詐欺被害で口座名義人に全額請求できるとした裁判例を弁護士が解説

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Q.詐欺被害で口座名義人に全額請求できる場合は?

被害回復が難しい詐欺で、比較的回収できる可能性が高いのが、預金口座名義人からの回収です。預金口座に残高がある状態で押さえられたら、その後は、民事裁判で損害賠償請求をし、勝訴判決をもらえば回収できます。

ただ、ここで、その口座への送金額以上に請求できるかが問題になります。

これを認めた裁判例も出ていますので、内容を把握し、その手法を活用できるようにしておくと良いでしょう。

今回、紹介するのは、名古屋地方裁判所令和4年10月25日判決です。

この記事は、

  • 詐欺被害で、銀行送金してしまった人
  • 口座名義人への請求をしたい人

に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2023.4.21

 

ロマンス詐欺の返金

いわゆる国際ロマンス詐欺における口座提供者に対する責任追及訴訟で、損害額が問題になった判例です。

この類型の詐欺事件では、詐欺グループが多数の口座情報を集めています。

そして、詐欺のきっかけになったアプリやLINEからは、契約者の情報が開示されていません。今のところ弁護士法23条照会にも応じなかったり、十分な情報がなく回答できないとされることが多いです。

そのようなマッチングアプリやLINEを多用し、自らに足がつかないようにして、詐欺を展開しています。

結果として、詐欺グループの首謀者を特定することは極めて難しいのが現状です。

わずかに、被害回収ができそうなのが、支払が銀行送金だった場合の預金口座提供者です。

 

預金口座に対する責任追及の理論構成

預金口座を提供した者に対しては、損害賠償請求訴訟において、少なくとも過失により、詐欺に加担していること及び被害額に対する責任を負うとの主張をします。共同不法行為という理論構成です。

そこで、口座名義人からあり得る反論が、自分名義の預金口座に送金された金額しか賠償責任を負わないはずだという主張です。

たとえば、全体として500万円の被害に遭った事件で、5箇所の銀行口座に100万円ずつ送金したという事例があったとします。名義人からは、自分が損害賠償責任を負うのは自分名義の口座に送金された100万円だけだという反論がありえるのです。

 

仮差押からの訴訟提起

このような事件では口座から出金され、残高がなければ回収がしにくいです。

そこで、裁判前に仮差押をしておく方法が使われます。

この事例でも、被害者は複数の口座を指定され送金していたようです。

担当弁護士は、これらの口座のうち、口座残高が10万円以上の口座開設者3名を相手に仮差押。

被差押債権額を口座残高に限定したとのことです。

仮差押申立てを行った上で、訴訟を提起。

2名に対しては判決が出され、強制執行を申し立てにより口座残高については全額回収。

残る1名が争ってきました。

被告名義の口座に対する被害者の振込額は96万円。

その口座残高は約220万円。

口座残高全額について損害賠償請求を行ったとのことです。先行した仮差押えは約220万円で決定が出されています。

被害者としては被害回復を最大にするためにも、残高を全額回収したいところ。名義人としては、自分の口座に振り込まれたのは96万円なのだからそれしか責任を負わないと主張。

 

裁判所の釈明

担当弁護士の報告によれば、弁論期日において、裁判所から、振込額を超えて被告が責任を負う理由がないのではないかとの釈明があったとのこと。

詐欺事件で、同様の指摘をされたこともあります。

 

調査嘱託

そこで、本件では、振込口座の取引履歴を調査嘱託により取り寄せたとのこと。

そうしたところ、同口座には、1日当たり数百万から一千万円以上の入金がなされ、ATMの1回の出金額は200万円で、その日の振込額全額か、1日当たりのATM出金限度額(1000万円)まで、繰り返しATMで出金が行われていたこと等が判明。

いかにも・・・な口座だったわけです。

裁判所も、口座提供者が身体認証キャッシュカードを利用して出金を行っていたこと、名義人である被告が本件犯罪に関与していたことを認め、被害額全額について関連共同性を有すると認定。

口座残高全額について、請求を認容した判決を出しました。

 

裁判所も共同不法行為を認定

本件サイト運営者らは、原告に対して架空のFX投資話を持ち掛け、原告に必ず儲かると誤信させ、本件サイトに登録をさせ、本件サイトを通じて指定する銀行口座に金銭を振り込ませるという欺罔行為により、

令和3年6月14日に10万円、同月16日に20万円、同月21日に10万円、同年7月5日に110万円をそれぞれ被告以外の者の名義の通常貯金口座に振り込ませ、

同年6月25日に16万円、同月28日に80万円をそれぞれ本件口座に振り込ませ、

同月30日に20万円、同年7月2日に200万円をそれぞれ三井住友銀行城東支店の被告以外の者の名義の普通預金口座に振り込ませ、

合計466万円の損害を生じさせたものと認められる(以下「本件詐欺」という。)から、

本件サイト運営者らは、原告に対して上記の466万円について共同不法行為に基づく損害賠償責任を負うと指摘。

 

原告は、被告が本件詐欺において単なる口座提供行為にとどまらない重要な役割を担っていたことから、本件詐欺の被害全体について、本件サイト運営者らとともに共同不法行為責任を負うと主張。

本件口座は令和3年6月22日から同年7月1日までの間、本件サイトを利用した詐欺の入出金に利用されており、合計5417万8181円の被害金の入金があったところ、

被告は、振り込まれた被害金の全額について身体認証キャッシュカードを利用して自ら出金し、それを本件サイト運営者らに交付するとともに、原告以外の被害者5名に対して本件サイトの利用が詐欺の手段であることを気づかせないためのいわゆる撒き餌として本件口座から上記被害者らの預金口座に対して自ら送金を行っていたと認定。

これらの事実に加え、被告は、本件の詐欺被害全体について被告が共同不法行為責任を負う旨を具体的に主張した原告の準備書面1について送達を受けたにもかかわらず、それに対する認否反論を記載した書面を提出せず

また、原告の申出に係る本人尋問に関し、個別具体的な尋問事項が記載された尋問事項書の送達を受け、当裁判所から適式な呼出しを受けたにもかかわらず、正当な理由なく期日に出頭しなかったことをも併せ考慮すれば、

被告が本件口座を本件サイト運営者らに利用させた行為は、原告に対する故意又は過失による不法行為であり、本件詐欺の全体について、本件サイト運営者らの不法行為との間で関連共同性を有するものであると認めるのが相当と指摘。

 

以上によれば、本件サイト運営者らと被告は、本件詐欺に関し、原告が本件口座に送金した96万円のみならず、ゆうちょ銀行四〇八支店の通常貯金口座に送金した150万円及び三井住友銀行城東支店の普通預金口座に送金した220万円についても共同不法行為に基づく損害賠償責任を負うと認めました。

 

原告はその一部として232万円を請求することから、当該一部請求の範囲で原告の請求は全て認められることになるとまとめています。

 

まとめ

経緯を見る限り、答弁書など最初の書面だけ出して、裁判には来ずに放置、尋問申請も無視という態度だったようですね。この点も考慮されているとは思いますが、犯罪に利用されているような預金口座だと考えるのであれば、調査嘱託などで実態を示して、送金額を上回る責任追及が有効に働くこともあるということになります。


 

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