FAQよくある質問
FAQ(よくある質問)
Q.不動産売買無効の合意書は?
不動産売買をしたものの、無効になることもあります。
そのような場合の合意書の条項について解説します。
この記事は、
- 不動産売買の交渉で無効とした書類を作りたい
- 売買解消の合意書書式を知りたい
という人に役立つ内容です。
高齢者の不動産売買と公序良俗違反
高齢者を取引相手とした不当な不動産売買では、金額や高齢者の判断の呪力によって公序良俗違反の主張が認められることもあります。
高齢者所有の不動産の売買契約を締結したものの、家族は、甲が高齢で認知能力が低下していたと主張したり、取引相場よりも相当に低廉な売買価格であることなどから、公序良俗違反を根拠に、売買契約の無効、返還請求をするということもあります。
公序良俗違反と暴利行為
売買契約で公序良俗違反が主張され、トラブルになった場合です。
公序良俗違反が認められる1つの類型に暴利行為があります。
相場よりも金額がかけはなれている価格での契約も、ここに含まれます。
判例上、暴利行為として公序良俗違反になるかどうかについては、
・他人の窮迫、軽率若しくは無経験を利用したか否か、
・著しく過当な利益の獲得を目的とする法律行為であるか否か
という2つの要件で判断されることになっていました。
当事者の主観と客観的な要件の両方から検討されるものです。
売買契約が無効になるケース
公序良俗違反となるケースとしては、
相手方の弱みにつけ入り畏怖・困惑させた場合や相手方の無知・判断能力の低下・心理的な抑圧状態などが利用された場合にも認められます。
高齢者の場合、情報不足による無知や、判断能力の低下という点が問題になりがちです。
認知症などがある場合には、診療記録などと照らし合わせて判断されることも出てきます。
売買契約無効主張する場合の法的請求
売主が、公序良俗違反を主張する場合、法的には、売買契約の無効を主張、所有権に基づき不動産返還、所有権移転登記の抹消登記を求めるのが通常です。
買主は、契約の有効性を争うこともありますし、裁判を避けるため、示談交渉をもちかけてくることもあります。
示談内容としても、売買契約時の取引相場との差額を解決金として支払う方法などがあります。
売買無効を主張された買主の対応
買主が、公序良俗違反を認め、若しくは、争えないと考えた場合の解決案としては、不動産の返還及び所有権移転登記の抹消に応じることが多いです。
このような不動産の返還等に応じる代わりに、損害賠償義務を負わない、他の責任追及がされないように交渉することになるでしょう。
売買契約無効の合意書の書式
このような場合の合意書としては、
甲乙間の令和3年○月○日付売買契約(以下、「本件売買契約」という。)に関し、次のとおり合意する。
というような冒頭文を記載。
不動産の特定については、
く土地の表示>
所在
地番 ○番
地目 宅地
地積
<建物の表示>
所在
家屋番号 ○番○○
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
床面積1階
2階
のように、登記情報から抜き出します。物件目録などを作成する際に必要な条項です。
売買契約無効を確認する条項
売買契約の無効を確認する場合には、その条項を入れます。
第1条(無効確認)
甲と乙は、本件売買契約が無効であることを確認する。
冒頭で売買契約を特定しているので、このような記載にします。
売買契約無効と登記条項
そのうえで、明渡や登記を戻すための条項を設置します。
第2条(明渡し及び抹消登記)
乙は、甲に対し、次条の金員の支払を受けるのと引換えに、令和3年○月○日限り、本件売買契約に基づき甲から引渡しを受けた本件不動産を明け渡し、本件不動産についてされている○○法務局令和○年○月○日受付第○号所有権移転登記について、錯誤を原因とする抹消登記手続をする。この登記手続費用は乙の負担とする。
すでに、引渡がされ、買主が占有しているような場合に、これを戻す条項と、登記も戻す条項をセットにしたものです。
登記の抹消については、登記の特定のため、法務局や受付番号の記載をします。
売買を無効化するのであれば、抹消登記の原因は、錯誤とすることが多いでしょう。「売買無効」や「所有権移転無効」での登記原因も可能であるとはされています。
裁判上の和解などであれば、このような条項の和解調書を使って登記を戻せますが、交渉での解決の場合には、合意書だけでは戻せません。合意書作成時に、司法書士にも事前連絡をしておき、司法書士への登記委任状、印鑑証明書等を取得することになります。
売買代金の返還条項
売買代金を一部でも支払っている場合、売買契約が無効であれば、不当利得として返還する義務があります。
登記移転等もあるのであれば、通常は、引き換え条項にするでしょう。
甲は、乙に対し、本件売買契約に基づき乙から支払を受けた売買代金○円を返還する義務があることを認め、これを、前条の明渡し及び抹消登記手続を受けるのと引換えに、令和3年○月○日限り支払う。
損害賠償義務と売買代金返還義務の相殺条項
公序良俗などの不当な売買契約の有効性が争われる場合、交渉段階では、売主から損害賠償請求をすることもあります。
裁判所の判決となると認められにくいですが、交渉では慰謝料の請求も可能です。
相手方がこれに応じるのであれば、売買代金返還義務と相殺し、返還額を下げることもできます。
そのような場合、
損害賠償支払義務
乙は、甲に対し、本件にかかる損害賠償金として、金○円の支払義務のあることを認める。
というように、損害賠償条項を記載します。
そのうえで、
売買代金返還義務
甲は、乙に対し、本件売買契約に基づき乙から支払を受けた売買代金○円を返還する義務があることを認める。
との条項を記載。
そこから相殺条項を設置します。通常は、相殺合意という形にするでしょう。
相殺合意
甲と乙は、第○条の債務と前条の債務を対当額で相殺する。
その後に、相殺後の金額の支払条項を設置します。
売買代金残金の返還
甲は、乙に対し、第○条による相殺後の売買代金残金○円を、第○条の明渡し及び抹消登記手続を受けるのと引換えに、令和○年○月○日限り支払う。
清算条項
紛争絡みの合意書では、清算条項を設置できたほうが良いでしょう。和解という趣旨では、お互いの権利関係がこれで終了だと明記しておいたほうが無難です。
甲及び乙は、甲と乙との間には、本合意書に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。
というような定型的な条項です。
この条項では、本件紛争に限らず、当事者間に他の法律関係や債権債務も一切ないことを確認しています。包括的清算条項と呼ばれるものです。
売買契約無効の合意書の作成
通常は、原本を2通つくり、それぞれが保管します。
年月日の記載、当事者の氏名と住所を記載、署名押印をします。
個人の印鑑は実印にしておいたほうが文書の成立を後日争われにくくなります。
売買契約の無効を裁判ではなく、交渉で解決できることは多くないかもしれませんが、明らかに不当な場合には、交渉での解決を試みる価値はあるかと思います。
そのような場合には、参考にしてみてください。
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