FAQよくある質問
FAQ(よくある質問)
Q.離婚年金分割で0.5以外になる?
離婚時の年金分割で、色々と言いたいことがあり、分割割合を0.5ではない数字に変更主張したいと希望する人もいます。
しかし、裁判例からすればなかなか認められにくく、家裁で通っても高裁で覆される例が複数あります。
今回は、そのような厳しい事案を紹介しておきます。
この記事は、
- 離婚を考えている人
- 年金分割で割合を修正したい人
に役立つ内容です。
年金分割とは
年金分割とは、夫婦が結婚している間に共に積み立てた厚生年金を、離婚時にそれぞれの将来のために平等に分け合う制度です。
この制度は、ただ単に過去に支払った金額を半分に分けるのではなく、婚姻期間中に二人で納めた年金を基に、未来の年金受取額を公平に配分することにあります。
なお、分割対象となるのは厚生年金のみである点に注意が必要です。
年金分割の手続
年金分割は自動で行われるわけではありません。
離婚に際してこの手続きを怠ると、将来の年金受給額に大きな影響が生じます。
年金は、一定の年齢に達した際に、過去に納めた年金に応じて定期的に受け取れる制度で、老後の安定した生活を支えるための重要な手段です。
特に専業主婦(夫)のように自身で年金を納めていなかった場合、年金分割を行わないと将来の年金受給額が著しく低下する可能性があります。
そのため、離婚時にはこの制度を利用して老後の生活を守るための措置を講じる必要があります。
年金分割の請求には、離婚の翌日から原則として2年間の期限が設けられています。しかし、特定の条件下ではこの期限が短縮されたり、延長されたりする場合があるので、注意が必要です。
たとえば、離婚後に相手が亡くなった場合は、相手の死亡日から1ヶ月以内に請求を行う必要があります。
一方、離婚日の翌日から2年を超える前に分割割合を定めるための調停や審判を申し立てた場合、結果が出るまで請求期限が延長されることがあります。
年金分割の種類
年金分割制度には大きく分けて「合意分割」と「3号分割」の2種類があり、それぞれに特有の手続きがあります。
合意分割は夫婦が話し合いで分割割合を決定するものです。
3号分割は、専業主婦(夫)や扶養配偶者が対象となり、特定の条件下で自動的に適用されます。
国民年金の第3号被保険者であった人が請求者となります。時期的には、平成20年4月1日以後の婚姻期間中の3号被保険者期間における相手方の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を2分の1ずつ分割する制度です。この制度では、合意は不要です。
年金分割の合意
年金分割の手続きは複雑で、3合分割の場合を除き、双方の合意が必要になります。
合意に至らない場合は、調停や審判といった法的な手続きを経て決定されます。
年金分割の請求と手続きには期限があるため、注意深く進める必要があります。専門家の助言を求めることも一つの方法です。離婚は多くの変化をもたらしますが、年金分割を通じて、双方の将来の安定を守るための手続きは非常に重要です。
重要な手続きのため、通常は、離婚と同時に年金の分割割合を決めます。
離婚調停や離婚裁判では、あわせて年金分割も請求することがほとんどです。
ただし、離婚と分けての請求も期間内であれば可能です。
年金分割の割合
年金分割制度において、夫婦が離婚する際に婚姻期間中に納めた厚生年金を分割する際の割合は、通常は0.5、つまり双方に平等に分配されるのが基本原則です。
しかし、特定の状況下ではこの割合が変わる可能性があります。
年金分割が0.5とならないケースは、一般的には稀であり、特段の事情が必要とされます。
例えば、婚姻期間中に長期にわたる別居期間があった場合でも、それだけでは年金分割の割合を0.5以外にするための特段の事情とは見なされません。
しかし、別居期間中に経済的な依存関係がなく、また双方の意思疎通が事実上途絶えていたような状況では、「事実上の離婚」と見なされる可能性があり、これにより分割の割合が0.5を下回ることが認められる場合があります。
