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FAQ(よくある質問)

 

Q.差押禁止範囲の変更とは?

給料を差し押さえられ、家賃や食費、医療費などを払うと生活が成り立たない場合、裁判所へ差押禁止債権の範囲変更を申し立てられることがあります。

この記事では、給料の差し押さえ額の基本ルール、申立てが認められやすい事情、裁判例、4週間以内に行う手順と必要書類、債務整理との関係を解説します。

この記事は、

  • 給料を差し押さえられ、生活費が足りない人
  • 差押禁止債権の範囲変更を自分で申し立てたい人

に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2026.9.28

 

給料差し押さえの範囲は変更できる?

会社の総務担当者から「裁判所から差押命令が届きました」と告げられた。

翌月の給与明細を見ると、手取りが数万円減っている。家賃を払ったら食費がほとんど残らない。いま、そんな状況でこの記事を読んでいる方もいらっしゃると思います。

給料の差し押さえは、法律で決められた割合で機械的に行われます。そのため、家族の人数や病気などの事情によっては、差し押さえ後の給料では生活が成り立たないことがあります。こうした場合に使えるのが、裁判所に差し押さえの範囲を小さくしてもらう差押禁止債権の範囲変更という申立てです。

給料の差し押さえの場合、申立ては差押命令が届いてから4週間以内に行ってください。4週間を過ぎると、債権者が会社から直接お金を受け取れるようになり、受け取られた分は原則として戻ってこないためです。

 

給料はどこまで差し押さえられるのか

原則として、差し押さえられるのは手取り額の4分の1までです。

民事執行法152条は、給料の4分の3を「差し押さえてはならない部分」と定めています。ここでいう給料は額面ではなく、所得税・住民税・社会保険料を差し引いた手取り額です。たとえば手取り20万円の方なら、差し押さえられるのは5万円で、15万円は手元に残ります。

給料差し押さえの範囲と手取り額

ただし、手取りが44万円を超える方は計算が変わります。手元に残す額は33万円が上限とされているため、33万円を超える部分はすべて差し押さえの対象になります。

手取り50万円の人なら、17万円が差し押さえられる計算です。

また、養育費や婚姻費用の未払いを理由とする差し押さえでは、ルールがさらに厳しくなります。差し押さえてはならない部分が2分の1に縮小されるため(同条3項)、手取り20万円なら10万円が差し押さえられます。

給料差し押さえの例外と養育費

賞与や退職金も、同じ割合で差し押さえの対象です。

差押命令は通常、借金を払い終えるまで毎月の給料から差し引き続ける内容になっています。

「範囲変更」の申立てとは何か

範囲変更とは、全国一律の割合では生活が成り立たない場合に、裁判所が個別の事情を見て差し押さえを減らしたり、取り消したりする制度です。

差押え禁止の割合は、誰にでも同じように当てはまる基準です。手取り20万円から5万円を差し押さえられても、単身の方なら何とか暮らせるかもしれません。しかし、同じ手取りで子ども3人を養っている方や、持病の通院費が毎月かかる方にとっては、生活そのものが立ち行かなくなります。

そこで民事執行法153条1項は、債務者の申立てにより、裁判所が「債務者及び債権者の生活の状況その他の事情」を考慮して、差押命令の全部または一部を取り消せると定めています。差押禁止債権の範囲変更申立てです。

あなたの暮らしぶりとお金を貸した側の暮らしぶりを比べて、いまの差し押さえを続けるのは酷だと裁判所が判断すれば、差し押さえる割合を下げたり、差し押さえ自体をやめさせたりできる、という意味です。

主張が認められれば「4分の1」を「8分の1」に下げる、差押命令を全部取り消す、といった決定が出されることになります。

差押禁止債権の範囲変更申立て

範囲変更と法改正

この制度は、以前はほとんど利用されず、「債務者を守る制度として機能していない」と批判されていました。そこで2020年4月1日に施行された改正民事執行法で、2つの点が見直されました。

1つ目は、裁判所書記官が差押命令を債務者に送る際、範囲変更の申立てができることを書面で知らせるようになった点です(145条4項)。

2つ目は、給料の差し押さえで債権者が取り立てを始められるまでの期間が、差押命令が債務者に届いてから「1週間」から「4週間」に延びた点です(155条2項)。ただし、養育費などを理由とする差し押さえは、従来どおり1週間のままです。

