共有物分割で全面的価格賠償での取得ポイントを裁判例から解説

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FAQ(よくある質問)

 

Q.共有物分割で全面的価格賠償での取得ポイントは?

共有物分割請求の裁判例を紹介します。

東京地方裁判所令和2年11月30日判決です。

同族会社を含めた親族間で収益物件の不動産を共有している場合に、一部の共有者が共有物分割による現金化を希望するという紛争構造です。

親族間とはいっても、共有物の場合には、いつでも、このような紛争が発生するリスクがあります。

その場合に共有不動産を取得できるポイントが見えてくる裁判例です。

 

この記事は、

  • 共有不動産の分割請求をしたい
  • 共有者とトラブル、共有物分割裁判を起こされた

という人に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.6.25

 

事案の概要

本件は、原告、被告Y1及び被告会社がそれぞれ共有持分3分の1ずつの割合により共有する各不動産について、原告が共有物分割を求めた事案です。

原告は、当初、競売分割を求めて提訴

これに対し、被告らは、本件不動産を被告会社の所有とする全面的価格賠償の方法による分割を求めました。

全面的価格賠償は、共有者の1名が所有権を取得する代わりに他の共有者に対して、対価を支払う共有物分割方法です。

被告らの主張後、原告も、本件不動産を原告の所有とする全面的価格賠償の方法による分割を予備的に主張するに至りました。

 

相続がきっかけで共有

相続により共有が生まれていました。

原告らの親が、本件土地を取得し、本件土地上に本件建物を新築し、本件不動産を単独で所有。

その後、相続。

原告らの兄弟姉妹の相続人から、被告会社が共有持分を買い取った経緯があります。

被告会社(昭和47年7月31日設立)は、本件建物の建築前から本件土地の一部で自動車整備工場を営んでいました。

本件建物が新築されてからは、本件建物の1階部分を工場として使用。

被告Y1は、被告会社の設立以来の代表取締役であり、他の取締役はいませんでした。

なお、被告会社の目的には、現在では、自動車整備業のほか不動産賃貸管理業も掲げられ、本件建物の2階から4階までの部分は、共同住宅として第三者に賃貸されています。

収益物件にもなっています。

 

共有物分割請求

原告は、平成30年5月28日付け通知書により、被告らに対し、本件不動産の共有物分割を求めました。

その方法として本件不動産の売却を提案。しかし、被告らはこれに応ぜず、当事者間において本件不動産の分割に関する協議が調わない状況。

原告は、当初は競売による売却を求めましたが、その後、被告も原告も全面的価格賠償により本件不動産全体の取得を希望するに至っています。

そこで、その価格をいくらにするのか、原告と被告会社のいずれに取得させるかが争われたものです。

裁判所は、以下のような点をポイントとして取り上げています。


 

本件不動産の価格

裁判の中で鑑定が実施。

本件不動産の適正価格は、本件鑑定に係る不動産鑑定評価書が提出された令和2年1月31日時点で合計1億0200万円。

ただし、本件土地については、長年にわたり自動車整備工場として使用されているため土壌汚染の可能性を否定し得ないが、上記価格は、本件不動産の現状の利用形態を前提とした場合の適正価格であり、土壌汚染に関わる要因は価格形成要因から除外されている(本件鑑定)としました。

 

工場の移転可能性

自動車整備工場については、一般に、1階部分においてある程度の広さを要し、騒音や臭気を伴うことも避けられないが、被告会社は、その経営する自動車整備工場に関し、これまで周辺住民からクレームを受けたことはないと言及。

他方で、今後、被告会社が本件不動産からの立退きを迫られることとなれば、現在の顧客を維持したまま代替の移転先を見付けることには大きな困難を伴うことが容易に想定されると指摘。

 

本件建物の賃貸部分の管理のほか、本件建物全体の管理は、本件建物建築当初から原告が行っており、平成28年の大規模修繕も原告が実施。

 

