いとこで特別縁故者への財産分与を認めた裁判例を弁護士が解説

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FAQ(よくある質問)

 

Q.いとこで特別縁故者になれる?

いとこでも特別縁故者とされ、相続財産の分与を受けられた裁判例も複数あります。

たとえば、東京家庭裁判所令和2年6月26日審判です。

特別縁故者は、相続人がいない場合に使える制度です。今回のケースでは、数億円の相続財産の分与が問題となりました。

 

この記事は、

  • 親族が死亡、相続人がいない、遺言もない、財産がある
  • 特別縁故者の申し立てのポイントを知りたい

という人に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.6.10

 

事案の概要

被相続人は、死亡した際、法定相続人がいませんでした。

昭和31年生まれ、平成30年に死亡。

父方いとこ2名が申立人となり、特別縁故者の主張をした事件です。

申立人2名は、「被相続人と生計を同じくしていた者」や「被相続人の療養看護に努めた者」には該当しませんでした。

そこで、「その他被相続人と特別の縁故があった者」に該当するか検討されることになりました。

 

相続財産管理人の選任

特別縁故者の手続きでは、まず、相続人不存在のため相続財産管理人の選任申立が必要になります。

その後の手続で、相続人捜索の公告などをしても期間内に相続人としての権利を主張する者がなければ、特別縁故者への財産分与申立ができます。

遺言があれば、そこから相続財産を受領できます。しかし、遺言がなく、相続人でもない場合に、財産を受け取れる可能性がわずかにでもある数少ない制度です。

特別縁故者への財産分与が検討された後、残された財産は国庫に帰属します。

 

単なる親族では特別縁故者とはされない

特別縁故者と認めるかどうかは、具体的事案に応じて個別に判断されます。

法律で生計同一者と療養看護者が例示されていることから、単なる親族関係というだけでは認められにくいです。

これらに準ずる程度に密接な関係が必要といえるでしょう。

死後の縁故(葬儀、祭祀法事、遺産管理等)も一つの判断要素になりうるとされています。

 

本審判は、そこまで具体的な援助等の関係がなかったいとこでも、特別縁故者としています。

 


分与の割合や対象財産

特別縁故者と認められた場合、どの程度の相続財産を分与するか、分与の割合や対象財産が次に問題になります。

ここでは、縁故関係や、相続財産の種類、全体の金額、被相続人の意思などが判断要素とされます。

本件では、縁故関係を比較的希薄なものとしており、預金残高の各1割程度の額を分与するという結論になっています。

そのポイントを見ていきましょう。

 

裁判所の判断

申立人Aに対し、被相続人の相続財産から金5000万円を分与。
申立人Bに対し、被相続人の相続財産から金5000万円を分与。

各申立人を特別縁故者と認め、それぞれ5000万円を分与したという結果です。

 

被相続人は、昭和31年生まれ。被相続人においては、生前、妻子はなし。

被相続人の唯一のきょうだいである妹も先に死亡。

申立人Aは、被相続人の父方従兄(被相続人の父の兄の子)、申立人Bは、被相続人の父方従弟(被相続人の父の弟の子)という関係。

 

幼少期の親族間の交流

被相続人及び申立人両名は、幼少期より、盆・正月や、祖父母の誕生日のほか、折に触れて、祖父母のもとに、被相続人及び申立人両名らの両親ら家族が参集する親族の集いの場などで、従兄弟同士として、親しく交流していました。

Aは、被相続人の出生時、被相続人の父から、被相続人の名がAの名の一字に由来する旨を聞いており、以来、被相続人に対して親近感を抱き、被相続人のことを生涯「○○ちゃん」と呼んでいたところ、被相続人もまた、年長者であるAのことを幼少期から生涯にわたって「A兄ちゃん」と親しみを込めて呼んでいたと認定。

また、被相続人は、年齢が近いBとは、被相続人一家が実家に毎年泊まり掛けで訪れた際などにも、親しく遊ぶなどし
ていたと認定。

 

成人後の交流

Aは、成長して就職し、航空機エンジンの設計技師として勤務していたところ、その後、成長した被相続人もまた、同じ会社に就職。潜水艦の設計技師として勤務するようになりました。

