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FAQ(よくある質問)

 

Q.相続放棄を2回するケースとは?

再転相続では、同じ被相続人について異なる立場から相続放棄が問題になることがあります。

この記事では、令和6年の東京高裁決定をもとに、2回目の相続放棄が争われた事案、家庭裁判所と高等裁判所の判断の違い、明白性基準や実務上の注意点を解説します。

この記事は、

  • 再転相続が発生し、相続放棄の範囲や立場に不安がある人
  • 複数の相続人の立場にある人

に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2026.6.16

 

同じ相続で2回「相続放棄」ができる?

「一度相続放棄の手続きを済ませたのに、後から別の立場でもう一度放棄が必要になる」

・・・そんな特殊な状況があることをご存知でしょうか。

一般的な相続では、放棄は一度きりのものと考えられがちです。

しかし、複数の相続が連鎖して発生する「再転相続(さいてんそうぞく)」という複雑なケースでは、どの立場で放棄したのかが法的に重要な意味を持つことがあります。

相続放棄 2回できる 再転相続

「再転相続」と「相続放棄」

本件を正しく理解するために、まずは基礎となる2つの用語を確認しておきましょう。

「再転相続」とは

再転相続とは、以下のようなプロセスで発生する、相続が重なった状態を指します。

最初の亡くなった方(被相続人)の相続が開始する。
その相続人となった人が、相続を承認するか放棄するかを決めないまま亡くなってしまう。
さらに次の相続が発生し、亡くなった相続人が持っていた「承認・放棄をする権利(選択権)」を、その次の相続人が引き継ぐ。

つまり、「相続を承認・放棄する権利」そのものを相続した状態が再転相続です。

再転相続とは 選択権の承継

「相続放棄」の基本的な効果

民法939条により、相続放棄が受理されると、その人は「初めから相続人とならなかったもの」とみなされます。

これにより、被相続人が遺した借金などの負債を引き継ぐリスクを回避することが可能になります。

相続放棄 基本的な効果

 

事案の概要

今回ご紹介する事案では、一人の女性(申述人Cさん)が、同じ親族(Bさん)の相続に対して2回の相続放棄を申し立てました。

登場人物の整理

被相続人B: 最初に亡くなった方。
H: Bの兄。Bの相続人。
申述人C: Hの妻。
I: HとCの子。
E: Iの妻。
F・Gら: Iの子(Cの孫)。

再転相続 登場人物の整理

時系列の整理

第1次相続: Bが死亡。兄Hが相続人となるが、承認・放棄をせずに死亡。

第2次相続: Hが死亡。Hの妻C、子Iらが再転相続人としてBの相続権を引き継ぐ。

第3次相続: その後、子Iも死亡。Iの妻E、子Fらが再転相続人としてBの相続権を引き継ぐ。

再転相続 時系列 第1次相続 第2次相続 第3次相続

Cさんの2つの「立場」と申立ての背景

Cさんは当初、「亡き夫Hの配偶者」としての立場でBの相続放棄を行い、無事に受理されました(1回目)。

これが「ルートA」の放棄です。

相続放棄 1回目 夫経由のルート

しかし、その後状況が変わります。

亡くなった子Iの相続人である妻Eと子F・Gら(第1順位の相続人)が、全員Bの相続放棄を行ったのです。

子の相続人全員が相続放棄した場合

ここで、法的な疑義が生じました。

「Iの直接の相続人(妻と子)が放棄したことで、第2順位の相続人である母Cが、『亡き子Iの母』という立場で、改めてBの相続権を引き継いだのではないか?」

これが「ルートB」の発生です。Cさんは、将来的に債権者から「あなたは子Iの立場を引き継いだ相続人だ」と主張され、借金の返済を迫られるリスクを避けるため、念のため2度目の放棄を申し立てたのです。

相続放棄 2回目 子経由のルート

争点:家庭裁判所と高等裁判所の判断の違い

この2度目の申し立て(ルートBの放棄)に対し、家庭裁判所と高等裁判所では判断が真っ向から分かれました。

2回目の相続放棄 家庭裁判所 高等裁判所

家庭裁判所(却下)の論理

家庭裁判所は、Cさんの申し立てを却下しました。

Cさんは既に1回目の放棄を済ませている。
1回目の放棄により、夫Hは「初めからBの相続人ではなかった」ことになる。
Hが相続人でなかった以上、CがIを経由して再度Bの相続権を引き継ぐ(ルートB)という考え方は成り立たず、「重ねて相続放棄をする必要はない」。

