FAQよくある質問
FAQ(よくある質問)
Q.有責配偶者、別居8年でも離婚不可?
有責配偶者からの離婚請求は、日本の裁判実務において極めて高いハードルが課されます。
本件(令和4年大阪高裁判決)では、約8年の別居や多額の財産分与提案があったにもかかわらず、「別居の質」と家族関係の実態が重視され、離婚は認められませんでした。
形式的な期間だけでは足りず、信義則の観点から婚姻の実質が厳格に判断される現実が示されています。
この記事は、
- 離婚を検討している有責配偶者
- 離婚問題を抱える夫婦・家族
に役立つ内容です。
有責配偶者からの離婚請求という高いハードル
日本の離婚実務では、不貞行為などの破綻原因を自ら作った側(有責配偶者)からの離婚請求は、原則として認められません。
これは、自ら婚姻関係を壊しておきながら、身勝手に離婚の法的保護を求めることは「信義誠実の原則(信義則)」に反するというスタンスに基づいています。

しかし、別居が長期に及んだ場合など、一定の条件(昭和62年最高裁大法廷判決の3要件)を満たせば例外的に離婚が認められる道も残されています。
今回の令和4年8月24日大阪高裁判決は、形式的な別居期間が約8年に達し、多額の財産分与の提案があったにもかかわらず、別居中の「家族としての交流」の質が問われ、請求が棄却となった事例です。
例外は認められなかったという事案ですね。
事案の概要:不貞、別居
本件の当事者は、昭和61年に婚姻した夫婦(同居期間は約28年)であり、3人の子は既に成人しています。

夫(控訴人)は医師であり、平成22年頃から勤務先の同僚医師(F)と不貞関係にありました。
夫は平成27年に自身のクリニックを開業していますが、不貞相手であるFとの同居を現在も継続しています。
夫は平成26年3月に自宅を退去しましたが、夫の実母はその後も同年12月まで妻(被控訴人)と同居を続けていました。裁判所はこの点に注目し、実質的な家族の分離を評価する上で、母親が転居した12月までを同居に準ずる期間として慎重に検討しました。
夫は、別居後、婚姻費用として月額30万円の支払を継続。
夫は離婚を認める条件として、財産分与等を提示しました。
自宅の譲渡: 夫名義の自宅不動産を無条件で妻に譲渡する。
継続的な扶養: 離婚後10年間、妻に対し月額10万円を給付する。
負債(負担)の引き受け: 妻や子供たちが「将来の負担になる」と嫌っていた田舎の共有不動産について、夫が単独で引き取る。
裁判の経緯
原審(大阪家裁): 夫の離婚請求を有責配偶者からの請求であるとして棄却。
控訴審(大阪高裁): 夫は離婚に加え、財産分与として「自宅不動産の無償譲渡」や「月10万円の支払(10年間)」を条件として提示したが、結論として控訴棄却(離婚認めず)。
最高裁昭和62年判決の「3要件」
有責配偶者からの離婚請求が許容されるための基準は、以下の最高裁昭和62年9月2日判決の3要件に集約されます。

夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んでいること。
夫婦の間に未成熟の子が存在しないこと。
相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状況におかれる等、離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が認められないこと。
なぜ「別居約8年」でも認められなかったのか
本件では、末子が成人しており(第2要件)、財産分与提示も手厚いものでしたが、裁判所は「別居期間の質」を厳格に評価し、第1要件および第3要件の充足を否定しました。

約28年という同居期間に対し、別居期間は実質約7年強(形式的に約8年弱)です。この「期間の比率」だけでも不十分とされましたが、決定打となったのは別居中の「家族の実態」でした。

「完全な別居」を否定する事実
裁判所は以下の事実を認定し、婚姻関係が完全に形骸化したとはいえないと判断しました。

頻繁な接触: 夫は別居後も、三男と夕食を共にするため妻の不在時を狙って週2回程度自宅を訪れていた。
親族行事への共同参加: 長男家族との会食、二男の結婚式での共同挨拶、夫の母の法要への共同参加など、外部からは「夫婦」として機能している側面が維持されていた。

