FAQよくある質問
FAQ(よくある質問)
Q.酒気帯び運転に同乗で免許取消になる?
酒気帯び運転に同乗したことで受けた運転免許取消処分を高裁まで争ったものの、覆らなかった事件があります。
東京高等裁判所平成23年7月25日判決です。
酒気帯び運転等に同乗したことで処分を受けた人などは争える余地があるのか、参考にすると良いでしょう。
この記事は、
- 酒気帯び運転に同乗していて処分されそう
- 免許取消処分を争えるか検討中
という人に役立つ内容です。
「そそのかし」で免許取り消し
控訴人が免許取消を受けた人。
控訴人は、運転者に対して自動車の酒気帯び運転の唆し等をしたとして茨城県公安委員会から運転免許取消処分を受けました。
控訴人は運転開始時には寝ていた、運転者が事故を起こして初めて同乗していたことに気付いたのであり、それまでの記憶はなかったとして、重大違反唆し等をしたという認識もない旨主張。
運転免許取消処分の取消しを求めた事案です。
地方裁判所は、請求を棄却。控訴。
しかし、東京高裁も控訴を棄却しました。
結局、免許取消処分は覆せなかったという内容です。
自分が酒気帯び運転をしていないのに、免許取消になってしまうのは、どのような事情があったのでしょうか。
酒気帯び運転に同乗した経緯
裁判所は、同乗に至る経緯を次のように認定。
控訴人は、勤務先の同僚とパチンコ屋で偶然出会いました。その後、午後10時15分ころから翌日の午前4時30分ころまで飲み屋街の2つの店で共に飲酒。控訴人もパチンコ屋へは車で来ていたのですが、自車はパチンコ店の駐車場に置いていました。
その後、2人で、運転者の車の中で仮眠。運転者は午前8時50分ころ、酒気帯びの状態で、控訴人を同乗させて自動車の運転を開始。
その際、運転者は控訴人に対し、「じゃあ、行きますか」と言ったのに対し、控訴人は「うーん」と頷いて同意。
運転者は同意を受けて、控訴人が自車を置いてある駐車場まで送ろうという気持ちを強くし、5km以上運転。運転者は、自車を運転中、対向車線にはみ出したため、対向車と衝突事故を起こしました。
酒気帯び運転行為は、基礎点数25点に当たる行為(酒気帯び運転)であり、重大違反。
控訴人の行為は「重大違反唆し等」に当たるとされました。
運転免許を取り消し、免許を受けることができない期間を2年間とする処分がされました。
控訴人の争い方
控訴人は、同乗していたものの、運転開始時には眠っていて気づかなかった、重大違反唆し等をしたという認識がないと主張しました。
これに対し、捜査段階での供述調書等には、その認識が記載されていました。
そこで、運転開始時に承諾があったかどうかの事実認定が争われました。
また、控訴人は、仮に、という前提で、飲酒運転を認識していたとしても、重大違反唆し等に当たるとするためには、単に運転者が飲酒運転をすることを知りながら同乗しただけでは足りない、何らかの意味で飲酒運転を誘発ないし助長するような行為があることを要すると主張しました。
控訴人が承諾したとしても、それだけで飲酒運転を心理的に容易にしたということはないと主張しました。
認識はない、あったとしても助長はしていない、という二段階の主張です。
認めた供述調書を採用
控訴人は、運転者が酒気帯び運転を開始することを認識しておらず、これを認める内容となっている捜査段階での供述調書等は信用性がない旨主張。
しかし、裁判所は、供述調書を採用しました。
警察官の誘導を受けて本件供述調書に署名押印したとする控訴人の供述は、20年近く市役所に勤務する控訴人においては当然に公文書及び署名押印の重要性を理解していると解されると指摘。
また、本件供述調書には控訴人が勤務先による処分を心配している旨の記載があるところ、警察官が市役所の処分を「穏便にする」などというのはおよそ考え難いと指摘。
極めて不自然であって、控訴人の主張を採用することはできないとしました。
運転開始時の認識について、警察での供述調書を前提に事実認定しています。
つまり、運転開始時には、控訴人が承諾していたとの前提です。
1段階目の主張は否定されました。
では、2段階目の、助長はしていない、という主張はどうなったのでしょうか。
重大違反唆しとは
運転免許の取消事由である「重大違反唆し等」(道路交通法103条1項6号)とは、自動車等の運転者を唆して同法の規定に違反する行為で重大なものとして政令で定められた「重大違反」(酒気帯び運転はこれに当たる)をさせ、又は自動車等の運転者が重大違反をした場合において当該重大違反を助ける行為です(同法90条1項5号)。
重大違反唆し等に当たるというためには、酒気帯び運転の意思のない者に働きかけてその意思を生じさせる必要はなく、既にその意思を有する者による酒気帯び運転行為を物理的、心理的に容易にする行為もこれに含まれるということができるとしています。
他方で、酒気帯び運転であることを知りながら自動車等に同乗するだけで、運転者による行為を何ら助けるものでないときは、重大違反唆し等に当たらないと解するのが相当であるともしています。
承諾で酒気帯び運転を助けたと認定
控訴人は、誘いを承諾して同乗しただけであり、飲酒運転を心理的に容易にしたことはない旨主張していました。
しかし、裁判所は、控訴人は自車をパチンコ店の駐車場に置いて運転者の車に同乗し、約6km離れた飲み屋街に赴いて翌朝まで一緒に飲食したこと、その後助手席で休んでいたこと、運転者は控訴人を上記駐車場まで送るつもりで控訴人に声を掛け、控訴人はこれを承諾したこと、控訴人は運転者が酒気帯び運転をしていると認識しながら5km以上にわたり同乗していたことが明らかであると指摘。
これらの事実によれば、運転者は控訴人を上記駐車場まで送るべく酒気帯びで運転する意思を既に形成していたものであるが、控訴人は運転者の申出を承諾したことにより、運転者において酒気帯び運転をすることを心理的に容易にしたものとみることができるとしました。
その限りで、運転者が酒気帯び運転という重大違反をすることを助けたものと評価することが相当であるとしています。
同乗だけでは成立しないとしつつ、承諾したことで運転を心理的に容易にしたという認定をしています。
この理論では、同乗しただけで、承諾していない場合でないと、成立してしまいそうです。
飲酒運転の教唆と幇助
「重大違反唆し等」とは、自動車等の運転者を唆して重大違反をさせること、自動車等の運転者が重大違反をした場合において当該重大違反を助ける行為をすることを意味するとされています。
運転者を唆して重大違反をさせることとは、教唆と呼ばれるものです。
他人をそそのかし、犯罪を実行しようと決意させることです。
重大違反を助ける行為をすることとは、幇助と呼ばれるものです。
幇助は、手伝うことです。正犯の犯行を容易にさせることです。
このような教唆や幇助をした人でも、運転免許取消事由とされているのは、このような行為が遵法意識の欠如だとして、運転に必要な適性を欠くと評価されるからでしょう。
その危険性が、運転者と変わらないと評価して処分がされているものです。
免許取消処分を争う場合には、意見聴聞手続きでの主張をする、それでも処分がされてしまった場合には、このように裁判での手続きになります。
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