算定表以上の高収入での婚姻費用を計算した裁判例を弁護士が解説

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FAQ(よくある質問)

 

Q.算定表以上の高収入での婚姻費用は?

婚姻費用は算定表で算出されますが、この上限額を上回っている高額所得の場合、どのように計算するのか事例によって異なります。

このような高額収入の世帯では、複数の裁判例を分析したうえで、主張を組み立てる必要があります。

今回の事例では、夫の年収が約7000万円となっており、家裁と交際でも金額が大きく変わっています。

大阪高等裁判所令和4年2月24日決定です。

 

この記事は、

  • 高収入世帯での婚姻費用で争っている人
  • 習い事が多い家庭での婚姻費用で争っている人

に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2023.5.1

 

医者の婚姻費用

妻が、別居中の夫(開業医)に対して、婚姻費用の分担金の支払いを求めた事件です。

通常、婚姻費用分担金の計算は、収入者と支払者の総収入から、税法などに基づく標準的な割合で公租公課や職業費、特別経費を差し引いた基礎収入を出します。
夫婦の収入の合計額を、生活保護基準などから求められる標準的な生活費指数で収入者と支払者の世帯ごとに按分し、収入者世帯の基礎収入から支払者の基礎収入を差し引いて、支払者が分担すべき費用の額を算出する方法が一般的です。

しかし、この標準的な計算方法は、給与所得者の場合は2,000万円、自営業者の場合は1,567万円までの収入に対応しているものです。

これを超える高額収入の場合に支払者が分担すべき結婚費用をどのように計算すべきかについては複数の考え方があります。
家庭裁判所の実務では、標準的な計算方法を用いる方法と、夫婦の同居時や現在の生活状況などから婚姻費用を計算する方法に分かれます。

本ケースでは、夫の収入は、家庭裁判所では約5,979万円、控訴審では約7,481万円と認定されています。


家族構成と収入

結婚後、妻は夫の前妻との間に生まれた知的障害のある子と養子縁組。
さらに、夫との間に3人の子供をもうけました。
また、夫には別に認知した2人の子供がいました。
その母親に対して月額12万2,000円の養育費を支払っていました。

妻は結婚生活が悪化し、4人の子供とともに自宅を出て夫と別居。

夫は開業医で、別居前後に自営収入と給与収入を得ています。
妻が婚姻費用分担調停を申し立てた後、夫は50万円を支払ったものの、その後は一切支払っていませんでした。

妻は、大阪家庭裁判所に、婚姻費用の分担を求める調停を申し立てたほか夫婦関係調停調停(離婚調停)を申し立て。

調停不成立により審判に。

 

家庭裁判所の判断

家庭裁判所は、妻が無職であるものの、年収50~60万円程度の収入が得られる能力があると判断しました。潜在的稼働力の論点です。

一方、夫の自営年収は約5,979万円と認定。
夫は標準的な計算方法が対応する収入の上限額の約4倍の高額所得者であり、職業費や特別経費、貯蓄率に関する標準的な資料がないため、標準的な計算方法を使用することが難しいと判断。
そこで、夫婦が同居していた時の生活水準や生活費の支出状況、別居後の妻の家計収支や生活状況などを考慮し、夫が支払うべき婚姻費用分担額を決定することが適切だとし、別の方法を採用。

その結果、同居時の生活費支出状況や、妻が述べる別居後の家計支出が月額92万円程度であること、妻に僅かな収入が得られる能力があることなどを考慮し、夫が妻に支払うべき結婚費用分担金の額を月額85万円と認定しました。

夫と妻はそれぞれ不服申立て。


高等裁判所の判断

抗告審では、妻の収入能力を否定し、無収入と認定。潜在的稼働力による収入認定は否定したものです。

また、夫の自営収入を約7481万円と認定。

最終的に、夫が妻に支払うべき婚姻費用分担金は月額125万円とするのが適当と判断されました。

 

 

妻の収入はゼロと認定

別居前に本件病院で専従者給与を受領したことを前提に、令和2年度の課税所得証明書では830万円の給与収入を得たとされている。
しかし、別居後は就労しておらず、令和3年度の課税所得証明書では無収入。