当事者の資力

令和元年6月の時点で、少なくとも被告会社は1047万1165円、被告Y1は合計1794万7054円(定期預金等を含む。)の預貯金を有していたと指摘。

さらに、同じく令和元年6月頃の時点で、被告Y1の妻が合計1043万8515円(定額貯金を含む。)、被告Y1の子が2037万3196円、被告Y1の義母が997万8665円、被告Y1の義父が1528万3815円、他の親族も1881万3970円の預貯金を有しており、いずれも被告会社又は被告Y1に対し、その全部又は一部を融資する意向を有していた点に言及。

さらに、被告会社は、令和2年2月25日、上記の各預貯金の一部を原資として、被告ら訴訟代理人に対し3400万円を預託し、現在に至るまで、同訴訟代理人の預り金口座において同金額が維持されているとも指摘。

 

原告は、東京都大田区に自宅を含む計2件の土地付き建物を所有しており、担保権は設定されていないと指摘。

原告は、上記の原告所有不動産に抵当権を設定することにより、共立信用組合から6900万円の融資を受けることの内諾を得ており、本判決確定後1か月程度で融資が実行可能であるという点も言及。

原告、被告とも対価支払の資力はあるといえそうです。

資力の証明には、このように融資可能性を示したり、親族等の援助者の資力も示す方法が有効です。

 

全面的価格賠償の最高裁判決の内容

裁判所は、共有物分割に際し、持分の価格以上の現物を取得する共有者にその超過分の対価を支払わせ、過不足の調整をすることにより現物分割をすることができます。

さらに、当該共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許されるものと解するのが相当であるとしています(最高裁平成8年10月31日第一小法廷判決)。

 

現物分割は困難

本件土地上には本件建物が建っており、本件不動産につき現物分割が困難であることは当事者間に争いがないと指摘。

また、本件における分割対象不動産は本件不動産のみであるから、持分の価格以上の現物を取得する共有者にその超過分の対価を支払わせ、過不足の調整をすることにより現物分割をすることもできないとしています。


したがって、本件においては、全面的価格賠償の要件を満たすかどうか、満たすとした場合に本件不動産を誰の所有とすべきかが問題となり、全面的価格賠償の方法による分割が許されないとすれば、競売分割の方法によるしかないこととなると確認しています。


全面的価格賠償の要件

被告会社は、概ね現在の場所において、本件建物の建築前から現在に至るまで50年以上もの長期にわたり自動車整備工場を営んできており、これまで周辺住民からクレームを受けたこともなかったところ、今後、本件建物からの退去を迫られることとなれば、代替地の確保に大変な困難を伴うであろうことは容易に想像し得るところであり、被告会社の事業の継続という観点からは、被告会社が本件不動産を取得するメリットは大きいと指摘。

また、被告Y1は、現在、被告会社の代表取締役であることから、被告Y1が本件不動産を取得することによっても、被告会社がこれを取得したのと事実上同様の機能を果たすことが可能であるものと見込まれるとしました。


この点に関し、原告が被告会社の株主であるかどうかについては、前示のとおり、当事者間に争いがあるところであるが、仮に原告も被告会社の株主であるとされる場合には、被告会社が本件不動産において事業を継続し得ることは、むしろ原告の利益にも資することとなると指摘。

ところが、本件不動産の共有物分割にあたり競売分割の方法によることとする場合には、被告会社又は被告Y1が本件不動産を競落し得る保証はなく、第三者がこれを競落した場合には、被告会社又は被告Y1がこれを更に買い受けるか、又は当該第三者から改めて本件建物を賃借する必要があることとなるが、そのような買受け又は賃借が可能である保証も全くないとしています。

 

事業継続等の現状維持を重視


他方で、全面的価格賠償の方法によることとする場合であっても、原告によれば、原告が本件不動産を取得した際には被告会社が本件建物を賃借して引き続き使用することを認めるというのであるが、弁論の全趣旨によれば、原告と被告ら(特に被告Y1)との間には厳しい対立があることがうかがわれるところであり、被告Y1が代表取締役を務める被告会社に対し、原告が実際に本件建物の使用を将来にわたって認めるかどうかは定かでないとしました。


