無断運転事故での運行供用者責任、酒の提供と幇助による共同不法行為責任が争われた交通事故の裁判例

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FAQよくある質問

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FAQ(よくある質問)

 

Q.無断運転事故で所有者が責任を負う?

交通事故で、車両の所有者は、自分が運転していなくても運行供用者として損害賠償責任を負うことがあります。

被害者としては、請求相手が増えた方が回収確率が高まるため、運転者だけでななく、所有者も被告にしてきます。

今回の事例では、自分の車の鍵を職場から勝手に持ち出された所有者も責任を負っています。

加害車両に同乗していた女性は、運転者にお酒を渡すなどしていますが、責任は否定されています。 関係者にも損害賠償請求をしたい人や、関係者として巻き込まれた人は参考になる判決でしょう。

大阪地方裁判所令和元年9月4日判決です。

この記事は、

  • 事故車の同乗者として責任追及されている
  • 自分の車を無断運転されて事故の賠償請求をされている

という人に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.7.2

 

事案の概要

被告Y1の運転する普通乗用自動車が、高速道路上において、原告X2の運転する普通乗用自動車に後方から衝突。

原告車の同乗者であるA及び原告X1が負傷した事故。

本件事故後に死亡したAの妻(相続人)であり、かつ、本件事故により傷害を負った原告X1と、死亡したAの子(相続人)である原告X2が、損害賠償を求める事案。

 

本件事故の発生状況

日時 平成28年8月18日午前10時18分頃
場所 大阪府豊中市 中央自動車道西宮線名神下り

関係車両等
原告車 原告X2(当時42歳)が運転。A(当時75歳)及び原告X1(当時67歳)が同乗する普通乗用自動車。

被告車 被告Y1(当時23歳)が運転し、被告Y3(当時20歳)が同乗する普通乗用自動車。


被告車の所有者は株式会社Bであり、被告Y2は、売主に所有権を留保するとの約定の下、被告車を購入。

事故態様 被告車が、法定最高速度が時速100kmである本件道路の第2通行帯を、東から西に向かい時速約140km~150kmの速度で進行。

本件事故現場付近で第2通行帯から第1通行帯に進路変更した際、第1通行帯を被告車と同一方向に先行して進行中の原告車左後部に被告車右前部が衝突し、原告車が横転。

 


被告Y3が同乗した経緯

被告Y1(本件事故当時23歳)と被告Y3(本件事故当時20歳)は、勤務先の店長と店員という関係にあったが、本件事故当時はマンションの一室で同居。

被告Y1は、普段から、ビールを相当量摂取しても、被告Y3の見るところ、口調や顔色、態度等があまり変わらなかったと指摘。
被告Y3は、本件事故よりも前に、被告Y1が運転する被告車に2回同乗したことがありました。

被告Y1は、本件事故当日の午前6時頃から午前7時過ぎまでの間に本件マンションに帰宅し、午前9時頃までの間に、缶酎ハイ(500ml、アルコール度数9%)を2本飲みました。被告Y3もそのことを把握。

被告Y1は、買い物に出掛けようと被告Y3を誘い、午前10時前頃、被告車を運転し、本件マンションを出発。

被告車には被告Y3が同乗。

被告Y3は、車で出掛けることを想定していなかったものの、被告Y1が車で行くと言ったことや被告Y1がそれほど酔っているように見えなかったことから、被告Y1が被告車を運転することに異を唱えず。

被告Y3は、出発後間もなくして、被告Y1に対し、お酒を買いたいと告げました。

被告Y1及び被告Y3は、午前10時頃、コンビニエンスストアに寄って缶酎ハイ2本(ほろよい)やたばこ等を購入。

被告Y1及び被告Y3は、上記購入後、被告車に乗車し、被告Y1が運転し、本件道路(高速道路)に。

午前10時11分頃、被告車は本件道路に入ったものの渋滞。

本件道路に入って数分後に、被告Y1が被告Y3の飲んでいた缶酎ハイを飲みたいと言ったため、二人で3~4回程度、回し飲みをしました。回し飲みをしたのは、缶酎ハイ1本であり、被告Y1が飲んだ量は半分程度。

