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FAQ(よくある質問)

 

Q.子育て世帯の遺言書のメリットは?

未成年の子を育てている家庭では、遺言書の作成など将来のことと考えているかもしれません。

しかし、未成年の子がいる家庭ならではの遺言のメリット、これを作らないデメリットがありますので、確認しておいたほうが良いでしょう。

 

この記事は、

  • 子育て世帯の人
  • 配偶者の負担を減らしたい人

に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2023.9.1

 

一般的な遺言を作成するメリット

1.財産の分配の明確化: 遺言によって財産の分配を明確にすることができます。例えば、お子さんの教育費に使いたい資産を指定することができるのです。

2.紛争の回避: 遺言があることで、相続人間の意見の対立や紛争を減らすことが可能です。家族の絆を保つための重要な道具と言えるでしょう。

 

子育て家庭での遺言のメリット

子供がまだ小さいうちに遺言書を作成すること、考えたことはありますか?

遺言書と聞くと、多くの人は裕福な高齢者が作るものという先入観があるかもしれません。しかし、子供が小さいうちにこそ遺言書をつくるメリットもあります。

高齢者が遺産を多く持っている場合、遺言書作成の目的は主に「相続における家族間の争いを避ける」ことです。

しかし、子供が小さい家庭では、相続手続きにかかるコストと時間を削減する目的が主です。

つまり、残された配偶者の負担を減らしてあげられるのです。

 

遺言がないと名義変更に費用・手間がかかる

子供が未成年のうちに、親が亡くなった場合、生存親は、相続の手続きをします。

生命保険金は受取人に対して支払われますが、預金や不動産の名義変更には家庭裁判所での手続きが必要になることもあります。

預金や不動産の名義変更は、遺産分割と呼ばれる手続です。

 

この事実は、多くの人が知らないものです。例えば、父親が亡くなり、母親と未成年の子供二人が残された場合、遺言がなければ、遺産の分割と相続手続きが必要です。

未成年が遺産分割をするには、代理人が必要です。しかし、理論上、母親と子供たちの利益は対立します。母親の取り分が多くなれば、子供の取り分が少なくなるという関係にあります。

通常、未成年者が法的な行為をする際には、法定代理人(通常は親)の同意が必要です。しかし、相続の場面では、妻と子どもが共に相続人となるため、妻が子どもの利益を犠牲にして自分に有利な相続が可能になってしまうのです。これを「利益相反」と呼びます。

 

利益相反の特別代理人

そのため、未成年の子を当事者として遺産分割協議をするには、各子供に対して家庭裁判所で特別代理人を指定する必要があります。これは非常に手間や費用がかかる作業です。

また、特別代理人も裁判所から選任されている以上、未成年者の利益のために活動しなければなりません。

未成年者の取り分をゼロにして、相続財産をすべて母親に帰属させるような遺産分割は成立させにくいです。

そのため、未成年者にも、法定相続分程度の財産を帰属させるようにする必要が出てきます。

 

特別代理人の申請手続

未成年の子と遺産分割で相続を進めるなら特別代理人が必要になります。

特別代理人の選任は、妻が子どもの住所地を管轄する家庭裁判所に申請します。

必要な費用は、子ども一人につき800円です。必要な書類は以下の通りです。

- 特別代理人選任申立書
- 子どもの戸籍謄本
- 妻の戸籍謄本
- 候補者の住民票または戸籍附票
- 遺産分割協議書の仮案

基本的に、妻は特別代理人になれません。

一般的には、相続権のない親族や弁護士が特別代理人に選ばれることが多いです。

申立自体は上記の内容で進められますが、弁護士が特別代理人になるべきと家庭裁判所が判断すると、その報酬を予納しなければなりません。事案によって異なりますが、少ない事例でも数万円という金額が必要になるでしょう。

 

もし特別代理人が選任されないまま遺産分割が行われた場合、その遺産分割は無効となります。

 

 

親権者が代理人になれるケース

未成年の相続でも、利益相反がなければ、親権者が代理人として遺産分割協議ができるケースもあります。

例えば、未成年者の父親が亡くなり、その後父方の祖父が亡くなった場合があります。

このうち、祖父の相続については、未成年者は父の代襲相続として相続人になります。このケースでは、未成年者の母親は相続人ではないため、利益相反の問題が起きません。

法定代理人として遺産分割協議ができます。

ただ、両親の一方が亡くなったという相続では利益相反は生じます。

 