改正後、東京地方裁判所などでは申立ての件数が大幅に増えたと報告されています。差押命令と一緒に届いた書類に、この制度の案内が入っていないか確認してみてください。

給料差し押さえの範囲変更申立て期限

どんな場合に範囲変更が認められるのか

判断の目安は、差し押さえ後の収入で、現在の一般的な生活水準と比べて著しい支障のない暮らしができるかどうかです。

「手取りがいくら以下なら認められる」という数字の基準はありません。裁判所は、提出された家計の資料をもとに、あなたの世帯の収入と支出、財産、そして債権者側の事情を比べて判断します。

差押禁止債権の範囲変更における裁判所の判断基準

たとえば、手取り18万円で、療養中の妻と小学生2人を養っている方を考えてみます。

差し押さえで毎月4万5,000円が引かれると、手元に残るのは13万5,000円です。家賃6万円、食費4万円、光熱費と通信費2万円を払うと、残りは1万5,000円しかありません。

ここから妻の通院費や子どもの学用品を出すのは困難です。このように、生活に欠かせない支出だけで手取りが尽きてしまうことを家計表で示せれば、差し押さえの割合を下げてもらう根拠になります。

認められやすいのは、次のような事情がある場合です。

・差し押さえ後の手取りでは、家族の人数に見合った家賃や食費をまかなえない
・本人や家族の病気・障害のため、医療費や介護費が継続してかかる
・生活保護を受けている、または収入が生活保護の基準と同程度しかない
・預貯金や不動産など、ほかに生活費に回せる財産がない

反対に、次のような場合は認められにくくなります。

・家計の中に、交際費や高額な保険料など削れる支出が多い
・債権者も個人で、お金が返ってこないと債権者自身の生活が苦しくなる
・差し押さえが養育費や婚姻費用の未払いを理由としている

給料差し押さえの範囲変更が認められやすい事情

最後の養育費については補足が必要です。養育費や婚姻費用の金額は、家庭裁判所の調停や審判で、双方の収入や生活状況を踏まえて決められています。

つまり、範囲変更で考慮すべき事情は、金額を決めた時点ですでに織り込まれているのです。そのため、養育費等による差し押さえでは申立てが却下されることが多く、認められるのは失業や病気など、金額を決めた当時に予想できなかった変化が生じた場合に限られると考えられています。

実際の裁判例から分かること

裁判例を見ると、裁判所が「生活が成り立つか」という一点を、具体的な数字と事情から判断していることが分かります。一つの基準になるのが生活保護基準ではないかと思われます。

生活保護を受けながら働く人の給料差し押さえ(大阪地裁令和6年8月23日決定・判例タイムズ1529号188頁)事例があります。

元妻が、養育費と婚姻費用の未払いを理由に元夫の給料を差し押さえた事案です。元夫は生活保護を受けながら働いており、差し押さえの全部取り消しを求めました。

裁判所は、給料と生活保護費を合わせた収入が、最低限の生活を送るのに必要な水準だと認めました。

一方で、元夫の不誠実な対応や、養育費を受け取る側を保護する必要性を「特段の事情」として考慮し、全部の取り消しは認めませんでした。

結論として、差し押さえてはならない部分を2分の1から5分の4に広げ、差し押さえられるのは給料の5分の1までとしました。

この決定から、生活保護を受けていても差し押さえがゼロになるとは限らないことが分かります。同時に、養育費を理由とする差し押さえでも、生活の実情によっては割合が下げられることを示した例です。

生活保護と養育費の給料差し押さえ裁判例

 

同居人の収入が判断に与える影響(東京高裁令和2年9月11日決定)

「手取り額が少なく生活保護水準を下回る」という債務者の主張に対し、裁判所が客観的証拠に基づき厳しく判断した事例です。

債務者が「手取り額は約18万円であり、差し押さえを受けると生活保護基準を下回る」と主張。差し押さえ範囲を通常の2分の1から「8分の1」まで減らすよう求めたケースです。

裁判所は債務者の主観的な「苦しさ」を排し、以下の客観的な事実を重視しました。

「実態」としての収入認定:債務者は手取り18万円と主張しましたが、給与明細等の証拠から、歩合給を含めると実際には月26万~30万円程度の収入があることが判明しました。