その後、本件道路の渋滞は解消。

 

スピードを上げて交通事故

被告Y1は、被告Y3に格好の良いところを見せようとして、被告車の速度を上げました。

被告Y3は、被告車がいわゆるオープンカーであったこともあって、怖さを感じ、被告Y1に止めてほしいと伝えたものの、被告Y1は、大丈夫だと言って取り合わず、高速度のまま次々と車を追い抜いていきました。被告Y1は、高速度で運転するまでは、特段危険な運転は行っていなかったと認定。

被告Y1は、午前10時18分頃、本件道路上の第2通行帯を時速約140~150kmで走行中、第1通行帯に進路変更するに当たり、前方左右を注視せず、進路の安全確認不十分のまま進路変更し、第1通行帯を同一方向に先行して進行中の原告車を自車前方約13.5mの地点に初めて認め、左転把したが、原告車との衝突を回避することができず、原告車の左後部に、被告車右前部を衝突させ、原告車を横転させました。


被告Y1と被告Y3は、原告らを救助するための必要な措置を講じることもないまま、本件事故現場を離れ、本件マンションに帰宅。

その後、被告Y1は警察署に出頭。

被告Y1は、本件事故現場を離れる際も、被告Y3が見たところ、特段酔った様子ではなかったと認定。

 

飲酒運転を幇助

被告Y1は、被告車を運転し、第2通行帯から第1通行帯に進路変更するに当たり、前方左右を注視し、道路の安全を確認して車線変更すべき注意義務があるのにこれを怠り、前方左右を注視せず、進路の安全を十分に確認せず、時速約140~150kmで車線変更した過失があると認定。

被告Y3は、被告車を運転中の被告Y1から、被告Y3の飲んでいた缶酎ハイを飲みたいと言われ、缶酎ハイを被告Y1に渡し、被告Y1は缶酎ハイを飲酒し、被告車の運転を継続したところ、被告Y3の行為は、被告Y1の飲酒運転を物理的にも心理的にも容易にし、これを助長、促進させたことは明らかであるから、被告Y3は被告Y1による飲酒運転を幇助したものということができるとしました。

そして、飲酒運転は強い法的非難を加えられるべき行為であり、これを幇助した被告Y3にも強い法的非難が加えられてしかるべきであると指摘。

 

飲酒運転と事故の過失との因果関係が必要

しかし、原告らは、本件訴訟において、Aの身体及び生命並びに原告X1の身体という権利が侵害されたことを理由として、損害賠償の支払を求めている以上、ここで問題とすべきであるのは、上記の権利を侵害する原因行為となった本件過失行為であるから、被告Y3が被告Y1に缶酎ハイを渡したことが本件過失行為の幇助に該当するものとして、被告Y3に法的責任を負担させるためには、少なくとも、被告Y1の飲酒運転と本件過失行為との間に因果関係があることが必要であると言及。

この点につき、原告らは、一般に、飲酒によって判断力や注意力が低下することなどから、飲酒が過失行為と因果関係を有さないような特段の事情がない限り、飲酒と過失行為との因果関係が認められるべきであると主張。

しかし、飲酒による判断能力や注意力等の低下の程度は、飲酒の量や間隔、飲酒したアルコール飲料の度数、飲酒者のアルコール分解能力の程度、飲酒前の空腹の度合いなどによって異なるものであるし、飲酒が過失行為に与える影響も、過失行為の内容によっても異なるものであるから、具体的な事情を踏まえないまま、特段の事情がない限り、飲酒と過失行為との因果関係が認められるということにはなるわけではなく、上記の主張を採用することはできないとしました。

 

