生前贈与の特別受益と持ち戻し免除の裁判例を弁護士が解説

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FAQ(よくある質問)

 

Q.生前贈与の特別受益は全て減らされる?

生前贈与が特別受益になるとし、一定額について持戻の免除を認めた裁判例があります。

東京高等裁判所平成30年11月30日決定です。

具体的に、どのような生前贈与が特別受益になるのか、全額が相続で控除されるのか等の参考になる事件ですので紹介しておきます。

 

この記事は、

  • 遺産分割で生前贈与が特別受益になるか争いがある
  • 亡くなった親は、相続に入れなくても良いと言っていた

という人に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.6.16

 

事案の概要

兄弟姉妹の間での遺産分割の事件。

生前贈与が特別受益になるか等が問題となりました。

被相続人C(平成14年死亡)及び被相続人D(平成25年死亡)の両名の相続人は、2人の子でした。

2の子が遺産分割の申立人、相手方となります。

 

ここで相手方の特別受益が問題となりました。

被相続人Cが、昭和51年5月頃に、相手方に対して贈与した200万円。

相手方が本件土地の共有持分を取得していたところ、被相続人Cから同土地の持分相当の購入代金975万5000円の援助を受けたと主張されています。

この2件が争点になったものです。

 

家庭裁判所の判断

家庭裁判所は、200万円について、昭和51年当時における200万円という金額は、被相続人の資産、同人と相手方との親子関係等を考慮するとしても、社会通念上高額と指摘。

申立人には同様の趣旨に基づくお祝い金が贈られていないことから、相続人間で均衡を失すると指摘。

200万円の贈与は特別受益と認定。

他方で、被相続人の孫の誕生を祝う心情と同人の資産等を考慮し、100万円の限度においては親としての通常の扶養義務の範囲に入るものと認められるとし、特別受益の持戻し免除の意思表示を推認できるとしました。

 

次に、本件土地の2分の1の共有持分登記を得たことから、本件土地の売買代金の半分である975万5000円について、相手方は700万円を支払ったにすぎないから、その不足分275万5000円の相応する価値分について生前贈与があったものと認定しました。

申立人は、特別受益の認定金額に不服として抗告。

 

高等裁判所の判断

抗告棄却。

高等裁判所も、相手方について、昭和51年に100万円、平成5年12月に275万5000円の各特別受益が認められるとして、これを前提に、遺産分割、代償金支払を命じる内容としました。

200万円の生前贈与と特別受益

申立人は、相手方への200万円の贈与は、長男誕生の祝い金ではなく、被相続人が借入れをして調達し、相手方がマンションを購入した際の資金援助として贈与したものであり、親としての通常の扶養の範囲ではないから、持戻し免除
の意思表示は認められない等と主張。


しかしながら、被相続人において、贈与に係る金員を借入れにより準備したことや、相手方において、昭和51年7月にマンションを購入したことがそれぞれ認められるとしても、当該金員が、前記マンションの購入に対する資金援助として贈与されたことを裏付けるような客観的な資料は提出されていないと指摘。

また、当該金員が、昭和51年4月に出生した相手方の長男の誕生祝い金として贈与されたとする相手方の説明が不自然ということもできず、このうち100万円を限度として被相続人の持戻し免除の意思を推認することが不合理ということもできないとしました。

この点について、相手方については、昭和51年5月に100万円を限度とする特別受益があったと認めるのが相当であると結論づけています。

 

不動産の共有持分と特別受益

申立人は、自宅不動産の購入代金のうち相手方が負担したとされる700万円は、被相続人らが購入代金全額を支払った後に被相続人の口座に入金されていて不合理である上、相手方の取得した持分に応じた購入代金額とも整合しないこ
と、さらに相手方は当時、自身の住宅ローンの負担から4、5年以内であり700万円を準備できる経済状態にはなかつたことから、入金は、被相続人が相手方名義で貯蓄していた別の預金を解約して自身の口座に振り込み、同日払い出した金員である等と主張。


しかしながら、被相続人の口座に700万円が入金された時期が、自宅不動産の購入代金の支払後であり、相手方の取得した持分に応じた購入代金額と整合しないとしても、必ずしも相手方が当該金員を準備しなかったことを根拠付けるものということはできないと指摘。

また、本件記録を検討しても、相手方が、当時700万円を準備する経済状態になかったことをうかがわせるような客観的な事情は認められず、仮に、被相続人において家族名義の銀行預金口座を管理していた事実が認められるとしても、平成5年12月に被相続人名義の口座に振り込まれた700万円について、これが直ちに被相続人により解約された自身の別の預金から入金されたことを認めることは困難としました。

結論として家庭裁判所の考えを指示しています。

 

特別受益とは

特別受益とは、共同相続人の中で、被相続人から生前贈与や遺贈を受けた人の相続分を修正する制度です。

特別な受益(贈与)を遺産に持ち戻した(加算した)上で、全体を分け直すものです。

共同相続人間の公平を図るための制度です。

生前贈与で1000万円をもらっているなら、その分は、相続の先取りなので相続の分配から差し引く、という制度なのです。

 

特別受益になるのは生計の資本としての贈与

特別受益の対象行為のうち、生前贈与では、民法903条1項の「生計の資本としての贈与」になるかどうか争われることも多いです。

単なる贈与だけではなく、それが生計の資本としてされたことを示す必要があります。

生計の資本になるかについては、贈与された金額や贈与の趣旨などから判断するとされます。

あまりに高額であれば、相続の前渡しという趣旨にされやすくなります。

実務上、問題になる生前贈与や、居住用の不動産の贈与、また住宅を購入するための資金の贈与、事業の資金を贈与したようなケースです。これらの場合、生計の基礎になるような財産を作るものであり、生計の資本とされやすくなります。

 

お祝いは生計の資本ではない

本件では、200万円の贈与について、生計の資本になるか争われました。

相手方は生計の資本ではなく、長男誕生の祝い金と反論したものです。

このようなお祝いの場合、親として通常の援助とされ、特別受益にならないとされています。

そこで、200万円というのが、通常の援助といえるのかが問題になったわけです。

贈与の金額や、被相続人の資産や地位など諸要素から判断されることになります。

今回は、200万円という金額が昭和51年当時の価値からして、社会通念上高額、他の相続人間との均衡という点から、特別受益に当たるとされました。

 

持戻し免除とは

持戻し免除の意思表示は、民法903条3項に規定されている制度。

これは、被相続人が、特別受益分を遺産に戻す必要がない、相続時に考慮しなくて良いと意思を示すことです。

生前贈与等によって、その相続人の利益とさせようとした被相続人の意思を尊重する制度です。

この持戻し免除の意思表示は、黙示でも良いとされており、その当時の状況から黙示の意思表示があったと主張されることが非常に多いです。

生前贈与自体、お金の変動については預金取引などで客観的に確認できることもありますが、贈与契約書や合意書などまで作成されていることは少なく、はっきりと持戻の免除の意思表示が書面に残されていることはほとんどないためです。

今回のケースで、お祝い金について、一定額は黙示の意思表示を認めていますが、総合判断であり、金額についての根拠は示されていません。

 

特別受益を主張された側としては、持戻免除につながりそうなエピソードをいかに出しておくかという点がポイントになります。

 

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