死者に対する贈与が問題になった山本五十六裁判を弁護士が解説

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Q.死者に対する贈与が問題になった山本五十六裁判とは?

死者に対する贈与が相続人に対する贈与となるか争われた事例があります。

山本五十六海軍大将に対する贈与が問題になった事例で話題になった事件です。

東京地方裁判所昭和61年3月31日判決です。

閣下に贈与したという書面があるものの、その時点では死亡。この贈与は相続人に対するものと判断されました。

 

この記事は、

  • 山本五十六海軍大将のファン
  • 死者への贈与は有効か知っておきたい

という人に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.5.29

 

事案の概要

原告は、被告らに対し、土地上にある建物収去、土地明渡請求。

これに対し、被告らは反訴を提起

不動産につき昭和37年11月3日付贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよと請求しました。

 

原告が本件土地を所有。

本件土地上に被告らが建物を所有して、本件土地を占有していました。

被告らは故山本五十六海軍大将の実子。

原告は故山本五十六の長岡中学の後輩にあたります。

原告が、昭和37年11月3日本件書面を山本家の仏前に置いてきました。これが問題に。

 

山本五十六のために土地を購入

山本五十六は、昭和10年ころ、東京都港区南青山5丁目321番の宅地上の居宅を、右宅地の賃借権とともに買い受け家族とともに居住していました。

同人が出征していた昭和17年ころ、同人の出身校である長岡中学校の同輩又は後輩であり、同人との親交も深く、かつ同人を畏敬していた複数名及び原告の間で、山本五十六のために各自が資金を拠出して、右宅地に隣接する本件土地を購入し、右居宅を増築しようという話が持ち上がり、原告は、本件土地の購入資金を負担することとなりました。

その後ほどなくして、原告は本件土地を購入。

その他の者の資金負担により増築建物が完成したが、山本五十六は右建物にはいることなく(恐らく、右のような経緯で居宅が増築された事実も知らないまま)、昭和18年4月18日戦死し、また、右旧居宅及び増築建物も戦災により焼失しました。


昭和21、2年ころ、山本五十六の長男である被告義正は、右321番の宅地及び本件土地上に建物を建築。昭和36年12月ころ、同じく息子である被告忠夫が本件土地上に第二建物を建築。

原告は、この土地が自分のものだから、明け渡せと主張。

被告らは贈与されたものだと主張している事件です。

贈与

 

固定資産税は遺族→原告が負担


原告は、本件土地購入後その固定資産税を納付していたが、昭和23年ころ、山本五十六の妻であり被告らの母である山本レイに対し、これを山本家において負担するよう申し入れました。

レイはこれを了承し、その後何年間分かの固定資産税(その期間は証拠上必ずしも明らかでない。)はレイ又は被告義正が納付したが、原告は再びこれを納付するようになり、現在に至りました。

また本件土地は未登記のまま放置され、昭和50年6月17日に至つて、原告がその保存登記を経由。

 

 

贈与を求めて協議

昭和28,9年ころ、原告とレイとの間で本件土地の帰属について折衝がされたが、レイが無償贈与を求めたのに対し、原告はレイ所有の軽井沢の土地付別荘との交換を求め、合意は得られませんでした。

以後、原告は被告義正とも折衝し、同被告の求めに対し、本件土地を、山本五十六の偉業を記念するための財団が設立されその記念館を建設するような場合にはその用地としてその財団に寄付してもよいとの意向を示したが、もとより本件土地を住居の宅地として使用している被告義正にそのような財団設立の意思はなく、結局、合意をみるには至りませんでした。


このような成行を憂慮したレイは、昭和37年ころ長岡に赴き、前記関係者らに善処方依頼。同人らは、これを受けて同年10月ころ原告を長岡に呼んで本件土地を贈与するよう求め、相当強く原告を説得し、種々協議しました。

この協議を終えて帰京した原告は、同年11月3日、被告義正方を訪れ、同被告の面前で本件文書を山本五十六の仏前に供え、同被告はこれに謝意を表しました。

 

贈与になるか争われた文書

本件文書は、原告自身が墨書したものでなり、次のとおり記載されています。
「謹んで
御霊前に拙者所有の左記土地”を御贈呈
致します。
昭和37年11月3日
氏名
合掌
故元師山本五十六閣下
御霊位