同居人を「家族に準ずる者」と認定:婚約者と同居している場合、その女性は「家族に準ずる者」であり、住居費や光熱費を分担すべきであると判断されました。

「贅沢的支出」への厳しい目:月額16万円の家賃や2.7万円の駐車場代について、職務遂行に不可欠であるという証拠がない限り、これらを維持するために差し押さえを免れることは認められないと一蹴されました。

結論として、裁判所は、差し押さえ後の手取り額でも生活保護水準を上回っていると判断し、債務者の申し立てを棄却(減額を認めず)しました。

同居人の収入と給料差し押さえの裁判例

 

「不当な差し押さえだ」という主張は理由にならない

債務者が、差し押さえは本来の目的を外れた不当な目的によるもの(いわゆる執行濫用)だと主張して、範囲変更を求めた事案です(東京高裁令和2年8月26日決定・金融法務事情2163号67頁)。

裁判所は、そうした主張は153条1項の「その他の事情」には当たらないとしました。

そして、請求異議の訴え(債権者の請求そのものを争う裁判)という別の手続で争うべきだとして、申立てを退けました。

この決定が示しているのは、範囲変更は生活状況を審理する手続だということです。「借金の額に納得がいかない」「債権者のやり方が許せない」という不満は、ここでは取り上げてもらえません。申立書には、家計が苦しい理由を具体的な数字で書く必要があります。

 

預金口座の差し押さえが取り消された例

給料そのものではありませんが、給料の振込口座を差し押さえられた方にも関係する裁判例です(東京地裁令和2年9月3日決定・金融法務事情2163号74頁ほか)。

前提として、給料や年金は、口座に振り込まれた時点で「預金」に性質が変わります。最高裁平成10年2月10日判決(金融法務事情1535号64頁)が是認した考え方によれば、年金などが振り込まれてできた預金は、差し押さえ禁止の性質を原則として引き継ぎません。そのため、給料日の直後に口座を差し押さえられると、残高の全額が対象になり得ます。

ただし、裁判所は範囲変更の場面で、預金の元手が何だったかを考慮しています。東京地裁令和2年9月3日決定では、残高約12万円のうち10万円が特別定額給付金、残りがシルバー人材センターの仕事の配分金でした。裁判所は申立人の生活状況を踏まえ、差押命令を全部取り消しました。同年10月30日の東京地裁決定(同誌75頁)でも、残高約45万円のうち、生活費として借りた総合支援資金20万円分の差し押さえが取り消されています。

振り込みの直後を狙った差し押さえが、違法とされた例もあります。税金の滞納処分の事案ですが、広島高裁松江支部平成25年11月27日判決は、児童手当が口座に振り込まれた9分後に、その預金を差し押さえた処分を取り上げました。裁判所は、振込日を知ったうえで行われたこの差し押さえを、実質的に児童手当を受け取る権利そのものを差し押さえたのと変わらないと判断しています。

注意していただきたいのは、預金口座の差し押さえでは、4週間ではなく1週間で債権者が取り立てられる点です。口座を差し押さえられたら、その日のうちに相談先を探すくらいの速さで動いてください。

給料振込口座の差し押さえと預金差し押さえ

申立ての手順と必要書類

申立ては、差押命令を出した地方裁判所に、家計の実態が分かる資料を添えて行います。

弁護士に依頼しなければできない手続ではなく、ご本人でも申し立てられます。

ただし、期限が短く、家計表の出来で結果が変わることもありえます。

(1) 期限を意識する

給料の差し押さえでは、差押命令が届いてから4週間が経つと、債権者が会社から取り立てられるようになります。

4週間を過ぎても今後の給料について申し立てることはできますが、すでに債権者に支払われた分は取り戻せません。差押命令に書かれた事件番号と、差押命令を受け取った日を、まず確認してください。

(2) 審理中の支払いを止めるよう求める

範囲変更の審理には時間がかかります。東京地方裁判所の案内でも、裁判所が債権者に申立書のコピーを送って意見を聞く場合があり、その分判断に時間を要すると説明されています。

そこで、申立てと同時に、結果が出るまで会社から債権者への支払いを止めるよう求めることができます(153条3項)。これが認められると、会社は差し押さえ分を債権者に払わずに保管します。東京地裁の申立書にはこの希望を示すチェック欄があるので、忘れずに記入してください。

