ホステスの貞操権侵害による損害賠償請求が認められた裁判例

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FAQ(よくある質問)

 

Q.ホステスでも貞操権侵害の主張はできる?

クラブのホステスに対し、独身だと偽って関係を持ち、貞操権侵害として慰謝料や贈答品分の損害が認められた事例もあります。

東京地方裁判所令和2年6月25日判決です。

 

この記事は、

  • 既婚者だと知らずに関係を持った
  • 貞操権侵害を主張したい

という人に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.7.7

 

事案の概要

原告は銀座のクラブのホステスである独身女性(平成元年生まれ)。

被告が、既婚者であることを隠して原告と性交渉を伴う交際を継続したり、原告に対して求婚をしたりし、被告が原告と婚姻するものと信じた原告をして、被告と多数回にわたり肉体関係を持たせるとともに高額な贈り物などをさせたと主張。

さらに、被告から騙されていたことから来る精神的衝撃により原告を勤務困難な健康状態にさせたなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、2798万7448円の損害賠償請求をした事案です。

損害の内訳は、貞操権侵害による慰謝料500万円、被告に対する贈り物等の代金相当額合計509万0472円、勤務困難な健康状態となったことによる逸失利益1535万2663円、弁護士費用254万4313円などです。


被告(昭和43年生)は、その妻と平成10年7月に婚姻届出をし、両者の間には長男(平成12年生)がいます。被告とその妻の婚姻関係については、現在も離婚の届出はされていません。

また、被告は、株式会社の代表取締役の地位。

 

 

貞操権侵害交際の経緯

原告と被告は、平成28年2月10日、その当時被告がホステスとして勤務していた銀座に所在するクラブに被告が友人とともに来店したことをきっかけとして知り合いました。

原告は、平成29年2月、クラブを辞め、銀座に所在する別クラブにホステスとして勤務するようになり、被告もそちらに来店するようになります。

そして、原告と被告は、次第に親しくなり、同年4月19日頃からは、アプリケーションソフトウェアの「LINE」を用いて毎日やりとりをするようになり、同年6月2日には、羽田空港まで2人でドライブをしました。

原告は、平成29年6月5日、クラブを辞め、銀座に所在する別クラブに勤務するようになり、被告もそちらに頻繁に通い、原告を指名するように.

 

原告と被告は、平成29年6月28日、初めて肉体関係を持ちました。

被告は、原告に対し、平成29年7月5日、被告が原告を愛している旨などを記載した長文のメッセージを「LINE」を用いて送信。

被告は、同月18日頃、原告が居住するマンションの居室の下の階の居室の内見。

 

覚書の作成

被告は、原告に対し、

被告が、原告に対し、本件会社の発行済みの普通株式1万2039株のうち2.8%に相当する337株を、

(ア)本件会社がいわゆる上場企業となること、

(イ)これらの株式を原告の将来の生活に役立てることを一義的に考えること(個人の無用な浪費に使わないこと)、

(ウ)贈与の事実を第三者に公開しないことを前提として贈与する

旨や、これらについては、原告と被告の関係性がいかなる状況になっても有効である旨を記載した平成29年7月20日付けの「覚書」を交付。

被告から原告に対し、相当額の贈与約束とも受け取れる書面が作成されているものです。

 

原告から被告に対し贈与品

原告は、平成29年7月28日、PATEK PHILIPPE製の腕時計を購入し(代金392万0400円)、その後、これを被告に贈りました。

原告と被告は、肉体関係を持つようになった後、平成29年8月末頃までは、毎日のように会い、頻繁に肉体関係を持っており、同年9月も、数回は肉体関係を持っていました。

原告と被告は、平成29年9月23日にホテルに宿泊。しかし、翌24日、些細なことから喧嘩をし、原告が被告に無断で被告の自動車の鍵を持ち帰ってしまいました。

原告は、同日、被告が飛行機に乗った際に紛失した荷物の配送先として指定したのを目にしていた東京都渋谷区初台所在のマンションを訪問し、そこに居住していた女性(被告の妻)に上記の自動車の鍵を渡しました。

原告は、被告に対し、同日の夜、上記マンションの女性について聞いたところ、被告は、元妻であると説明。

 

交際中止と結婚発覚の経緯

原告は、かねてから年収2億円以上の男性とでないと婚姻しないなどと公言していたが、被告の実際の年収がそれに大きく及ばないものであったなどとして、平成29年9月30日、被告に対し、別れを告げました。

その後も、被告は原告の勤務するクラブに通い、また、原告と被告は店の外で会ったり、一緒にホテルに宿泊して肉体関係を持ったりなどもしたが、その関係は悪化。

そして、同年11月11日早朝には、原告が、被告と口論の上、被告の自動車を破損させ、また、同月15日夜には原告が被告の前で包丁を持ち出す事件が発生。

 

原告は、平成29年11月24日、初台のマンションを訪問し、被告の妻と面談

その際、原告は、被告の妻から話を聞き、被告と妻がまだ法的に離婚していないことや、被告との間に子が1人いることを知りました。

 

原告と被告は、平成30年2月頃から、いずれも弁護士に本件の処理を委任したが、交渉はまとまらず、訴訟に。

 

 

裁判所が認定した事実

原告は、被告に対し、

男性と交際をするのであれば結婚を念頭に置くことになり、不倫は受け容れられない旨を述べていたこと、

被告は、原告に対し、平成29年6月5日、年収が2億円以上であることが婚姻の条件であるとの原告の言を受けて、被告が経営する会社の利益のうち被告が保有する株式の割合に相当する部分を考慮すれば被告の年収も上記の範囲内にある旨のメッセージを送信したこと、

