業務妨害罪の具体的な事案と刑事と民事の違いについて解説

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FAQ(よくある質問)

 

Q.業務妨害とは?

「業務妨害」という言葉を耳にしたことはありませんか?

顧客からの執拗なクレーム、競合他社の妨害行為、SNSでの行き過ぎた誹謗中傷—これらは全て「業務妨害罪」に該当する可能性があります。

しかし、どこからが犯罪なのか、刑事と民事の違いは何なのか悩む方も多いはず。

本記事では、刑事事件での業務妨害罪の解説から進めていきます。

この記事は、

  • 妨害行為を受けている人
  • 業務妨害だと指摘され慌てている人

に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2024.10.16

 

業務妨害罪とは

業務妨害罪とは、他者の業務を妨げる行為に対して科される犯罪です。

日本の刑法第233条および第234条に規定されています。刑法上、主に「偽計業務妨害罪」と「威力業務妨害罪」の2種類が存在します。これらの罪は、単に業務を妨害するだけでなく、組織的な犯罪や社会的信用の侵害など、社会全体に大きな影響を与えることがあります。

業務妨害罪の法的保護法益

業務妨害罪の保護法益は、「社会的活動の自由」であり、これは人々がその職務や事業活動を平穏に遂行する権利を守ることを目的としています。

さらに、業務妨害罪は「抽象的危険犯」とされ、実際に業務が妨害されたかどうかではなく、業務妨害の危険が生じた時点で犯罪が成立します。

 

威力と偽計の区別

刑法第234条に規定される威力業務妨害罪という犯罪があります。

この罪は、「威力を用いて人の業務を妨害した者」を処罰の対象としています。

ここでいう「威力」の解釈、特に第233条に規定される信用毀損及び業務妨害罪における「偽計」との区別が、問題とされます。

威力業務妨害罪の構成要件は

1. 行為者が「威力」を用いること
2. その威力の行使が「人の業務」に向けられていること
3. その結果、業務が妨害されること

とされています。

業務妨害に関しては、偽計でも同じ表現が使われていますが、刑事事件の場合には、偽計なのか威力なのかの区別が必要になります。

ここでいう「業務」とは、職業その他社会生活上の地位に基づいて継続的に行われる事務または事業活動を指します。必ずしも営利目的である必要はなく、教育活動や慈善事業も業務に含まれます。

 

 

業務妨害罪の要件となる「威力」とは

「威力」とは、一般的に「人の意思を制圧するような勢力」と解釈されています。

これは必ずしも物理的な力や暴力だけを意味するものではなく、より広い概念として理解されています。

最高裁判所は、昭和28年1月30日の判決において、威力の概念について以下のように判示しています。

「威力とは人の意思を制圧するに足る勢力を指称するものであって、その威力に該当するかどうかは、犯行の日時場所、犯人側の動機目的、員数、勢力の態様、業務の種類被害者の地位等諸般の事情を考慮し、それが客観的にみて人の自由意思を制圧するに足るものであるかを判断すべきであって、現実に被害者が自由意思を制圧されたことを要するものではない。」

この判例は、威力の判断が客観的になされるべきことを明確にしており、その後の裁判実務に大きな影響を与えています。

威力業務妨害となるのは次のようなものです。

暴力や脅迫を用いて業務を妨害する
・大声で長時間クレームを言い続ける
・爆破予告や殺害予告をする
・無許可でデモ活動を行う
・迷惑電話を繰り返しかける

 

業務妨害罪の要件となる 「偽計」とは

「偽計」は、信用毀損及び業務妨害罪(刑法第233条)において用いられている概念です。

一般的に「人を欺く手段」と解釈されています。これは単なる嘘や虚言にとどまらず、より広く人を錯誤に陥れる手段全般を指すと理解されています。例えば、虚偽の情報を流布したり、他人を欺くような策略を用いた場合などが該当します。この場合、行為者が業務を直接的に物理的妨害をするわけではなく、情報操作や計略を駆使して間接的に業務の遂行を妨げることを指します。