決定的な証拠:意志決定のメール
特筆すべきは、令和2年(別居から約6年後)のメールのやり取りです。夫が妻に対し、「自分が倒れて意思表示ができなくなった時、医師の話を聞いて手術などの判断をしてくれるか」と問い、妻が「やります」と即答した事実です。
裁判所はこれを、妻が依然として夫の人生のパートナーとしての役割を自認し、夫もそれを頼りにしていた証左であると重く受け止めました。
なんでこんなメールを送ったのか、文脈が気になるところではあります。
妻の感情の解釈
不貞相手(F)に対し妻が送った激しい文言のメールについて、F側は「異常である」と主張。
しかし、裁判所は「不貞により深く傷ついた配偶者の悲痛な心情の露呈」であり、離婚に同意していることを意味するものではないと判示しました。
判決文の引用と法的解説
裁判所は、夫側の手厚い財産提案を考慮してもなお、次のように結論付けました。
「(別居期間による時間の経過によっても)控訴人の有責行為に対する社会的意味ないし評価が希薄化したとか、新たに保護すべき必要性の高い生活関係が形成されたなどということはできない。…控訴人の離婚請求を認めることが信義誠実の原則に反しないということができるだけの事情は見当たらない。」

専門的な視点で見れば、これは「金銭的な解決案を提示すれば、過去の不貞の責任が帳消しになるわけではない」という司法の厳しい戒めです。28年の婚姻生活の重みに対し、不貞関係を維持したままの8年の別居は、あまりに「質」が低かったと言わざるを得ないでしょう。
過去の裁判例との比較
最高裁判決後の裁判例では、別居期間が約8年であるものの、夫が別居後の妻子の生活費を負担、離婚請求でも誠意があるとされる財産分与の提案をしているなどの事情があるときは、他に格別の事情のない限り、両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んだと解すべきとしたものがあります(最一小判平成2年11月8日「平成2年判決」)。
ほかにも、同居期間が約15年、別居期間が13年11月余で、別居期間が相当の長期間に及んでいるとした判断もあります(最三小判平成6年2月8日)。
実務上、別居5年~7年が境界線と言われることもありますが、有責配偶者からの離婚請求の話ではなく、単純に婚姻関係破綻の期間と混同されていることも多いです。
本件のように同居が25年を超えるケースでは、8年程度の別居では「信義則」を突破できない可能性が高いことがわかります。
特に平成2年判決(認容)と本件(棄却)を分けたのは、単なる金銭提案の有無ではなく、「家族としての実態が完全に失われていたか」という点にあるでしょう。
この判決から学ぶべきこと
有責配偶者側からすると、単に別居期間を稼ぐだけでは足りないことになります。子供との交流は親の義務ですが、冠婚葬祭への共同出席や、将来の緊急時の判断を委ねるような連絡(メール等)は、法的には「婚姻継続の意思あり」とみなされる強力な証拠になり得ます。
有利な財産分与案も、同居期間との比率や別居の質の低さをカバーしきれないことがあります。
今回はそれなりの財産分与を提案していますが、有責配偶者からの離婚請求は争われるとなかなか厳しい状況にあるというのが現実です。
実際の離婚裁判などでは、裁判を進めていく中で妻側に和解の意向が出てくることもあります。そのあたりも含めて進め方も考えていく必要はあるでしょう。
今回ですと、妻側の考えとしては離婚に応じない場合には月額30万円の婚姻費用を受け取ることができるということになります。離婚に応じることで自宅は手に入るものの、それが10万円に減るという形になるので、それなりの解決金などがないとなかなか難しそうな印象を受けました。
また、控訴した後に財産分与の話を正式に出している点も印象としては良くないように感じます。平成2年判決に基づいて離婚可能性があると考えて家庭裁判所では財産分与の話を出さなかったものの、負けてしまったのでそこから財産分与の提示をしたように見えてしまいます。
このように不貞をした有責配偶者からの離婚請求では、争われた場合には相当に苦戦することになりますので、覚悟が必要でしょう。
離婚相談を受けていく中では、不貞行為があるかないかでは明らかに見通しが変わりますので、注意してください。たまに別れたいから不貞をしたというような主張をされる人もいるのですが、全くの逆効果になることのほうが多いです。

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