FAQよくある質問
FAQ(よくある質問)
Q.振り込め詐欺救済法より回収率が高い方法とは?
詐欺の手口は年々巧妙化し、SNSを利用した投資詐欺など新たな形態が出現しています。
送金方法が銀行送金である場合、「振り込め詐欺救済法」により、被害者には口座凍結や被害金回復の道が開かれています。
本記事では、振り込め詐欺救済法の具体的な法的手続きから、さらに優先する法的手続きの解説をしいます。
この記事は、
- 詐欺の被害に遭った方とその家族
- 詐欺対策について知りたい一般の方
に役立つ内容です。
詐欺の最新手口と対処法
詐欺の手口はますます巧妙化しています。
以前は
オレオレ詐欺:「事故の示談金が必要」
還付金詐欺:「コロナ関連の給付金が未受取」
架空料金請求:「有料サイトの未払い料金がある」
融資保証金詐欺:「融資のための保証金が必要」
あたりでしたが、最近では、SNS経由で投資詐欺などがさかんに行われています。
特徴的なのは、犯人たちが「今日が期限です」「このまま放置すると大変なことに」など、私たちの判断力を奪うような心理的プレッシャーをかけてくる点です。まるで映画のカウントダウンのように、時間に追われる状況を作り出してくるのです。
このような詐欺被害の際に、銀行口座送金をしてしまった場合の対処法として、振り込め詐欺救済法があります。
「振り込め詐欺救済法」による口座凍結
2008年6月に施行された「振り込め詐欺救済法」(正式名称:犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律)は、振り込め詐欺の被害者を救済するための法律です。
この法律は、まるで銀行口座の「緊急停止ボタン」のような役割を果たします。被害に遭った人がすぐに行動を起こせば、犯人の口座を凍結し、まだ引き出されていないお金を取り戻せる可能性があるのです。
しかし、この法律のみで相当額の取り戻せるのは、よほどの運が良い場合というのが実情です。
ただ、この法律での口座凍結は、初動としては良い動きです。
口座凍結の趣旨
振り込め詐欺救済法は、犯罪に悪用された預金口座からの資金を凍結し、被害者が被害金を回復する機会を提供することを目的としています。
多くの詐欺被害では、犯人が資金を別口座に移動するなどして証拠隠滅を図るため、被害金回収が困難です。
そのため、この法では被害が発生した時点で被害者の迅速な申請が重要となります。
「振り込め詐欺救済法」の手順
この法律を使って自分で進める場合には、次の手順で対応しましょう。
①まず警察への通報
②振込先の金融機関への連絡(口座凍結の要請)
③必要書類の準備(運転免許証など本人確認書類、振込みの証明資料)
この手続きで取り戻せる金額は、口座凍結時点での残高が上限です。
例)振込額100万円、口座残高80万円の場合 → 最大80万円まで回復可能
複数の被害者がいる場合は、被害額に応じて按分されます。
口座残高が1,000円未満の場合は対象外です。
口座凍結後の失権手続(約60日)があり、口座消滅後に支払手続期間があります。
問題は、このような口座は複数の詐欺事件に使われており、他の被害者がこの口座から回収しようとした場合、競合相手がいることになる点です。
競合相手も、この手続きのみを使っている場合には、手続きの中での按分配当となります。
しかし、競合がこの手続きよりも優先する法的手続きをとった場合には、この手続きでの回収はできなくなります。
まずは、そのような全体構造を理解しておく必要があります。
預金口座の凍結手続
被害者が警察や弁護士を通じて金融機関に口座凍結を依頼し、当該口座が「犯罪利用預金口座」である疑いがあると金融機関が判断した場合、金融機関は口座凍結手続きを実行します。
凍結された口座はその後の調査により、実際に犯罪利用口座と認定されると、預金保険機構がウェブサイトで公告し、さらに預金等債権の消滅手続(失権手続)に進みます。
口座凍結後、預金保険機構は公告を行い、消滅手続に進むことを知らせます。
公告から60日間、名義人が権利行使の届出を行わない場合、名義人の預金債権は消滅します。この手続により、口座の残高が被害者に分配される段階に進むことになります。
弁護士による口座凍結の申請
送金口座の凍結申請は、警察のほかに、弁護士でも対応できます。
振り込め詐欺救済法の手続きのみ行う場合には、この手続きだけを弁護士に依頼する必要性はそこまで高くなく、警察相談のほうが適しているでしょう。弁護士に依頼する場合には、その後の民事訴訟や仮差押などの法的手続きまで頼む場合であることが多いでしょう。この場合でも、警察への被害届の提出は並行して進めておいたほうが良いです。
弁護士が金融機関に対し、口座凍結申請を行う場合、所定の書式(「振り込め詐欺等不正請求口座情報提供及び要請書」)を使います。弁護士であれば、日弁連会員ページからダウンロード可能な書類です。
対象口座の詳細情報、被害状況の具体的な記載をして申請します。SNS投資詐欺のような詐欺性が明確な場合には問題になりにくいですが、悪質商法などでの凍結の場合には、名義人から苦情が来ることも多いので、慎重に判断する必要はあります。
