FAQよくある質問
FAQ(よくある質問)
Q.3ヶ月経過後の相続放棄のポイントは?
親族と長年音信不通で、相続人になったと知ってから3ヶ月を過ぎた後に借金が判明した場合、相続放棄はできるのでしょうか。
この記事では、約25年間没交渉だった兄弟の相続をめぐり、家庭裁判所で却下された後、東京高裁で相続放棄が認められた事例を紹介します。熟慮期間の例外が認められる判断基準や、負債を知った後の期限、判断のポイントを解説します。
この記事は、
- 長年疎遠だった親族の借金を後から知らされた人
- 家庭裁判所で相続放棄が却下されてしまった人
に役立つ内容です。
音信不通だった親族の借金、3ヶ月を過ぎても相続放棄はできる?
「亡くなった親族と長年音信不通だったのに、忘れた頃に突然、借金があることを知らされた・・・」
このように、長年交流のなかった親族の訃報や負債の存在を後から知り、どう対応すべきか途惑ってしまう方は少なくありません。
法律上、相続放棄は原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内(熟慮期間)」に行わなければならないと決められています(民法915条1項)。
では、自分が相続人だと知ってから3ヶ月以上が過ぎてしまった場合、後から判明した借金について相続放棄することは絶対に不可能なのでしょうか。
結論から申し上げますと、3ヶ月を過ぎていても、一定の要件を満たせば相続放棄が認められるケースは十分にあります。
今回解説するのは、約25年間没交渉だった弟の相続をめぐり、当初は家庭裁判所に「3ヶ月を過ぎている」として却下されたものの、高等裁判所で逆転して相続放棄が認められた裁判例(東京高等裁判所令和7年9月2日決定)です。

事案の概要:約25年間没交渉だった兄弟の相続
まずは、今回の裁判で問題となった当事者の関係と事実経過を時系列で整理します。
関係者は次のとおりです。
被相続人(甲 / 三男): アパートで孤独死した弟。
先順位相続人(乙 / A): 甲およびXの母(第一順位の相続人として先に相続放棄を実施)。
抗告人(X / 二女): 本件で相続放棄を申し立てた甲の姉(第二順位の兄弟姉妹として相続人となる)。

事実経過の時系列
平成12年頃: 被相続人(甲)は、姉(X)ら兄弟と離れて暮らし、約25年間にわたりほとんど没交渉の状態であった。また生前、母(乙)やXのもとへ債権者からの督促状等が届くことも一切なかったため、Xは甲の暮らしぶりや財産状況を全く知らなかった。
令和5年: 甲が自宅アパートにて死亡(孤独死)。
令和6年1月: 警察からの連絡により、Xおよび母(乙)は甲の死亡事実を知る。
令和6年2月22日: 母(乙)が水戸家庭裁判所土浦支部へ相続放棄を申述(申述書の理由欄は「債務超過のため」、資産欄は空欄、負債欄は「不明」と記載)。
令和6年4月17日: 母(乙)の相続放棄が受理される。これにより、同順位のきょうだいである姉Xらが法定相続人となる。
令和6年4月21日頃: Xは、母(乙)の相続放棄が受理されたことを知り、自分が相続人になったことを認識したが、特段の行動を起こさずにいた。
令和6年9月6日: アパートの管理会社からXへ電話連絡が入る。「駐車場に残された甲の自動車を信販会社が引き揚げるので立ち会ってほしい」との内容であり、Xはこの時初めて、甲に自動車ローン等の負債が存在する可能性を認識した。
令和6年11月19日: Xが水戸家庭裁判所土浦支部に相続放棄の申述を行う(申述理由:「被相続人の財産の状況がまったく分からない」、資産・負債欄:「不明」)。

裁判で争われたポイントと判断の分かれ目
この裁判では、「Xが自分が相続人になったことを知った(令和6年4月)時期から3ヶ月以上経った令和6年11月にされた申述が、有効といえるか(熟慮期間内といえるか)」が争われました。
法律上の原則と例外(昭和59年最高裁判決の基準)
最高裁判所(昭和59年4月27日判決)の判断基準によると、熟慮期間の起算日は次のように解釈されています。
原則: 相続人が「相続開始の原因事実」および「自己が法律上相続人となった事実」を知った時から3ヶ月。
例外: 3ヶ月以内に相続放棄をしなかったのが「相続財産が全く存在しないと信じたため」であり、被相続人の生活歴や交際状態等からみて「相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情」があり、そう信じたことに「相当な理由」がある場合は、相続財産の全部または一部の存在を認識した時(または通常認識できた時)から3ヶ月とカウントする。

