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FAQ(よくある質問)

 

Q.著作権侵害の類似性とは?

著作権侵害の問題は増えています。特に画像生成AIにより、多数の画像がインターネット上に出てくるようになり、著作権侵害の話題も増えています。著作権侵害では、依拠性、類似性が問題となります。

このうち、類似性については、裁判所でも判断にばらつきが出ることが予想されます。そこで、少しでも予測精度を高めるためには、既存の裁判例を分析しておく必要があるといえるでしょう。

この記事は、

  • 著作権侵害による損害賠償請求を受けた人
  • 情報発信者

に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2023.7.22

 

著作権侵害と類似性

著作権侵害とは、著作権者の権利を無断で侵害する行為を指します。

これには、著作物の無断複製や公衆送信、改変などが含まれます。

類似性とは、ある作品が他の作品と似ている度合いを指します。著作権侵害の判断においては、作品間の類似性が重要な要素となります。依拠性、類似性が2つの重要要素と言われることも多いです。

作品が類似していると認められるためには、その作品が他の作品の「本質的な部分や特徴」を模倣している必要があります。また、その類似性が偶然生じたものであるか、あるいは意図的に他の作品を模倣した結果であるかも重要な判断基準となります。

 

類似性の判断基準とその適用例

類似性の判断基準は、具体的な事例を通じて理解することが最も効果的です。例えば、あるイラストが既存のイラストと似ている場合、そのイラストが著作権侵害に該当するかどうかは、既存のイラストを参考にしたかどうか、そしてその類似性がどの程度のものであるかによります。

ただし、ただ似ているだけではなく、「本質的な部分や特徴」が類似していることが重要です。

イラストの類似性判断でも、一般的な形状や色彩を使用した場合や、広く知られたテーマやモチーフを描いた場合などは、著作権侵害には該当しない可能性があります。

また、イラストが特定のスタイルや技法を用いて描かれている場合でも、そのスタイルや技法自体が著作権で保護されているわけではないため、それだけで著作権侵害を構成することはありません。

裁判所の判断にもばらつきが見られ、微妙な事案では、弁護士や裁判官によっても意見が違うことも多いです。

つまり、リスクや訴訟コストが見積もりにくいということになります。その中でも、過去の裁判例での判断を検証してみることが、数少ない有効手法といえるでしょう。

 

著作権侵害の法的な影響

著作権侵害となった場合は、法的な制裁を伴う可能性があります。

著作権侵害は、著作権者が動くかどうかで変わります。著作権者が容認している場合には、客観的には著作権侵害があっても、何も起きないことも多いです。

逆に、著作権者が動いた場合には、著作権侵害をした人には、損害賠償責任や刑事責任が発生することがあります。

金銭の支払義務や、刑事裁判により前科が付くリスクがあるということです。

著作権

 

 

類似性に関する裁判例1

東京地方裁判所令和4年4月22日判決の紹介です。

【概要】
原告は、被告が制作したオンラインゲームが原告の画像の著作権を侵害したと主張。

原告は被告に対して、著作権侵害を主張し、差止めのほか1000万円以上の損害賠償請求をしました。

複数のキャラクター画像などで著作権侵害の主張がされ、類似性について判断されました。

キャラクターが似ている程度のものでは、類似性は否定されています。いくつか問題になった画像を裁判所の目録からピックアップしてみます。


複製又は翻案に関する判断枠組み

被告各画像が原告各画像を複製又は翻案したものに当たるというためには、原告各画像と被告各画像との間で表現が共通し、その表現が創作性のある表現であること、すなわち、創作的表現が共通することが必要であるものと解するのが相当である。

一方で、原告各画像と被告各画像において、アイデアなど表現それ自体ではない部分が共通するにすぎない場合には、被告各画像が原告各画像を複製又は翻案したものに当たらないと解される。そして、共通する表現がありふれたものであるような場合も,そのような表現に独占権を認めると,後進の創作者の自由かつ多様な表現の妨げとなり,文化の発展に寄与するという著作権法の目的(同法1条)に反する結果となりかねないから,当該表現に創作性を肯定して保護することは許容されず、その結果、複製又は翻案したものに当たらないと解される。

 

表現の同一性ないし類似性に関する判断

ア 原告画像1と被告画像1について

著作権類似性判例画像

著作権類似性判例画像

原告画像1と被告画像1は、①丸い眼鏡を掛けた茶色い体のふくろうのキャラクターが、左側の羽を広げ、右足を前に出して走っているようなポーズをとっている点、②上記ふくろうのキャラクターが、右側の羽で、先端に時計が付いた杖を握っており、上記時計は小屋のようなデザインであり、屋根は青色で壁は茶色である点、③上記ふくろうのキャラクターは、黄色い花と白いボアが付いた茶色の帽子をかぶり、青色と茶色のボーダー柄のマフラーのようなものを首に巻いている点において同一であると認められる。そして、上記①ないし③については、いずれも表現において創作性があるということができるから、原告画像1と被告画像1は、創作的表現が共通するものと認められる。
したがって、被告画像1については、原告画像1を複製したものに当たると認めることができる。

