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FAQ(よくある質問)

 

Q.民事裁判の氏名・住所の秘匿制度とは?

2023年2月施行の民事裁判における氏名・住所の秘匿制度についての解説です。

この記事は、

  • 裁判相手に氏名・住所を知られたくない
  • 秘匿制度の全体像を軽く知っておきたい人

に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2023.1.18

 

民事訴訟法改正による秘匿制度の施行

民事訴訟法の改正です。

住所、氏名等の秘匿制度が創設されました。

民事訴訟法の条文では、第133条〜133条の4に書かれています。

この住所、氏名等の秘匿制度については、公布後9月以内に施行されることになっていました。

施行時期は、2023年2月20日です。

 

氏名・住所秘匿制度の条文

氏名・住所秘匿制度は、一定の事情があれば、氏名や住所を相手に伝えずに裁判を起こせる制度です。

性犯罪やDVでの損害賠償などを想定して作られた制度といえますが、内容によっては、違う分野でも活用できます。

数年前、この制度開始前に相談を受けたことがあります。知らない相手から傷害の被害を受けた人が、損害賠償請求訴訟を起こす際、相手の素性もわからないので、自分の氏名・住所を知られたくないという相談でした。今回の制度があれば、利用できた可能性があります。

秘匿制度の条文は、民事訴訟法第133条1項から始まります。


申立て等をする者又はその法定代理人の住所、居所その他その通常所在する場所(以下この項及び次項において「住所等」という。)の全部又は一部が当事者に知られることによって当該申立て等をする者又は当該法定代理人が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることにつき疎明があった場合には、裁判所は、申立てにより、決定で、住所等の全部又は一部を秘匿する旨の裁判をすることができる。申立て等をする者又はその法定代理人の氏名その他当該者を特定するに足りる事項(次項において「氏名等」という。)についても、同様とする。

 

秘匿裁判の要件

条文上の要件としては、
住所、氏名等の全部または一部が当事者に知られることによって当該申立て等をする者または当該法定代理人が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることとされます。疎明で良いとされています。

氏名や住所を知られてしまうと、社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがある場合に使えるわけです。

相手が訪問してくるリスクが高い、相手が怖いという場合に活用されそうです。

DVやストーカー事案、反社会的勢力が相手になる訴訟でも使えると言われます。

ただ、この抽象的な要件をどこまで広げて使われるか、今後の運用次第です。

 

民事裁判の秘匿対象の情報とは?

秘匿の対象になる情報は限られています。

条文上は、申立て等をする者またはその法定代理人の住所等と氏名等とされています。

法定代理人は、親権者などです。未成年者が当事者になる場合等では、親権者の氏名・住所も秘匿対象になります。

また、申立て等をする者とは、原告だけでなく、被告や参加人も含まれるとされています。

裁判に補助参加をするような人も秘匿の申立ができるわけです。

住所等には、住民票上の住所のほか居所も含まれます。また、解釈論として職場も含むとされています。

 

 

秘匿事項届出書面を提出

秘匿事項に関しては、別に裁判所に対して書面を提出する必要があります。

訴状等の書面には、情報を記載せず、隠したい事項を別に裁判所に届け出るものです。これが秘匿事項届出書面と呼ばれます。

相手方には知られないようにするものの裁判所には真実の情報を伝えなければなりません。

条文では、民事訴訟法第133条2項に書かれています。


前項の申立てをするときは、同項の申立て等をする者又はその法定代理人の住所等又は氏名等その他最高裁判所規則で定める事項を書面により届け出なければならない。

ここで言われる規則が次の規定です。

規則52条の10(秘匿事項届出書面の記載事項等)
秘匿事項届出書面には、秘匿事項のほか、次に掲げる事項を記載し、秘匿対象者が記名押印しなければならない。
一 秘匿事項届出書面である旨の表示
二 秘匿対象者の郵便番号及び電話番号(ファクシミリの番号を含む。以下「電話番号等」という。)
2前項(第2号に係る部分に限る。)の規定は、秘匿対象者の郵便番号及び電話番号等を記載した訴状又は答弁書が提出されている場合には、適用しない。

住所・氏名を隠すのであれば、秘匿事項届出書面と表示された書面を裁判所に提出、ここには真実の住所・氏名のほか、電話番号、郵便番号を書かなければなりません。電話を持っていないなど、電話番号がない場合には仕方がないらしいです。