被相続人は、昭和63年に実家に戻るまで職場と実家を行き来する際に、しばしばAの自宅に立ち寄り、宿泊するなどしていたと認定。

Bは、高校を卒業後、しばしば被相続人の実家を訪れては、被相続人を含めた一家と食事を共にするなどの交流を行っていたと認定。また、Bは、被相続人とは、互いの就職後も、少なくとも年に3、4回程度は飲食店に出かけ、二人で飲食を共にするなどの交流を続けていたと認定。

平成9年に被相続人の父が死亡した後の数年間は、正月のたびに、被相続人が、Bの自宅に1週間程度ないしは数日程度滞在していたとも指摘。

 

いとこ会での独特の交流

被相続人及び申立人両名を含む親族らは、前記3名が社会人となった後も、折に触れて冠婚葬祭等の場で顔を合わせることがあったが、その際などに、Aは、被相続人の父から、被相続人及び申立人両名を含めた孫世代において、祖父母を起点とした往年の親族間の密接な交流関係を引き継ぐべく、当該孫世代の最年長者であるAにおいて、当該孫世代に当たるいとこらが集う場としての「いとこ会」を設けてほしい旨を折に触れて告げられていたと指摘。

被相続人の父が死亡した後、Aは、生前の意向を酌んで「いとこ会」を立ち上げることとし、平成14年以降、毎年秋にいとこら及びその家族らを始めとする親族らによる墓参及び会食の会を企画・開催

平成26年には、Bの助力により、「いとこ会」のメンバー全員のメーリングリストを立ち上げ、そこでは、毎年の
「いとこ会」開催についての事務連絡や近況報告などのメンバー相互のやり取りがなされていると認定。


被相続人は、平成14年秋の第1回から死亡直前の平成29年秋の回までの「いとこ会」に毎回出席し、申立人両名を含めた親族らとにぎやかに交流していたとしています。


被相続人は、Bとの間で、「いとこ会」にとどまらず、年に何度か個人的に飲食を共にするなどの交流を続けていたところ、平成24年に勤務先を移籍するに当たり、Bに対し、緊急連絡先としてBの連絡先を登録することを依頼し、Bはこれを了承。

その際、被相続人は、Bに対し、病気療養中であった被相続人の同居の妹について、被相続人に万一のことがあった場合のことなどを心配し、そのような場合等には妹のことをよろしく頼む旨を述べていました。

 

死後の対応も特別縁故の判断要素

被相続人は、平成30年に死亡。

申立人両名は、被相続人の死亡の事実を発見した警察官からの連絡を受け、被相続人の遺体の身元確認

Aは、被相続人の遺体を引き取った上、喪主として葬儀、納骨等を行い、これらの費用として276万円余を負担(現時点で、これらの費用は被相続人の相続財産から償還済み)。

また、申立人両名は、Aの声かけにより、他のいとこらを始めとする親族らとともに、被相続人の自宅内の遺品整理やごみの搬出等を7回にわたって行い、Bは、被相続人の自宅内の清掃費用等として95万円弱を負担(現時点で、これら
の費用は被相続人の相続財産から償還済み)。

 

遺産金額

令和2年4月1日時点における被相続人の遺産としては、預金債権4億6529万9022円のほか、不動産として、宅地及び事務所・居宅等、共同住宅並びに山林があり、その他、賃貸建物の賃料、株式の配当金、動産類等が存在。

 

いとこでも特別縁故者に

申立人両名が、いずれも民法958条の3第1項所定の「被相続人と生計を同じくしていた者」及び「被相続人の療養看護に努めた者」のいずれにも該当しないことは明らかと指摘。

そこで、申立人両名が、同項所定の「その他被相続人と特別の縁故があった者」に該当するか否かを検討するに、ここにいう「その他被相続人と特別の縁故があった者」とは、前述の生計同一者及び療養看護者に該当する者に準ずる程度に被相続人との間で具体的かつ現実的な交渉があり、相続財産の全部又は一部をその者に分与することが被相続人の意思に合致するであろうとみられる程度に被相続人と密接な関係があった者と解するのが相当と指摘。

申立人両名は、いずれも被相続人の親族(従兄弟)に該当するところ、被相続人と申立人両名との関係は、前記3名の祖父母を起点とした親族同士における従来からの親密な交流関係の下で、従兄弟同士の親しい関係として育まれ、当該関係は、その時々の各人の生活状況等に応じて多少の濃淡はありつつも、生涯にわたり、基本的に親密なものとして継
続してきたものと認定。