原告と被告は、同月28日、初めて肉体関係を持った後、同年8月末頃までは頻繁にそのような関係を持っていたこと、

被告は、原告に対し、同年7月5日、被告が原告を愛している旨などを記載した長文のメッセージを送信し、同月18日頃、原告が居住するマンションの居室の下の階の居室の内見をし、その後、本件覚書を交付したこと、

原告と被告は、同年9月以降も、頻度は減ったものの継続的に肉体関係を持っていたこと、被告は、原告に対し、関係を持つ前やその間において、独身ないし一人で暮らしているとの話や、妻とはすんなりと離婚をしたであるとか、妻とは苦労の末離婚をしたとの客観的事実とは異なる話をしていたものであり、原告に対し、妻と法的には離婚をしていないことを話したのは、原告が被告の妻からその旨の話を聞いた同年11月24日になってからであること、

原告と被告は、同日を最後に、肉体関係を持つことはなくなったことを認定。

 

既婚者と告げなかったことが違法

被告は、原告が男性と交際をするのであれば結婚を念頭に置くことになり、不倫は受け容れられない旨述べていたことを知りながら、自己が法的には既婚者であることを原告に告げず、被告が独身者であると誤信した原告と肉体関係を伴う交際を開始してこれを継続し、その後も、既婚者であるとの事実を原告に説明する機会があったにもかかわらず、客観的事実とは異なる説明を繰り返したものであって、そのような被告の行為は、不法行為に該当する違法な行為に当たるものと認めるのが相当としています。

 

 

「客とホステス」との反論は排斥

被告は、

①妻との婚姻関係は破綻しており、被告が独身というのは完全に嘘とは言い切れないであるとか、

②原告と被告の関係は、客とホステスという関係を土台としていたものであり、被告は、原告の行動により精神的、肉体的、物理的に大きな損害を被ったものであって、本件は、一方が一方に対して害を与えたという単純な事案ではないなどと主張。


しかし、上記①については、独自の見解を述べるものであることが明らかであって、到底採るに足りないと排斥。

また、上記②についても、確かに、原告は、被告と肉体関係を伴う交際をしていた間も、被告に対し、頻繁に来店を促す連絡をして原告の売上げに貢献するよう求め、被告は、そのような原告からの求めもあって頻繁に原告の勤務する店に通い、1回につき数万円から数十万円の支出をしていたことが認められ、原告と被告の関係は銀座のホステスと客という側面があったことは否定することはできないものというべきであるが、両者の関係がそのようなものであるからといって、被告の行為の違法性が否定されるものでないことは明らかとしました。

 

 

貞操権侵害による慰謝料は100万円

原告は、被告の不法行為によっていわゆる貞操権を侵害され、精神的苦痛を被ったものというべきところ、被告の行為態様、原告と被告が肉体関係を伴う交際をしていた期間及びそのような関係の頻度、交際中及びその後の原告の被告に対する行動、その他本件における一切の事情を勘案すれば、原告の精神的苦痛に対する慰謝料の額は、100万円と認めるのが相当としました。

 

贈り物等の代金相当額も損害

パテックの時計が非常に高額な物であることなどを勘案すれば、被告の不法行為がなければ、原告がこれを被告に贈ることはなかったものと認めるのが相当であって、その購入代金相当額392万0400円は、被告の上記不法行為によって原告に生じた損害であるものというべきであるとして認定しました。


被告は、原告から、他の客にも同様の時計を贈っており、店に来てもらうための戦略の一つであると聞いていたなどと主張。しかし、そのような事実は、これを認めるに足りないものとして排斥しています。

 


逸失利益等は否定

原告は、被告の不法行為の結果として反応性抑うつ状態及び睡眠障害を発症したとの事実を前提として、原告に逸失利益が生じた旨主張。

しかし、これらの主張や証拠を裏付けるに足りる十分な客観的証拠が提出されているものとはいい難い(原告が提出する診断書は、原告に生じたとされる反応性抑うつ状態及び睡眠障害の原因を示すものではない。)と指摘。

そうすると、逸失利益に関する原告の主張は、その前提を欠くものといわざるを得ず、採用することができないとして損害を否定しました。


貞操権侵害の弁護士費用

被告による不法行為の内容、これまで認定した損害の額等を勘案すると、50万円をもって、被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害と認定しています。

約1割の認定です。不法行為による損害賠償請求としての一般的な割合と言えます。

 

贈り物の費用も損害と認定されたため、貞操権侵害の裁判としては、比較的高額の認容となっている事件です。

クラブのホステスという属性だと、他の職業の女性よりは貞操権侵害が認められにくいといえますが、今回のケースでは、交際前の発言や、覚書の作成などもあり、結婚に向けての活動も本物だったということで貞操権侵害まで認定されているといえます。

 

過失による不貞慰謝料の可能性も

ただ、この事実関係を前提にした際、被告の妻から原告女性に対して、不貞慰謝料の請求がされる可能性もありました。

婚姻関係破綻の反論や婚姻関係認識なしという反論はありえますが、不貞慰謝料については、過失によっても支払義務があるとされます。

それなりの立場である男性や、妻と会っていることからすると、その時点で一定の疑いを向け、調査すべき義務があるとされてもおかしくない事案です。

不貞慰謝料の請求が認められたとしても、男性側に有責性が高いため、求償できる事案ではありますが、貞操権侵害の請求をする際には、同様の構造、不貞慰謝料請求がされるリスクも検討しておくべきでしょう。

 


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