なぜ原審と東京高裁で判断が真っ向から分かれたのか
本件では、原審(家庭裁判所)と抗告審(高等裁判所)で正反対の結論が出されました。その背景には、判例の「解釈スタンスの違い」が存在します。
原審(水戸家裁土浦支部)の判断
母が「債務超過のため」と書いて相続放棄をした事実をXが知った(令和6年4月)時点で、Xには財産調査を始める「契機(きっかけ)」があった。
その契機がありながら自ら積極的に調査を行わず放置した以上、財産がないと信じたことに「相当な理由」はなく、調査期待が「著しく困難」だったともいえない。したがって原則通り4月を起算日とし、申述を却下する。
抗告審(東京高裁)の判断
昭和59年判決の真意は、単に「調査の契機があったか」だけで一律に切り捨てるものではない。
約25年間の没交渉、生前に督促状等が届いていなかったこと、さらに先順位である母自身も具体的な負債額を知らず申述書に「不明」と書いていた事情を総合考慮すべきである。
このような状況下では、母の放棄を知った後であってもXが財産調査を行うことは「著しく困難」であり、財産がないと信じたことに「相当な理由」がある。したがって負債を認識した9月6日を起算日とし、申述を受理する。


この判例から分かる「3ヶ月超えの相続放棄」で重要な3つのポイント
東京高裁決定は、過去の最高裁判例の趣旨を正しく適用した判断といえるでしょう。
この判例から、3ヶ月を過ぎた相続放棄を成功させるための重要な3つのポイントが導き出せます。

ポイント1: 「単に調査のきっかけがあったか」だけで判断されない
原審のように「母が放棄したのだから調査のきっかけがあったはずだ」という点だけを捉えて一律に切り捨てる判断は、裁判例の理解として妥当ではないと示されました。
最高裁判決の正しい解釈としては、単に表面的な調査の契機があったかどうかではなく、被相続人との関係性、生活歴、交際状態などを総合的に考慮して「実際に調査を期待することが困難であったか」を判断すべきだとされています。

ポイント2: 長年没交渉・音信不通の場合は「相当な理由」が認められやすい
被相続人と離れて暮らし、長年にわたり没交渉で財産関係を何ひとつ知らなかった場合、自ら積極的に財産調査を行うことを期待するのは「著しく困難」であると評価されるのが実務の趨勢です。
本件でも、25年間もの没交渉状態に加え、先順位相続人である母自身も具体的な資産や負債を把握しておらず申述書に「不明」と記載していた状況から、調査の困難性と「相当な理由」が明確に認定されました。

ポイント3: 判例の適用は「具体的な事実関係」が決め手になる
法律が定める「相当な理由」などの要件は抽象的です。そのため、裁判所を納得させるには個別の具体的な事実関係をどれだけ精密に主張立証できるかが決め手となります。
本件では、
約25年間に及ぶ長期の別居・没交渉
生前、母やXのもとに債権者からの督促状等が一切届いていなかった事実
先順位相続人(母)も負債の詳細を知らず「不明」と申述していた事実
管理会社からの車引き揚げ連絡(令和6年9月6日)で初めて負債を知った事実
などがポイントになっています。
こうした事実関係の積み重ねがあったからこそ、家裁で一度不適法(却下)とされた審判を、高裁でひっくり返すことができたのです。

まとめ
亡くなった親族と長年疎遠であった場合、自分が相続人であることを知ってから3ヶ月が過ぎてしまっていても、諦める必要はありません。
自分が相続人になったと知ってから3ヶ月を過ぎていても、被相続人と疎遠で負債を知らなかった場合は、相続放棄が認められる可能性が十分にあります。
裁判所は「長年の没交渉」や「生前に督促状が届いていなかったこと」などの具体的な事情を総合考慮して「相当な理由」を判断するのです。
万が一、家庭裁判所で申述が却下されても、高等裁判所への即時抗告によって逆転受理されるケースがあります。

ただし、負債を知ったら、すぐにカウントダウンが始まります。
熟慮期間の起算日の繰り下げが認められる場合であっても、「負債の存在や可能性を認識した日(本件では管理会社から連絡を受けた日)」から3ヶ月という厳密なタイムリミットがスタートしますので、早めに動くようにしましょう。

ジン法律事務所弁護士法人でも、相続放棄の相談は多く、亡くなってから3ヶ月を大きく過ぎているケースもそれなりにあります。
今のところ、家庭裁判所では受理されており、高等裁判所まで争う必要性が出た事案はありません。
この事案でも、時系列を見る限り、管理会社の連絡から申述まで2ヶ月以上かかっており、悠長なスケジューリングだなとは感じます。専門家側でも資料収集に時間がかかることはあるので、早めに動くようにしましょう。

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