電話番号は裁判所からの連絡のためでしょうが、郵便番号を義務化したのはなぜなのか不明です。住所からわかると思うのですが、訴状等の記載事項と合わせたものでしょう。

 

秘匿事項届出書面には押印が必要

脱ハンコ社会になってきていますが、秘匿事項届出書面では、はっきりと押印が必要と書かれています。

弁護士などの訴訟代理人が選任されていても、秘匿事項届出書面には秘匿対象者本人の記名押印が必要となっています。

弁護士がついている場合でも、相手が閲覧する可能性がある訴訟委任状には、真実の氏名住所は書かないことになります。真実のハンコも押さない取り扱いでしょう。

しかし、秘匿事項届出書面には、押印が必要なのです。記名でも良い一方で、押印は必要だという取り扱いです。

 

秘匿申出のリスク・デメリット1

秘匿事項届出書面を出して秘匿申立をして裁判を起こしたものの、秘匿申出の要件を満たさないとして、秘匿申立が却下されることもありえます。

この場合には秘匿事項届出書面も、民事裁判記録として、当事者による閲覧等の対象となります。

通常の裁判書類で弁護士をつけている場合には、本人の電話番号を記載することはないのですが、この秘匿事項届出書面を出すことで、申立が認められなかった場合には、相手に電話番号を把握されてしまう危険があります。

郵便番号は良いでしょうが、氏名・住所等の秘匿事項以外に電話番号まで知られてしまうのはリスクといえるでしょう。

 

秘匿申立後の制限

秘匿の申立をした場合、裁判所が判断するまでの間でも、秘匿事項届出書面は公開されません。

民事訴訟法第133条第3項です。

第1項の申立てがあったときは、その申立てについての裁判が確定するまで、当該申立てに係る秘匿対象者以外の者は、前項の規定による届出に係る書面(次条において「秘匿事項届出書面」という。)の閲覧若しくは謄写又はその謄本若しくは抄本の交付の請求をすることができない。

 

秘匿事項届出書面については、秘匿決定がされれば、当然に公開されませんが、それ以前の申立ての段階から秘匿の取り扱いとされています。そこで公開されたら意味がないですからね。

 

秘匿の決定と不服申立

秘匿申立に対する裁判所の判断への不服申立は即時抗告とされています。

秘匿申立てが却下された場合には、即時抗告をすることができます。

これに対し、秘匿決定の判断に対しては即時抗告はできません。ただ、取消しの申立てを行うことは認められています。

 

秘匿決定と代替事項

民事裁判で秘匿決定が出された場合、代替事項を決めます。隠すのは良いとして、名前がないとややこしくなるので、隠した事項の代わりの呼び名を決めます。仮の名前や住所ですね。裁判では、その名前を当事者名として記載することになるのです。

民事訴訟法第133条5項に書かれています。

裁判所は、秘匿対象者の住所又は氏名について第一項の決定をする場合には、当該秘匿決定において、当該秘匿対象者の住所又は氏名に代わる事項を定めなければならない。この場合において、その事項を当該事件並びにその事件についての反訴、参加、強制執行、仮差押え及び仮処分に関する手続において記載したときは、この法律その他の法令の規定の適用については、当該秘匿対象者の住所又は氏名を記載したものとみなす。

 

秘匿決定がされると、決められた代替事項(代替住所、代替氏名等の仮の情報)を訴訟委任状や訴状に書くことになります。

条文上は、秘匿決定が出てから、訴状等には代替事項を書くような流れになっていますが、通常は、裁判を起こす際に、訴状や訴訟委任状を出します。そこに真実の情報を書けば閲覧されてしまうリスクがありますので、実務上は、最初から代替事項を記載した訴状等を出すことになるでしょう。

 

秘匿の代替事項の記載例

裁判所からの案内によると、民事訴訟、調停などの場合に記載する代替事項の書き方について、

代替住所につき「代替住所A」、代替氏名につき「代替氏名A」とするという例が出されています。

さらに、当事者が複数人いる場合には、順次「A」の代わりに「B」、「C」などを用いることとするとのことです。

 

不動産の差し押さえ、仮差押のように、登記が必要な事件では、裁判所や事件番号を組み合わせたものが記載されるとのことです。

「代替氏名A(横浜地令●ワ第●号)」という記載です。

 

