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FAQ(よくある質問)

 

Q.任意後見契約をしても成年後見人が選任される?

選任される場合もありますが、原則として任意後見が優先です。

親族間で、任意後見か、成年後見・保佐か争われた事案です。財産管理を巡って、このような事案はよく見かけるようになりました。

今回の、高松高等裁判所令和元年12月13日決定では、任意後見契約が優先しない場合の基準を明確にしてくれていますので、自分たちの場合にどうなりそうか、一つの参考になるといえます。

この記事は、

  • 任意後見契約があるものの、法定後見にしたい
  • 親族間で、家族の財産管理について争いがある

という人に役立つ内容です。

(著者:弁護士石井琢磨、記事更新:2021.6.3)

 

事案の概要

抗告人は昭和3年生まれ。長女は亡くなっており、二女(昭和31年生)がいました。二女は薬剤師。

長女の子(孫)は、昭和50年生まれ。作業療法士。
抗告人は、平成29年9月2日以降、ケアハウスに居住。

 

本件は、抗告人(本人)の二女が、抗告人について、後見開始の審判を申し立て。

家庭裁判所における鑑定の結果を踏まえて、保佐開始の審判及び代理権付与の審判の申立てに変更をした事案。

 

抗告人は、原審判に先立ち、抗告人の孫(抗告人の亡長女の子)との間で、抗告人について任意後見契約を締結し、その旨の登記も経由。

任意後見契約があるのに、保佐人を選任して良いかが問題になりました。

家庭裁判所は、抗告人について、事理弁識能力が十分ではなく、かつ、任意後見契約に関する法律10条1項の「本人の利益のために特に必要があると認めるとき」に該当するとして、抗告人について保佐を開始。保佐人として社会福祉士を選任する旨の審判をする一方、代理権付与の審判の申立てについては、抗告人の同意がないとして、却下。

これに対し、抗告人が、原審判を不服として即時抗告。

 

家庭裁判所の調査官調査

家庭裁判所の調査官が、平成30年12月12日、抗告人と面談をしたところ、抗告人は、後見人は必要ないと述べました。

また、家裁調査官が孫に照会書を送付して、抗告人について後見を開始することにつき意見を照会したところ、孫は、抗告人について後見を開始することに反対、正式な鑑定を実施されたい旨の回答書を提出。

 

任意後見契約の経緯

抗告人と孫は、抗告人の手続代理人である弁護士と相談の上、抗告人と孫との間で任意後見契約を締結することにしました。

抗告人と孫は、平成31年3月20日、公証役場を訪れ、公証人と面会。公証人は、抗告人及び孫に対し、任意後見契約の概要や孫が抗告人の財産管理及び法律行為の代理をすることの意義について説明。その上で、抗告人は、公証人に対し、二女ではなく、孫に任意後見人を頼みたいとの意向を示しました。

公証人は、孫に対し、抗告人の認知症に関する診断書を提出するように依頼。

 

鑑定内容

家庭裁判所に選任された鑑定人の医師は、平成31年3月21日、抗告人の精神状態について、アルツハイマー型認知症(中等度)があり、自己の財産を管理処分するには常に援助が必要であると鑑定。なお、上記鑑定において実施された長谷川式簡易知能スケール(HDS-R)の結果は、23点。

長谷川式簡易知能スケール(HDS-R)は、20点以下が認知症疑い、認知症であることが確定している場合は、20点以上で軽度、11~19点は中等度、10点以下は高度とされています。

 

抗告人と孫は、平成31年4月11日、公証人と面会し、抗告人の平成30年11月4日実施の簡易精神現症評価(MMSE)と長谷川式簡易知能スケール(HDS-R)の結果を提示。簡易精神現症評価(MMSE)の結果は、30点満点中30点、長谷川式簡易知能スケール(HDS-R)の結果は、30点満点中、28点でした。

簡易精神現症評価(MMSE)は、23点以下が認知症疑い、27点以下で軽度認知障害が疑われるとされています。


二女は、令和元年5月10日、上記カの鑑定結果を踏まえ、申立ての趣旨を後見開始から保佐開始に変更するとともに、新たに代理権付与の申立てをしました。

 

任意後見契約の締結

抗告人と孫は、令和元年5月15日、公証人の面前で、抗告人を委任者、孫を受任者とし、抗告人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を委任する契約と任意後見契約を締結する旨を合意。公証人によりその旨の公正証書が作成され、同月20日、本件任意後見契約に関する登記が経由されました。

本件委任契約の内容としては、抗告人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を委任、抗告人が精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況になったときは、速やかに、家庭裁判所に対し、任意後見監督人の選任の請求をしなければならない旨を記載、抗告人は、適宜の時期に、登記済権利証、預貯金通帳、キャッシュカード等を引き渡す、抗告人に関する委任事務を処理するために必要な費用を抗告人の財産から支出することができるとの記載、委任事務処理は、無報酬とするとの記載がされました。