具体的な例として、婚姻期間が40年を超える中で、その半分以上の期間が経済的なやり取りや意思疎通がない別居生活であったケースが挙げられます。このような状況では、双方の生活が事実上別個であったとみなされ、年金分割の割合を0.5未満に設定する合意に至ることも可能です。
このように年金分割の割合が0.5でないケースを実現するためには、別居期間、経済的依存関係の有無、双方の意思疎通の状況など、具体的な事情を詳細に整理し、それを裏付ける証拠を提出することが重要です。
通常、低い割合での合意は難しいでしょうから、積極的に証拠を提出するなどして、裁判所の判断で0.5を下回る割合での分割をしてもらうことになるでしょう。
年金分割の割合の裁判例
今回の事例では、家庭裁判所では、0.5とすべきではないとして年金分割請求自体を否定するという結論を採用したものの、東京高裁では、この判断を覆し、原則どおり0.5としています。
事情を解説していきましょう。
東京高等裁判所による令和4年10月20日の決定です。
この裁判所の判断は、元夫と元妻の間の財産分与の公正さに焦点を当てています。
事案の概要
始まりは、二人が共に生活をスタートさせた平成18年に遡ります。
その後、平成24年に結婚しましたが、平和な共同生活は平成28年に元夫が離婚訴訟を起こしたことで終わりを告げ、令和元年には離婚が確定。
元妻が元夫に対して年金分割を求めました。
家庭裁判所における判断は、夫婦間の協力関係の欠如、そして元夫が元妻によって家内に散乱された物の中で生活を余儀なくされたことなど、特定の事実を基に、元妻の年金分割請求を却下。
しかし、東京高等裁判所はこの特定の事情を認めず、請求すべき按分割合を0.5と定める決定を下しました。
この裁判所の決定は、離婚時の年金分割において、保険料納付への寄与を互いに同等と見なすべきという基本原則を再確認しています。
年金分割は、夫婦双方の将来の所得保障を目的とした社会保障制度であり、特別の事情がない限り、按分割合を0.5とすることが適当とされています。
東京高等裁判所の判断は、夫婦間で生じる複雑な問題に対する社会保障制度の機能を重視し、夫婦生活の実態よりも社会保障としての機能を重視したものといえます。
0.5以外の分割割合?
0.5以外とする特別の事情とはどのようなものでしょうか。
裁判例を見ても、ほとんどの事案で按分割合が0.5と定められています。
財産分与では、分与者が特別な資格を持っていたり、経営者で高収入の場合に、形成された財産を2分の1にはしないという結論がとられることも多いです。しかし、年金分割の場合には、これよりもハードルが高そうです。
家庭裁判所が0.5と異なる割合を認定しても、抗告審で按分割合を0.5と変更している事例もよくあります。
財産分与とは異なるわけですね。
今回の事例でも、このような流れで、高裁では0.5とされています。
家庭裁判所の判断
では、高裁で覆された家庭裁判所はどのように判断したのでしょうか。
千葉家庭裁判所令和4年4月22日審判です。
結論として、年金分割請求の申立てを却下。
家庭裁判所が認定した事実を見ると、夫に同情したくなる気持ちもわかります。
申立人と相手方は、平成15年ころから交際を開始。
平成17年に相手方が両親との二世帯住宅を完成させると、申立人は、平成18年12月、自宅マンションを売却して、相手方の事前の了解なく、突然、相手方の海外出張で留守にしている間に、大量の荷物を運びこんで相手方との同居を開始。
自宅建物は、1階の大部分は、相手方の両親の居住スペースであり、相手方と申立人の居住スペースは、1階玄関から階段で2階に上がった場所であった。
申立人が荷物を収納するスペースとしては、1階の階段下部分にある約6・5畳の広さのあるウォークインクローゼットと申立人のみが使用する5・5畳の部屋の収納を用意していた。しかし、申立人が持ち込んだ荷物が大量であり、2階のリビングはテレビの前2畳ほどを残して、申立人の荷物が入った段ボールで埋め尽くされた状態となり、寝室も半分以上のスペースが申立人の荷物で埋め尽くされた。相手方は、驚き、申立人に対し、荷物を片付けるよう求め、申立人も片付けると言ったため、これを信じて同居を続けた。この時点では、まだ、廊下や階段にまでは荷物はなく、台所も普通に使用できる状態であった。
