保険金受取人に関する法律問題を弁護士が解説

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FAQ(よくある質問)

 

Q.生命保険の受取人に関する法律は?

保険金受取人の指定は、生命保険を含む保険契約の核心的な要素の一つです。

この記事では、保険金受取人となる者の権利と義務、指定方法、変更のプロセス、さらには放棄や遺言による指定変更など、受取人指定に関わる重要な情報を詳しく解説しています。

この記事は、

  • 保険金の受け取りで争われている人
  • 生命保険の請求をしている人

に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2023.11.9

 

保険金受取人の指定

保険金受取人とは、生命保険契約等で、保険金等の給付を受ける権利を持つ者のことです。

通常、保険契約をする場合、契約者は申込書に保険金受取人の名前を記入することで指定します。

保険金受取人の指定には具体的な氏名を記載することが一般的です。

ただ、生命保険の場合には、「被保険者の相続人」といった抽象的な指定も可能です。

一度指定したとしても、契約成立後、状況が変わり保険金受取人を変更する必要が生じた場合、保険契約者は通知や遺言を通じて受取人を変更できます。

この受取人変更も、保険紛争ではよくある論点です。

保険金受取人の資格には特別な法的制限はありませんが、公序良俗に反する指定は無効とされます。

また、保険契約者や被保険者の親族ではない第三者を保険金受取人に指定しようとすると、受け付けられないこともあります。

 

保険金受取人の権利

保険金受取人の権利については、受取人を分けて整理する必要があります。

第三者の場合と自分の場合で分けます。

保険契約の法的性質を考えるとき、受取人が第三者であれば、民法上の「第三者のためにする契約」の性質を持ちます。

第三者のためにする生命保険契約は、保険契約者とは異なる者が保険金受取人に指定された契約です。

民法上、第三者のためにする契約では、第三者の権利は、諾約者に対して受益の意思表示をした時に発生します。

これに対し、保険契約での保険金受取人は、受益の意思表示は必要ありません。当然に諾約者である保険者に対する保険金請求権を取得します。

この権利は、受取人固有の権利として発生します。死亡保険の場合、相続放棄をしても受取人は保険金を受け取れます。

 

これに対し、自己のためにする生命保険契約の場合、契約者と保険金受取人は同一です。

生命保険でも同じです。死亡保険の場合、保険金については、相続人が相続財産として承継します。この場合には、相続放棄をすると死亡保険金は受け取れません。

なお、保険契約者が保険金受取人を指定しない場合や指定が無効な場合も、自己のためにする生命保険契約となります。

 

複数の保険金受取人

保険金の受取人は一人とは限りません。複数人が保険金の受取人となることもあります。「相続人」とだけ指定したような場合には、複数の相続人が受取人になります。

複数の保険金受取人がいる場合、各人の保険金請求権の取得割合が問題となります。保険法には明確な規定がありません。そこで、通常は民法の一般原則に従い、均等割合で取得することになります(民法427条)。相続人とだけ指定された場合でも、法定相続分の割合とは異なるので注意が必要です。

ただし、指定による異なる割合がある場合、契約の規定に従います。

 

 

保険金受取人による放棄

保険金受取人は保険金請求権を取得しても、放棄することができます。

保険金受取人の放棄については、保険事故発生前後で分けて考える必要があります。生命保険なら死亡の前に放棄があったのか、死亡後の放棄なのか、という整理です。

事故発生前に受取人が放棄した場合には、その保険契約は、自己のためにする生命保険契約になると考えられています。

保険金受取人は保険契約者となり、生命保険であれば相続人が取得することになります。

これに対し、保険事故発生後の放棄の場合については、保険金受取人による権利放棄により保険会社は保険金の支払義務を負わなくなるという考えもあります。このような裁判例もあります。

ただ、これでは、保険料を支払ってきた保険契約者の意思に反するとして、事故発生前と同じように、自己のためにする生命保険契約になるとする考えもあります。

結論が決まっていない問題となります。相続人としては、受取人が放棄したのであれば、後者のような契約になったとして保険金請求をするという紛争構造になるでしょう。

 

保険契約後の受取人変更

保険契約成立後、保険金受取人を変更する必要が生じた場合、保険契約者には保険金受取人の変更権が認められています。この変更権は任意の規定であり、約款で変更権を否定したり、一定の範囲の親族等に制限をかけることも可能です。

改正前の商法では、保険金受取人を変更するには保険契約者の一方的な意思表示で十分であり、意思表示の相手方は保険者のみならず、新旧保険金受取人のいずれでもよいとされていました。

この解釈の背後には、保険契約者の意思を尊重する価値判断がありますが、同時に保険金受取人の権利に関する法律関係を安定させ、紛争を避けるための懸念も存在しました。そのため、保険法は保険者に対する意思表示と限定し新旧受取人に対する意思表示ではだめだとしました。