 

家裁調査官面接で虚偽発言

家裁調査官が、令和元年7月17日に抗告人と面接。

抗告人は、「後見人や保佐人は必要ない。自分のことは自分でできる。契約等を他人に頼む必要はない。」などと述べ、保佐の開始や代理権付与に同意しませんでした。

また、家裁調査官が、抗告人に対し、委任契約や任意後見契約を締結していないか確認したところ、抗告人は、そのような手続は一切していない旨述べました

この点について、抗告人は、弁護士に宛てた令和元年11月9日付けの自筆の手紙において、家裁調査官に対して本件委任契約や本件任意後見契約の手続は一切していない旨述べた理由について、抗告人を認知症扱いにして保佐を開始しようとした二女に根強い不信感があったからであると説明。

 

家庭裁判所は保佐人を選任


家庭裁判所は、令和元年9月27日、抗告人について保佐を開始。社会福祉士を抗告人の保佐人に選任するとの審判。

鑑定により、抗告人の精神状況が、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分としています。

また、任意後見契約に関する「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」の要件について、家庭裁判所調査官に対し、本件任意後見契約は締結していないと述べるなど、本人に上記契約を締結したことへの認識がなく、本人がその内容を十分に理解しているといえるかに疑問があることや、任意後見受任者である孫が遠方に居住しており、身上監護の面でも、任意後見の方が本人の利益に資するともいい難いことを理由にしています。

任意後見契約があっても「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」に当たるとした判断です。

これに対して、抗告人が即時抗告。

 

高等裁判所は任意後見契約が有効と認定

抗告人は、原審において家裁調査官からの委任契約や任意後見契約を締結していないかという質問に対し、そのような手続は一切していない旨述べているが、当審において、その理由につき、自筆の手紙で、抗告人を認知症扱いにして保佐を開始しようとした原審申立人に根強い不信感があったからであると合理的な説明をしているし、原審鑑定の結果からしても、抗告人が本件任意後見契約締結当時、意思能力を欠いていたとは到底認められないから、本件任意後見契約は有効であるとしました。

 

任意後見契約法10条1項の要件とは

任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」に限り、保佐開始の審判をすることができるとされています(任意後見契約法10条1項)。

「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」とは、①任意後見人の法的権限が不十分な場合、②任意後見人の不当な高額報酬の設定など任意後見契約の内容が不当な場合、③任意後見契約法4条1項3号に該当するように受任者に不適格な事由がある場合、④任意後見契約の有効性に客観的な疑念のある場合、⑤本人が法定後見制度を選択する意思を有している場合など、任意後見契約によることが本人保護に欠ける結果となる場合をいうものと解するのが相当であると展開。

これを本件についてみると、本件任意後見契約の法的権限が不十分であるとは認められないし、任意後見受任者である孫の報酬は無報酬とされ、本件任意後見契約には他にその内容に不当な点は見当たらないと指摘。

また、任意後見受任者である孫に民法847条各号の欠格事由があるとは認められないし、抗告人に訴訟を提起したり、不正な行為、著しい不行跡などをした事実も認められない上、遠方に居住しているにもかかわらず、平成30年7月以降、16か月間で17回にわたり訪問、延べ51日間にわたり、抗告人の身上看護をしていると言及。

そして、本件任意後見契約の有効性には客観的な疑念はないし、本人である抗告人は一貫して法定後見制度は選択しない旨明言していると指摘。

以上によれば、本件では、本件任意後見契約によることが本人保護に欠ける結果となるとは到底認められないから、本件で保佐開始をすることが本人である抗告人の利益のために特に必要があるとは認められないとしました。


したがって、任意後見契約法10条1項により、抗告人について保佐開始の審判をすることはできないと結論づけました。保佐開始の審判を求める申立ては理由がないから却下するべきところ、抗告人について保佐を開始した原審判は不当であるとし、原審判を取り消した上、原審申立人の抗告人についての保佐開始の審判の申立てを却下しました。

 

任意後見vs成年後見の対立事案

このように任意後見契約vs成年後見や保佐の法定後見制度の対立事案はよくあります。

任意後見人に任せられない、不審がある親族が法定後見の申立をする事例です。

任意後見制度では、本人が後見人を選べます。本人の自己決定を尊重する必要もあり、原則として任意後見が優先することとされています。

その例外が、「本人の利益のために特に必要があると認めるとき」です。

今回の事例では、その判断基準が明確に出され、参考になるでしょう。

 

他の事例では、任意後見人の報酬が高額に設定されていたり、親族ではなく福祉関係の担当者だったりすると、財産管理に不審点があることから、任意後見契約をしていても、成年後見人が選任された事例があります。

 


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