相手方は、申立人から入籍を求められても、荷物を整理するまで入籍しないつもりであったが、同居期間が長くなったことや入籍をすれば、申立人も相手方の求めに応じて、荷物を整理してくれるだろうとの期待もあり、平成24年4月7日に婚姻届を提出。
ところが、その後も、申立人は、荷物を整理することはなく、どんどん新たな物の購入やゴミを散乱させる行為をエスカレート。
相手方が荷物を片付けるよう依頼しても、申立人が片付けることはなく、かえって、相手方がごみや空の容器を捨てようとすることを禁じた。
平成26年3月には、申立人は、相手方に対し、「冷蔵庫にはっていた、初代の■■■のマグネットがひとつなくなっている! おまえが捨てたな。ごみ袋を下に置くんじゃねぇ 何か捨ててやる」とメールを送信。
以後、申立人は、荷物を片付けることなく、相手方に対し、「最低の保険代もくれないなら帰宅時までに部屋を壊す。」(平成26年9月24日)、「これから絶対にわたしに渡す分を考え、給料を残すこと!900万あるなら出来ないはずがない 出来ないようなら車を破壊、お金かかりそうなものを破壊する。」「離婚で構わないから慰謝料を家を売ってでも支払えー」(平成26年12月29日)などのメールを送信し、平成27年2月26日には、「家を売る」「なら家を売れ か 死んでしまえ」とのメールを送信。
自宅は、申立人の荷物(申立人が購入する衣服、靴、バッグ、食器類など)が増加し、また、申立人が処分を許さない空のボトル等の空き容器などが大量に放置されたまま、1階の玄関、廊下、ウォークインクローゼット、2階は、書斎を除いてほぼ全域におかれ、足の踏み場もない状況にまでになった。
離婚後の現在でも、申立人は、申立人の大量の荷物を一向に撤去せず、相手方は、そのような自宅での生活を送ることを余儀なくされている。
婚姻関係が継続していた間、申立人は、自身の衣服は自ら大量に購入していたが、自宅での食費、住宅ローン、水道光熱費、固定資産税等の負担は、すべて、相手方が負担し、申立人が家計を負担することはなかった。
申立人からは、定められた期限までに相手方の主張や提出資料に対する反論はなく、かつ、申立人は、当庁からの電話に応答せず、審理終結日までに一切の連絡がない。
家庭裁判所の判断理由
年金分割は被用者年金が夫婦双方の老後等のための所得補償としての社会保障的機能を有する制度であるから、対象期間中の保険料納付に対する寄与の程度は、特段の事情のない限り、互いに同等とみて、年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めるのが相当であるところ、その趣旨は、夫婦の一方が被扶養配偶者である場合についての厚生年金保険法78条の13(いわゆる3号分割)に現れているのであって、そうでない場合であっても、基本的には変わるものではないと解すべきである。
そして、上記の特別事情については、上記年金分割の制度趣旨に照らせば、保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような例外的事情がある場合に限られるというべきである。
ところで、本件では、同居の開始も相手方の同意なく、海外出張中に申立人が大量の荷物を持ち込んだというものであり、婚姻届の提出も、申立人が荷物を片付けるという期待から行ったというものである。
しかしながら、婚姻届出後も申立人は荷物を片付けるどころか、さらに申立人が購入した物が室内に増え続けていたのであり、ごみを捨てることもなく、相手方が空の容器を捨てることを禁じ、また、相手方に対し、自分の荷物を捨てたとして脅迫的なメールを送り、その内容も次第にエスカレートしている。
申立人の言動は、当初から夫婦が協力して生活をするというものではなく、相手方は、物が散乱した自宅内での生活を余儀なくされ、精神的に著しい苦痛、ストレス状態に長期間置かれ、一方的な負担を強いられるものであった。
そうだとすると、本件の保険料納付に対する夫婦の寄与を同等の50%とみることは相当ではないし、平成24年4月7日の婚姻から令和元年9月20日の離婚確定までの約7年5月の婚姻期間中に申立人の寄与があることがうかがえず、申立人からの反論もないことからすると審問をするまでもなく、婚姻期間中の相手方の保険料納付に対する申立人の寄与を同等と見ることが著しく不当である特段の事情を認めるのが相当。