これに対し、夫、妻の従前の就労状況からして、妻は少なくとも月額13万円程度の給与収入を得る稼働能力があると認定されるべきであると主張。

しかしながら、妻は、本件別居後、知的障害等を有して拘りが強い子や低年齢の3子を独りで養育しており、子らの多数の習い事への付き添いもあるため、一般家庭に比して格段に家事や育児の負担が大きい状況にあると認められると指摘。
このほか、子らがコロナウイルス感染症の影響で在宅することが少なくないことを併せ考えると、現時点で妻に就労を求めるのは現実的とはいえないとしました。

また、夫は、妻が子らに係る児童手当、特別児童手当や各種の特別給付金を受領しており、婚姻費用の算定においてこれらを考慮すべきであると主張。
妻は、夫が高額所得者であるために特別児童手当を受給できていないほか、そもそも児童手当は児童の福祉という政策目的で私的扶助を補充する意味合いで支給されるもので、子育て世帯に対する特別給付についても同様であるから、これらの受領をもって婚姻費用の算定に際して収入として算入するのは相当でないとして主張を排斥。

したがって、妻は無収入と認めるのが相当としました。

 

夫の収入

夫は本件病院の開業医として事業収入を得ているほか、給与収入、不動産収入等、多数の収入を得ていると指摘。

本件別居後の令和2年分の確定申告書Bによれば、営業等収入1億6989万6820円から売上原価2466万7249円、諸経費合計7335万4304円、貸倒引当金122万7770円を控除した事業所得が7189万2073円とされています。

これを踏まえ、事業所得7189万2073円から社会保険料149万0104円を控除し、貸倒引当金122万7770円及び青色申告特別控除額65万円を加算した7227万9739円が同年分の事業収入と認められると指摘。

そして、不動産収入60万円、雑収入8万1514円を加算するほか、給与収入249万1400円を事業収入に換算した約185万円を加算。
令和2年分の原審相手方の事業収入の合計は7481万1253円と認定。

これに対し、妻は、減価償却資産に係る必要経費算入額も事業収入として加算されるべきであると主張するが、各確定申告書の添付書類によれば本件病院に関して相当額の減価償却を考慮する必要があると認められるから、同主張は理由がなく、採用できないとしました。

 

株式や不動産収入の判断

妻は、夫に株式売却や所有不動産の売却に伴う収入があるなどと指摘。
確かに、確定申告書の添付資料をみると、上場株式等の譲渡につき2456万5417円の収入や不動産売却に係る譲渡所得の記載が確認できると言及。しかしながら、前者の譲渡所得が約18万円に留まり、後者の譲渡所得額がマイナス計上とされるなど詳細が明らかでないほか、仮にこれらの取引で夫が収入を得ていたとしても一時的なものに留まるから、婚姻費用算定の前提となる収入認定においては考慮しないとしました。

 

別居後の家計支出状況

妻は、世帯の家計収支表、添付資料を提出。
住居費14万1400円、食費20万0401円、公共料金等合計4万2253円、被服費等4万5759円、医療費等2万9600円、子らの教育費39万9879円、雑費4万8233円、交通費4310円、税金4万8400円、保険料等6万0390円の合計102万0625円を支出したと認定。

この支出は相応の合理性を有していると指摘。
このうち、子らの教育費が占める比率が大きいとみられるので、その合理性について、さらに検討。

高等部に進学する今後の学納金や、必要な準備費用。
長男につき、ピアノ教室に年額16万4000円、サッカー教室に年額約9万8000円、そろばん教室に年額約6万5000円、学習塾に年額約52万3000円、囲碁教室に年額6万3000円、英語教室に年額約19万4000円で、同年度の支出合計は約110万7000円を認定。

二男(年長)、三男(年中)が在園する幼稚園に要した費用は、令和2年度が二男につき約72万9000円、三男につき約74万6000円と認定。

二男のその余の支出は、ピアノ教室に年額16万4000円、サッカー教室に年額約9万8000円、学習塾に年額48万5000円、絵画教室に年額8万9000円、囲碁教室に年額約6万3000円で、同年度の支出合計は約90万円と認定。

