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FAQ(よくある質問)

 

Q.結婚式場の不可抗力キャンセル費用は?

新型コロナウイルスによる結婚式のキャンセルについて裁判例が文献等でも紹介されてきています。

緊急事態宣言が出始めた時期に、キャンセル費用がどうなるのか話題になっていて裁判所の判断が分かれそうと感じていましたが、緊急事態宣言前のキャンセルについて、式場側の主張を認めた裁判例があります(キャンセル費用はそのままかかる)。

今回、東京地方裁判所令和3年9月27日判決を紹介します。

規約上の不可抗力による契約消滅、安全配慮義務違反、事情変更の原則などの主張をすべて否定しています。

この記事は、

  • 結婚式のキャンセル費用について知りたい人
  • ウイルスまん延によるキャンセル費用について知りたい人

に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2023.8.8

 

結婚式費用の返還請求事案

この事案は、結婚式の企画運営会社である被告と契約した原告が、新型コロナウイルスの影響により結婚式を実施できなくなり、すでに支払った前受金の返還を求めた事件です。

原告は、新型コロナウイルスの流行を不可抗力と位置づけ、契約条項に基づく返還を求めました。

 

原告は、令和元年9月16日に被告と契約を締結。

令和2年3月28日に挙式及び披露宴を予定していました(最大収容人数110名、招待客は102名)。

この契約に基づき、原告は被告に合計で615万3289円の前受金を支払いました。

 

契約条項の不可抗力

契約条項には、不可抗力(例えば天災や第三者による事故など)により婚礼を実施できなくなった場合、契約は消滅し、受領済みの婚礼費用全額が返金されるという規定がありました。

令和2年の初頭、新型コロナウイルスの流行が始まりました。これを受けて原告は、令和2年3月25日に被告に対して契約の解約を申し入れました。

 

被告は、原告が婚礼日の14日前から前日までの間に解約したことから、契約条項に基づき解約料として485万4520円を請求しました。これを前受金の返還債務に対する相殺として処理し、残額である129万8769円を返金しました。

 

政府はその後、令和2年4月7日に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を発出。

これを受けて原告は、被告が新型コロナウイルスの感染防止義務を怠ったと主張し、債務不履行または事情変更の原則に基づいて契約を解除した旨を主張。

相殺と主張された485万4520円の支払いを求めて提訴したというものです。

結婚式場

ウイルス流行が不可抗力解除か

争点(1): 新型コロナウイルスの流行が、契約条項における不可抗力として結婚式を実施することができなくなった場合に当たるかどうか

原告は新型コロナウイルスの流行とその危険性を挙げ、不可抗力により結婚式を実施することができなくなったと主張。
一方で、被告は政府の緊急事態宣言が予定された結婚式の日付より後であったことや、結婚式場は休業要請の対象外であったことなどを根拠に、客観的に結婚式を開催することが不可能であったわけではないと反論。

 

争点(2): 被告が新型コロナウイルスの感染を防止し、参列者の安全を最大限に図る債務を負っていたかどうか、そしてその債務に不履行があったかどうか

原告は被告が結婚式の参列者の安全を確保する義務(安全配慮義務や保護義務)を怠ったと主張。

被告はその反論として、結婚式の参列者の安全を最大限に図るといった漠然とした義務は負っていないと主張しています。また、考え得る限りの感染防止対策を実施していたとして債務不履行はないとも述べています。

 

争点(3): 事情が変わったために結婚式契約を解除することができるかどうか(事情変更の原則)

原告は、新型コロナウイルスの流行という予見不可能な事態が結婚式の開催を不可能にし、契約内容に従うことが信義則上著しく不当であるとして、契約の解除を主張。

それに対し被告は、新型コロナウイルスの感染可能性は契約の基礎となる事情ではなかったと主張し、事情変更の原則を適用すると全ての契約が解除可能になるという不合理性を指摘しています。

 

不可抗力ではないと判断

本件消滅条項は、不可抗力により婚礼を実施できない場合、挙式契約は消滅する旨を規定し、本件返金条項は、本件消滅条項により挙式契約が消滅した場合には、婚礼費用全額を返金する旨を定めていました。

令和2年2月から同年3月にかけて、新型コロナウイルスの感染者数が徐々に増加し、感染症による死亡者が確認されるようになると、治療法の確立していない新型コロナウイルスの感染症に対する危機感が徐々に社会全体で高まるようになり、東京都知事は、同月23日及び25日には、感染の拡大を抑止するために、同年4月12日までの間、多くの人が集まるイベント等の自粛や、少人数でも飲食を伴う会合等を自粛するよう求め、原告も本件挙式への参列者からも欠席の連絡を受けている状況にあったと認定。

