FAQよくある質問
FAQ(よくある質問)
Q.発信者情報をネットでさらしたら?
発信者情報開示請求の事件が増えていますが、そこで得た情報は、目的外に使ってはいけないとされています。
ネットでさらすなど目的外使用をすると、逆に損害賠償請求がされることになりますので注意してください。
そのような主張がされ、当初の名誉毀損部分の損害以上に、相手の損害のほうが大きかったとして請求が棄却された裁判例もあります。
東京地方裁判所平成30年1月25日判決です。
この記事は、
- 発信者情報開示請求をした人
- ネット上に個人情報をさらされた人
に役立つ内容です。
名誉毀損投稿
原告は、かつて被告会社に勤務していたが、平成26年6月10日に退職し、同年8月29日、同性愛者向けのビデオボックス「A」の経営を始め、平成27年10月31日に同店舗を閉店。
原告と被告会社は、平成26年12月10日、原告と被告会社の雇用関係をめぐる別件訴訟において、両者の雇用関係が平成26年6月10日に終了していることを確認し、被告会社が原告に解決金として70万円を支払うなどの内容で和解。
被告Y1は被告会社のアルバイト従業員。
被告Y1は、平成27年5月12日、インターネットのウェブサイト上に、「統合失調症のX1へ 入院してください。Aに毎日、働いているけど病気が進行してます。」と投稿。
さらに、原告は、被告Y1が、他人と共謀して、平成26年9月2日から平成28年3月4日までの間、インターネットのウェブサイト「△△▲」上に、原告の権利を侵害する別紙1記載の文言を含む、多数の投稿(以下「本件投稿2」という。)を行ったと主張。
原告は、本件投稿1及び本件投稿2の行為により、侮辱・脅迫され、その名誉及び原告の経営する店舗「A」の名誉を棄損され、原告の店舗の営業、原告の再就職活動及び原告の平穏な生活を妨害され、その結果、原告の店舗「A」の閉店を余儀なくされ、別紙2のとおり、1672万2500円の損害を被ったと主張。一部である160万円の支払を求めました。
元勤務先、従業員との紛争のようです。
発信者情報開示請求訴訟
今回の裁判前に、原告は投稿1について発信者情報開示請求。
東京地方裁判所は、平成27年11月26日、原告による発信者情報開示請求事件で、発信者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレスを開示することを命じる判決。
発信者情報として、被告Y1の氏名、同人の住所及び同人のメールアドレスが通知されます。
原告は、平成28年6月24日、被告Y1及び被告会社代表者に対して、同人らに対する損害賠償請求訴訟の提起について検討中であること、被告会社に原告を復職させる内容の和解を希望していること、そのような内容の和解の可否について同月30日までに回答して欲しいこと、を伝える電子メールを送信。
これに対し、被告Y1及び被告会社代表者は、同月30日までに、原告の提案する和解に応じる旨の回答をせず。
発信者情報開示の情報がネットにさらされる
氏名不詳者は、平成28年7月10日から同月15日にかけて、22回にわたり、インターネットのウェブサイト「△△」上に、
「平成27年11月26日、東京地方裁判所は、・・・インターネット上でA及びその店長を誹謗中傷した人物の住所・氏名等の開示を命じる判決を言い渡しました。なお、この裁判の事件番号は、・・・でこの事件に関する裁判資料は、東京地方裁判所の記録閲覧室にて、判決日より5年間は、誰でも閲覧することができます。当該判決を受けて、・・・開示された発信者情報により、A及びその店長を長期間、執拗に誹謗中傷していた人物が東京駅前のCの店長を勤めるY1さん(32歳)であることが判明しました。陰湿な誹謗中傷犯であるY1さんのプロフィールは以下の通りです。生年月日:昭和58年○月○○日 本籍地住所:(以下略) 現住所:(以下略) Y1さんに対しては、A店長が被ったのと同程度の社会的制裁が必要であると考えます。」との投稿及びこれとほぼ同じ内容の投稿(本件投稿3)を行いました。
時系列のまとめ
1. 平成26年6月10日: 原告は被告会社から退職。
2. 平成26年8月29日: 原告が同性愛者向けビデオボックス「A」の経営を開始。
3. 平成26年12月10日: 原告と被告会社が雇用関係の和解、解決金として70万円が支払われる。
4. 平成27年5月12日: 被告Y1がインターネット上で原告に対する投稿を行う。
5. 平成27年10月31日: 原告が店舗「A」を閉店。
6. 平成27年11月26日: 東京地方裁判所が発信者情報開示を命じる。
7. 平成28年6月24日: 原告が被告Y1及び被告会社代表者に損害賠償請求訴訟の提起について通知。
