FAQよくある質問
FAQ(よくある質問)
Q.民事裁判の移送とは?
民事裁判の訴状が届いたものの、裁判所が遠いという場合に、移送の申立を検討してみると良いでしょう。
認められることが多いとはいえませんが、申立自体はマイナスにならないので、理由があるのであれば、近い裁判所に移せないか申立をしてみるのは一つの方法です。
裁判を別の裁判所に移すことを移送と呼びます。今回は移送について解説します。
この記事は、
- 遠い裁判所で民事裁判を起こされた人
- 近くの裁判所で民事裁判をしてほしい人
に役立つ内容です。
裁判の移送とは
「移送」とは、一つの裁判が特定の裁判所に所属している状況から、その裁判を他の裁判所に引き渡すプロセスを指します。裁判自体の担当が、他の裁判所に移動するイメージです。
移送は、裁判所の決定によって実行されます。
特に、関係者が地理的に離れた場所にいる場合、どの裁判所で裁判を行うかは大きな問題となります。
民事裁判の流れとして、裁判を起こす側は、自分にとって便利な裁判所で裁判を始めます。裁判所に訴状を出せば、とりあえず、裁判はその裁判所に係属します。
そこから他の裁判所に移されるのが移送のプロセスです。
移送の種類
移送には以下のような種類があります。
管轄外の移送
訴えを提起した裁判所がその事件の管轄を持たない場合、適切な裁判所で提起されていない場合、その裁判所は管轄外だと判断し、管轄を持つ別の裁判所に移送を行うことがあります。
遅滞の回避や当事者間の公平性の移送
裁判所の管轄は1つに決まっているわけではありません。複数の裁判所が管轄を持つ場合、裁判の進行が著しく遅れる可能性がある裁判所で裁判を行うのは良くないとして、他の裁判所に移送することができます。裁判所、当事者、証人の立場などが考慮されます。
その裁判で、争点があり、当事者尋問・証人尋問が複数されそうだけど、尋問予定者がみんな遠方で他の裁判管轄にいる、という場合には、この移送がされることも。
簡易裁判所から地方裁判所への裁量による移送
簡易裁判所は、その管轄内の訴訟全体または一部を地方裁判所に移送することができます。
簡易裁判所は少額の裁判を扱うだけでなく、比較的、簡易な事件を取り扱うものとされています。
争点が複雑だったり、専門的な内容になってきた場合に、地方裁判所に移送されることもあります。
必要的移送
提訴された裁判所に管轄があっても、当事者の申立てと相手方の同意がある場合、裁判所は原則として訴訟をその地方裁判所または簡易裁判所に移送します。
不動産に関する訴訟で、被告の申立てがある場合も、簡易裁判所から地方裁判所への必要的移送がされます。
移送の趣旨
移送のルールは、裁判の公平性と効率性を維持するために存在します。
移送は、裁判が適切な場所と時間で行われ、関係者が必要な情報や資源にアクセスできるようにするための重要なメカニズムです。
本来は、当事者の一方にだけ大きな負担が出る事態は望ましくないです。しかし、関係者全員が遠方だと、裁判の負担も大きく、裁判も円滑に進まないおそれがあります。
移送の判断の際には、これらの要素が検討されます。
移送への不服申立
移送の決定または移送申立ての却下に対しては、即時抗告ができます(民事訴訟法21条)。
移送の決定が確定すると、移送先の裁判所はその決定に縛られ、元の裁判所に戻すことはできません
。さらに移送先の裁判所は他の裁判所に再移送することもできません。
訴訟は最初から移送を受けた裁判所で起こされたものとみなされます。
裁判管轄
裁判を始める場合、どの裁判所で手続きを行うべきかという問題が出てきます。この、裁判所が取り扱う事件の範囲を「管轄」と呼びます。
民事訴訟法には管轄を決めるためのさまざまなルールが存在します。
たとえば、お金を払う金銭債務の場合、「義務履行地」が管轄裁判所とされます。金銭債務の「義務履行地」は、「債権者の住所地」が基本となります。
また、被告の住所にも管轄はあります。
不法行為の事件では、原告の住所でも被告の住所でもない不法行為地にも管轄があります。交通事故現場のような場所です。
遠方で裁判を起こされた場合
遠方の裁判所から訴状や呼出状が送られてきた場合に、まず検討するのが移送です。
もし、自分の近くの裁判所で対応してもらえるなら、そのほうが負担は減ります。
そこで移送申立てを行うことを検討します。
ただし、当然ながら原告にもどこで裁判を起こすのかの選択権があります。移送申立ては必ず認められるものではないです。むしろ認められることは少ないです。ただ、認められた場合のメリットは大きいので、可能性があるなら検討してみても良いでしょう。
移送申立書の内容
移送をしてほしい場合には、移送申立書を提出します。
そこには、移送の理由を書きます。
移送申立書は、訴訟を移送する理由を詳細に説明した文書です。
移送申立書は、正本と副本を各1通作成し、合計2通を裁判所に提出します。副本は原告に送られるものです。
これに対して相手からの反論があることもありますので、再反論ができるように控えも取っておきましょう。
移送申立書の提出方法は、裁判所に直接持っていくか、郵送で行います。
移送申立書は答弁書よりも先に、または、答弁書と同時に提出することができます。移送申立の判断を早くしてほしい場合には、まず移送申立書を出したほうが良いでしょう。