秘匿手続による想定デメリット2

民事裁判を代替氏名で進めると、判決でも代替氏名が記載されることになります。

その後の、強制執行でどうするのか疑問でしたが、一審の裁判所名・事件番号と組み合わせて記載をするのですね。

同じ弁護士が民事裁判・強制執行を連続して担当するならわかりやすいですが、強制執行だけ依頼されたような場合には、本人確認が大変かもしれませんね。

「代替氏名A」の判決をもってきた人がいて、「これが自分です」と言われ、強制執行用の委任状をもらうも、一審の秘匿事項届出を確認しないと、本当かどうかはわからないことになります。

記録確認等の手間がかかり、コストや時間というデメリットが発生しそうです。

執行以外に仮差押などの保全との関係でも、このように照合の負担が発生しそうです。

 

弁護士事務所側での記録取り扱い変更も

秘匿制度を利用した民事裁判では、裁判所に残る記録としては、秘匿事項届出書以外に、本人の氏名・住所等がわからないことになります。

しかし、依頼した弁護士事務所との間では、委任契約書など、他の書類に真実の氏名・住所が残ります。

弁護士側としては、この情報管理を徹底しないとまずいことになります。

裁判所に持っていく紙の事件記録などに、依頼者の氏名を記載していたら、相手に見られてしまうリスクがあります。

紙のファイルに氏名を記載しないようにしないといけないでしょうし、委任契約書や本人宛の封筒・ラベルなども裁判所には持っていかない方が無難でしょう。

民事裁判によっては、相手方の弁護士とファイルをメールでやりとりすることもありますが、ここでも依頼者名を記載しないようにしないといけません。文書ファイルの本文には氏名を書かないように意識したのに、ファイル名に入れてしまうなどのミスをしそうです。

 

本人の氏名を、検索キーとして利用している場合に、その運用を変更しなければならないことも想定されます。

DV事件を専門に取り扱っている弁護士事務所などでは、事件ファイルが「代替氏名A」ばかりになってしまい、見分けがつかなくなるのではないでしょうか。

別のミスが発生してしまいそうです。事件番号を絡めた仮のキーワードを設定するなどしたほうが良さそうな気がします。

 

 

秘匿決定等の取消し

制度の説明に戻ります。

秘匿決定も、事情が変わるなどした場合には取り消されることがあります。

また、一定の事情がある場合、相手方等からの閲覧許可が認められてしまうこともあります。

その場合、当事者はそれに応じた書面を別に提出する必要が出てきます。

差替える義務ですね。

 

秘匿事件と債権差押の供託

預金差押などの場合、第三債務者(銀行等)から債権者に差し押さえられた預貯金を送金します。

このように支払の際に銀行振込がされると、そこで、口座名から債権者の氏名がわかってしまうことがありえます。

債権者が秘匿手続を利用している場合、直接の銀行振込ではなく、供託命令によることができます。

 

執行裁判所は、差押債権者の申立てにより、差押えに係る金銭債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託すべきことを第三債務者に命ずる命令を発することができるとしています。

供託命令に対しては、不服を申し立てることができないとされています。


第三債務者は供託、債権者は供託所から支払いを受けます。

ここでも、供託所から支払を受ける際の本人確認がどうなるのか、運用が気になります。

各手続きの中で、代替氏名と真実の氏名とを結びつける証明書のようなものがないと混乱しそうです。

 

家事事件の秘匿制度

民事裁判の秘匿制度は、家事事件でも使われます


家事事件手続法第38条の2に読み替え規定があります。

民訴133条の2第2項による記録中の秘匿事項等の閲覧制限に関する規定はありませんが、もともと家事事件における記録の閲覧制限は、家事事件手続法の47条や254条に書かれているためです。

 

秘匿裁判の活用分野

民事裁判等の秘匿制度については、DV、性犯罪等を想定したものと言われます。

実際に、この分野では、刑事裁判でも、被害者を特定するような情報を秘匿する取り扱いもされています。

ただ、秘匿の要件は漠然としたものなので、運用によっては広く使われる可能性もあります。

個人的には、ネット社会による誹謗中傷などで使いたいという人が多い制度なのではないかと感じます。

ネット上では、実際の氏名と異なる名前で活動されている人も多く、氏名を知られる制度の活用に抵抗を示す人が多いからです。

 

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