その中で、被相続人は、しばしばAの自宅に立ち寄って宿泊するなどしていたほか、Aが毎年企画・開催する「いとこ会」に必ず出席するなど、年長のいとこであるAに対して親しみを込めた相応の信頼を有していたことがうかがわれると指摘。

また、被相続人は、Bとは少なくとも年に3、4回、個人的に飲食を共にするなどの交流を続けていたほか、正月の時期にBの自宅にしばらく滞在し、また、勤務先の移籍に当たっては自らの緊急連絡先としてBの連絡先の登録を希望し、あるいは、Bに対して、当時、病気療養中であった同居の妹のことをよろしく頼む旨を述べるなど、年齢の近いBとの間で親密な関係を築いていた点を認定。

そして、被相続人の生前における申立人両名と被相続人との間の前述のようなそれぞれの関係を前提に、申立人両名は、被相続人の死亡発見直後に連絡を受けて遺体の身元確認に赴いたほか、Aにおいて、遺体を引き取り、喪主として自らの封用負担で葬儀、納骨等を行った上、Aの声かけにより、申立人両名を含む親族らにおいて多大な労力をかけて被相続人の自宅内の避品整理やごみの搬出等を行い、その際、Bにおいて、被相続人の自宅内の清掃費用等を負担するといった一連の必要ないしは有用な対応を自発的に行っていることが認められると指摘。

 

被相続人の生前及び死後におけるこれらの事情を総合するに、被相続人と申立人両名との関係については、いずれも前記3名を含めた親族間全体にみられる従来からの親密な交流関係を基底としつつ、被相続人の生前における個人的な親
密さや信頼感情が相応に介在していた面があることは否定できず、被相続人の死亡後における申立人両名の前述の各尽力についても、このような事情を示すものと認めるのが相当としました。

その意味で、被相続人と申立人両名との関係については、いずれも通常の親族としての交際の範囲にとどまるものとはいえず、当該範囲を超えて、相続財産の全部又は一部を申立人両名に分与することが被相続人の意思に合致するであろうとみられる税度に密接なものであったと認めるのが相当としました。

申立人両名は.いずれも民法958条の3第1項所定の「その他被相続人と特別の縁故があった者」に該当するものと認定。

 

特別縁故者への分与割合

被相続人と申立人両名との間の縁故の内容・程度等を勘案するに、当該縁故の内実は.前述のとおり.前記3名を含めた親族間全体にみられる従来からの親密な交流関係を基底としたものであって.とりわけ被相続人の生前において、被相続人と申立人両名との間に、申立人両名が被相続人の財産増殖に何らかの寄与をしたとか、被相続人の心情面において強い支えとなるべき心理的援助を惜しまなかったなどといった明確かつ具体的な交渉経緯が存在するわけではないとも指摘。

この点において、申立人両名に分与されるべき相続財産については、相続財産全体の構成に比して、いずれも少額の割合の金銭にとどまるべきものと解するのが相当であり、それ以上の分与を相当と認めるべき客観的事情や、被相続人の当該意思を推知させるべき事情は見当たらないといわざるを得ないとしました。

以上の検討を踏まえ、申立人両名に対しては、それぞれ金5000万円を分与するのを相当と認めると結論づけました。

 

特別縁故者の主張のポイント

相続人不存在のケースで、相続財産があり、いとこという関係。

ある程度の交流はあり、普通の親戚づきあいよりも強いかも、という場合には、過去にさかのぼって関係性を立証できる準備をしたうえ、相続財産管理人選任手続きを検討してみる価値はあるといえるでしょう。

その際には、

遡れるだけ過去に遡り、具体的なエピソードを出す

葬儀等、死後の貢献も主張しておく

財産形成への貢献、心理的援助などがあれば、しっかり主張

などがポイントになります。

 

内縁の妻、事実上の養子など、本来であれば相続人のような立場にあると分与割合も高くなるのですが、いとこというだけだとそこまで高められません。遺産の額も数億円という規模なので、割合を高めるのは難しいです。

これを上回るエピソードとしては、遺言を作ろうとしていたなどの事情が考えられますね。

 

 

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