飲酒による影響は個別に判断

ところで、被告Y1は、普段から、ビールを相当量摂取しても、被告Y3の見るところ、口調や顔色、態度等があまり変わらなかったこと、本件事故当日も、被告Y1は、高速度で運転するまでは、特段危険な運転は行っていなかったこと、被告Y1は、本件事故現場を離れる際も、被告Y3が見たところ、特段酔った様子ではなかったことに加え、飲酒による運転行為への影響を認定するに足りるような証拠も提出されていないことに照らせば、本件事故当時、被告Y1の認知能力や判断能力あるいは運転行為を制御する能力に対する飲酒による影響は、証拠上判然としないと指摘。


そして、被告Y1は、本件事故当日、被告Y2が実質的に所有する被告車(BMW)に被告Y3を乗せ、買い物に向かうところであり、当時23歳であった被告Y1は、同居していた交際相手の被告Y3に格好良いところを見せようとして、高速道路においてスピードを出し、次々と車を追い抜いて行ったのであるが、このようなことは、飲酒の影響によらずに行なわれることがあり得るのであり、このような状況で、進路の安全を十分に確認せず、制限速度を大幅に超過したまま車線変更をすることも、飲酒による影響の有無にかかわらず起こり得るものであるとしました。


上記のような危険な運転をすることは法的に容認されるものではないにせよ、上記の諸事情に照らせば、本件に提出された証拠を基礎とする限り、被告Y1の飲酒行為と本件過失行為との間に因果関係があると認めることは困難であるといわざるを得ず、従って、被告Y3が被告Y1に缶酎ハイを渡したことが本件過失行為の幇助に該当するものとして、被告Y3に法的責任を負担させることも困難であるといわざるを得ないとしました。

 

 

運転者と所有者との関係

名義人である被告Y2の責任については、運行供用者責任が問題となります。

ここでは運転者との関係や運転に至る経緯が大事になります。


被告Y2と被告Y1は、それぞれ別の会社で勤務。

被告Y2が勤務する会社と被告Y1が勤務する会社の経営者は同一。

両社の事務所は、同じ建物内にあっただけでなく、同じフロアで隣接し、建物の構造上、内部で物理的につながっており、両社の従業員らは互いに行き来することができる状態。

また、両社の従業員は、互いの事務所において、誰がどの机を使用しているのかも把握していました。

被告Y2と被告Y1は、平成24年頃、喫煙所での会話等を通じて仲良くなり、仕事終わりに飲食を共にするなど、同僚に類似した知人として、良好な関係。

被告Y2は、平成28年6月、売主に所有権を留保するとの約定の下、被告車を購入し、その使用者として登録。

本件事故当時、購入のために負担した債務の返済は未了であったため、被告Y2は、被告車の所有権者ではなかったが、実質的にはその所有者といえる状態であり、被告車を管理支配していたのは、被告Y2でした。

 

鍵の管理状況と運行供用者責任

被告Y2は、平成28年6月に被告車を購入した後、2本ある被告車の鍵のうち1本を自ら携帯し、もう1本の鍵については、被告車が家族に無断で使用されることがないように、勤務先の事務所にある被告Y2が使用している机の引出しに保管

本件引出しに鍵はかかりませんでした。

被告Y2は、被告車を購入した後、両社の従業員に被告車を見せたり、被告Y1が被告Y2の運転する被告車に同乗したこともあったため、被告Y1を含む両社の従業員は、被告車が被告Y2の所有物であると認識している状態。

また、被告Y2は、普段、両社の事務所がある建物に隣接する駐車場に被告車を駐車しており、被告Y1を含む両社の従業員はそのことも認識。

さらに、被告Y1を含む両社の従業員は予備の鍵の保管状況を把握しており、他方、被告Y2も両社の従業員の中には予備の鍵の保管状況を把握している者がいることを認識していたが、両社の従業員が予備の鍵を無断で使用することは想定していなかったため、他の保管方法等を検討することはありませんでした。

予備の鍵の保管状況等を把握していた被告Y1は、平成28年6月から本件事故までの間に、2回にわたり、被告Y2に無断で、本件引出しから予備の鍵を持ち出し、被告車を使用したが、被告Y2は、これらのことを認識せず。