申請における注意点として、申請者情報の開示可能性があります。口座名義人への情報開示があり得るということです。
なお、凍結した場合、口座凍結の解除権限は金融機関のみにあり、申請者が撤回等をしても解除されるものではありません。口座凍結後に名義人と和解をすることもがありえますが、凍結解除を約束できるものではありません。
預金債権消滅手続の流れ
金融機関は、以下の4つの要素を総合的に判断して「犯罪利用預金口座等」として認定した場合、預金債権の消滅手続を開始します。口座凍結の判断です。
1. 捜査機関からの情報提供
捜査機関等から該当口座が不正に利用されたとの情報が提供される。
2. 被害状況調査結果
捜査機関等から得た情報をもとに被害状況を調査し、不正利用の状況が確認される。
3. 口座名義人の所在調査結果
口座名義人の所在が不明である、または確認ができない等。
4. 口座の取引状況
不自然な入出金パターンが見られるなど、口座の取引内容から、不正利用の可能性が高いと判断される場合。
これらの要件が満たされると、預金保険機構が消滅手続の公告を行います(法4条・5条)。ただし、該当口座が訴訟や強制執行等の法的手続にかかっている場合には、預金債権の消滅手続は進行しません。
以下の場合、手続は開始されないとされています。
・預金払戻しの訴えが提起されている
・強制執行が行われている
・仮差押えなどの保全処分がある
実務上の重要ポイントとしては、公告期間の確実な把握などの期間管理となるでしょう。
預金債権消滅手続が開始されないケース
他の法的手続が先行している場合があります。
訴訟関連として、預金払戻しの訴えが提起されている場合などです。
次に、強制執行等もあります。差し押さえがされているほか、 仮差押え手続等が行われている場合も含みます。
その他、特殊な法的手続がされている場合として、国税滞納処分という事例もあります。
被害回復の競合として国税が出てくることもあるわけです。その他、麻薬特例法や組織犯罪法などの法律に基づく保全手続きが進められている場合もあります。
手続開始後に終了するケースとして、口座名義人による権利行使の届出、払戻訴訟の提起、強制執行等の実施があります。
また、事実関係として、犯罪利用口座でないことが判明した場合も終了することがあります。
このように、振り込め詐欺救済法は、民事訴訟や民事執行などの手続が優先されるようになっています。
失権手続の開始
口座凍結後は、振り込め詐欺救済法4条に基づき失権手続に移行します。
これは、公告期間中に債権の権利行使の届出がなされなかった場合、被害回復の手続が次の段階に進むことを意味します。
しかし、公告中に第三者から仮差押えや強制執行等が行われた場合、失権手続は終了せず、法的な処置を待つことになります。
振り込め詐欺救済法は被害者救済の迅速化を目的としているものの、場合によっては他の債権者や第三者が仮差押えを行うことで被害回復金が減少またはゼロになる恐れがあります。そのため、被害回復を最大限に図るには、こうしたリスクを考慮した法的措置を検討することが重要です。たとえば、民事保全手続(預金債権の仮差押え等)や、民事訴訟手続(債権者代位による預金債権払い戻し請求の訴え)を行うことが検討されます。
失権手続の期限が迫っている場合、期限内に権利行使の届出や仮差押えの手続きを行うことで、口座内の資金がゼロになることを防ぎ、相談者の財産確保を図ることが可能です。特に、失権手続が完了してしまうと、相談者がその後債務名義を取得しても強制執行等ができなくなるため、迅速な対応が必要です。
被害回復分配金の支払い手続
失権手続が完了すると、口座の残高は被害者の被害額に応じて「被害回復分配金」として支払われます。この分配金は、被害者が金融機関に所定の申請書類を提出することで受け取ることが可能です。
被害者は公告翌日から30日以上の期間内に申請を行います。金融機関が申請内容を確認し、支払対象者であると認定されると分配金が支払われます。
振り込め詐欺の被害額が凍結口座の残高を上回る場合、各被害者に按分して支払われます。逆に被害額が残高に満たない場合、余剰分は預金保険機構に納付されます。
被害回復分配金が支払われないケース
振り込め詐欺救済法に基づく手続きが進行しても、特定の条件に該当する場合は被害回復分配金が支払われないことがあります。
支払いがなされない主なケースとして重要なのが、差押えや仮差押えが実行された場合です。
凍結中の口座に対して第三者が差押えを行った場合、消滅手続は停止されます。この場合、被害回復分配金の支払いは行われず、差押えが優先されるため、当該債権者に対する支払いが実行されます。
また、名義人が凍結口座の払戻しを求める訴訟を起こした場合、消滅手続および公告は停止されます。
これは、名義人が権利を行使し、預金に対する権利が再検討されるためです。
その他、国税滞納処分や破産手続きが進行中の場合、当該預金口座は破産財団に属し、破産配当のルールに従います。
最後に、預金残高が1,000円未満の場合、、費用対効果の観点から、少額での手続きは行われません。預金保険機構がその旨を公告し、分配金の支払いは行われません。