そうすると、被告会社の事業の継続という観点からは、全面的価格賠償の方法により、本件不動産を被告会社(又はその代表取締役である被告Y1)の所有とすることが相当であるものと認められるとしました。

 

他方で、本件建物の他の部分は第三者に賃貸されており、全面的価格賠償の方法による場合には、今後、所有者とされた者が単独で賃料収入を得ることができることとなるが、この観点では、別途営業収入を得ることのできる被告会社よりも、老後の生活資金等を必要とすることが見込まれる原告又は被告Y1が本件不動産を取得するメリットがあるとも言及。


しかし、本件不動産は相続に起因して共有状態となったものであるところ、老後の生活資金を必要とする点では、原告と被告Y1との間に違いはなく、いずれか一方が現在特に困窮していることをうかがわせる事情も認められない以上、本件不動産を原告又は被告Y1のいずれかの所有とする場合には、共有者間ないし相続人間の公平を損なう結果となるおそれがあるとしています。

賃料収入の帰属の不公平さをどうするかの視点ですね。

 

代金の支払い能力

本件不動産の適正価格は1億0200万円と認めるのが相当であるところ、被告会社は、少なくとも原告に対し支払うべき賠償金として3400万円を被告ら訴訟代理人の預り金口座に入金して確保。

また、本件不動産を被告会社の単独所有とする場合には、被告会社は、原告に対してだけでなく、被告Y1に対しても賠償金の支払を要することとなるが、前記認定事実によれば、被告らが現に有し、又は被告Y1の親族から一時的に借り入れることのできる資金は、上記預り金を除いても、合計3400万円を超えてなお残されているものと認められること、前記認定のとおり、本件建物については違法建築とされる可能性があることを踏まえても、本件不動産を担保に入れることにより、何らかの金融機関等から少なくとも3400万円の融資を受けることは不可能ではないものと認められることからすれば、被告会社は、賠償金の支払能力に欠けるところはないものと認めるのが相当であると言及。

他方で、前記認定のとおり、原告は、本件不動産とは別の原告所有不動産に抵当権を設定することにより6900万円の融資を受けることの内諾を得ているというのであり、これによれば、原告においても賠償金の支払能力に欠けるところはないこととなるとも指摘。

なお、原告は、賠償金として被告Y1及び被告会社に対しそれぞれ適正価格を上回る3500万円ずつを支払う意向を示しており、この点は、共有者間の公平性を補完する一要素とはなり得ると指摘。

鑑定価格よりも多少上乗せした提示をしている点について言及しています。

 

賃料収入の分配に対する不安解消


原告は、被告会社は原告に支払うべき賃料の支払義務を怠った上、それを原告に無断で被告Y1に支払う形に改めたと主張して賃料の不払を正当化するなど、共有者の一人である原告を蔑ろにし、共有者間の公平性を著しく損ねていると主張。

しかし、ここで原告が主張していることは、結局のところ、本件不動産の賃料の管理者を原告から被告Y1に一方的に改めた形を取られたことに対する批難であるものと解され、被告会社が賃料(他の共有者に対する賃料相当額の支払を指すものと解される。)を誰に対しても支払っていないことをいうわけではないものと推察されるから、被告Y1が本件不動産を取得すべきではない理由とはなり得たとしても、本件不動産を被告会社の所有とすることの妨げとなるものと解することはできないと指摘。

その上で、本来原告に対し支払われるべき賃料相当額が被告Y1から支払われていないというのであれば、それは別途解決が図られるべき問題というべきであるとしています。

また、原告は、原告も被告会社の株主であるにもかかわらず、被告らは原告を意図的に排除してきたから、本件不動産の所有者が被告会社とされた場合には共有者間の実質的公平を害すると主張するが、原告が被告会社の株主であるかどうかは、本件不動産を誰の所有とすべきかとは別の問題というべきであり、少なくとも本件不動産を被告会社の所有とすることの妨げとなるものと解することはできないとしています。