8. 平成28年7月10日-15日: 氏名不詳者が被告Y1に関する情報をインターネット上で公開
プライバシー侵害の主張
被告Y1は、本件投稿3により、その名誉及びプライバシーが侵害されて、相当額の精神的損害を被ったと主張。
プロバイダ責任制限法4条3項に明確に違反して被告Y1の個人情報を執拗に投稿し続けた原告が、被告Y1の名誉とプライバシーを害し続けておきながら、被告Y1の本件投稿1を名誉毀損として損害賠償を請求することは、クリーンハンドの原則に照らし許されず、信義則に反すると主張。
原告及び被告Y1は、平成29年11月16日の本件口頭弁論期日において、本件投稿1及び本件投稿2による原告の被告Y1に対する不法行為債権と本件投稿3による被告Y1の原告に対する不法行為債権を対当額で相殺することを合意したとしています。
名誉毀損の慰謝料1万円
裁判所は最初の投稿について原告に対する名誉毀損と認定。
本件投稿1が投稿された当時、原告は同性愛者向けのビデオボックス「A」を経営していたことが認められることから、本件投稿1の対象が原告であることは十分に理解できる。そして、本件投稿1は、これを閲覧した者に対し、原告について重い精神疾患にり患している人物である印象を与え、原告の社会的評価を一定程度低下させるものであるから、被告Y1が本件投稿1を投稿した行為は、原告に対する不法行為を構成すると指摘。
そして、その内容等に照らすと、本件投稿1により被った原告の精神的苦痛に係る慰謝料は1万円を認めるのが相当であるとしました。
これを上回る損害が原告に生じたことについては、これを認めるに足りる証拠がないとして排斥しています。
営業損失などの主張は排斥しているものです。
勤務先の監督責任は否定
問題になった投稿者は、Y1でしたが、原告は、Y1が職務上行った等として、被告会社へも責任追及していました。過去に紛争があったことから、勤務先も含めたのでしょう。
しかし、裁判所は、Y1の勤務先の責任は否定。
被告Y1に対して別件訴訟の和解内容を伝えるべき注意義務及び同人に対してインターネット上で原告を中傷しないよう指導監督すべき注意義務が被告会社にあったことを認めるに足りる証拠はないとして監督責任の主張は排斥しています。
発信者情報の投稿と認定
投稿3について、原告は争っていましたが、裁判所は原告によるものと認定。
裁判所は、上記投稿3の中で、原告が訴訟提起した発信者情報開示請求事件の事件番号と判決日が特定されていること、同投稿には、同事件の判決に応じて開示した発信者が被告Y1であった旨の記載があるが、その発信者情報は原告に対して開示されたものであり、原告が他人に告げない限り、当該情報は原告以外の者が知りえないこと、原告は、被告Y1の住民票を取得することにより、同投稿の中に記載のある被告Y1の住所や本籍地を知っていたこと、他方、原告以外の者は被告Y1の住民票の取得により被告Y1の住所を知りえなかったこと、同投稿は、原告が被告Y1及び被告会社代表者に対する和解の提案に対して同人らから応答がないまま原告が設定した回答期限を経過した後、まもなくして始まったものであること、以上の事実を総合すれば、同投稿はいずれも原告がこれを行ったものと認められるとしました。
原告は、被告Y1が自作自演をした可能性、被告Y1が提出した履歴書等から被告Y1の本籍地を知った第三者による投稿の可能性を指摘するが、被告Y1がそのような自作自演をすべき合理的な理由もなく、被告Y1が自らの本籍地を記載した履歴書を他人に交付していたとの前提事実を認める証拠もないから、いずれも極めて抽象的な可能性をいうものにすぎず、採用できないと排斥。
原告による上記投稿は、いずれも、Aの店長を長期間、執拗に誹謗中傷した人物という前提で、被告Y1の氏名、生年月日、住所、本籍地、勤務先等の私事を明らかにするものであるから、プロバイダ責任制限法4条3項にも違反して、被告Y1のプライバシーを侵害するものであり、被告Y1に対する不法行為を構成すると判断。
そして、同投稿の内容及び回数に照らせば、この不法行為により被った被告Y1の精神的損害は22万円を認めるのが相当としました。
原告よりも被告の損害のほうが大きいことから、相殺合意により原告には損害がなくなったことで、請求棄却という結論になっています。
発信者情報は慎重に
発信者情報開示請求で取得した情報は、目的外使用が禁止されています。
このように目的外で利用すると、損害賠償請求されることも増えています。
制裁行為としてネット上にさらしたくなったりする気持ちはわかりますが、リスクが高い行為ですので、控えるようにしましょう。
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