FAQよくある質問
FAQ(よくある質問)
Q.居住物件で100万円の立退き料でも明渡が否定される?
居住物件で100万円の立退き料でも明渡が否定された裁判例です。
用法違反による解除も主張しましたが通らず、明渡請求自体が否定されていますので、賃貸人としては慎重な対応が必要でしょう。
東京地方裁判所平成29年7月7日判決です。
この記事は、
- 居住物件の立退料相場を知りたい
- 事業の登録住所にしたことで用法違反となるか
という人に役立つ内容です。
事案の概要
原告が賃貸人。
建物賃借人が被告。
原告は、本件建物の賃貸借契約は、原告による更新拒絶又は被告の用法違反を理由とする解除により終了した旨主張して、建物の明渡しと、更新拒絶による同契約終了後の賃料相当損害金の支払を求めました。
旧賃貸借契約の内容
原告は、平成23年11月14日、被告の弟との間で、本件建物について賃貸借契約を締結。
賃貸人 原告
賃借人 弟
同居人 被告の父母
連帯保証人 被告
賃貸借期間 平成23年11月19日から平成25年11月18日
賃料 月額12万5000円(毎月末日限り翌月分支払)
本件賃貸借契約の内容
原告は、平成25年11月18日、被告との間で、本件建物について賃貸借契約を締結。
同契約は、実質的に過去の賃貸借契約を更新するものでした。
賃貸人 原告
賃借人 被告
同居人 父母
連帯保証人 弟
賃貸借期間 平成25年11月19日から平成27年11月18日
賃料 月額12万5000円(毎月末日限り翌月分支払)
更新拒絶通知
原告は、平成27年2月9日頃、被告に対し、本件契約の期間満了に当たり更新を拒絶する旨を通知。
また、原告は、平成28年10月21日の本訴第4回弁論準備期日において、被告に対し、用法違反による信頼関係破壊を理由に本件契約を解除する旨の意思表示をしました。
本件建物の形状
本件建物は、昭和47年4月30日に新築された木造平家建ての建物であり、居室としては6畳の和室2部屋と8畳の和室1部屋がある形状。
原告は、本件建物を所有し、不動産業を営む知人にその管理を委託。
本件契約は、平成25年11月18日、賃借人名義が被告に変更される形で実質的に更新されたが、その契約書には、「居住専用」との記載がありました。
居住用建物で事業の登録
被告の両親らは、株式会社を設立し、時期は明らかではないが、家庭教師派遣業を営んでいたことがありました。
平成28年8月頃において、インターネット上の企業情報等を紹介するウェブサイトの中に、これについて掲載するものがあり、その住所地としては、他の住所地が記載されたものと本件建物の住所地が記載されたものがありました。
また、NTT東日本が平成28年6月に発行した電話帳(タウンページ及びハローページ)の大田区版には、屋号が本件建物の住所地を住所として掲載されていました。
平成28年発行の住宅地図においては、本件建物のある場所に、4つの会社名ないし屋号が記載。
被告の両親らが大手通信会社の販売代理店業を営んでいたときに使用していた屋号や、学習塾事業を営んでいたときに使用していた屋号でした。
被告の両親は、本件建物の郵便受けにこれらの屋号等を記載した紙を掲示していたことから、上記住宅地図発行会社の担当者がこれを確認し、住宅地図に上記の記載をしたものでした。
管理人は、本件契約締結後、何度も本件建物内に入っているが、本件建物内で事業が営まれている旨の主張を原告がするようになったのは本訴提起後のことであり、本訴提起時点では、本件契約の期間満了に伴う更新拒絶のみを本件契約の終了事由として主張していました。
賃貸借契約解除の有効性について
裁判所は、被告ないしその両親が、本件建物をの屋号による事業の拠点とする意思があったことは認められるとしました。
しかし、ウェブサイトの掲載内容や証人の証言によれば、家庭教師の派遣事業であると認められ、本件建物内で授業その他の事業活動を行うことが予定されていたとは認められない上、本件建物内で上記事業活動が行われたことをうかがわせる証拠もないと指摘。
しかも、上記ウェブサイトの内容等に照らし、この事業は、被告の両親が本件建物に転居する前から、ほとんど実績がなく、有名無実化していたものといえるともしました。
以上のような事情を考慮すれば、本件建物は、専ら被告の両親の居宅として利用されているものであり、本件建物を事業拠点とする旨の表示が行われたことを踏まえても、本件建物について、居住専用目的に反した使用がされたと認めることはできないとしました。
用法違反にはならないとの結論です。
更新拒絶についての正当事由は否定
原告は本件建物について、老朽化が著しく、人が居住し続けることは危険であり、補修するよりも建て替えた方が安価であるという状態が生じているなどとして、本件更新拒絶には正当事由がある旨主張。
しかし、平成25年11月の本件契約の実質的更新時に、本件建物の老朽化に伴う居住の危険性について原告ないし管理人が言及したことをうかがわせる証拠はなく、同月から僅か2年で上記危険性が生じたということは容易に想定し難いと指摘。
原告が主張する補修費用も、被告の両親が本件契約に基づき入居する前の工事に係るものと認められるものを除けば、特に多額のものはないと指摘。
原告が申し出る立退料の上限額が100万円であることからしても、本件更新拒絶に正当事由があると認めることはできない。
したがって、この点についても原告の主張は理由がないとされました。
結論として、明渡請求を棄却しています。
明渡が否定された事例
本件では、裁判途中で用法違反の主張を追加するなどしており、当初は、正当事由による更新拒絶で明渡請求ができると考えてたようです。
しかし、借家人の権利は強く、正当事由が認められるには、相当の事情が必要です。
その中では、提供した立ち退き料の金額も判断要素とされます。
今回の事例では、100万円の立ち退き料を提示していますが、これでは正当事由にならないとされています。
家賃が月額12万5000円ということは、8ヶ月分の提供となります。これで不足と判断されたものですので、立退き料交渉では参考にしてみると良いでしょう。
裁判途中での主張追加もあり、賃貸人としては、
用法違反による解除
正当事由による更新拒絶(立ち退き料も提示)
という2段階の主張でしたが、いずれも否定されてしまったものです。
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