むしろ、仮に原告が被告会社の株主であるのであれば、被告会社が本件不動産を取得することが原告の利益ともなり得ることは、前示のとおりであるとしました。

株主であり、配当を得たいのであれば別に請求すれば良いですし、株主でないなら排除されていても仕方がないことになります。

 

全面的価格賠償の主張経過

本件不動産の共有持分3分の2を有する被告らは、いずれも当初から全面的価格賠償の方法によることを望んでおり、最終的に、本件不動産を被告会社の所有とすべきであると主張。


これに対し、原告は、飽くまでも競売分割を希望しており、全面的価格賠償により本件不動産を原告の所有とする方法により分割すべきであるとの主張は、本件訴訟の終盤に至って予備的に追加されたものにとどまると指摘。

 

裁判所は被告会社に取得させるとの結論

原告及び被告会社は、いずれも適正価格による賠償金の支払能力に欠けるところはないものと認められるが、被告会社にとっては、本件不動産における自動車整備工場の継続という点で本件不動産を取得するメリットが大きいものと認められる一方、本件不動産から生ずる賃料収入を原告又は被告Y1のいずれかに取得させるとすれば、共有者間の実質的公平に反する結果を招くことにもなりかねないと指摘。

そして、原告が被告会社の株主であるかどうかについては当事者間に争いがあること、原告は主位的には飽くまでも競売分割を望んでいること等も踏まえると、本件不動産の共有物分割に当たっては、全面的価格賠償の方法により、本件不動産を被告会社の単独所有とすることが相当と結論づけました。


鑑定費用の負担は全員で

なお、訴訟費用は、主文の結論のほか、本件が共有物分割訴訟という形式的形成訴訟であること、本件不動産が原告、被告Y1及び被告会社によるそれぞれ共有持分3分の1ずつの共有状態にあったこと、本件の訴訟費用のうち最も多くを占めるのが鑑定費用であると思われること、被告会社の株主構成については当事者間に争いがあること等の諸般の事情を総合考慮した上、これを3分し、その1を原告の、その余を被告らの各負担とすることが相当としています。

鑑定費用は物件によっても違いますが、収益物件であれば、相当高額の立替が発生していると思われますので、簡単に当事者一方に負担させる結論は妥当でないといえるでしょう。

 

 

共有物分割裁判での主文

最終的な判決主文は次のとおりでした。

登記移転と対価について引き換え給付の記載です。

 1 別紙物件目録記載の各不動産を次のとおり分割する。
(1)別紙物件目録記載の各不動産を被告会社の所有とする。
(2)被告会社は、原告から下記(4)の登記手続を受けるのと引換えに、原告に対し、3400万円を支払え。
(3)被告会社は、被告Y1から下記(5)の登記手続を受けるのと引換えに、被告Y1に対し、3400万円を支払え。
(4)原告は、被告会社から上記(2)の金員の支払を受けるのと引換えに、被告会社に対し、別紙物件目録記載の各不動産のそれぞれ共有持分3分の1について、共有物分割を原因とする持分移転登記手続をせよ。
(5)被告Y1は、被告会社から上記(3)の金員の支払を受けるのと引換えに、被告会社に対し、別紙物件目録記載の各不動産のそれぞれ共有持分3分の1について、共有物分割を原因とする持分移転登記手続をせよ。
2 訴訟費用はこれを3分し、その1を原告の、その余を被告らの各負担とする。


原告としては、もともとが競売での分割で請求していたので、金銭取得ができる結果になっています。

競売による金額が、鑑定価格を上回らないのであれば、訴えを提起した目的を達成できたことになります。

もし、当初から自身が取得したいという考えでいたのであれば、全面的価格賠償の請求を早期にしておくべきだったということになるでしょう。ただ、被告らが3分の2を占めているとなると、原告に取得させる結論は採用されにくいとはいえます。

 


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