認定事情も相当のものですが、審判で妻からの法的な主張がなかった点も考慮されていそうです。
しかし、この判断に妻は不服申立てをしたので、高裁では結論が覆されています。
高等裁判所の判断
東京高等裁判所令和4年10月20日決定です。
結論として、
原審判を取り消し、
年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めるという判断です。
厚生年金保険法78条の2第2項は、家庭裁判所は、対象期間における保険料納付に対する当事者の寄与の程度その他一切の事情を考慮して、請求すべき按分割合を定めることができる旨規定しているところ、老齢厚生年金は、その性質及び機能上、夫婦双方の老後等のための所得保障としての社会保障的意義を有しており、離婚時年金分割制度との関係においては、婚姻期間中の保険料納付は、互いの協力により、それぞれの老後等のための所得保障を同等に形成していくという意味合いを有しているものと評価することができる。
この趣旨は、夫婦の一方が被扶養配偶者である場合における年金分割(いわゆる3号分割)について、「被扶養配偶者を有する被保険者が負担した保険料について、当該被扶養配偶者が共同して負担したものであるという基本的認識の下に」、当然に2分の1の割合で分割されるとされていること(厚生年金保険法78条の13、78条の14)に現れており、いわゆる3号分割以外の場合であっても、基本的に変わらないというべきである。したがって、対象期間における保険料納付に対する夫婦の寄与の程度は、特段の事情がない限り、互いに同等と見るのが離婚時年金分割制度の趣旨に合致するところであると解される。
相手方は、抗告人が、上記の婚姻期間中、洗濯の一部を除いて何ら家事を分担しなかったばかりか、異常な量の衣服、靴、バッグ、食器類等を購入し続け、本件自宅内で正常な日常生活を送ることができない状態を作出し、これらを片付けようとする相手方に対して脅迫又は暴言に当たる電子メールを送信するなどして、相手方に対し、長年にわたり耐え難い苦痛を与え続けてきたのであるから、請求すべき按分割合を0.5と定めることは、著しく正義に反する結果を招来するとなることからすると、本件においては、相手方の保険料納付に対する抗告人の寄与を同等と見ることは著しく不当であるのであって、特段の事情があるなどと主張。
しかしながら、離婚時年金分割制度の趣旨からすると、夫婦の不和から相互扶助の関係が損なわれ、その原因が上記のような抗告人の言動・行動にあるとしても、それだけで直ちに、請求すべき按分割合を減ずるべきことにはなるわけではないと指摘。
そして、・・・相手方は、本件自宅内に抗告人の大量の荷物等が放置されたままの状態にあることを認識し容認しながら、平成24年4月に抗告人と結婚する旨の届出をしたこと、
抗告人と相手方は、平成24年4月から平成27年8月までの間については、抗告人の言動・行動が原因で、夫婦間に深刻な不和が生じたとまでは認められないこと、
抗告人は、婚姻期間中もおおむね就労し、相手方との比較でいえば少額であるものの収入を得ており、これを抗告人自身の食費、携帯電話代、医療費、保険料等に充てることにより、家計の費用の一部を負担してきたといえること、
抗告人は、■■■に罹患しており、その他の疾病の治療のために要するものを含め、毎月相当額の医療費を支払っていることが認められると指摘。
これらの事情を総合的に考慮すると、本件において、対象期間における保険料納付に対する夫婦の寄与の程度を同等と見るべきでないとする特段の事情があるとまでいうことはできず、他に、そのように認めるに足りる的確な資料はないとして、原則どおりとしました。
まとめ
この判例からすれば、離婚問題のなかで、よほどの事情があっても、年金分割の割合を0.5から変更させるのは相当に難しいと考えておくべきでしょう。
また、0.5と主張する側からすれば、家庭裁判所で異なる判断がされたとしても、高等裁判所への不服申立てをすることで、原則どおりの割合とされる可能性も高いといえます。
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