特別代理人を回避する方法

このように未成年者が当事者となる遺産分割協議では、特別代理人を選任することになります。

しかし、遺言書を作成することで、特別代理人の選任を避けることができます。

遺言があれば、それをもとに財産の名義変更ができるからです。

ただし、遺留分に配慮した内容にしておいたほうが無難ではあります。

 

特別代理人の選任以外の方法

遺言がない場合に、特別代理人を選任する以外にも方法はあります。

例えば、親が相続放棄し、未成年の子を代理して相続する方法です。

生存親が相続放棄をするのであれば、相続の当事者ではなくなります。子一人だけが相続人となれば、遺産分割は不要になりますので、子への名義変更はできます

また、法定相続分で相続するものとし、不動産などは共有持分の登記はできます。相続による法定相続分どおりの登記であれば、遺産分割協議をしなくても単独で登記申請ができます。

最後に、未成年の子の成人を待つという方法もあります。成人になれば、当事者となれるので、有効に遺産分割協議ができます。成人になる直前での相続発生等の場合には、この選択肢もありでしょう。

 

遺言書のメリット

未成年者がいる子育て家庭では、遺言により特別代理人選任を避けられるというメリットが出てきます。

遺言書の重要性に気づいた方も多いでしょう。

しかし、公正証書遺言の作成は費用もかかり大変ですし、自筆証書遺言も要件が厳しいです。

若いうちだと財産状況が変わることも多いです。

そこで、おすすめなのは、もし配偶者が信頼でき、全財産を配偶者に相続させたいと考える場合には、簡単な自筆証書遺言を作成しておき、遺言とは別に財産や債務、死後にやるべきことをまとめた文書を作成しておく方法です。

 

全財産を配偶者に相続させるという簡単な自筆証書遺言であれば無効になりにくいです。

直筆で、日付と氏名、印鑑を押します。

遺言書

1. 私の全財産は、配偶者○○(生年月日)に相続させる。
2. 遺言執行者は、配偶者○○とする。

        令和○年○月○日
自分の氏名  印

 

この遺言書は非常にシンプルですが、法的には有効です。遺言執行者として各種財産の名義変更ができるようになります。

自筆証書遺言では、法務局の保管制度ができたので、それを使う方法も考えられますし、これも手間だと考えるのであれば、自宅等で保管し、保管場所は配偶者に伝えておきましょう。そのうえで、遺言とは別に、情報提供文書を作成しておくのです。

自筆証書遺言の場合には、死後に家庭裁判所で検認が必要にはなりますが、生前に公正証書や保管制度の利用ができないのであれば、そこは遺族に負担してもらうしかありません。特別代理人制度よりは遥かに手間が少ないです。

 

子による遺留分請求のリスク

上記のような生存配偶者がすべての財産を相続する遺言の場合、子の遺留分を侵害するという問題は残ります。

遺留分は、法定相続人に認められた最低限の権利です。

子の場合、法定相続分の2分の1の権利があります。これを侵害するような遺言による相続分の指定に対して、遺留分の請求をすることができます。

この遺留分請求の時効期間は、侵害を知ってから1年とされていますが、未成年の場合、消滅時効期間の特則があります。民法158条2項によれば、未成年者が財産を管理する父や母に対して権利を有するときは、行為能力者になってから6ヶ月は時効が完成しないという猶予期間があります。

子が遺言の内容を知っていたとしても、成年になり6ヶ月以内に遺留分請求がされるリスクは残ります。

このようなリスクまで回避するのであれば、遺言の中で、遺留分程度の財産を子にも相続させておく必要があります。しかし、そうすると、遺言自体に財産目録をつけて、個別に財産の帰属を指定するなどの対応が必要になり、遺言自体が複雑になります。または、財産変動を遺言に反映させる必要があり、定期的に作り変える必要があります。

子が生存親に対して、遺留分請求をしてくるリスクは極めて低いと考え遺言作成・管理の手間を減らすか、リスクをゼロにするために手間をかけるかという選択になるのではないでしょうか。

 

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