FAQよくある質問
FAQ(よくある質問)
Q.前科を理由に名の変更はできる?
執行猶予期間中に名の変更を申し立て、否定された事例があります。
東京家庭裁判所令和元年7月26日審判です。
これを前提にすると、なかなか難しそうです。
この記事は、
- 名を変更したい
- 前科あり、就職活動が大変
という人に役立つ内容です。
事案の概要
名の変更許可を求めた事案です。
申立人は、公然わいせつの罪により懲役4月、執行猶予3年の有罪判決を受け、執行猶予期間中。
逮捕時に自己の氏名及び顔写真が報道されました。現在もインターネット上に残されているという状態。
就職に不利益だと主張して、名の変更許可を求めたというものです。
家庭裁判所の判断
家庭裁判所は、申立てを却下。
犯罪歴は、企業にとって、企業への適応性や企業の信用の保持等企業の秩序維持の観点から重要な情報の一つであって、応募者が雇用契約に先立って申告を求められた場合には、信義則上真実を告知すべき義務を負うものであるから、現在執行猶予期間中である申立人が応募にあたり、当該犯罪歴を募集企業に知られることで採用を拒否されるなど一定の不利益を受けることがあったとしても、それは社会生活上やむを得ないものとして申立人において甘受すべきであるとしました。
したがって、このような不利益を回避することを理由として名の変更をすることは許されず、戸籍法107条の2にいう「正当な事由」があるとは認められないとして申立てを却下という結論となったものです。
ネット情報が削除できないとの主張も排斥
申立人は、インターネット上の記事は努力をしても全て削除するのが不可能であること、公然わいせつ罪が軽微な犯罪であること、申立人が受けた刑には執行猶予が付されており、法的な贖罪を果たしていることなどを挙げ、申立人が受けている不利益は極めて過剰であるなどと主張。
しかしながら、前記のような犯罪歴の性質に鑑みれば、インターネット上の犯罪記事が一因となって採用を拒否されることがあったとしても、その不利益は応募者において甘受すべきものであって、それにもかかわらず、インターネット上の全記事の削除が不可能であるとの理由で名の変更を認めることは、前記告知義務に違反した応募を容認することにも繋がりかねず、相当でないことは明らかと指摘。
また、公然わいせつ罪が軽微な犯罪であるといえないのは勿論、いまだ執行猶予期間中である申立人が法的な贖罪を果たしたといえないことも明らかであるから、現状において申立人が望むような就職をすることができない状態にあるとしても、これをもって名の変更を認めるべきであるとはいえないとして、申立人の主張を排斥しました。
名前の変更の根拠条文
名前の変更は、戸籍法107条の2に規定され、家庭裁判所に名の変更の許可の審判を求めることになります。
戸籍法107条の2は、「正当な事由によって名を変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。」としています。
要件として、正当な事由があるのです。
名の変更の正当な事由とは?
この「正当な事由」が認められるためには、社会生活上において、変更が客観的に見て合理的、妥当でないといけないとされます。
過去に認められた例としては、
仕事など営業上の目的があり、慣行として襲名されるようなケース、
同一地域に同姓同名の人がいて、社会生活上で支障があるようなケース、
難解、難読な名前のため社会生活上支障を来すようなケース、
異性と紛らわしい名なので社会生活上支障があるようなケース、
永年使用していて通称として社会的に通用しているようなケース
があります。
最近では、LGBTの関係で認められることも増えてきています。
心は女性なのに、男性名ため、社会生活で支障があるような事例です。この場合も、通称名として女性名を使っている場合などは正当な事由があると認められやすいです。
裁判所は自責の場合に否定する傾向
本件では、就職できないという社会生活上の不利益はあるものの、そもそも就職では、問われれば真実を告知する義務があるので、それを回避するために、名の変更を認めるべきではない、この不利益は受け入れるべきとしたものです。
自業自得であるというような価値判断といえます。
過去の裁判例では、暴力団員であったことを知られたくないために名の変更を申し立てたてものの、同様に否定されたものがあります。
ただ、判断の中では、執行猶予期間ということにも触れており、判決から長期間が経過し、執行猶予期間が満了したような場合には、他の判断がされる可能性もあるでしょう。
前科があるからといって、いつまでも就職できないのでは、社会復帰が難しくなってしまいます。
氏の変更と名の変更の違い
氏の変更は戸籍法107条に規定されています。
名の変更とは異なり、氏の変更では「やむを得ない事由」の存在が要件とされています。
名の変更における「正当な事由」よりも厳格に判断されるものとされています。
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