このような事実関係を踏まえると、原告が、本件解約申入れをした同年3月25日時点において、参列者等への感染のおそれから、100名程度の参列者を集めて本件挙式を行うことを躊躇するとの心情は十分理解可能なものであると指摘。

他方、同年3月25日の時点では、東京都知事からの上記のような自粛要請はあったものの、政府から緊急事態宣言は発出されておらず、同月25日時点での1日当たりの新規感染者数は41名、同月28日までの累計の患者数も712名であって、東京都の人口からすれば、感染者数は極めて少数であったこと、その後に発出された緊急事態宣言においても、東京都の休業要請等の対象に結婚式場は含まれていなかったこと、被告においても、新型コロナウイルスの感染拡大を防止する措置を講ずることで、原告が本件挙式を予定していた同月28日に、現に別の組の挙式と披露宴を行ったことなどの事情を認定。

また、東京都は、都民に対し、換気の悪い密閉空間、多くの人の密集する場所及び近距離での会話という3つの条件が重なる場を避けるように要請していたが、本件挙式が予定されていた結婚式場は天井が非常に高い聖堂であった上、挙式中は、参列者同士が会話することも想定されていなかったことからすれば、上記3つの条件が重なる場に該当すると認められず、披露宴会場についても、挙式中と異なり参列者同士の会話は想定されるものの、一般的に、参列者が着席するテーブル同士の空間や参列者同士の座席の間隔は比較的余裕をもって配置されていることが通常であるし、原告や被告従業員から参列者に対して感染のリスクを低減させるための様々な注意喚起をすることも可能であったというべきであるから、上記3つの条件の重なる場に直ちに該当するものであるとはいえないと指摘。

そうすると、およそ挙式や披露宴を開催することが不可能であったとは認められないから、本件挙式を実施することが不可能であったとまではいえないと結論づけました。

新型コロナウイルスまん延により、結婚式を執り行うことが不可能であったとまでは認められず、本件消滅条項における「不可抗力」により「ご婚礼を実施することができなくなった場合」には該当しないとして、原告の主張を排斥しています。

ウイルスによる不可抗力には、結婚式が不可能といえる程度であることが必要なようです。

 

安全配慮義務違反も否定

原告は、被告が本件挙式契約に基づいて挙式や披露宴の役務を提供する義務を負っていることから、本件挙式契約に付随する義務として、新型コロナウイルスの感染を防止し、本件挙式の参列者の安全を最大限に図る債務(安全配慮義務又は保護義務)を負っており、その債務に不履行があったと主張。

被告は、原告に対し、本件挙式契約に付随する義務として、挙式と披露宴に参列する者に対し、それらが実施される時点において、結婚式場として通常要求される程度の安全配慮義務を負っていたものと解するのが相当と指摘。

本件挙式場は、当時、東京都が避けるべきとして要請していた換気の悪い密閉空間、多くの人の密集する場所及び近距離での会話という3つの条件が重なる場であったとは認められない上、被告は、新型コロナウイルスの感染防止対策として、従業員にマスクの着用を求めるほか、結婚式会場の各階に消毒液を設置するなどといった消毒の徹底、新型コロナウイルスの感染可能性が高い従業員についての出勤停止措置、感染リスクの高いデザートビュッフェの中止などを行っていたのであって、令和2年3月28日当時、被告として考えられる感染防止対策を行っていたと評価することができると認定。

そして、これらの被告による対策が、他の結婚式場や宴会場に比べて問題があるものであったとは認め得るような事情はないとし、本件挙式契約の付随義務について債務不履行があったと認めることはできないと結論づけています。

 

これに対し、原告は、披露宴会場の収容率を50%以内とすること、席を家族以外は個別席にすること、席において一人一人にパーテーションを設置すること、数分ごとに部屋の空気を入れ替える空調設備を設置することなどの対応を取るべきであったなどとも主張。

しかしながら、令和2年5月25日以降、屋内で開催されるコンサートやスポーツ観戦などのイベントは、会場の収容率50%以内とすることが求められていたことが認められるものの、そもそも、屋内のイベントは緊急事態宣言において自粛が要請されていたのに対し、前記のとおり、結婚式場は、緊急事態宣言においても休業要請の対象となっていなかったのであるから、本件挙式において、上記基準を満たすことが直ちに要求されるものとはいえないし、本件挙式の最終的な参列予定者は91名であり、披露宴会場の最大収容人数は110名であったから、その収容率は約83%であって、一般的に披露宴会場は余裕をもったテーブルや座席の配置がされていることに照らせば、被告が、原告に対し、収容率を50%以内とすることを提案しなかったことが(なお、収容率を50%以内にするためには、原告の協力が不可欠であるところ、原告から被告に対し、そのような相談をもちかけたとの証拠はない。)、安全配慮義務に違反したと認められるものでなはいと主張を排斥しています。