三男のその余の支出は、ピアノ教室に年額16万4000円、サッカー教室に年額約9万8000円、学習塾に年額約37万6000円、絵画教室に年額約8万円、囲碁教室に年額約6万3000円、演劇教室に年額約20万2000円で、同年度の支出合計は約98万3000円と認定。

以上によれば、子らに要する教育費は、認定したものに限っても、令和2年度が合計459万8000円、令和3年度が合計374万2000円であり、月額約31万円から約38万円と算出されるから、子らの教育費はおおむね合理性があるといえるとしました。

習い事と婚姻費用

 

習い事に反対という主張は排斥

これに対し、夫は、妻との同居中、子らに対して塾通い等の上記習い事をさせることに消極的であった、教育費の支出が一般家庭に比して大きく逸脱していると主張。

しかしながら、子らが在学する学校や幼稚園、習い事に関する大半は同居中から継続的に家計から支出されているものと推認されるところ、夫が同居中にそのような支出を不相当と考えて制限していたような事情は見当たらないと指摘。
また、夫の学歴、社会的地位や一般家庭に比して高額の年収にかんがみれば、子らに関する各支出負担が家計を維持する上で特段の問題があるとは認められないとしました。

 

高額所得の修正

婚姻費用の額を算定するに当たっては、令和元年度作成の改定標準算定方式によるのが相当。

妻が無収入である一方で、夫の事業収入は年額7481万1253円に及ぶから、高額所得者である夫が、自分の生活を保持するのと同程度の生活を被扶養者に保持させる義務(生活保持義務)として、妻に対してどの程度の婚姻費用を分担すべきかが問題となるとしています。

そして、改定標準算定表においては義務者の自営年収の上限が1567万円までしか想定されていないところ、夫の事業収入が上限の5倍近くになることからすると、本件で単純に改定標準算定表を用いることはできないとしています。
また、上限からの超過額が甚だしいことに照らすと、当該上限(1567万円)をもって夫の事業収入と擬制するのは相当でないと指摘。

そこで、夫婦分に相当する基礎収入を算定し、これを生活費指数で按分するという本件算定方式を維持した上で、高額所得者である夫においては総収入から控除する税金や社会保険料、職業費及び特別経費について、夫における事業収入の特殊性を踏まえた数値を用い、さらに一定の貯蓄分を控除して、同人の基礎収入を修正計算するのが相当であるとしました。

検討するに、原審相手方の令和2年分の事業年収7481万1253円は収入認定に際して約149万円の社会保険料を控除済みであるから、同年分の申告所得税1904万7800円を控除すると5576万3453円となると算出。

これに対し、職業費、特別経費については年収2000万円以上を区分して集計した統計がないので、家計調査年報の収入階級区分の数値を踏まえて近似値を採用するほかなく、いずれも年間収入階級が1500万円以上の場合の統計数値に基づき、職業費については実収入比13.35パーセント、特別経費については同13.67パーセントを控除するのが相当としました。
したがって、職業費について998万7302円、特別経費について1022万6698円を前記アの5576万3453円から控除すると、その残金は3554万9453円となるとしています。

さらに、本件においては貯蓄分を控除する必要があると指摘。
これは、高額所得者の場合、その収入から貯蓄等の資産形成に回る割合が増え、生活費割合が低減すると考えられるからであるとしています。そして、貯蓄率については高額所得者の収入に応じた統計があるわけではないから、全収入区分の貯蓄率(19.8パーセント)や夫の年額収入が7481万1253円と高額であること及び同種事案の裁判例等を踏まえ、本件では事業収入から税金を控除した5576万3453円の26パーセントに当たる約1449万8497円を相当な貯蓄分と認め、残金3554万9453円から当該貯蓄分を控除した2105万0956円を夫の基礎収入と認めるのが相当であるとしました。

ところで、夫は、妻を母としない認知子2名の養育費としてその母親に年額146万4000円を支払っているから、同額を基礎収入から控除した1958万6956円を夫の修正基礎収入とするのが相当であると結論づけています。