(本件土地の表示がある。)
再拝合掌」

 

この後、被告ら又はレイが原告に対し本件土地の所有権移転登記手続を求めたことはなし。

本件土地の固定資産税は原告が引き続き納付していました。

 

死者に対する贈与

書面による贈与がされたのですが、その宛名が、山本五十六閣下。

すでに亡くなっています。死者に対する贈与なので、これが効力を持つのか争われました。

裁判所は、これを相続人に対する贈与と認定しました。

 

思うに、本件のように、死者に対し財産を贈与する旨の書面による意思表示がされた場合においては、これをもって、その書面の文言どおり死者に当該財産を帰属させるという、いわば法律効果を伴わない法的に無意味な行為とみることは当事者間の通常の意思に副わないというべきであるから、特段の事情のない限り、当事者は死者の相続人に対し当該財産を贈与する旨の意思表示をしたものと解するのが相当であるとしました。

 

条件つき贈与の主張は排斥

この点について、原告は、本件書面は、故山本五十六の偉業を記念するための財団が設立され、その財団がその記念館を建設する際にはその用地として本件土地を寄付する趣旨の奉書である旨主張し、証拠中には右主張に副う部分がある点について触れました。

しかし、本件文書には原告の主張するような財団の設立及び記念館の建設を条件とする趣旨の留保文言は何ら記載されていませんでした。また、本件文書を仏前に供えるに際して、原告が被告義正にそのような趣旨を告げた形跡もないばかりか、被告義正をはじめとする故山本五十六の相続人は、本件土地の上に建物を建築して居住していたもので、これを収去して記念館を建設する意思がないことは明白な状況にありました。

関係者との協議も経た原告が、ことさら、このようなおよそ実現可能性のない事態を想定した文書を作成し、被告義正らもこれを了解したものと解することはできず、右各証拠はいずれも採用し得ないとしました。

 

登記移転請求をしていなくても贈与はあったと認定

また、その後、被告義正らが原告に対し本件土地の所有権移転登記手続を求めたことはなく、本件土地の固定資産税を原告が引き続き納付していたことも前認定のとおりであるが、被告義正らにしてみれば、長岡の関係者の畏敬の念を一身に集めていた故山本五十六の相続人であるという一事をもつて本件土地を無償で取得し得るという立場に置かれ、その心理、感情には微妙なものがあつたであろうことは容易に推認されるところであり、自ら進んで権利を主張することなく、原告のいわば善意による任意の履行を期待したとしても無理からぬ一面があるというべきであるから、前記の事情をもって原告の主張の支えとすることもむずかしいとしました。

 

贈与文書の重みも重視

むしろ、本件文書は、原告自身が墨書したものであり、本件土地を贈与する旨の相応の重みと体裁を整えていること、原告は、本件土地が山本家に贈与されることを強く希望していたレイの働きかけを機縁とする長岡の関係者による説得を受けた後ほどなくして本件文書を作成、提示していることに照らすと、本件文書は、山本五十六の相続人に対する贈与意思を表明した文書とするのが相当であり、当時の山本家の実質的当主は被告義正であり、現に同被告が本件文書の提示に立ち会い、謝意を表していることを考慮すると、原告は被告義正に対し本件土地を贈与する旨の意思表示をし、同被告は原告に対し受贈の意思表示をしたものと認定しています。

 

私が尊敬したのは閣下個人→却下

なお、原告本人は、原告はあくまでも山本五十六個人に対する畏敬の念から本件土地の購入を決意したものであり、その相続人、とりわけ被告義正に対し本件土地を無償で与えることを是とするような特段の感情は有していない旨種々供述。

しかし、仮にそうであるとしても、本件書面による意思表示の趣旨が客観的にみて前示のとおりに解される以上、これは、ひっきょう、原告がその真意と異なる意思表示をしたという趣旨を出ないものといわざるを得ず、このことによつて右意思表示の効力が左右されないことはいうまでもないところである指摘。

裁判所は、相続人の主張を認め、反訴請求の贈与登記を命じました。

 

贈与裁判のポイント

贈与の意思表示がしっかり書面になっていたので、この書面の解釈が問題に。

意思表示の解釈では、その経緯も重視される。

経緯が立証できるようにまとめておこう。


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