また、令和2年3月25日当時、席を個別席としたり、パーテーションを設置したりすることが、一般的に要求される感染防止対策であったとの立証はないから、被告が、そのような対応を取らなかったことが、安全配慮義務に違反したと認められるものではなく、換気についても、被告の施設において、換気が不十分であったことにつき、具体的な主張立証はないとしています。


事情変更の原則による解除も否定

原告は、新型コロナウイルスのまん延という事情は、本件挙式契約締結当時には基礎となっておらず、予見することもできなかったから、当事者が本件挙式契約に拘束されることは信義則上著しく不当であり、原告は事情変更の原則による本件挙式契約を解除することができると主張。

確かに、新型コロナウイルスによる感染症は、令和元年の年末頃、初めてその症例が報告されるようになったものであるから、本件挙式契約を締結した令和元年9月16日の時点では、新型コロナウイルスによる感染がまん延し、本件挙式のように多人数での飲食を伴う会合等の自粛が求められる事態となることは、およそ想定することができなかったことは否定できないと指摘。

しかしながら、少なくとも、緊急事態宣言が発出されていなかった令和2年3月25日又は同月28日の時点では、政府や東京都から結婚式場に対して休業の要請はされておらず、被告においては、その当時考えられる感染防止対策も講じており、原告及び被告が協力して、参列者の人数や遠方からの参列者を制限したり、参列者に対して大声での会話をすることを控えるよう求めたり、また、頻繁に換気をしたりするなどして、当時東京都が避けるべきとして要請していた換気の悪い密閉空間、多くの人の密集する場所及び近距離での会話という3つの条件が重ならないよう努めることによって、可能な限り感染のリスクを抑えつつ、本件挙式を開催することは可能であったというべきであると指摘。

そうするとそのような挙式が、原告が本件挙式契約当時思い描いていた挙式と異なる部分があったとしても、新型コロナウイルスのまん延が当事者双方の責によるべきものではないことに照らすと、本件挙式契約に原告が拘束されることが、信義則上著しく不当であるとまではいえず、原告がした事情変更を理由とする本件挙式契約の解除は無効というべきであると結論づけました。

結論として式場側の主張を認めている内容です。

 

高裁も同じ判断

控訴されていますが、東京高等裁判所令和4年2月17日判決でも、控訴を棄却し、同じ結論となっていみあす。

本件挙式の開催予定日当時において、控訴人において、新型コロナウイルスの感染死を不安に思うという心情があり、また、一般にそのように思う者も一定数はいたと推測しうるところであるが、当時の感染者数がまだ少なく、未だ緊急事態宣言は発出されていなかったことに加え、本件挙式および披露宴会場の施設及び一般的に想定される披露宴の座席配置状況等に鑑み、本件挙式は感染防止対策として東京都や政府が回避を求めていたいわゆる「三密」の場に直ちに該当するものとはいえないこと、本件挙式の開催予定日の当時には、被控訴人が東京都や政府の求めに沿った感染防止対策を社内で実施しており、実際に、クラスター発生等のトラブルが見られることなく別の組の挙式と披露宴が本件挙式の開催予定日に実施されたことにも照らすと、本件挙式の開催予定日当時において、およそ挙式や披露宴を開催することが不可能であったとまで認められないとしています。

 

本件挙式の開催予定日当時において、開催が不可能であったとはいえなかったというべきであるのだから、控訴人が主張するように、本件挙式契約を事情変更の原則により解除できないことが不当であるとまではいえない。したがって、他に事情変更の原則による解除を正当化する事情は見当たらないとしています。

 

判決文を見ても、諸事情によって判断は変わりそうですが、緊急事態宣言が出る前であり、式場側が相当の感染防止措置をとっていた場合には、同じような判断がされてもおかしくなさそうです。当時の記憶からすれば、ウイルスの脅威が未知数でありキャンセルもやむを得ないような印象を持ちましたが、不可抗力による消滅というのはかなりハードルが高いようです。

今後、同様の事態が起きることも想定されますので、不可抗力解除などの主張の場合には参考にしてみてください。

 

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弁護士 石井琢磨 神奈川県弁護士会所属 日弁連登録番号28708

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