答弁書提出により応訴管轄だとされることもありますので、記載方法は気をつけましょう。
移送申立書を提出すると、事案によっては、決定された第1回口頭弁論期日が取り消され、移送の判断がなされるまで保留される場合もあります。移送するか裁判所が真剣に考えている場合といえるでしょう。
裁判出席の負担
移送がされるかどうかは裁判を有利に進められるかどうかに関わってきます。
その前提として、裁判では、裁判所に行かなければならない場面があります。
ただ、第一回口頭弁論期日については、被告は、事前に答弁書を提出していれば、自分が出席しなくても、答弁書の主張を法廷でしたことにできます。擬制陳述と呼ばれます。
しかし、地方裁判所での民事裁判の場合、一度目の口頭弁論の後の擬制陳述は認められていません。
そのため、原則として期日に出席する必要があります。
ただし、弁論準備手続きに付された場合、電話会議システムを使用して対応することも可能です。また、少しずつ、インターネットを利用した裁判も導入されています。
とはいえ、証人尋問や本人尋問などの証拠調べは、今のところ、裁判所の法廷で行われますので、その場合は裁判所に出向く必要があります。
裁判所が遠方の場合には、交通費・宿泊料などのコストがかかることもあり、裁判が長引けば長引くほど負担が増えてしまう関係となります。
なお、簡易裁判所の場合には、第一回の口頭弁論以降も陳述擬制が認められています。しかし、尋問や証拠調べのために出席しなければならない可能性があることは、地方裁判所と同じです。
遠方での裁判と依頼する弁護士
遠方の裁判所で裁判を起こされた場合に、どの地域の弁護士に依頼すればよいかと質問されることも多いです。
専門的な内容ではなく、広く一般民事を取り扱う弁護士なら対応できる事件を前提にした場合、地域だけでどちらを選べばよいかという質問です。
選択肢として
①自分の住所に近くの弁護士
②裁判を起こされた裁判所の近くの弁護士
があります。
①の自分の住所近くの弁護士に依頼した場合、打ち合わせなどの面談がしやすいです。一方で、弁護士が遠方の裁判所に出向くための交通費や日当が発生します。電話会議等を利用できれば、その分の費用は発生しないですが、上記のとおり、一部の手続きでは出席が必要になるでしょう。
②の裁判所の近くの弁護士に依頼した場合は、弁護士への交通費・日当等の支払は少なくて済みます。一方で、弁護士との打ち合わせをするには、対面だと、自分が遠方まで行かなければならず交通費や時間がかかります。
オンラインでの打ち合わせができる弁護士であり、かつ、自分もオンラインで気にしないのであれば、この点は問題にならないでしょう。
結局は、裁判での移動コストがどれくらいかかるか、どのような打ち合わせを希望するかがポイントになります。
意図的に相手に負担をかける裁判
民事裁判では、相手のコストも意識しておく必要があります。
たとえば、自分が裁判管轄を選べる立場の場合、相手の住所地から離れた裁判所で裁判をすることで被告の負担を増やし、裁判を長引かせるという発想があります。持久戦のようなイメージです。
しかし、移送の理由がある場合には、移送申立てがされ、裁判所が被告の住所地に移されることもあります。
被告としては、このような裁判に対しては「遅滞を避ける等のための移送」を求めることになるでしょう。
移送については、当事者間の経済的な格差、証人予定者の所在地などの事情が考慮されます。
管轄合意
契約に関するトラブルについて契約書で裁判所の管轄が合意されていることもあります。
その中でも、他の裁判所の管轄を認めない強い合意がされていることも多いです。
ただ、契約で、簡易裁判所の専属管轄とされていたとしても、地方裁判所に提訴することはできます。
判例によれば、地方裁判所の管轄区域内の簡易裁判所の管轄に属する訴訟が提起され、被告から該当簡易裁判所への移送申立てがあった場合においても、その訴訟を簡易裁判所に移送すべきか否かは、訴訟の著しい遅滞を避けるためや、当事者間の公平を図るという観点だけでなく、同法第16条第2項の規定の趣旨に基づき、広く該当事件の事案の内容に照らして地方裁判所における審理及び裁判が適当であるかどうかという観点から判断されるべきとされています。
貸金業者の簡易裁判所の管轄合意
訴訟の対象が140万円以上の場合は、通常、地方裁判所に訴訟を提起します。140万円未満の場合は簡易裁判所に提起します。
しかし、多くの貸金業者は契約に「本店、支店の住所を管轄する簡易裁判所」で裁判することと規定しています。このような特約がある場合、訴訟の対象が140万円以上でも簡易裁判所での裁判が認められます。
貸金業者が簡易裁判所で裁判を希望するのは、地方裁判所では弁護士を代理人になる必要があるのに対し、簡易裁判所では許可があれば従業員も法廷に立てるからです。
つまり、弁護士費用の節約が主な目的となります。
実際に、東京簡易裁判所などでは、開廷表を見ると、その部のほとんどの事件が同じ消費者金融を原告とする事件ということもあります。
貸金業者からの簡易裁判所での訴訟でも、内容を争うなどの方向性であれば、移送申立を検討するのも選択肢となります。
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