高等裁判所の論理

これに対し、東京高等裁判所は家庭裁判所の決定を取り消し、放棄を受理すべきとの判断を下しました。

東京高等裁判所令和 6 年 7 月 18 日決定です。

家庭裁判所 高等裁判所 相続放棄 判断の違い

明白性基準の採用

相続放棄の受理は、最終的な実体法上の権利(本当に相続人かどうか)を確定させるものではありません。

もし裁判所が安易に却下してしまうと、申述人は「放棄した」という事実を法的に主張する手段を失ってしまいます。

そのため、裁判所は「却下すべきことが明白な場合」を除き、受理すべきであるという原則(明白性基準)を強調しました。

相続放棄 明白性基準 高裁決定

防御策としての必要性

裁判所は、Cさんの「ルートBによる相続」という主張が「およそ成り立ち得ないものとは言えない」と述べました。

たとえ家庭裁判所が「必要ない」と判断しても、後日、債権者が「Cは相続人である」として訴訟を起こしてくる可能性は否定できません。高等裁判所は、将来の紛争における防御策として、受理される見込みが少しでもあるなら受理を認めるべきだと判断したのです。

高裁決定本文

「 抗告人の上記主張は、まず、I の第 1 順位の法定相続人である F 及び G が、I の再転相続人として、第 1 次相続について、相続放棄の申述(E らの申述)をしたことによって、F 及び G が初めから第 1 次相続についての相続人とならなかったものとみなされ、その結果、I の第 2 順位の法定相続人である申述人が、第 1 次相続について、I の再転相続人となるとの解釈を前提とするものと理解することができる。このような解釈は、民法上一般的なものであるかはともかくとして、およそ成り立ち得ないものということはできず、採用される見込みがないとはいえない。」

「別件申述をした当時、第 1 次相続について、H の再転相続人としての地位と I の再転相続人としての地位を併有していたと解する場合には、別件申述に係る申述書に、申述人と被相続人 B との関係について「兄弟の配偶者」と記載され、別件申述に係る事件記録の表紙に、申述人(申立人)の氏名等として、「相続人亡 H 再転相続人 C」と記載されていることを踏まえると、別件申述は、上記二つの地位のうち、H の再転相続人としての地位との関係においてのみ、第 1 次相続について、相続放棄をする趣旨であったと解する見解が成り立つ余地がある。」

「 そうすると、仮に上記イの解釈及びウの見解を前提とするならば、申述人は、本件申述をした当時、第 1 次相続について、I の再転相続人としての地位を有していたと解する余地があることになり、申述人は本件申述においてこのような主張をしていたのであるから、申述人が、本件申述をした当時、第 1 次相続についての相続人でないことが明白であったということはできない。そして、ほかに、本件申述に関し、相続放棄の要件を欠くことが明白であるといえる事情は存在しない。」

「以上によれば、本件申述については、却下すべきことが明白であるとは認められないから、これを受理するのが相当である。」

実務上の意義:この決定が私たちに教えること

この令和6年の決定は、専門家の視点から見て非常に重要な意味を持っています。

再転相続 複雑な相続から身を守る方法

「相続人であるか否か」も明白性基準の対象に

これまで明白性基準は、主に「3ヶ月の期間を過ぎていないか」といった点について議論されてきました。今回の決定は、「そもそも相続人としての資格があるか」という根本的な点についても、明らかに否定できない限り受理すべきであるという方針を明確にしました。

明白性基準とは、家庭裁判所は、相続放棄の申述を却下すべきことが明らかな場合を除き、これを受理すべきという考え方です。

家庭裁判所の役割は「門前払い」ではない

家庭裁判所は、相続放棄を厳格に審査して権利を確定させる場ではなく、受理の見込みがあるならばその機会を保障し、最終的な決着は後日の訴訟(民事裁判)に委ねるべきであるという姿勢が示されました。

複雑な相続における「セーフティネット」 再転相続のように、家族構成や亡くなる順番によって複数の相続ルートが発生する場合、一つの立場での放棄だけでは不十分なケースがあり得ます。本決定は、複雑な状況に置かれた相続人が自分を守るための「安全網」を広げたものと言えます。

まとめ:相続放棄で迷ったら専門家へ

本記事のポイントをまとめます。

再転相続では、同じ被相続人に対して「異なる立場」から複数の相続権が発生する可能性がある。
最新の高裁決定は、「相続人であるかどうかが疑わしい」場合でも、否定すべきことが明白でなければ放棄を受理すべきとした。


相続放棄の受理は、将来の債権者からの請求に備えるための重要な「防御策」になる。

相続放棄は一見シンプルに見えますが、本件のように家族関係が複雑になると、専門家でも判断が分かれるほど難解になります。

「一度放棄したから大丈夫」という思い込みが、思わぬリスクを招くこともあります。少しでも不安がある場合や、特殊な状況の相続に直面した場合は、速やかに弁護士へ相談し、適切な法的措置を検討することをお勧めします。

相続放棄 再転相続 まとめ 専門家相談

 


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