FAQよくある質問
FAQ(よくある質問)
Q.訪問販売契約解除の損害金は?
訪問販売の契約を解除した際に、多額の請求を消費者が受けることがあります。
しかし、特定商取引法の適用を受ける訪問販売であれば、請求額が規制されることがあります。
今回の事例では、100万円以上の裁判を起こされたのに、1500円まで減額できています。
千葉地方裁判所松戸支部令和4年2月21日判決の紹介です。
この記事は、
- 訪問販売の契約を解除したい
- 契約解除で多額の請求を受けた
という人に役立つ内容です。
訪問販売の契約解除
原告は、業者。
家庭用太陽光発電システムなどを訪問設置する訪問販売での契約をしました。
しかし、工事着工前に消費者が解除。注文者解除という形でした。
この解除を受け、販売設置業者である原告は、消費者による解除を原因とする民法641条等に基づく損害賠償請求。
金額としては、太陽光発電システム、その設置費用及び太陽光システムの保管費用の合計129万4850円の支払いを請求したものでした。
判決が認めた金額
裁判所の判決では、1500円のみ請求を認めました。
理由としては、特定商取引法10条1項4号の適用でした。
1500円は、契約書類の作成費用及び印紙税の総額です。
ちなみに、訴訟費用も原告の負担とするとの内容。
特定商取引に関する法律の条文
10条1項
販売業者又は役務提供事業者は、第五条第一項各号のいずれかに該当する売買契約又は役務提供契約の締結をした場合において、その売買契約又はその役務提供契約が解除されたときは、損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときにおいても、次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を購入者又は役務の提供を受ける者に対して請求することができない。
4号 当該契約の解除が当該商品の引渡し若しくは当該権利の移転又は当該役務の提供の開始前である場合
契約の締結及び履行のために通常要する費用の額
特商法10条の適用範囲
特商法10条の損害賠償の制限規定は、訪問販売による契約解除に適用されます。クーリングオフだけでなく、債務不履行解除、民法上の中途解約権を行使する場合も含まれるとされています。
特商法10条の趣旨
特商法10条は、訪問販売においては、購入者等にとって一方的に不利益な損害賠償額の予定や違約金が契約条項として定められていることも多いことに鑑み、本条の定める一定額を超えて損害賠償額等を請求できないとしたものであると指摘。
このように、特商法10条は、訪問販売における損害賠償等を一定の額に制限する趣旨の規定であるから、民法上の中途解約権が認められる契約における中途解約についても、適用があると解するのが相当であるとしました。
したがって、本件の請負契約解除に伴う請求についても、特商法10条の適用により制限がされるとの内容です。
解除の範囲
本件契約は、太陽光発電システム等の購入とその設置が不可分に結合したものと解されるから、設置工事が完了していない以上、全体を解除することができると解するのが相当であるとしました。
解除による損害額
裁判所は、業者が「契約の締結のために通常要する費用」として、契約書類の作成費用及び印紙税200円を負担したと認められ、その額は総額で1500円と認定。
業者は、仮に、特商法10条1項4号が適用されるとしても、契約後に仕入れた太陽光システムの仕入れ費用及びその保管費用も「通常要する費用」に含まれる旨主張。
しかし、裁判所は、これを排斥。
同条は訪問販売における損害賠償などを一定の額に制限することによって、購入者に不測の損害を発生させない趣旨の規定であることから「通常要する費用の額」は限定的に解するのが相当として、仕入れ費用や保管費用はこれに含まれないとしています。
請求による訪問販売との主張を排斥
業者側は、消費者からの請求による訪問販売だとして、特商法の規定は適用されないと主張。
たしかに、何らかの訪問依頼はあったようです。
しかし、裁判所は、令和2年2月9日時点では概括的な説明がされたにすぎず、各社見積もりを示しての具体的な説明は、同月16日に行われたのであるから、消費者が、同月16日の訪問を依頼した時点で、本件契約を締結する意思をあらかじめ有していたとは認め難く、したがって、請求による訪問販売がされたということはできないとしました。
これにより、裁判所は、特商法10条等の適用がない旨の原告の主張は理由がないとし、民法641条に基づき、特商法10条1項4号の範囲内の1500円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めることができるにとどまるとしました。
債務不履行に基づく損害賠償請求も否定
業者は、債務不履行に基づく損害賠償請求もしていました。
しかし、裁判所は、注文者は、民法641条に基づき、仕事完成前はいつでも契約を解除することができるのであるから、民法641条に基づく賠償義務は負うものの、契約を解除して受領を拒絶したことについて、受領遅滞の債務不履行責任を負うものではないと解するのが相当であるとして、この主張を排斥しています。
消費者にとって有利な判決
本判決は、訪問販売において、消費者にとって相当に有利な判決といえます。
クーリングオフではない、民法の解除でも特商法の適用を認め、損害についても相当に厳しい限定をしています。
特商法10条の趣旨をとにかく重視して「通常要する費用」を限定的に解釈しています。特定商取引法ハンドブックのような消費者側に有利な解釈が展開されている文献と同内容といえます。
この判決の論理が、他の事件でもそのまま使われるとは思えませんが、一つの主張としては選択肢になるでしょう。
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