民事裁判の直接主義の例外ルールを決めた最高裁判決を弁護士が解説

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FAQ(よくある質問)

 

Q.直接主義違反で控訴できる?

民事裁判のルールの中に直接主義というものがあります。

この例外になるかが争われた裁判例があります。最高裁判所令和5年3月24日判決です。

この事件では、民事訴訟における判決手続の適法性について、特に直接主義違反がどのように控訴の利益に影響するかを明らかにしました。

この記事は、

  • 民事裁判の手続中の人
  • 裁判官の交代を受けた人

に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2024.8.14

 

別の裁判官が勝訴判決

本件は、原告が第1審で全面的に勝訴したものの、その判決が口頭弁論に関与しなかった裁判官によって言い渡されたため、民事訴訟法249条1項に違反するとして控訴を提起した事例です。

勝訴したのに、控訴したという事例。

249条1項は、判決は口頭弁論に関与した裁判官が行うべきと規定しています。

これを直接主義といいます。このルール違反だけで控訴できるのかが問題になりました。

 

控訴の利益

控訴を提起するためには、「控訴の利益」が必要とされます。

控訴の利益とは、控訴を提起する当事者が原裁判によって不利益を受けた場合に認められるものです。

判決に不服がある場合の申し立て手続きなので、不利益を受けていないなら控訴できないだろうという前提です。

全面勝訴判決なのに、不利益があるのか?というのが問題点です。

 

通説判例では、控訴の利益を判断する際に「形式的不服説」が採られています。

この考え方では、当事者の申立事項(請求の趣旨)と判決主文を比較し、後者が前者に満たない場合に控訴の利益が認められます。

この考えでは、全面勝訴であれば、請求の趣旨が満たされているため、控訴の利益が認められないことになりそうです。

 

ただ、この形式的不服説にも例外があります。例えば、離婚訴訟においては、請求棄却判決が下された場合に勝訴した被告が反訴を提起するために控訴の利益を有することがあります。

また、予備的相殺の抗弁が認められた場合も、被告が控訴の利益を有する場合があります。これは、相殺の抗弁についての理由中の判断が既判力を持つためです。

この裁判では、控訴の利益をどう判断するのか、形式的不服説で考えるにしても例外を認めるのかが問題となりました。

 

裁判所の判断

今回の裁判例では、原告が控訴し、控訴審では、「控訴の利益がない」とされました。

これに対して、原告が上告受理申立てを行い、最高裁判所は、原判決を破棄し、本件を大阪高等裁判所に差し戻すとの判断をしました。控訴できるはずという判断です。

 

本件控訴が不適法であるとした原審の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
第1審において、事件が一人の裁判官により審理された後、判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が民訴法254条1項により判決書の原本に基づかないで第1審判決を言い渡した場合、その判決手続は同法249条1項に違反するものであり、同判決には民事訴訟の根幹に関わる重大な違法があるというべきであると言及。

また、上記の違反は、訴訟記録により直ちに判明する事柄であり、同法338条1項1号に掲げる再審事由に該当するものであるから、上記の第1審判決によって紛争が最終的に解決されるということもできないと指摘。
したがって、
上記の場合、全部勝訴した原告であっても、第1審判決に対して控訴をすることができると解するのが相当と結論付けました。

 

調書判決と直接主義違反

本件では、調書判決の形式で判決が言い渡されていました。

調書判決とは、当事者間に自白が成立するなどの一定の事由がある場合に、認められます。(民訴法254条1項本文)。これは、原本に基づく判決の言渡しの例外です。

調書判決の場合、判決書原本は存在しません。そのため、調書判決を言い渡した裁判官が判決をしたことになります。

判決の原本が別にあって代わりの裁判官が読む、というパターンとは違うものです。

そのため、弁論を終結した口頭弁論期日の審理に関与しない裁判官が調書判決を言い渡すと、直接主義に違反することになります。

 

法249条1項は直接主義を原則とし、判決は口頭弁論に関与した裁判官が行うべきと定めています。この直接主義は、事実認定のための弁論の聴取や証拠の取調べを裁判官自身が行うことを意味します。したがって、調書判決の場合でも、その判決が基本となる口頭弁論に関与した裁判官によって言い渡されなければならないとされています。

「基本となる口頭弁論に関与した裁判官」とは、弁論を終結した口頭弁論期日の審理に関与した裁判官をいうとされています。この裁判官により判決書の原本が作成されれば、判決期日で、他の裁判官が代わりに判決を言い渡すことは問題がないとされています。

 

直接主義違反の法的効果

法249条1項に違反した場合、これは「法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと」として再審事由(法338条1項1号)に該当する可能性があります。

ということは、将来、相手方が再審の訴えを提起すれば、他の要件を満たす限り、再審開始決定がされ、その結果、確定判決が取り消される結果も有り得るわけです。

そうだとすると、全部勝訴していても、そのような判決では、不利益な判決といえる可能性も出てきます。

また、この違反は職権により顧慮されるべきものとされます。本件では、この直接主義違反が控訴の利益を基礎づけるかが問題となりました。

 

全面勝訴でも控訴可能

本判決では、法249条1項に違反する場合には全面勝訴であっても控訴できると判断しました。

これは、判決手続が民事訴訟の根幹に関わる重大な違法に基づいているためです。

この違法は訴訟記録から明白であり、再審事由に該当することから、紛争が最終的に解決されるとは言えません。そのため、判決の不安定な状態を解消するために控訴を認めるべきだとしました。

 

本判決は形式的不服説の例外として理解されるべきです。

しかし、この判決は従来の形式的不服説の枠組みとは異なる要素を含んでいます。

従来の形式的不服説の例外は、理由中の判断が当事者に不利益をもたらす場合に控訴の利益を認めるものでしたが、本判決は手続に「民事訴訟の根幹に関わる重大な違法」があることを理由に控訴を認めています。

例外のパターンが増えたものと位置づけられそうです。

 

民事裁判の直接主義とは?

直接主義(ちょくせつしゅぎ)は、民事訴訟において裁判官が直接に弁論の聴取や証拠調べを行う原則を指します。これは、裁判の公正さと信頼性を確保するための重要な原則です。

直接主義のもとでは、裁判官が自ら弁論を聴取し、証拠調べを行います。これにより、裁判官は証人の供述態度や証拠の信憑性を直接確認することができます。

例えば、証人尋問においては、証人の態度や発言のニュアンスが裁判官の心証形成に大きな影響を与えるため、裁判官が直接関与することが重要とされています。

民事訴訟法第249条で規定されている原則です。

 

直接主義は、口頭主義や公開主義と密接に関連しています。口頭主義とは、裁判が口頭弁論を中心に進行する原則であり、公開主義は裁判が公開の場で行われるべきとする原則です。

 

直接主義のメリットと課題

直接主義の利点としては、証拠の信憑性向上があります。 裁判官が直接証拠を確認することで、証拠の信憑性を高めることができるとされます。また、当事者が裁判官の前で直接に主張や証拠を提示することで、公正な審理が期待できるとされています。

一方で、直接主義は時間とコストがかかるため、迅速な裁判を求める現代のニーズに対応するのが難しい場合があります。さらに、民事裁判のIT化が進む中で、直接主義をどのように維持するかが課題となっています。

 

今回の判決があったことから、民事裁判の判決の際に、同じような調書判決が出されることはほぼなくなると思われますが、民事裁判をしている人は大事な直接主義というルールを覚えておきましょう。

 


 

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