 

 

婚姻費用の計算式

本件算定方式に基づいて計算すると、婚姻費用分担額は、以下のとおり月額約128万円と算出。
(計算式)
(19、586、956+0)×(100+85+62×3)/(100+100+85+62×3)
=15、428、366 15、428、366÷12=1、285、697

 

婚姻費用の修正

高額所得者に係る婚姻費用の算定においては、同居中の世帯支出の状況を参考にすることが多いが、本件においては、同居中の本件世帯の家計支出が恒常的に月額100万円を上回っていたとは認められるものの、同居中に使用されていた夫名義のクレジットカードの同居中の利用状況の詳細が夫によって明らかにされておらず、当時の家計支出の詳細が不明であるため、これをしん酌するのは困難。

とはいえ、現在の妻世帯の支出状況をみるに、月額100万円を超える支出が認められるほか、令和4年4月以降は進学に伴って更なる出費が予想されることなどの諸事情にかんがみると、前記の算出結果をそれほど減額修正する必要はないというべきであるとしています。

以上を踏まえ、夫は、妻に対し、令和2年1月以降、月額125万円の婚姻費用を支払う義務を負うべきであり、同月から令和4年1月まで(25か月)の合計額は3125万円となるとしました。

 

婚姻費用前払いの主張は排斥

夫は、妻が本件別居後に費消した夫名義の約1239万円の預金につき、夫からの婚姻費用の前払と取り扱われるべきであると主張。

しかしながら、婚姻費用分担額は、元々夫婦の継続的な収入に基づいて算定されるべき性質のものであり、本件でも義務者である夫が高額の年収を継続的に得ている以上、夫婦共有財産の費消については離婚時の財産分与で清算すれば足りるから、本件で婚姻費用の前払として取り扱うことは相当でないとして排斥しました。

 

有責性による減額主張は排斥

夫は、本件別居は妻の不貞が原因であり、本件申立ては権利の濫用であるから、夫は子らに支払うべき養育費相当額の限度で妻に婚姻費用を支払えば足りると主張。
しかしながら、夫が提出する妻が知人男性に送信したメールをみても、不貞を裏付けるものとはいえないと指摘。
また、同メールは夫婦が婚姻して間もない平成25年当時のやりとりに過ぎず、その後の婚姻破綻や本件別居に結び付くものでないことは明らかであるとしました。
そして、本件で婚姻費用の分担を求めることが権利濫用に当たると解すべき事情はないから、主張は理由がないと結論付けています。

不貞などが別居原因の場合には、配偶者分の婚姻費用請求が否定され、減額されることもありますが、本件では違うという判断がされています。

 

高額所得者の婚姻費用


高額所得者の婚姻費用分担金の算定方法は、いくつかあります。

改定標準算定方式・算定表を用いる方法のほか、夫婦の同居中及び現在の生活状況等の家計状態を反映して婚姻費用を算定する方法があります。

今回の判決では否定されていますが、改定標準算定表の総収入の上限をそのまま利用するという計算方法もあります。上限を多少オーバーしたくらいなら、大きく変わらないだろうということで、上限額を適用することもありますが、本件では5倍以上オーバーしているため、この計算方法は採用されていません。

標準算定方式のなかでも、公租公課等の他に貯蓄率も控除して基礎収入割合を修正する方法がとられています。

 

 

職業費の控除は妥当?

今回の判決をみて気になったのは、職業費について約999万円を控除している点でしょう。

自営業者の場合、改定標準算定方式では事業収入を算出する際に職業費は経費として控除されています。通常、想定されるような職業費は、すでに引かれているのではないかという疑問です。
今回の事例でも、約1億6989万円の営業等収入から約7335万円の諸経費を控除して約7189万円と算出されています。

事業収入からさらに統計に基づく職業費を控除すると、二重控除となってしまい、控除しすぎなのではないかと思われます。

妻としてはこの点を不満に感じるでしょう。

 

算定表を上回る高額所得者の婚姻費用が問題になっている人は参考にしてみてください。


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弁護士 石井琢磨 神奈川県弁護士会所属 日弁連登録番号28708

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