なお、預金等債権消滅手続が完了すると、その預金口座は口座名義人のものではなくなるため、それ以降は差押えなどの対象とはなりません。これは、いわば「所有権が消滅した財産には差押えの手が届かない」という考え方に基づいています。
法的手続による優先
振り込め詐欺救済法よりも優先する法的手続きを使うと、他の被害者よりも優先度が高くなるわけです。
つまり、凍結した口座等に残高がある場合、法的手続きをすることで回収額が高くなる可能性があります。
法的手続きの方法として、債権者代位訴訟があります。
また、口座残高がある場合には、仮差押えにより早期の財産保全をしておくことで回収率を高められます。
債権者代位訴訟の活用
振込先口座が既に凍結され、失権手続の届出期間が迫っている場合には、債権者代位訴訟が有効な手段となることがあります。
権利行使の方法として、権利者からの預金払い戻し請求がありますが、この権利を債権者代位権として行使するという理論構成です。詐欺事案で権利者自身が払い戻し請求をする動きはほぼなく、被害者が債権者代位権を行使して訴訟を提起する場合が該当するでしょう。これは、名義人が権利を主張したことで、口座凍結の根拠が不確実となるためです。
債権者代位による預金債権払い戻し請求の訴訟を金融機関に対して行うことになります。口座名義人に対する不法行為による損害賠償請求訴訟とあわせて口座がある金融機関に代位訴訟を起こすという方法です。
多くの場合、この訴訟の目的は、権利行使により預金消滅を避ける点にあります。
その口座からの回収が不能となった場合、すなわち残高がなかったり、強制執行により回収できた場合、金融機関に対する代位訴訟は取り下げにより終了することが多いです。
その前提として、裁判では弁論が分離され複数の手続きに分かれ煩雑となることが多いです。
口座名義人に対しては判決をもらい、金融機関の裁判は残っているというような状態です。
なお、債権者代位訴訟を起こしても、裁判中に、他の被害者等がその預金債権に対する強制執行等をしてくることもあります。
被害回復のためには、あわせて仮差押えをしておくのが確実ではあります。仮差押に必要な保証金の問題もありますので、公告までされている場合には、預金残高次第で仮差押までするか判断することが多いでしょう。
資金移転先口座の凍結
振り込め詐欺救済法では、被害者が直接振り込んだ預金口座だけでなく、それに関連する他の口座も「犯罪利用預金口座等」として凍結対象になる可能性があります。
振り込め詐欺救済法では、以下の2種類の預金口座が凍結の対象となります。
1. 被害者が直接振り込んだ口座
2. 資金移転先口座(2号)
詐欺犯が、被害金を別の口座に迅速に移動させる場合があるため、被害金の回収を確実にするためにも、移転先口座も凍結できる仕組みが設けられています。
資金移転先口座の凍結が行われることもあり、この場合、移転先口座の口座名義人に対する訴えも検討する必要があります。
要件としては、振込先口座からの資金移転先として「もっぱら利用」、元の振込資金と「実質的に同じ」と認められる場合とされています。
被害者A → 口座X(直接の振込先)→ 口座Y(資金移転先)
という場合、口座Xは、当然に凍結対象となり、口座Yは、要件を満たせば凍結対象となります。
資金移転先口座からの回収可能性も検討するのが有効ですので、直接振込先口座の凍結要請時に、関連口座調査も依頼
しておき、事件の情報提供を詳細に行うなどしておくのが有効でしょう。
口座凍結に使われる日弁連統一書式使用時は、資金移転先口座の凍結も求める旨を追記するなどしておく方法が使われます。
被害を防ぐための基本ルール
すぐに振り込まず、家族や友人、または公的な相談機関に相談することが重要です。「一人で判断しない」「焦って行動しない」を心がけましょう。
それでも万が一振り込んでしまった場合、次の行動が肝心です。
追加送金は最も避けなければならない行動です。
警察に相談し、事件として被害届を出し、その後、速やかに振込先の金融機関に連絡を入れ、口座凍結を依頼しましょう。
被害回復のためある程度の予算がある場合には、口座からの回収を狙い民事訴訟などの法的手続きを取ることも検討しましょう。この場合も迅速に動くことがポイントにはなりますが、残念ながら、広告弁護士による二次被害も話題になっており、日弁連も回収困難と告知しているような状況です。
回収できるかどうかは、結局は、口座名義人や資金移転先の口座名義人からの回収にかっています。そこに残高がある状態で凍結できるか、また、競合がどれくらいのスピードで動いてくるかによります。このような口座名義人は、登録住所に郵便が届かないことも多く、現地調査が必要になる事案も多いです。法人名義であってもそうです。
そのため、全体的な手続きにかかる費用があらかじめお伝えしにくいのが現実です。
かなりの運要素、不確定要素があるのですが、被害金が大きい場合には、それなりの資金を投入して回収に動く判断も間違いではないでしょう。
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