FAQよくある質問
FAQ(よくある質問)
Q.中退共の退職金支給の「配偶者」とは?
中退共などの退職金の遺族支給について、法律上の配偶者でも、事実上の離婚状態にある場合は該当しない、次順位の人が受領できるとされました。
最高裁判所令和3年3月25日第1小法廷判決です。
この記事は、
- 養育費、婚姻費用の紛争中
- 私立学費等の教育費加算で争っている
という人に役立つ内容です。
事案の概要
被上告人の母は、平成26年に死亡。
当時、株式会社の従業員でした。
同社は、上告人機構との間で母を被共済者とする中小企業退職金共済法所定の退職金共済契約を締結。
また、母は、死亡当時、企業年金基金、出版厚生年金基金の加入員でもありました。
本件は、被上告人が、母の死亡に関し、上告人機構に対し上記共済契約に基づく退職金の、上告人基金に対しその規約に基づく遺族給付金の、出版厚生年金基金の権利義務を承継した上告人出版基金に対し出版厚生年金基金の規約に基づく遺族一時金の各支払を求めた事案です。
子が、中退共などの遺族支給を求めたという内容です。
ただ、母には、戸籍上は夫がいました。そのため、機構等は支払いを拒み、問題になったという事案です。
受領権が戸籍上の夫にあるのか、子にあるのか争われたという事件。
中退共の退職金等は、子に支給されるべきとの主張
本件退職金等の最先順位の受給権者はいずれも「配偶者」と定められています。
被上告人(原告)の請求は、母とその民法上の配偶者である夫とは事実上の離婚状態にあると主張。
夫は本件退職金等の支給を受けるべき配偶者に該当しないから、自分が次順位の受給権者として受給権を有すると主張したものでした。
中退共の退職金の規定
中退共の退職金は、中小企業退職金共済法で規定されています。
中小企業退職金共済法10条1項は、機構は被共済者が退職したときは、その者(退職が死亡によるものであるときは、その遺族)に退職金を支給する旨を規定。
遺族について、同法14条1項1号は、「配偶者(届出をしていないが、被共済者の死亡の当時事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。)」を、
同項2号は、「子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で被共済者の死亡の当時主としてその収入によつて生計を維持していたもの」を、
同項3号は、「前号に掲げる者のほか、被共済者の死亡の当時主としてその収入によつて生計を維持していた親族」を、
同項4号は、「子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で第二号に該当しないもの」をそれぞれ掲げています。
そして、上記退職金を受けるべき遺族の順位について、同条2項は、同条1項各号の順位による旨を規定。
つまり、配偶者が第1順位、子で生計維持者等が第2順位という関係です。
ここでいう配偶者は、事実婚まで含まれるという規定です。
では、事実婚とは逆に、事実上離婚状態だったらどうなのか、が問題になりました。
遺族給付金について
確定給付企業年金法、出版基金規約に基づく遺族一時金等についても、本件に限っては似たような条項でした。
同じように、事実上離婚状態にある場合に、配偶者として第1順位の給付を受けられるのかが問題になりました。
そこで、まず、事実上離婚状態であるかの認定がされています。
母の婚姻関係は事実上の離婚状態にあったと認定
母は、昭和63年6月1日、夫と婚姻をし、平成元年に子である被上告人をもうけました。夫婦の間には他に子はいません。
夫は、平成4年頃、母及び被上告人と別居し、他の女性の下で生活を始め、以後、母らと共に生活したことはなし。
別居後に面会したのは数回にすぎず、婚姻費用をほとんど分担せず。
母は、平成21年頃、夫から協議離婚を求める書面の送付を受けたが、当時大学生であった被上告人の就職に支障が生ずることを懸念して、離婚の意思があったものの離婚の手続をせずにいました。
その後、母は、被上告人が大学を卒業した平成26年には罹患していた病気の状態が悪化して離婚届を作成することができなくなり、離婚をしないまま同年に死亡。
夫は、母が死亡したとの連絡を受けながら、その葬儀に出席せず。
母は、死亡の前日である平成26年、いわゆる危急時遺言の方式によって、推定相続人である夫を廃除し被上告人に全ての遺産を相続させる旨の遺言をしました。
そして、東京家庭裁判所は、平成28年10月5日、上記事情等を理由として、推定相続人の廃除の審判をしました。
このように、婚姻関係は、母の死亡当時、実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込みがなく、事実上の離婚状態にあったと認定しています。
中退共の趣旨
中小企業退職金共済法は、中小企業の従業員の福祉の増進等を目的とするところ(1条)、退職が死亡によるものである場合の退職金について、その支給を受ける遺族の範囲と順位の定めを置いており、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む配偶者を最先順位の遺族とした上で(14条1項1号、2項)、主として被共済者の収入によって生計を維持していたという事情のあった親族及びそのような事情のなかった親族の一部を順次後順位の遺族としていると指摘。
このように、上記遺族の範囲及び順位の定めは、被共済者の収入に依拠していた遺族の生活保障を主な目的として、民法上の相続とは別の立場で受給権者を定めたものと解されると言及。
事実上の離婚状態であれば「配偶者」にならない
このような目的に照らせば、上記退職金は、共済契約に基づいて支給されるものであるが、その受給権者である遺族の範囲は、社会保障的性格を有する公的給付の場合と同様に、家族関係の実態に即し、現実的な観点から理解すべきであって、上記遺族である配偶者については、死亡した者との関係において、互いに協力して社会通念上夫婦としての共同生活を現実に営んでいた者をいうものと解するのが相当であるとしました。
そうすると、民法上の配偶者は、その婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのない場合、すなわち、事実上の離婚状態にある場合には、中小企業退職金共済法14条1項1号にいう配偶者に当たらないとしました。
なお、このことは、民法上の配偶者のほかに事実上婚姻関係と同様の事情にあった者が存するか否かによって左右されるものではないとしています
他の給付についても、公的年金の給付とあいまって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とするものであることなどから、同様の判断をしています。
事実上の離婚状態の認定がポイント
理論的には、このようになるものの、実務上の請求では、事実上の離婚状態であることを認定してもらう必要があります。
次順位の遺族からの主張だけで支給されることは考えにくく、個別に事情をどう認定してもらうのかが重要なポイントになってくるといえるでしょう。
結局、この最高裁の論理を使ったうえで、事実上の離婚状態であることを裁判所に認定してもらう必要があるとすると、本件のような裁判を起こす必要が出てきそうです。
長期間の別居だけでは難しいかもしれず、本件のように、離婚届の作成、離婚についての協議状況、面会の回数、遺言などでの意向などもポイントになってくると見込まれます。
そのような事情をどれだけ出せるかが大事でしょう。
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