また、従前、解釈が分かれていた遺言による変更を明文で規定しました。

規定の改正があったため、受取人変更が争われる事案では、改正前商法が適用されるのか保険法が適用される保険契約なのかをまず確認する必要があります。

 

保険書類イメージ

保険法43条2項によれば、保険契約者は保険者に対する意思表示により、保険金受取人を変更することができますが、方式については明確な規定がありません。

したがって、書面であるか口頭であるかにかかわらず、有効な意思表示と認められれば受取人変更の効力が生じます。しかし、実務上、紛争を防ぐ観点から、保険金受取人を変更するための名義変更請求書などの書式を使用することが一般的です。

保険金受取人変更の意思表示は、通知が保険者に到達した時点ではなく、通知を行った時点に遡って効力を発揮します。したがって、保険事故が発生する(例: 死亡保険の場合は被保険者の死亡)までに、保険契約者が保険金受取人を変更する意思表示を発信しておけば、到達により、その時点から受取人変更の効力が生じます。

ただし、保険者が受取人変更の意思表示の到達前に保険金を支払った場合、その効力は妨げられません。この場合、後で変更後の保険金受取人が請求しても保険者は免責されます。

 

遺言による受取人の変更

意思表示以外に、遺言によっても保険金受取人の変更はできます。

保険金受取人の変更を遺言でおこなうには、言自体が有効でなければなりません。

無効な遺言の場合には、保険金受取人変更の効力が生じなくなってしまいます。

また、遺言自体は有効でも、遺言の条項があいまいだと解釈に争いが出ます。受取人変更と明記されていれば良いのですが、保険金を相続させるというような書き方だったりすると、そのまま受取人変更と解釈してよいか裁判等に持ち込まれることも多いです。

 

遺言ですので、遺言の効力の発生時、つまり、保険契約者の死亡時に受取人変更の効力が生じます。

タイミング的に、保険会社が受取人変更を知らずに保険金を支払ってしまうことがありえます。

保険法44条2項は、このような事態を避けるため、受取人変更の遺言が効力を生じた後、保険契約者の相続人や遺言執行者が保険会社に通知しないと、対抗できないとしています。

 

 

保険金受取人が先に死亡した場合

保険法46条によれば、保険金受取人が保険事故の発生前に死亡した場合、その相続人全員が保険金受取人となります。

この規定は改正前商法676条2項から引き継がれたものとされます。

判例によれば、相続人とは「保険契約者によって保険金受取人として指定された者の法定相続人又はその順次の法定相続人であって被保険者の死亡時に現に生存する者」を指します。被保険者自身が相続人である場合、被保険者は「生存する者」の要件を満たさないので、保険金受取人として認められません。

このような場合、保険金受取人が死亡した後、その相続人が新たな保険金受取人となり、代襲相続人も相続人に含まれます。複数の相続人がいるような場合、各保険金受取人の権利取得割合は民法427条に従って判断され、均等割合となるのが原則です。ただし、生命保険の約款によっては、権利取得割合を法定相続割合とする規定も存在することに注意が必要です。


被保険者と保険金受取人が同時死亡したら?

保険契約者兼被保険者と保険金受取人が同時に死亡することもあります。事故などが多いです。

判例によれば、改正前商法676条2項の規定が同時死亡のケースにも類推適用され、受取人の法定相続人または順次の法定相続人であって被保険者の死亡時に現に生存する者が保険金受取人となります。

ただし、さらに、指定受取人とその相続人もが同時に死亡した場合には、その者又は相続人は保険金受取人にはならないと考えられています。

 

保険金請求権と相続

保険金請求権は保険金受取人の固有の権利です。

相続法における相続人の利益調整の規定は通常は適用されません。

しかし、多額の生命保険を受け取った相続人がいると、他の相続人からは不公平だとの意見が強く出ます。

そこで、特別受益の話が持ち出されます。

以前は争いがありましたが、最高裁判決が出て、このような特別受益の持戻しを認めるかどうかは「特段の事情」によることとなりました。

死亡保険金の額、遺産の総額に占める割合、同居の有無、相続人間の関係、生活実態などが特段の事情として考慮されます。

 

遺留分と保険金受取人の指定

保険契約者兼被保険者が被相続人であり、相続人が保険金受取人として保険金請求権を取得した場合、他の相続人は自己の遺留分の侵害を主張できる場合があります。

遺産分割に関する判例では、特別の事情がある場合、死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となることが認められています。被相続人と保険金受取人の関係や経済的援助などが特段の事情として考慮されます。

しかし、遺留分請求については否定される判例がありました。

その後の裁判例としては、相続人が受取人の場合の遺留分請求では、特別受益の持戻しがなされることで、保険金も遺留分算定の基礎財産に加算されるケースが認められています。

受取人が相続人以外の第三者の場合には、遺留分請求はできないとされています。


 

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弁護士 石井琢磨 神奈川県弁護士会所属 日弁連登録番号28708

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