被告Y2は、本件事故の前日、被告車に乗って出勤し、被告車を本件駐車場に駐車したまま帰宅。

被告Y1は、本件事故前日の夜から本件事故当日の朝までの間に、被告Y2に無断で、本件引出しから予備の鍵を持ち出し、被告車を運転し、居住していた本件マンションに帰宅。

 

鍵を無断で持ち出されても運行供用者責任ありと判断

被告Y2は、平成28年6月、売主に所有権を留保するとの約定の下、被告車を購入し、被告車を適法に使用する権原を有しており、その購入後、実際に、被告車の実質的な所有者として、被告車を管理支配していたことからすれば、特段の事情のない限り、被告車の運行が社会に害悪をもたらさないように監視、監督すべき立場にある者として、自賠法3条所定の自己のために自動車を運行の用に供する者に当たると解すべきであると指摘。

被告Y1は、本件事故前日の夜から本件事故当日の朝までの間に、被告Y2に無断で、本件引出しから予備の鍵を持ち出し、被告車を運転し、居住していた本件マンションに帰宅し、その後、本件事故を発生させたのであるが、被告車の予備の鍵が保管されていたのは、職場内にある机の引出しの中であり、鍵もかかっていなかったことから、客観的には、両社の従業員は誰でも予備の鍵を持ち出すことが容易な状況にあり、被告Y2はこれを防止する措置は執っていなかったこと、被告Y1は、被告車を領得する意思で使用したのではなく、本件事故前に使用した際と同様に、その使用後は、本件駐車場に返還する意思で被告車を使用していたと推認されること、被告Y1が被告車を本件駐車場から持ち出してから本件事故までは半日程度しか経っていないこと、被告Y1と被告Y2の関係からして、被告Y2は、被告Y1が被告車を使用していることを知れば直ちにその返還を求め得る立場にあり、被告Y1も返還を求められれば、これを拒むとは考え難いことからすれば、本件事故前日又は当日の被告Y1による被告車の運行が、被告Y2の承諾を得たものではなく、かつ、被告Y2による容認の下にされたものではなかったとしても、被告Y2において、被告車の運行が社会に害悪をもたらさないように監視、監督すべき立場を未だ免れる状況にあったとはいえず、他に特段の事情があると認めるに足りる証拠もないと指摘。


そうすると、被告Y2は、被告車の運行が社会に害悪をもたらさないように監視、監督すべき立場にある者として、自賠法3条所定の自己のために自動車を運行の用に供する者に当たり、原告らに対し、自賠法3条に基づく責任を負うといわざるを得ないとしました。

 

交通事故による損害額


ア 治療費等 283万8231円
イ 入院雑費 3万3000円
ウ 入院付添費 13万2000円
エ 休業損害 0円
オ 逸失利益 369万0594円
Aが、本件事故当時、代表取締役として、ろ過機の販売、ろ過器の保守管理及び集金業務を担当して、実際に業務を行い、年額240万円の収入を得ていたことからすると、代表取締役としての基礎収入は年額240万円とするのが相当。

Aの余命は3年の限度で認められるから、その就労可能年数は2年(対応するライプニッツ係数は1.8594)と認定。

また、Aは、本件事故当時、年額62万0017円の老齢年金を受給しており、これはAが死亡するまで支給されると推認。

余命は3年(対応するライプニッツ係数は2.7232)の限度で認定。

妻である原告X1と同居し、上記の収入によって一家の生計を支えていたと認められるから、Aの収入の一部が老齢年金によるものであったことを踏まえても、その生活費控除率は40%を超えることはないと認定。
以上によれば、Aの死亡による逸失利益は、(240万円×1.8594+62万0017円×2.7232)×(1-0.4)=369万0594円(円未満切捨て)。

カ 死亡慰謝料 3000万0175円
キ ア~カの合計 3669万4000円
ク 後期高齢者医療制度による損害の填補後の額 3414万1420円
ケ 素因減額後の金額 2048万4852円
4割の素因減額をしています。

 

 


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弁護士 石井琢磨 神奈川県弁護士会所属 日弁連登録番号28708

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