事例紹介
ケース紹介
第三者からの情報取得制度(預金)の事例
裁判での判決が出たにもかかわらず、支払いがされなかった事件がありました。
預金差押をするも空振りだったため、その後に、第三者からの情報取得制度を利用し、金融機関からの預貯金情報を開示してもらった事例です。
第三者からの情報取得手続(預貯金)
第三者からの情報取得手続は、民事執行法上の手続きで、債務者の預貯金口座の有無を金融機関に照会できる制度です。
民事執行法の手続きですので、民事裁判の判決等が出て、強制執行をすることができるのが前提です。
強制執行・相手の財産を差し押さえるためには、何を差し押さえるのか財産の特定が必要です。給料であれば、どこからもらう給与なのかの職場の特定、預貯金口座であれば、どの銀行のどこの支店なのかの特定が必要です。
ただ、債権者としては、このような情報がわかりにくいです。
そこで、民事執行法が改正され、通常の金銭請求の債権者は、この手続を通じて、預貯金口座の有無を確認することができるようになりました。
弁護士会照会
民事裁判の判決後の預金口座の照会については、民事執行法の改正前から、弁護士会照会を使う方法もありました。
弁護士法23条照会と呼ばれる方法です。
弁護士会を通じて、金融機関に対し、口座の有無を確認し、回答をもらう制度です。
回答してくれる金融機関は限られるのが実情でしたが、この方法で口座の支店等を特定し、預金口座の差押えをするという方法も使われていました。
金融機関によってはほぼ同じ効果が得られる2つの方法ですが、今回は、法改正もあったので、民事執行法の情報取得を利用してみました。
横浜地方裁判所小田原支部での申立
横浜地方裁判所小田原支部債権執行係への申立をしています。
当事者の表示は別紙当事者目録記載のとおりとし、請求債権の表示は別紙請求債権目録記載のとおりとします。
差押えと同じです。
申立の趣旨としては、
申立人は、債務者に対し、別紙請求債権目録記載の執行力のある債務名義の正本に記載された請求債権を有しているが、債務者がその支払をせず、下記の要件に該当するので、第三者に対し債務者の預貯金債権にかかる情報(民事執行法207条1項1号)の提出を命じるよう求める。
という内容の記載をします。
申立書の記載内容
1号か2号かの選択をします。
以下のとおり、民事執行法197条1項の要件がある。(該当する□に✔を記入してください。)と書式ではチェック形式となっています。
□ 強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(本件申立の日より6月以上前に終了したものを除く。)において、金銭債権の完全な弁済を得ることができなかった(1号)。
□ 知れている財産に対する強制執行を実施しても、金銭債権の完全な弁済を得られない(2号)。
1号、2号とも要件の解釈には争いがあります。
情報取得手続の添付書類
添付書類としては、通常、執行力のある債務名義の正本、同送達証明書、金融機関の資格証明書が必要になるでしょう。
証拠書類も、1号、2号で異なります。
民事執行法197条1項1号の主張をする場合、配当表写し、弁済金交付計算書写し、不動産競売開始決定写し、債権差押命令写し、配当期日呼出状写しなどを選択する形式です。
民事執行法197条1項2号の主張をする場合には、財産調査結果報告書及び添付資料を提出します。
その他、当事者目録等を提出します。強制執行手続きと同様です。
情報取得手続と請求債権目録
請求債権目録に債務名義の記載をする点は同じです。
○裁判所令和2年(ハ)第○号○請求事件の執行力のある判決の正本に表示された下記債権
記
1 元 金 金○円
2 損害金 金○円
ただし、上記1に対する、令和2年○月○日から支払済みまで年3分の割合による損害金
情報取得手続の財産調査結果報告書
2号の場合には、財産調査結果報告書を、債権執行係に提出します。
ここには、
債務者○○の財産を調査した結果(調査方法を含む)は、次のとおりです。
したがって、私の知っている債務者の財産に対して強制執行を実施しても、請求債権の完全な弁済を得られません。
との記載をします。
財産開示期日が実施された場合には、財産開示期日調書、財産開示手続実施決定(写し)を提出します。
過去3年内に、債務者に対する財産開示期日が実施されていない場合(財産開示手続の申立てがあったが,取下げ,取消し,却下により終局した場合を含む。)には、その欄をチェックして、次に進みます。