差押禁止債権の範囲変更申立て手順

(3) 必要書類をそろえる

東京地方裁判所民事第21部の案内では、主に次の書類が求められています。

・申立書(裁判所提出用の正本と、債権者に送る副本)
・郵便切手4,740円分
・陳述書、家計表(申立前2か月分)
・給与明細書(申立前2か月分)、源泉徴収票、課税証明書または非課税証明書
・預貯金通帳のコピー(過去1年分)
・生活保護などの受給証明書(受給している場合)
・世帯全員が記載された住民票(申立前3か月以内に取得し、マイナンバーの記載がないもの)

必要書類は裁判所ごとに異なります。差押命令を出した裁判所のホームページか窓口で、事前に確認してください。

(4) 家計表は実際の金額で書く

範囲変更が認められるかどうかは、提出した資料で決まります。家計表には、通帳やレシートで裏付けられる実際の金額を書いてください。支出を少なめに書くと「差し押さえ後でも生活できる」と判断されますし、根拠のない支出を上乗せすると資料全体が信用されなくなります。

たとえば「子どもの給食費 月5,000円」「持病の通院費 月8,000円」のように、必要な支出を一つずつ書き出し、領収書を添えてください。そうすることで、数字だけでは伝わらない生活の実態が裁判所に届きます。

証拠資料の徹底的な準備 家計収支表の「嗜好品」や「使途不明金」は裁判所から厳しくチェックされます。レシートや領収書に基づき、正確な家計簿を作成することが、自身の主張を裏付ける唯一の武器となります。

差押禁止債権の範囲変更に必要な家計表

(5) 認められなかったときは執行抗告ができる

申立てが却下された場合は、決定の告知を受けた日から1週間以内に、高等裁判所への執行抗告という不服申立てができます(153条4項)。

ただし、抗告しても結論が変わらないこともあります。却下の理由を確認したうえで、抗告するか、債務整理に進むかを検討してください。

申立ての前に知っておきたい注意点

範囲変更が認められても、借金そのものは1円も減りません。

範囲変更は、毎月差し押さえられる額を減らす手続です。差し押さえ額が減れば、その分完済までの期間は延び、遅延損害金も増え続けます。

また、その後に収入が増えるなど事情が変わると、債権者の申立てによって差し押さえの範囲が元に戻されることもあります(153条2項)。

東京地裁の案内にも、範囲変更が認められても債務が減るわけではないと明記されています。

差押禁止債権の範囲変更では借金は減らない

借金が1社だけの場合は、債権者との話し合いも選択肢になります。

複数の借金を抱えている場合は、債務整理も含めて検討してください。一つの差し押さえの範囲を変えても、別の債権者から新たに差し押さえを受ければ、生活はまた苦しくなります。

自己破産では、同時廃止の決定と免責許可の申立てがあれば、給料の差し押さえは中止されます。免責許可決定が確定すると、差し押さえは効力を失います。

個人再生では、再生手続開始の決定によって差し押さえが中止され、借金を大幅に減らしたうえで原則3年で分割返済していきます。ただし、養育費などの一部の債権は、これらの手続をとっても支払義務が残ります。

どの方法が適しているかは、借金の総額、収入、財産、差し押さえの原因となった債権の種類によって変わります。

給料差し押さえと債務整理の選択肢

問い合わせは増えているが・・・

上記のように改正で案内がされるようになったことから、ジン法律事務所弁護士法人への問い合わせも増えてはいます。東京地裁での事件も増えているとの報告もされています。

ただ、実情は見えにくいところがあります。

内容からして弁護士への依頼が多いのであれば、法テラス利用の人なども多そうに思えますが、審査の場でも見たことがありません。

統計データもなく、判例でも認容事例などが見当たらず、見通しが立てにくいところではあります。

判例解説などでは、要件となる著しい支障の有無を検討する際、生活保護基準に着目されることが多いとされています。

そのため、家計状況などの正確な数値を出したうえで、生活保護基準を参考値とすることになりそうです。

コストをかけて申立をしたものの認められないということもあり、期待しすぎるのは禁物でしょう。

むしろ、差押えのもととなった借金の整理などに進む人の方が多い印象です。

給料差し押さえの範囲変更の要点


 


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