 


イ 原告画像2と被告画像2について

著作権類似性判例画像

著作権類似性判例画像


(ア) 原告画像2と被告画像2は、画面の中央に、猿をモチーフにした赤い顔のキャラクターを配置した点、同キャラクターは、向かってやや右肩下がり方向に傾きつつ、画面の上下方向に延びた、キャラクターの体長よりも長い棒を右手で握り、右足を左足よりも上にして上記の長い棒に掛けるような態勢で立っている点、上記キャラクターが、首周りに数珠を巻き、腰にベルトを巻いている点において、共通すると認められる。

しかし、猿をモチーフにしたキャラクターを描くこと自体は、アイデアにすぎない。また、猿のキャラクターとして、赤い顔を描いたり、細長い棒を手に持った様子を描いたりすることは、他の作品にもみられるように、ありふれた表現であって、創作性が認められない。さらに、原告画像2と被告画像2に描かれた数珠やベルトは、形状や色において表現に具体的な相違が見られるから、数珠やベルトを身に着けているというアイデアが共通するにとどまるものである。

 


ク 原告画像8と被告画像7について

著作権類似性判例画像

著作権類似性判例画像
(ア) 原告画像8と被告画像7は、4つの赤い円形のアイコンが並んで配置されている点、上記アイコンの内部には、全体として赤及び黒によって模様が描かれている点、原告画像8の一番左のアイコンと被告画像7の一番下のアイコンの中には、鎌のような刃物を前に抱え、左を向き、一方の足を伸ばし、他方の足を曲げた格好の人影の模様が黒く描かれている点において、共通すると認められる。

しかし、原告画像8では、4つの赤い円形のアイコンが横一列に並んで配置されているのに対し、被告画像7では縦一列に並んで配置されているから、4つの赤い円形のアイコンが並んで配置されているという共通点は、具体的な表現において異なっており、アイデアが共通するにすぎない。同様に、アイコンの内部に全体として赤及び黒によって模様が描かれているという共通点や、鎌のような刃物を前に抱え、左を向き、一方の足を伸ばし、他方の足を曲げた格好の人影の模様が黒く描かれている共通点についても、具体的な表現に関する共通点ではないから、アイデアが共通するにすぎない。

(イ) これに対し、原告は、原告画像8と被告画像7は、①赤い円形のアイコンが4つ並んでいる点、②アイコンの中には絵が描かれている点、③原告画像8の一番左のアイコンと被告画像7の一番下のアイコンの中には、鎌を持った人影が、鎌を身体の前方に抱え左側を向き、片足を伸ばし、もう片足を曲げており、鎌を持った者の態勢と背景から左上に向かって飛んでいるように見える点、④原告画像8の一番右のアイコンと被告画像7の上から2番目のアイコンの中には鎌のような絵が描かれている点において極めて類似すると主張する。
しかし、上記①及び②については、前記(ア)のとおり、アイデアが共通するにすぎない。また、上記③の共通点についてみると、原告画像8の人影は専ら黒く描かれているのに対し、被告画像7の人影は、上半身及び鎌に当たる部分が白く縁どられていること、原告画像8の人影は頭巾のようなものを被り、体は服又は体型で太く描かれているのに対し、被告画像7の人影は頭巾のようなものを被っておらず、細い体型が描かれていること、原告画像8の背景部分は赤く渦のような形状が描かれているのに対し、被告画像7の背景部分は、人影を囲むように、人影の周囲及び足から先がやや明るくなっていて、人影が前方に向けてスピードを出して移動しているかのような印象を与えるように描かれているなど、具体的な表現には多くの相違点が存在する。したがって、上記③の共通点もまた、上記①及び②の共通点と同様、具体的な表現が共通するものではなく、アイデアが共通するにとどまるというほかはない。さらに、上記④の共通点が存在するとは認められない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 以上のとおり、原告画像8と被告画像7に共通する部分はアイデアなど表現それ自体ではない部分にすぎないか、表現上の本質的特徴を直接感得させるような共通点とは認められないから、被告画像7は、原告画像8を複製又は翻案したものには当たらない。

 

この判決では、明らかに同一キャラではないかと感じるようなレベルでないと類似性は否定されているようです。

 

 