債務者の住所地の不動産調査
2号の場合には、財産調査として、債務者住所の不動産調査の報告が求められます。
所有権確認関係の資料として、
不動産登記事項証明書(3か月以内のもの)
住居表示に関する説明書
賃貸借契約書(写し)
その他、債務者の所有不動産ではないことを疎明する文書を提出します。
また、評価額確認関係の資料として
固定資産評価証明書・公課証明書
不動産業者の評価書・査定書(1年以内のもの)
その他、債務者所有の不動産に競売手続をしても無剰余であることを疎明する文書(強制執行をしても申立人に配当金が回らない見込みのこと)を提出します。
ここから、債務者住所地の不動産は債務者の所有ではないことを示したり、債務者の所有であるが、この不動産では完全な弁済を得られないことを示す必要があります。
自宅不動産から回収できるなら、不動産執行をせよ、という内容です。
給与情報の調査報告
また、給与差押ができないか、債務者の給与情報の報告も求められます。
債務者の関係者であればよいのですが、そうでなければ、情報は少ないです。
調査が困難である場合には、その旨の記載をします。
債務者が職に就いているか自体が不明である等の記載です。
そもそも、勤務先が判明している場合には、回収まで時間がかかっても給与差押の方が無難でしょう。
別の財産として預貯金調査の報告もあります。
本件では、預貯金の差押命令申立をゆうちょ銀行に対し行いましたが、該当がなかったので、その旨の報告をしています。
遺産分割未了の相続不動産の処理
本件では、住居不動産が、遺産分割未了の被相続人名義の財産でした。
一応、概念的には、共有持分があるということになります。
しかし、不動産執行だと、高額な費用がかかります。また、債権者の立場から、相続登記の代位をして進めることもできますが、共有持分のため、売却の実現性も不明です。
当初、2号での申立をしたのですが、このような不動産が存在し続けたため、2号で進めるのは難しいのではないかと指摘されました。
預金差押自体はあったのですが、1号の要件として、多くの解釈は、預金差押の空振りでは要件を満たさないとされていました。限定説と呼ばれる考え方です。
そのため、2号での申立をしたのですが、1号の方で行けないか、非限定説によるべきだと意見書を出したところ、最終的には1号での決定がされました。
非限定説1号の意見書
意見書の内容は以下のものでした。
1 民事執行法における「知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があったとき」の判断においては、債権回収可能性の実態が考慮されるべきである。
2 本件において、債務者名義の不動産はない。
被相続人の土地があるものの、土地上には建物が存在しており、敷地利用権に関する権利関係は明らかにされていない。また、相続手続についても明らかにされていない。
そのため、同土地は、強制執行可能な程度にその内容を把握している財産とは認められない。
3 請求債権の性質
本件において、請求債権は、・・・金額は少額である。
請求債権がこのような性質の場合に、未だ現実化していない財産に対する強制執行等の手続きを想定し、多額の負担を強いることは、強制執行手続の実効性を高めるという本制度の趣旨に反する。
4 したがって、本件においては、債務者名義の「知れている財産」は認められず、民事執行法197条1項2号の要件を満たすと考える。
5 仮に、上記要件を満たさないと考えるのであれば、本制度の趣旨から、民事訴訟法197条1項1号における非限定説が採用されるべきである。本件においては、債権差押手続きが回収不能に終わっているから、1号に基づき、本件申立が認められるべきである。
決定後の情報提供の時期、タイミング
この結果、1号での決定が出されています。
決定から1週間程度で指定した金融期間からの情報提供書が届きました。
その後、債務名義還付をして終了です。
非限定説で進められる裁判所であれば、情報提供までのスピードは、弁護士会照会よりも早いでしょう。
ただ、申立の費用も1件ごとにかかるので、そこまで使いやすい制度ではないです。
まして、限定説の場合には、調査事項が多く、実費もかかるので、弁護士会照会の方が良いのではないかとも感じます。
情報取得手続の費用
第三債務者からの情報取得手続申立印紙 1000円。
切手代が1000円程度。
保管金予納金が5000円でした。
第三者からの情報取得制度のご相談も対応しておりますので、お気軽にご連絡ください。