた裁判所に取立届を出し、終了となっています。
給料差し押さえに関する法律相談は以下のボタンよりお申し込みができます。