類似性に関する裁判例2

テキストに関する著作権の類似性判断に関する裁判例です。

東京地方裁判所令和3年12月8日判決です。

この裁判は、原告が自身の著作物が被告によって無断で翻案されたと主張したものです。

著作者(原告)は翻訳家、フリーライター。

被告は、自動車等の製造販売等を目的とする株式会社。


原告は、二輪レース活動を行う被告の関連会社である株式会社ホンダ・レーシングと契約を結び、コーディネーター、外国人レーサーの通訳として活動。

原告は、被告の二輪世界選手権への再挑戦について、被告の関係者等に取材した実話に基づいて原告書籍を執筆。原告書籍は昭和63年10月31日頃に出版。
被告は、平成10年9月に創業50年を迎えるに当たり、社史の発行を企画。平成11年3月25日に被告社史(総頁数352頁)が発行。

原告は、社史には、自分の本の一部と酷似した記述が含まれていたとし、自身の著作物を無断で翻案し、その結果200万円の利益を得たと主張し、これを返還するよう求めた事案です。

しかし、判決は原告の請求を棄却しました。

社史が著作権侵害になるか、翻案該当性の中で、類似性も問題になりましたが否定しています。

 

裁判所における著作権侵害の判断枠組み

言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。

そして、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらないと解するのが相当である。
そうすると、本件社史部分が原告書籍を翻案したものに当たるというためには、原告書籍と本件社史部分とが、創作的表現において同一性を有することが必要であるものと解されるとしています。


したがって、原告書籍と本件社史部分との間で、事実など表現それ自体でない部分でのみ同一性が認められる場合には、本件社史部分は原告書籍を翻案したものに当たらないと指摘。
また、原告書籍と本件社史部分との間に、表現において同一性が認められる場合であっても、同一性を有する表現がありふれたものである場合には、その表現に創作性が認められず、本件社史部分は原告書籍を翻案したものに当たらないと解すべきであると指摘。

 

表現の同一性・類似性に関する判断

判決では、20箇所の類似性が問題だと主張されています。いくつかピックアップしてみます。

 

類似性判例

 

類似性判例


(ア) 原告書籍の番号1の記述は,原告書籍における当該記述の前後の文脈を踏まえると,被告従業員であったBが被告の二輪世界選手権への再挑戦の担当者になるとの内示を受ける前日に出身地を尋ねられた際のやりとりを記述したものであり,本件社史部分の番号1の記述は,本件社史部分における当該記述の前後の文脈を踏まえると,Bが上記内示の際に出身地を尋ねられたことを記述したものであると認められる。

これらの記述は,Bが上記内示を受ける際に出身地を尋ねられたことを内容とする点で共通しているが,このようなやりとりがあったことは事実にすぎないというべきであり,表現それ自体でない部分で同一性が認められるに留まる。また,出身地を尋ねるやりとりがあったことについて,原告書籍の番号1の記述では,「おいB,おまえ家は東京だよな」と記述されているのに対し,本件社史部分の番号1の記述では,「世間話の中で出身地を聞かれました。『東京です』と答えたのを覚えていますよ」と記述されており,それらの具体的な記述における描写の手法が異なるものとなっており,表現それ自体において同一性を有するとは認められない。


(イ) 原告は,原告書籍と本件社史部分に同じ事実が記述されていることについて,社史編纂委員会の担当者は原告書籍に記述された事実を原告書籍に依拠して知ったものであるから,翻案該当性が認められるべき旨を主張する。
しかしながら,前記(1)のとおり,本件社史部分に記述された事実が原告書籍に依拠したものであったとしても,原告書籍と本件社史部分の各記述が事実といった表現それ自体でない部分において同一性を有するに留まる場合には,原告書籍の翻案には当たらないと解するのが相当であるから,原告の上記主張は採用することができない。

(ウ) したがって,番号1の各記述について,創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。

 

類似性判例

 

類似性判例


番号7の各記述は,本件部門に,Fを中心とした「材料専門部門」ないし「材料グループ」が発足したこと,そのグループが破損した部品について破損の原因を分析する役割を担っていたことを内容とする点で共通する。

しかしながら,上記の内容はいずれも事実にすぎないというべきであり,表現それ自体でない部分で同一性が認められるに留まる。また,番号7の各記述においては,「材料専門部門」ないし「材料グループ」の作業内容等の記述について,具体的な記述における描写が異なっており,表現それ自体において同一性を有するとは認められない。
したがって,番号7の各記述について,創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。

 

(3) 前記(2)のとおり,番号1ないし20の各記述において,本件社史部分が原告書籍と創作的表現において同一性を有するとは認められないから,依拠性について検討するまでもなく,被告社史中の本件社史部分は原告書籍の翻案に該当するものではない。

 

原告としては、社史の内容が、自分の本に書かれている情報を相当に使っているものと感じ、著作権侵害だと主張したのでしょう。しかし、原告の主張に基づく対比表の該当部分は、ピックアップされた事実が類似しているというもので、表現自体が似ていると感じる部分は少なかったです。

この判決でも、類似性→依拠性という2つの問題がクリアされると著作権侵害という判断枠組みが採用されていることが分かるでしょう。

 

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