最高裁判所は、平成15年3月11日の判決において、偽計の概念について以下のように判示しています。

「偽計とは、人を欺罔し、又は人の不知・錯誤を利用して、その判断を誤らせる一切の手段をいうものと解するのが相当である。」

この判例は、偽計の概念を広く解釈しており、人の判断を誤らせる様々な手段が偽計に該当し得ることを示唆しています。

偽計業務妨害とされるのは次のようなものです。

虚偽の情報を流布して業務を妨害する
・嘘の注文や予約をする
・営業中の店に「休業中」の張り紙をする
・カンニングや替え玉受験をする

 

威力と偽計の区別

威力と偽計の区別について、学説上一般的に支持されているメルクマールは次のとおりです。

・行為の態様または結果が公然・誇示的、可視的であれば「威力」
・行為の態様または結果が非公然・隠密的、不可視的であれば「偽計」

裁判例でのケースを見ていきましょう。

業務妨害罪

威力に該当すると判断された事例

・工場の操業中に配電室のスイッチを切断して織機の運転を停止させた事案(大阪高判昭和26年10月22日)

この事案では、行為の結果(織機の運転停止)が公然・可視的であることから、威力に該当すると判断されました。

「織機の運転停止は被告人のスイッチ切断なる行為が必然的に発生せしめた状態、換言すれば被告人の行為の延長に外ならないのである。そして被告人の行為により発生した織機の運転停止なる状態は操業中の工場従業員の自由意思を制圧する勢力に当ることは極めて明白である。」

 

・店舗の道路に面する部分の前面に物を一面に並べ立てた事案(最決昭和40年9月3日)

この事案でも、行為の結果(物件の並立)が公然・可視的であることから、威力に該当すると判断されました。原審である東京高裁(昭和39年11月25日)は以下のように述べています。

「他人の店舗の道路に面する部分の前面に物件を一面に並べ立てることは、たとえそれが他人の知らぬ間になされ、したがって他人の現実の抵抗または反対を押し切ってなされたのではないにしても、かような物件を並べられた結果、客は出入りすることができなくなり、商品を陳列することも事実上できなくなるのである」から威力に該当すると判断しています。

走行中の自動車の直前に飛び出して停車させて、その前に立ちふさがった行為を業務妨害とした事例もあります。

 

偽計に該当すると判断された事例

・電話による仲介取引業を営む商店に対し、3か月足らずの間に約970回にわたって無言電話をかけた事案(東京高判昭和48年8月7日)

この事案では、行為(無言電話)が非公然・隠密的であることから、偽計に該当すると判断されました。

「被告人の右所為は、……その手段、方法において、騒音を立てたり、物を損壊したりするなどの威力的な要素は全く存せず、むしろ被害者側においてその実態を容易に看破し得ない隠密的な方法によってなされたものであるから、威力業務妨害罪にいう威力を用いた場合には該当せず、偽計を用いた場合に該当するものと解するのが相当である。」

 

業務妨害罪の量刑

業務妨害罪の法定刑は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金とされています。

量刑資料などによれば、前科がなければ、懲役1年6月~2年あたりで執行猶予がつくことが多いです。ただ、妨害行為が多いなど被害者に与えた影響が大きい場合には、初犯でも実刑判決が出ることもあります。

事案としてカスタマーハラスメント的な言動がひどい場合でも刑事裁判での判決まで出されることも多いです。

被害者側の意向も重視されますので、加害者側の立場の場合、しっかりと示談交渉はしておいた方が良いでしょう。

 

 

業務妨害と民事の対応

業務妨害罪は刑事事件の問題ではありますが、妨害を受けた側は、民事上の動きも可能です。刑事事件に該当する行為がされていれば、民事でも違法と認定されやすくいでしょう。


違法な業務妨害により損害が生じていれば、民事上の不法行為が成立し、損害賠償請求が可能でしょう。

継続的な業務妨害行為に対しては、その差止めを求めることも可能でしょう。

被害者の立場からすれば、刑事手続での動きは被害届や刑事告訴など警察相談となりますが、金銭での解決を希望する場合には、民事での請求をしていくことになります。


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